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結局今回も異世界放り込まれる前に自称女神と漫才して疲れ果ててしまう転生上手の俺の話をしようじゃないかなどとタイトルにあらすじを書く文化を今すぐやめてくれないか (異世界行きたくねえ2)

作者: みなみちはや

一年前続かないって書いたやつの続きです。

人は嘘をつく生き物なので。



ヌはァ――――――――――ッ――――――――――――ッッ!


「ビールをジョッキで飲みきれなくなったけどそれを気取られたくないから途中で息継ぎしてバレてないことを祈るみみっちい自尊心の保ちかたをする中年みたいなため息ですね」

 反復訓練によりもはや吐き飽きた音階を奏でられそうなくらいのビブラートを含んだ芸術の域に達しそうな俺のため息に、この自称女神的な存在はなんという言いぐさであろうか。なんでこんなことになっちまったんだ。

「ホワホワホワーン」

 日曜夜七時の日常アニメ回想シーンみたいな音をやる気無く口で奏でるのをやめてくれ。そう、俺はながらスマホ運転のプリウスに追突されて横転したタンクローリーのガソリン由来の火災を見て"ウワー! バックトゥザフューチャーみてえだ!"って叫びながら119通報もせず飛び込んで行ったあげくに酸欠で死んでしまった俺は、今目の前に立っている「女神」らしき者たちが管理する下位世界を救う為の転生者となり、こうして下位世界を救うべく転生を繰り返しているというわけだ。面白く死につづけることで転生の条件を満たすらしい。

 もう面白く死にたくないが、その判定をする目の前の女神的存在のツボがカジュアルに狂っているので、そこそこ面白くなってしまうようだ。

「面白い死に様の解説を虚空に向かってする気分というものはいかがですか? まったく人間はそういう精神的自傷のごとき行為で性的欲求を満たすとは知識では聞いていましたが」

 面白い死に様を果たした人間の魂を死にかけの異世界に放り込んであわよくば世界を救いたい女神とそれが属する社会は放り込まれる哀れな魂の尊厳をなんだと思っているんですかね? 哀れな人間が異世界で性的欲求に翻弄されるとかそういう愉快な姿が見たいならまずまともに共感できる肉体をよこしてから言ってもらえませんか?

「最初は人間にしてあげたじゃないですか、感謝の心がありませんね、ぷんぷん」

 最初の下位世界は大気すらない終わった星だったろうが! 毎度言うが俺の中から時代遅れの萌えキャラ情報を取り出して気持ちの入らない再現をするのをやめてくれ。外見と仕草がかみ合わなくて心が砕け散りそうなくらいつらい。

「心を砕くというのは気を配り工夫するという意味を持つあなたの世界のイディオムでしたね? わかりますその調子で次の転生もがんばってくださいね」

 わかってて誤魔化しているに違いないのに平然とした顔が本当に腹立つわあ。

「さて人間の次がダイオウグソクムシでしたね、愚息ってついているから選んだんですよね? 自覚はないよりある方がいいと聞きます。しかしその自覚は時に残酷ですね」

 やっぱり人間がいいんですけどなんであれから小動物みたいなのが続いているんですかね。クマムシとかクモみたいなのしか引かないんですけど。

「初回はSSR確定なので、しばらくは若干弱めの生物での転生になりますね。回数こなせばいつか良い感じの生物になりますよ」

 これ次回SSR引いてもイケてる下位世界引かないとダメなやつだ。そこそこいい転生先を選ぶことはできないのこのシステム。はやくサービス停止してくれませんか?

「民間だとその決断も早いんですけど、これ公営事業なんですよね」

 転生者を使いつぶすのがおたくの為政者のやり口なの?

「同種が苦しむより、想像の埒外にある異世界の者が苦しむほうが心が痛まないし、面白い死に様しても心から笑えるじゃないですか、次回も期待していますよ」

 もし元の世界に戻れたらお前らのことを他山の石にして世界が悪い方向に向かわないように社会に対して微力ながら力を尽くしたいという殊勝な心が一瞬芽生えてしまった。吐き気のする邪悪が正義を生むんだなあ。

「失礼な、ちゃんとあなた方を下位世界に送り監視しているのはなにも遊びではありません。自分たちの世界をよくするために日々学びを怠らないのが我々上位存在の勤めです」

 そうなんだ、額抑えてどうしたの。ウワッ割れて目が出てきた。インド神話かサザンアイズか天津飯か物理反射するやつだ。

「ギリメカラではありません。私の額に現れる第三の瞳は、ここを通った異世界の子らのすべてを見通すことができるのです」

 女神暇な稼業すぎません? そんなチートスキル使ってやることが覗き見かよ。

「ええ、私たちは異世界に送った哀れな子らを見守る義務がありますから。そう、女神だけに眼がみっつーーなーんつって」

 …………ヒュッ

「コホン、女神だけに眼が」

 やり直さないでいいから! あまりの事に言葉を失っただけだから! 聞こえてたから! 聞こえてたから繰り返さないで! ウケてたわけじゃないから勝ち誇らないで! か弱き人間が耐えられる羞恥心の限界を俺で試すのやめて! 心臓の筋肉を言葉のナイフでえぐり取る実験を即刻やめて! あんたの使ってる日本語は俺の脳内の情報から自動合成されたものじゃなかったのかよ!

「yo驚いたか人類おまえに穿つ神の杭悔い改めてももう遅いレペゼン神の国信心浅い人心監視済みこれが自動学習の結果なんだzoi!」

 いつマイクロフォンたずさえたんだ、あまりに素早くて見逃しちゃったし永遠に気づかずにいられればこんな気持ちにならなくて済んだのに。そんなねえ、マイクを地面……地面の概念的な平面に叩きつけられて返事はラップでチェケラみたいなことされても……ええ……コホン……自動つーかこんなん児童のお守り運びなおしてもらいてえコウノトリ異世界?チート?もうこりごりやめてくれ俺の死に様みて小躍り」

「なにそれ韻踏んでるつもり? ウケる~。キャッキャ!」

 ねえやっぱりこれ人の心の弱さを確かめる試験なんでしょう? オタクに厳しいギャル化してないで理性的な反応をしてくれよ。神性の戯れにつきあってやるかみたいな寄り添いを見せたのが間違いだったってこと? 俺が初めて人間に絶望した90年代のインターネットだってもうちょっとやさしさとか手心ってもんがあったよ? だいたいさ、もう1往復くらい応酬があるもんなんじゃないのこれ、女神は様式美みたいなものを理解しないの? 

「いえ、もういいです。泣き言は不要どうしようもないおまえはまだ神の扶養そう知るべきは上位存在のアウフヘーベンその意味つまり止揚こだわるな末節の枝葉。そう、あなたはこの意味を隅々まで理解することはできないでしょう、すなわち文字だけでは心を伝えることはできない。なにせリズムのない文字だけの応酬ではリリックにバイブスがのりませんからね」

 もう女神さんのメタネタにも耐性ついてきてると思うんで、そろそろ新機軸出した方がいいですよ。あ、今のラップがそうでしたか。

「何飽きてきましたみたいな顔をしているんですか、あなたがわれわれに次のエンターテイメントを提供する立場なんですよ? どうか自覚をされてください、拝承」

 令和で失われかけた特定社内特化言語の伝承に余念がない異世界の神性なんなんだよ。俺はね、ネットフリックスでもユーチューブでもないんですよ。中に人間がいるんでもうちょっと尊厳があるものとして扱っていただけませんか?

「かよわき人間にも尊厳があり尊重せねばならない、それは確かです」

 襟を正して一礼、この尊大な自尊心の塊にも恥を知る心があったらしいな。

「しかし中に人格が入っていると思っているのは、あなただけかもしれませんよ?」

 えっこわいやめてよそういうの。そうなると女神様自身が一人遊びでこんな寒いダジャレやラップで一人会話していることになるじゃないですか。そんなの誰も幸せにならないんだから俺に人格があることにしましょうよ。そのほうが女神様も傷つかなくて済むでしょう?

「そのあわれみのこもったウエメセを神性に向ける不敬を即刻やめなさい! 応ぜねば異世界!」

 顔がFじみてきてるぞ。バックのコマ枠と効果線は明確にAのそれだけど。

 その物言いだとやっぱり神性のみなさんにとって異世界送りって精神に対する上位の罰に分類されてますよね? 要は島流しでしょ? まあでも俺としてはこの女神らしきものとダベる謎空間に流された時点で島流しみたいなもんだし、そろそろ次の異世界にやってくれませんかね。佐渡でも隠岐でも伊豆大島でもやってくれ。

「隠岐に流されるぞって後鳥羽上皇かよ~」

 マジ保元の乱~。じゃねーんですよ。インターネット老人会はタンブラーでやってろ、ノリつっこみをさせるな。

「そろそろですね、異世界でその思いを遂げられずはかなくおもしろく散ったなたの傷ついた魂がほぐれてきたと思うんですけど」

 ええーっ!? この茶番は人の魂を安らがせるために存在していたの!? ウッソだろ自分への評価基準甘すぎませんかね??

 言いたいことはわかりますよ。人間と会話するの飽きてきたしそろそろ次のおもしろ死に様をみたいっていうんでしょう。その手には乗りませんよ。もう俺は丈夫そうなダイオウグソクムシになったはいいが悪魔の生物とおそれられて投石死したり、クマムシになったが先に世界が終わってしまったり魔がさして女神の口車にのりランダムガチャ引いて出た雄のカマキリになって交尾前にほかの交尾おわったばっかりのメスに頭から食われたりって叫んだとたん糸が切れたりそういう――ちょっと女神氏、肩振るわせて笑いこらえるのやめてもらえませんかね?

「思い出し笑いです。ブフォ。あとでBDをみなおさないといけませんねグロッポグヒョフ」

 なにその個性的な笑い声。イルカの発声器官でも模して作った斬新な声帯なのか? 女神が出していい音じゃないですよ。あとメディア化して神性の間での娯楽として消費されるんだったら俺にもなんらかのリターンがあるべきではありませんかね。

「じゃあ次はなんかちょっといい感じの生物になります? 転生先に似た動物が居なかったり、あなたの想像の埒外の生物は難しくなるので、似通ったものにならざるを得ないんですけど」

 出た出たレアリティの操作。それ最初からやるわけにはいかないの? いかないんだろうね。あんまり女神氏口先だけでパワーなさそうだもんね。確率上げて欲しいですけど。

「SSRは自引きしてもらうしかないので、CRです。☆5鯖よりは引きやすいですよ」

 鯖とかいうなよ。そういうのわかってるなら俺のような一般人じゃなくて英雄ひっぱってきてくれよそんなに面白い死に方はしないだろうけどさ。で、なんだよCRって銀色の玉を穴に入れていく遊戯のともだちか?

「ちょっとレアの略でCRです」

 ああ、そう……。あんまり期待してないけどなんか候補ありますの、もう人間とか贅沢言わないから虎とか鷹とか若干少年のあこがれを満たせるタイプの動物になってみたいよね。

「え~~これなんかどうですか? 梅毒トレポネーマ」

 病原体! 性感染症! でかめのほ乳類の話していたのにどうして明後日の方向から狙撃されなきゃいけないの? 伏線とは言わないけど話の流れってやつを少しは掴んで欲しいよ! 横文字使いたいが為に出してくるなよ! せめてもうちょっといいサイズ感ないの?

「肺臓ジストマ」

 漢字二文字の熟語にそれらしい横文字を並べて、ちょっと透き通りのある早見沙織か能登麻美子的な声で読み上げたって寄生虫は寄生虫でエモめの百合漫画みたいな印象にはどうしたってならねえよ! カニを生で食うな! もうちょっと大きくして!

「え~まったくわがままですねえ、ダニ、シラミ。ゴキブリ、トリコモナス」

 悪口か!?!?!? 悪口言いたいだけか!?!?!? あとしれっとまた性感染症性原虫まぜるのやめろや! 俺を性感染症にして下位世界の哀れな人間のスケベシーンとそれに苦しむ様をメディアに残そうって魂胆なんだろうが趣味が悪すぎる。

「学術的な研究用途に限定されますので問題はありません」

 俺はもういいから下位世界の生命に対してもう少し寄り添っていただいてもいいんじゃないですかね。俺たちだって虫とかの小さな命に対してもうちょっと尊厳を感じたりしてたきがするよ?

「そういう教義の特殊な宗教だという報告があがっています。罪悪感で社会をコントロールされることに負けないで上位存在としての心を強くもってください」

 ……そうなんだろうか? まあもう戻れない世界のことはどうでもいいな、これからのことを考えよう。そう、そもそも中世的世界観がほとんどの異世界で爛れた下半身事情の中にそういう俺の世界の衛生観念で残ってる強靱な性感染症なんかぶっこんだら世界自体が終わる。ひとつでも多くの下位世界を救いたいから俺を転生させるんだろ?

「……あっ、そう、そうですね。さすが私の見込んだ転生者です。肉体が滅びても魂に刻まれた使命は健在なのですね」

 手元の端末で設定を読み返しながら人と話すんじゃあないよ、初心に帰って悔い改めてくれ。

「わかりました。本当にあなたは同族にはおやさしい。そんなあなたにぴったりの生物をご用意しました。異世界を救うにふさわしい種ですよ。あなたの居た世界でも数々の命を救い、今このときも救い続けてきた大いなる生物です。紹介しましょう、テテテテーン! アオカビ~~~」

 こ、抗生物質!!! もはや発見されなければ意味がねえ!!! はい俺の異世界転生はいいとこチーズを発酵させて終了です! ゴルゴンゾーラになれたら御の字でしょこんなん。えっこれで決定? 嘘でしょ? もうなんかさ~最初がゴミのパラメータで始められるキャラメイク系RPGをやりこみできるタイプの人間じゃないんだよね。呼吸するだけで焦土になるような全体攻撃とかもうちょっと気持ちが沸き立つような能力を次回は期待し――――――――


俺はその世界にはじめて生まれたアオカビ様生物として転生した。

アオカビとして繁殖にいそしみ、アオカビが濃いほどに自我をとりもどしていくのが緒と楽しかった。

しかし、俺の世界で様々な人間を救ったアオカビは

転生先の世界で主食となっていた穀物をことごとく枯らしていってしまった。

転生した下位世界の人類は、絶滅する間際に、アオカビを枯らし尽くすための魔法を、アオカビという種を連鎖して殺す魔法を発動させた。

一つの世界と、チーズにすらなれなかった俺が終わっていく。




「―――――ブッフォ、ドュフフゥ」

 うすぎたない鼻息で意識が醒めた。

「おかえりなさい。今回は本当に悲しい死に様でしたね」

 ……笑える死に様でないと転生できないと言っていた女神が、奥歯をかみしめ、口元を波打たせて俺を見下ろしている。

 異世界もう行きたくねえ。

 

もう続かない。

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