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乙女ゲーのメインキャラでもモブでもない鍛冶屋の看板娘に転生した私は、悪役令嬢にハッピーエンドを迎えさせたい  作者: 坂東太郎
『第一章 うわ、私のステータス……高すぎ……? さすが、「単なる鍛冶屋の看板娘」じゃないだけある!』
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第五話


 教会で「職業(クラス)判別の儀」を受けて、私の職業(クラス)が「商人」だとわかって。

 裏庭でオレリアと一緒に修業したり、スキル取得のためいろいろやってみてから2年が経った。

 栄養不足で小さく細かった私の体も、8歳の年齢並みには大きくなった、と思う。


「行ってきまーす!」


「マノン」


「うん? どうしたのお父さん」


「例のものだ」


「これ……ありがとう、お父さん!」


 いつもと違う日だけど、いつも通りに裏庭に行こうとしたらお父さんに呼び止められて。

 できたぞ、とばかりにソレを渡された。

 お願いしてたのは一本だけだったのに、二本。

 一本は私に、もう一本はお世話になった幼なじみにプレゼントしなさいってことだろう。

 記念の品として、長く使える実用品として。

 無口でぶっきらぼうだけどお父さんはやさしい。


 バッと抱きつくと、お父さんはがっしり受け止めてくれた。

 勢いあったのにさすがドワーフ、たくましい。

 あとまだお父さんの方が大きい。


「今度こそ、行ってきます! ありがとうお父さん!」


「ああ」


 お父さんからもらったプレゼントを抱えて裏庭に向かう。

 三本の木と少しだけある芝生のうえで、オレリアが待っていた。


「おはよー、オレリア!」


「マノンちゃん……」


 もぞもぞと落ち着かなさげなオレリアはもう涙目だ。

 気づかなかったフリをして、私はオレリアの胸に飛び込む。

 8歳になったオレリアは背が伸びた。

 でも、あいかわらず肉付きがいいのは変わらない。

 どっしりしたお父さんとは違う、ふわふわ感もまた安心する。


「マノンちゃん、本当に、初等学校に行かないの? 明日からはじまるよ?」


「言ったでしょ、オレリア。私は通学しないで、試験だけ合格して卒業資格取る方を目指すって」


 私とオレリアは8歳になった。

 リオナディア王国の王都では、8歳になった平民の子供は近隣の初等学校に通うことができる。

 もちろん、家庭の事情で通えない子供もいる。

 そんな子のために、試験を受けて合格すれば「卒業」扱いにしてくれる制度が設けられている。

 もっとも、通えない子はたいてい懐事情で通えないわけで。

 初等学校の卒業資格よりも働いてお金を稼ぐことを大事にするケースの方が多い。

 いまではこの制度は、家庭教師をつけられる裕福な平民が使う制度となっていた。


「だからオレリア、休みの日には私に勉強教えてね! いままでみたいに!」


 12歳から通える「高等学校」に入学するには、平民の場合、初等学校の卒業資格が必須になる。

 それも「優秀な成績で卒業した」実績が必要だ。

 そのうえで希望して、やっと「高等学校入学試験」の門が開かれる。

 初等学校に通わず試験だけ受けるスタイルでもOKなのは確認済みだ。


 だから私は、初等学校には通わないと決めていた。

 それよりもやることがある。


 制作したゲーム会社いわく「乙女ゲー」の『ファイブ・エレメンタル』の悪役令嬢、エリアーヌ・フラメリア公爵令嬢を助けて、ゲームにはなかったハッピーエンドを迎えてもらうために。


「ゔゔ……ざびじいよぅ……」


「ほらほら、泣かないの、オレリア。これからも会えるし、オレリアには勉強を教えてもらうんだから。初等学校でしっかり勉強してくるんだよ?」


「ゔん……」


「あと! オレリアをイジメるヤツがいたら教えるように! そんなヤツぶっ飛ばしてやる!」


「ふふ、もう……ありがとぅ、マノンちゃん……」


 ちょっと手を伸ばして、私より背の高いオレリアの頭をぐしぐし撫でる。

 オレリアは冗談って受け取ってるけど私は本気だ。

 こんないい子で優しい8歳女児をイジメるヤツがいたら誰だろうとぶっ飛ばしてやりたいと思います! 2年間鍛えた! このカラダで!


 そう。

 この2年間で、私もオレリアもいろんなスキルを身に付けた。

 モンスターと戦ってないからレベルは上がってないし、オレリアの場合、高等学校や魔法使いに弟子入りしないと教われない「攻撃魔法」は使えないけど。まだ「例外を除いて一人にひとつ」の魔法属性もわかってないし。


 私のいまのステータスはこんな感じだ。



名前:マノン・フォルジュ

種族:人族

職業:商人

レベル:1

HP:86(-36)

MP:43(-18)

筋力:19(-6)

耐久:14(-6)

敏捷:20(-6)

知力:12

器用:15(-3)

スキル:

 体力回復強化

 回避

 移動速度上昇

 俊足

 跳躍

 魔力感知

 魔力操作

 算術LV3

 ユーレリア大陸西方語LV2

 礼儀作法

 交渉

 運搬

称号:なし



 けっきょく、鍛えても筋力や耐久の数値は変わらなかった。

 これたぶん、自分の素の身体能力に筋力や耐久、敏捷なんかの数値が乗るんじゃないかなーと思ってる。

 初期値から変化ないし、たぶん年齢からくるマイナスも削りきれなかったけど、明らかにいままでより動けるようになってるから。


 あと。

 毎日がんばって瞑想して、やっとスキル【魔力感知】と【魔力操作】をゲットしました!

 魔力系は時間かかったのに、準備運動で走ったらあっさり【体力回復強化】【移動速度上昇】がついた切なさ……。

 やっぱりカラダ動かす方が私に向いてるんだろうなーって試してみたら【回避】【俊足】【跳躍】もサクッと取れちゃったし……。

 あとあと役立ちそうだから文句なんてないけど! ないけども!


 それと、職業(クラス)と関連しそうなものはスキル取得が早かった。

 お父さんに頼まれたお使い(食料と日用品の買い出し)で市場に行って店員さんと話したらあっさり【交渉】スキルが、持ち帰るだけで【運搬】スキルがつきました。

 これは私が非公式チートキャラだからなのか、みんなそうなのか……。

 主要キャラまでそうだとしたら、また目標を上方修正しなきゃいけない。

 あの人たちだいたいレア職業(クラス)だからなあ……。


 ちなみに、一緒に2年間がんばってきたオレリアはこんな感じだ。



名前:オレリア・フィジク

種族:エルフ(クォーター)

職業:村人

レベル:1

HP:43(-7)

MP:97(-21)

筋力:8(-3)

耐久:6(-3)

敏捷:5(-3)

知力:16

器用:12(-3)

スキル:

 魔力視LV2

 魔力感知LV2

 魔力操作LV3

 算術LV2

 ユーレリア大陸西方語LV2

 農耕

 伐採

 栽培

称号:なし



 魔力系スキルの伸びがよすぎる……。

 種族的なものなのか、本人の素質なのか……。

 これ、「高等学校か魔法使いに弟子入りするまで」とか言ってないで、早いとこ魔法を教えた方がいいんじゃないかなー。

 オレリアのお母さんはちょっと特殊な魔法の使い手で、一般的なのは教えられないっていうのが残念すぎる。


 あとやっぱり職業(クラス)に関連することはスキルを得やすかった。

 ちょっと裏庭の草むしりしただけで、【農耕】【伐採】を、ためしに雑草を近くに植えてみたら【栽培】を取得してたもの。

 王都に住んでる以上、このへんのスキルは役立たないかも、と思ってたら。

 オレリアは、涙を流して喜んでた。


「あのね、マノンちゃん。これ、お父さんとお母さんから……」


「これは?」


「『身守りのミサンガ』だって。少しだけダメージを減らしてくれるって。マノンちゃんのこと話したらお父さんとお母さんが」


「ありがとう、オレリア!」


 手渡されたのは複雑に色が絡み合ったミサンガだった。

 スキル【魔力感知】を覚えたいまなら、そこに魔力が宿っていることがわかる。

 お父さんが造る一部の武器や防具、アクセサリーと同じように。


「えへへ……お揃いだねぇ……」


「うん。お返しってわけじゃないけど。オレリア、これ、もらってほしいんだ。私とお父さんから」


 二人して——もとい、仲良し娘を持つ親として同じことを考えたのか。

 私は、お父さんからもらったものを一本、オレリアに差し出した。


「オレリアのスキルがあれば、この()()()()は役に立つと思うんだ」


 お父さんに頼んで造ってもらったのは、園芸用の小さなスコップだ。

 足で踏んで地面に刺すヤツじゃなくて、片手で持てるタイプの。

 オレリアのお父さんは雑貨屋さんの店主で、お母さんは薬師。

 そして、オレリアは村人で、【農耕】【伐採】【栽培】のスキルがある。


「『村人』のオレリアなら、植物だって育てられると思うんだ。それが薬草だって、ひょっとしたら」


 オレリアは、お父さんが造った金属製のスコップを胸に固まっている。

 と、だーっと涙がこぼれ出した。


「むら、村人でも、お父さんとお母さんのお手伝いがでぎるっで、おじえでぐれで、あり、ありがどゔ、マノンぢゃんっ!」


 やたら濁点の多い感じでぐじゅぐじゅ言いながら、オレリアが抱きついてきた。



 最初、私には前世の記憶があるから、オレリアはご近所の小さい女の子に思えた。

 その頃は、「オレリアはこんないい子で、お姉さんがいろいろ教えてあげよう!」って保護者目線だったのは確かだ。

 でも、あれから2年。

 二人で一緒にいろいろやってきて、いまでは。



 歳は離れてるけど——離れてないけど、オレリアは、私の幼なじみで————親友だ。



 初等学校と()()()()()()、二人の進む道が分かれても。



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― 新着の感想 ―
[一言] スコップがこれなら作者さんが関西方面の人か前世が関西の人かなあ(関東方面だと逆だったはず
[一言] びっくりするくらい面白かったです。続きが待ち遠しすぎます。 頑張る女の子達って読んでて好意しかありません。 ちょいポチャな幼女って健全な意味で尊いです。
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