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乙女ゲーのメインキャラでもモブでもない鍛冶屋の看板娘に転生した私は、悪役令嬢にハッピーエンドを迎えさせたい  作者: 坂東太郎
『第二章 レベルを上げてスキルを覚えて……私はこの手で推しを助ける!』
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第一話


「気をつけるんだぞ」


「平気平気、登録しても街中の雑用依頼しか受ける気ないし!」


「そうか」


「うん! じゃあ、行ってきまーす」


 お父さんに見送られて自宅兼鍛冶屋を飛び出す。

 職人街の入り組んだ道を抜けて、大通りを北に進む。


 私——ドワーフのお父さんの養女で前世の記憶があるマノン・フォルジュ——は8歳になった。

 リオナディア王国の王都では、8歳の子供は近所にある初等学校に行ける。

 初等学校は8歳から12歳までの子供が通える学校で、成績優秀な子供はその上の高等学校入学試験を受けることができる。

 もちろん、成績優秀でも高等学校を受験しなくてもいいし、そもそも初等学校も「必ず通わなきゃいけない」わけじゃない。

 読み書きや算術、魔法が使える人には基礎を教えてくれるから通う子供の方が多いけど。

 私の親友のオレリアも、初等学校に入学する一人だ。


 私は、初等学校に通わないことにした。

 お父さんには「街でいろんな人と知り合いたい」って言ったら「好きにしろ」ってすぐOKをくれた。

 あっさりすぎて驚いたぐらい。

 「お父さんの腕は確かなんだし、私が知り合いを増やせばお客さん増やせるから!」って看板娘っぽい言い訳を考えてたんだけど……。


 初等学校には飛び級制度のほか、通わなくても試験に合格すれば卒業資格を得られる制度がある。

 だったら通わないで、卒業資格だけ取れればいい。


 私には優先させたいことがあった。

 制作会社いわく「乙女ゲー」の『ファイブ・エレメンタル』そっくりの世界で、悪役令嬢のエリアーヌ・フラメリア公爵令嬢を助けるために。

 初恋を踏みにじられて、努力は認められず、バッドエンドしかなかった彼女にハッピーエンドを迎えさせるために。


 大通りを進んでいった私は、目的地にたどり着いた。

 ウチから王都の外に出る北門に向かう途中にある、大きな建物。


 ()()()()()()だ。


「なんだろ、すっごいワクワクする!……やっぱり精神が年齢に引っ張られてるのかなぁ」


 ひょっとしたら私が「ゲームと同じ外観だ!」って興奮してるだけかもしれないけど。


 自宅と工房とお店をあわせたウチより大きな、というかウチの近所の家を四軒ぐらい集めたより大きな冒険者ギルドを前にテンションが上がる。

 スイングドアはゲームと同じで、でも傷が入って年季があってすごく()()()()()


 ドキドキしながらスイングドアを押し開けて、冒険者ギルドの中に入る。


 中にはコワモテの冒険者が午前中からたむろって飲んだくれて——いることはなかった。

 今日は、特に。


「冒険者見習い登録希望の人はこちらに集まってくださーい」


 冒険者ギルドの中には、私と同じ8歳の子供たちがワラワラと集まっていた。


 冒険者らしき少年少女や若者、おじさんたちは受付カウンター前に集合する子供たちを微笑ましく見守っている。


 リオナディア王国の王都では、8歳になると初等学校に入学できる。

 入らない子供たちは家業の修業をはじめたり、縁のある工房や商会の見習いになる子もいる。


 伝手やお金のない家の子供たちは、こうして「冒険者見習い」になることも多い。


「はい、列に並んで、番が来たら名前を言ってくださいねー」


 もちろん、冒険者見習いになったからってすぐモンスターと戦わせるわけじゃない。

 初心者講習や訓練で鍛えたり、街中の雑用の依頼を受けてお金を稼いだり、運がよければ依頼人の信頼を得て直接雇用してもらったりするのが「冒険者見習い」だ。


「セーフティーネットみたいな感じかな。国からもお金出てそう」


 この制度のおかげか、人口の多い王都でも大規模なスラムはない。

 もちろん、治安の悪いエリアはそりゃあるけど。

 真面目に働いていれば食べていける、っていうのは大きいと思う。


「このへん、ゲームではどうなってたんだろ。公式設定集にも書いてなかったからなあ」


「ぼーっとしてねえでさっさと来——次の方、どうぞー」


 そんなことを考えてると、私の番になった。

 丁寧だけど野太い声で呼ばれる。

 私の担当はスキンヘッドのコワモテおじさん職員らしい。この人ぜったい元冒険者でしょ。

 子供相手だから意識して笑ってるんだろうけど、引きつった笑顔は逆効果だと思います!


「マノンです。マノン・フォルジュです」


「おう、これから冒険者見習いとしてよろしくな嬢ちゃ——マノン」


「はい!」


 木製の受付カウンターの上には、登録用の紙とバレーボールの球ぐらいの大きさの水晶が乗っていた。

 文字が書けない子も多いんだろう、登録用紙はおじさん職員が記入してくれる。


「んじゃこの水晶に手を触れてくれ」


「おー! これが魔法属性を判別する水晶ですね?」


「ああ、よく知ってるな」


 属性判別用の水晶!

 『ファイブ・エレメンタル』の世界で、主人公の聖女アンリエットが白く輝かせて「さすが聖女」ってまわりの生徒たちを驚かせてたヤツ!


 いくら非公式チートキャラだからって「鍛冶屋の看板娘」の私はさすがにそんなことにはならないだろうなーって、でもドキドキしながら手をかざすと。


 水晶は、中心のあたりが灰色に濁った。


「嬢ちゃんは()()()だな」


「おー! 無属性! うん、悪くない悪くない!」


「なんだ、嬉しそうじゃねえか。嬢ちゃんぐらいの歳だと派手な火か、便利な水じゃなかったってガッカリしそうなもんなのによ」


「だって無属性って、『身体強化』とか『結界』が得意な属性ですよね?」


「そうだ、よく知ってんな」


 感心してるのか、おじさん職員がニコニコしてる。

 コワモテの笑顔に、私のうしろの子がヒッと後ずさった。


「んじゃ嬢ちゃんは魔法属性の初心者講習いらねえか? 使用武器の選択と講習はどうする?」


「どっちもなしで! 最初は雑用依頼を受けようと思ってるんです。武器の方の講習はいずれ受けるかもしれませんけど……」


「おう、そこまで考えてんなら心配いらねえな。んじゃがんばれよ! 何かあったらオレに相談しろ!」


「はーい」


 おじさん職員は、「マノン」と名前の書かれた紐付き木札を渡してきた。

 木札の表面には冒険者ギルドの焼印が押されて、裏には登録日が書かれている。

 冒険者見習いへの登録はこれで終わりらしい。


 私はさっそく、冒険者見習い向けの雑用依頼が貼られた掲示板に向かった。

 ちなみに、字が読めない子はカウンターで職員さんに紹介してもらうそうです。

 勉強しておいてよかった!

 カウンターはめっちゃ混んでてまだまだ聞けそうにないからね!



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