第十一話 亀裂
意味のあるかわからない休日が終わると、意味のなさそうな学校が始まる。将来の役に立たなそうな勉強をするあたりが意味のなさそうな所。
もう少し税金の話やら労働基準法やらと教えてくれれば、将来給料を受け取る際や、ブラック企業に入らずと役に立つんじゃないかと思う。
よくわからん数学の方程式や物理を学ぶ意味はきっとない。やりたい人だけがそれを選択してやればいいのだ。俺が政治家になれば学生がもう少し生きやすくなる社会を作れる気がする。
そう思いながら今日も高い空を見上げていた。
「この二次式を因数分解する時にたすき掛けを使います……おい豊、そんなに外好きなら外出るか? おい?聞いてるのか豊」
「あ、すんません。外見てました」面倒な先生なので聞こえないふりをするのも面倒なので、ふてぶてしく言ってやった。
「外見てましたじゃないだろ? この問題たすき掛けを使って解いてみろよ」
「た、たすき掛け? すんません。わかりません」
「わかんないなら話聞いとけ。数学、中間テストの点数悪かったやろ?」
「すんません」
「勉強しないと豊みたいな成績になるから、みんなも先生の話聞いとけよ。んでこの例題3を解いていきます」
先生が話の続きをし始めたので、また窓の外を眺めてやった。先生に口答えするほどの度胸はないので、小さな反抗をする。
別に先生も数学を教えるという仕事なので仕方ないとは思うけど、もっと社会に役立つ様な事を教えたいと思わないのだろうか。
そういえば今日は一度も前の席の泰希と話してないな……金曜日のことかな。なんか怒ってたしな。気まずいな。まぁまた時間が経てば話しかけてくるだろう。そう思いながらまた窓の外を見た。
――ここから俺たちと泰希に亀裂が入る事となる――
昼放課の時だった。いつものようにみんなで購買に行こうとした。
「やっと昼だなー、あれ? 泰希は?」
「あいつはいらん」かずきが呆れて口調で言った。
「ん? なんかあった?」
「いやガチでいらん」
初めは冗談でかずきが言ってるのかと思ったら、口調的にガチっぽい。何があったのか、俺にはひとつだけ思い当たる節がある。金曜日の事だろう。
――各部屋から少しだけ歌声が漏れて聞こえる廊下を部屋番を見ながら歩いてた。
「305……306……307! ここだ」
和真に教えてもらった部屋番を見つけてドアを開けると、和真が踊りながら歌っていた。
「おお〜! 盛り上がってんね〜」とノリノリで俺は入った。入ってすぐ誰かがいないのを感じた。
「あれ? こんな少なかったっけ?」と呟いてみるも反応がない。和真はノリノリで女々しくてを歌い続けてる。
この部屋にいる人数は俺を抜いたら三人。数時間前まで敵だったみんなの人数は四人だったような。
きっと今は席を外してるだけと思い、俺も曲を入れた。
「これどんな順番? 適当に入れていい感じ?」
「和真の次は一様俺が入ってる。適当でいいよ」
「さんきゅー春日」
春日と好きな音楽が似てるので、何を入れてるのか見てみたら、森山直太朗の「生きてることが辛いなら」
俺自身あんまり森山直太朗を聴かないのだが、春日どうした……話でも聞くよ? と言いたいところ。
とりあえず尾崎豊の卒業を入れ、和真のノリに合わせて踊った。
俺も数曲歌って三度目のドリンクバーを取りに行った時のことだった。
「喉痛いなぁ……烏龍茶にしようかな。いやジンジャーエールでもいいな」一人呟きながら喉の調子を伺いながら何を入れようか迷っていると、かずきも俺に続いてドリンクバーを取りに来た。
「お、かずきもジュース取りに来たんだ。そういえばかずき歌ってなくない?」
「いやまじでさっき腹立った事あってさ」かずきが真面目な顔をしていたので真剣に聞いた。
「泰希のことなんだけど、豊がさやちゃん? だっけ女の子と俺らに内緒で会ってたじゃん。Zenlyで豊を見てたんだけど、場所的にわんちゃん女の子かなって俺らは思ったわけよ。俺らも確かにちょっとは凸りたい気持ちはあったよ。けどさ泰希がまずそこでだるかったんだて」
「うんうん」かずきがすらすらと事の経緯を話しているので邪魔しないよう、相槌を打ちながらたまに返事をしながら聞いた。
「なんか泰希が一人で勝手にキレてて、こいつ何してんだて。とか言っててよ、それでまぁ凸る事にしたんだよ。そしたら案の定女の子といてさ、まぁ俺らはよかったんよ。別に邪魔したい訳でもないし。むしろ応援するし」
「うんうん」
「んで豊と一旦解散した時、泰希がずっと愚痴言ってて、なにあいつ、人の約束破っときながら女とデートかよ、うざくない? ってずっと言うんだわ。それで俺らが豊を庇ってたんだよ。豊が女の子といるなんて珍しいからいいじゃんたまには。って」
「うんうん」裏切った俺を庇ったかずきたち。心の広い優しい友達だ。
「そしたら泰希が まじうぜぇって、なんでお前らも豊を庇うん? あいつ普段からヘラヘラしてて、頭も悪いくせに女にはモテてよ。俺らのことをバカにしてんじゃねえの? そう思わない? って、愚痴が始まる訳よ。んで俺が泰希に、豊のことそんなにうざいなら関わるのやめたら? 俺らが和真と仲良くなれたのだって豊のおかげなんだから嫌なら出てけよって俺も熱くなって言っちゃったの」
「えー! うんうん」かずきの心が広くその優しさに再度感心した。
「んで泰希がキレて出て行ったって訳」
「なるほどね。なんか一人居ないなっと思ってたら泰希だったか。まぁつまり俺のせいってわけか。俺の事を庇ったりしてありがとうね」
「いやいや、全然いいよ」
「俺がみんなに内緒で遊んでたから、今回は俺が悪いね。また泰希に謝っておくよ。今回はありがとうね」
「いやまじで腹立ってさ。今回でちょっと泰希の性格無理になったわ。まぁ豊は全然良いよ。むしろ本当恋愛頑張れよ」かずきが笑いながら俺を慰める形で言ってくれた。
俺のせいでちょっとしたトラブルが起きてしまった。また泰希に謝ろうと思いながら烏龍茶を入れ、かずきと部屋に戻り、再び和真と踊った――。
そういえば俺泰希に謝ってなかったな。完全に忘れていた。本当に反省しているのかと自分に思った。
「そういえば金曜の出来事あったもんね」
「そうそう。もう泰希とは絶好するつもりなんで。あいつのこと考えただけで腹が立ってきたわ」
「それは思い切ったなー。まぁ購買行こうか」
泰希を教室に残し購買へ行った。それから数日泰希は俺らと話すことをしなかった。
席が泰希の後ろで、泰希を怒らせた張本人なので気まずい時だけが流れた。俺はどうにか元に戻らないかと色々考えていた。放課後遊ぶ時は、かずきがいる時はできるだけ泰希の話はせず、かずまたちに相談した。
「なんとか元に戻らねーかな」
「まぁ実際あの場にいた俺が言うと、だいぶ泰希うざかったけどね。なんていうか、小さな事にキレてて、それがめんどくさかったし、だんだん俺らも腹が立ってきて、それをぶつける先が泰希だったみたいな」
「和真にしては、割と真面目な事言うね……」
「失礼な。まぁ別に俺も泰希はしばらくいらんな」
そんな会話の平行線で、事は動かなかった。そのまま数日が経ち、やがて金曜日になった。
今日は金曜日。そうさやに会える日であった。




