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乙女ゲーのメインキャラでもモブでもない鍛冶屋の看板娘に転生した私は、悪役令嬢にハッピーエンドを迎えさせたい  作者: 坂東太郎
『第一章 うわ、私のステータス……高すぎ……? さすが、「単なる鍛冶屋の看板娘」じゃないだけある!』
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第三話


「しつれいしまーす、うわっ、暑っ!」


「なんだ、マノン」


「昨日までの帳簿付け終わったよー。裏庭で遊んでくるね!」


「ああ」


 鍛冶場の扉を開けると、カウンターのあるお店スペースとは別世界ってほどむわっと熱気が漂ってきた。

 こっちを見ることなく、じっと炉を見つめるお父さんに声をかける。

 ぶっきらぼうに思えるけど、いちおう返事があった今日はいい方だ。


「お父さん、集中するとまわりが見えなくなるし声も聞こえてないからなあ」


 だからこそ、店番できるようになりたいなーと思ってるわけで。


「オレリア! 待たせちゃったかな?」


「ううんー、ちょうど体操が終わったところだよぉ」


 ご近所さんと共有の裏庭には、オレリアが一人立っていた。

 ぐいっぐいっと、私が教えたストレッチをやりながら。


「今日は何をするの?」


「んー、やっぱり算術かな! もうちょっとだと思うんだよねー」


「マノンちゃんの教え方わかりやすいもんねぇ。わたしもがんばる」


 二人して裏庭の一角、木も芝生もない、むき出しの土の場所に向かう。

 途中、私は服のポケットから小石を取り出した。


「オレリアは足し算引き算はばっちり、掛け算もできるようになった」


「マノンちゃんのおかげだよぅ」


「えへへ……オレリアががんばったからだよ、じゃなくて! 今日は割り算を教えます!」


「よろしくお願いしますぅ」


「掛け算と逆の考え方をすればいいだけだからね、『知力:16』のオレリアなららくしょーだよきっと!」


 小石でガリガリと、地面に数字と絵を描く。

 りんごっぽい果物がいくつかと、ざるがいくつか。


「掛け算の時は『ざるに乗った果物』だったけど……今度は、ざるに果物を乗せます!」


「はぁい。何個ずつ?」


「んー、じゃあ3個ずつで。さて、ざるはいくつ必要でしょう?」


「えっと……」


 私が職業(クラス)『商人』だと、オレリアが職業(クラス)『村人』だとわかった次の日から、私たちは二人で勉強会をしている。

 家の手伝いによって集まる時間はまちまちだけど、ヒマさえあれば毎日。


 まずは軽く体操をして、時間があれば裏庭を走る。

 広さは10メートル四方ってところだけど、6歳児の足には立派な運動だ。

 ここまでは一人でも二人でも変わらない。


 二人揃ってる時は、そのあとは勉強の時間だ。

 私はオレリアに算数を教える。

 狙ってるスキルは【算術】。


 オレリアは、私に文字を教えてくれる。

 そのためにオレリアは両親に頼んで一冊の絵本と、初等学校の教科書を早めに用意してもらったらしい。

 寝る前におばさんに読み聞かせてもらったり文字を教えてもらうのがいまの楽しみなんだとか。

 そこで教わったことを私に教えてくれる。

 これで狙ってるスキルは【ユーレリア大陸西方語】だ。

 喋れるのにスキル表示されないのは読み書きできてないからだと思うんだよなー。

 お父さんもオレリアのおじさんおばさんも、【ユーレリア大陸西方語】のスキルは持ってるらしいし。


 算術と言語は「お店のお手伝い」のための第一歩だ。

 私にとっては、悪役令嬢エリアーヌ・フラメリアにハッピーエンドを迎えさせるための必須条件でもある。


 なにしろ「断罪と婚約破棄」の舞台は高等学校だからね!

 平民でも、初等学校の成績上位者は希望すれば入学できるんだけど、それつまり勉強ができないといけないってことだからね!


 ほかにもいろいろ勉強しなくちゃいけない。

 それに、エリアーヌを助けるためには勉強だけじゃダメなのが悩ましいところだ。

 戦うためのスキルも絶対いるけど……それはまだ先でいい。

 さすがに6歳児がモンスターと戦うのは厳しいし、もう少ししたら()()()が使えるから。


 最初の目安は8歳。

 8歳になるまでに、戦闘以外のスキルを身に付けようと思う。


「これでどうかなぁ」


「おー、合ってるよオレリア! すごいすごい! 簡単な割り算ならもうマスターだね!」


「えへへ……マノンちゃんのおかげだよぅ」


「うーん、これやっぱり知力値は勉強にも影響するのかも……」


 だとしたら、私の「知力12」だって悪くないはずだ。

 攻略キャラの平均には負けてるし、オレリアにも負けてるけど!

 前世の記憶がある私ならきっとなんとかなる。なるといいなあ……歴史とか自信ないんだけど……。


「どうだろ、オレリア? ステータスに変化はあった?」


「えっとねぇ……わっ! やった、やったよマノンちゃん! わたし、【算術】おぼえてる!」


「おー! よかったねオレリア! これで二人とも【算術】【ユーレリア大陸西方語】のスキル持ちだね!」


「うん……ありがどゔ、ありがどゔマノンぢゃん……マノンぢゃんがいだがら、ばだじ……」


「よしよし。もー、オレリアったら泣かないの。ほらほら」


 キレイな布でオレリアの涙と鼻水を拭う。


 私には、ぼんやりとしか覚えてなくても、精神が年齢に引っ張られてるかもしれなくても、前世で社会人まで生きた記憶がある。

 知識もあれば、勉強の経験もある。


 でも、オレリアは正真正銘の6歳児だ。

 算術はそりゃ私の方が早かったけど、読み書きは私とほぼ同じペースで習得した。

 だから。


「すごいよ、オレリア。これでもっとお店の手伝いできるね」


「ゔんっ! お父さんと、お母さんに報告するんだぁ……」


「ふふ。どうする? 『スキルレベル1』でも初等学校は充分らしいよ? 勉強はここまでにしておく?」


「もっと、マノンちゃんと一緒に、がんばりたい!」


「もー、かわいいこと言ってくれちゃってー」


 ひしっとくっついてきた6歳女児の——オレリアの頭を撫でる。


 うん。

 オレリアがその気なら、少なくともあと2年は一緒にがんばろうと思う。

 ()()()()が初等学校に通うようになるまで。


「うーん、次は何をしようかなあ。【算術】と【ユーレリア大陸西方語】のスキルレベルを上げるより、いまはいろいろ試したいんだよなあ」


「あのね、あのね」


「どうしたの、オレリア?」


「お母さんにね、聞いたの。そしたらね、『属性判別は学校でやるし、魔法は教えられないけど、魔力を鍛えることはいまからでもできるのよ』って!」


「ほんとっ!? めっちゃいい情報だよオレリア! すごいすごい!」


「えへへ。今度、お母さんにやり方を聞いておくねぇ」


「お願いしますッ!」


 戦闘や魔法については8歳になってからじゃないと鍛えられないと思ってたのに、この情報は大きい。

 エルフ(おばさんはハーフエルフだけど)流の鍛錬とかだろうか。


 ちょっとだけ、「一緒に教わった方が早いかも」と思ったけど、おばさんは働いてるわけで。

 隙間時間や寝る前にオレリアに教えてもらって、オレリアから私に教えてもらう、で問題ないと思い直した。


 オレリア、私よりMPも知力も高いからね……一緒に勉強はじめた読み書きは、オレリアの方がちょっとだけ、ほんとほんのちょっとだけ先に【ユーレリア大陸西方語】のスキル覚えてたしね。私、職業(クラス)『商人』で言語習得にも補正かかるはずなんだけど。


 ……知力値、上がらないかなあ。

 この二週間、体操に運動に勉強、いろいろやってみたけど、HP・MP・筋力・耐久・敏捷・知力・器用の値はなんの変化もなかった。

 たぶん年齢のせいでマイナスされてる数字も変わらない。

 数値を伸ばすには、レベルを上げるしかないっぽい。

 でも、スキルはともかく「レベル」を上げるにはモンスターを倒すしかないわけで。


「先は長い。でも、一歩ずつ。ちゃんと前に進めてる」


 エリアーヌを助けるために、高等学校に入学するまであと6年。

 とりあえず、もう少し動けるようになる8歳までは、オレリアと勉強がんばろう。

 魔力も鍛えられるっていい情報もらったし!


 …………そういえば、魔力ってなに? ステータスにないけど?


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