第二話
オレリア・フィジク。
ウチの近所にある雑貨屋さんの娘で、私と同い年の女の子だ。
どっちも親がお店をやってて同い年の娘がいるって境遇が似ていて、フィジクさんのところとウチは家族ぐるみの付き合いをしてる。
お父さんがあんなに無口で無愛想でもまったく気にしない、心の広い一家だ。
「マノンちゃん、楽しそうだったねえ」
オレリアのお父さんはちょっと小太りでニコニコ優しそうな人で、おばさんはおっとりほんわかしたスレンダーな人。
娘のオレリアは二人の性格を受け継いで、ニコニコおっとりしてる。
つまり、何が言いたいかっていうと。
「はー、オレリアは今日もかわいい!」
「ええー? そんなことないよぅ」
ぽっちゃりとは言わないけど、肉付きよくてふくふくした6歳の女の子で、いつもふにゃーっと笑ってるオレリアかわいい!
いきなり抱きついてもふわふわしてまったく怒らない、むしろ抱きしめ返してくれる。
前世の記憶が(あいまいだけど)あるせいか、同い年のはずのオレリアは、私によく懐いてる近所の幼児にしか見えない。
幼なじみがこんないい子でよかった。
「むふー、今日も、あ、昨日もか、いいことあったんだ!」
「今日? 昨日? あっ。『職業判別の儀』かなぁ」
「そうそう、よくわかったね! なんと、私は『商人』だったのです!」
「おー」
ふんす、と胸を張る私、マノン・フォルジュ6歳。
オレリアはぱちぱちと拍手してくれた。
「オレリアも受けたんでしょ? どうだった?」
「あっ。うん……」
オレリアから笑顔が消えてうつむく。
こんなオレリア初めて見たんだけど!? なに、何が起きたの!?
落ち着け、落ち着け私。
いまこそ前世の経験と、『ファイブ・エレメンタル』の知識を活かすとき!
幼なじみのほんわかニコニコ幼女にこんな顔させたくない!
「言いたくなければ言わなくてもいいけど……私、アドバイスするよ。職業は単に『得意な分野ができる』ってだけで、大事なのは『スキル』だと思うんだ」
「でも……わたし、スキルもなくて……」
「そんなの私も一緒だよ! でもぜんぜんへーき! これから覚えていけばいいし、いろいろ覚えていくつもりだもん!」
「ほんと? でも、お父さんとお母さんは、最初からスキルがあって、だからわたし、きっと期待外れで」
「初期からスキルがあったってオレリアのご両親『ユニークスキル』持ち!? っと、それどころじゃない、そんなことないよオレリア。どんなオレリアだって、二人とも愛してくれてるよ」
「そうかなあ……でもわたし、『村人』だったんだ……」
「なぁんだ、『村人』か。もっと悪い職業だったのかと思っちゃった! 知らないのオレリア、『村人』ってすごいんだよ?」
「え? 『村人』だよ?」
「王都で生まれ育ったオレリアはぴんとこないかもしれないけど……村で暮らす人は、生きていくためにいろんなことをしてるんだ」
「いろんなこと……?」
「土を耕して作物を育てる。狩りに出て獲物を仕留める。村長に近ければ税を納めるために計算するし書類だって書くし、モンスターや獣が近づいてきたら村人だって武器を持って戦うんだよ?」
「む、村人ってたいへんなんだね……」
「そう、村人はいろいろやって大変なの! だから、職業『村人』はいろんなスキルを覚えられるはずだよ」
これは本当だ。
公式設定集にあった職業一覧によると、職業『村人』だけが覚えられる職業専門スキルはない。
そのかわり——
「だから、私と一緒にスキルを覚えよう! オレリアはどんなスキルを覚えたい?って言ってもわからないか。オレリアは何がしたい?」
「わたし、お父さんとお母さんのお手伝いがしたいんだぁ。だから『薬師』になりたかったんだけど……」
「私と一緒だね! 私も、お父さんの手伝いがしたいって思ってたもん」
「マノンちゃんと、一緒?」
「うん。将来はほかにもやりたいことがあるけど……いまは私、『算術』と読み書き——『ユーレリア大陸西方語』のスキルを覚えようと思ってるんだ!」
「わたしも、覚えられるかなあ」
「もっちろん! 言ったでしょ、村長とか、その手伝いの『村人』は税の計算もするし読み書きもできるって!」
「そっかぁ……『村人』でも、お父さんとお母さんのお手伝いができるんだねぇ…………」
——職業『村人』は、すべてのスキルを覚えられる、らしい。
ほかの職業と違って習得難易度が下がるわけじゃないけど、すべて。
攻略キャラにもサポートキャラにも『村人』はいなかったから、公式設定集にそう載ってただけだけど。
でも。
「ううっ、ぐすっ……あり、ありがどゔ、まのんぢゃん…………」
思い悩む幼なじみを、親友を励ませただけ、いい情報だったと思う。
涙と鼻水でぐじゅぐじゅになったオレリアを抱きしめる。
「二人でがんばろうね、オレリア」
「ゔん……わたし、がんばる……たくさん勉強して、スキル、おぼえるぅ……」
「ふふ、よしよし」
オレリアの頭を撫でる。
この世界は乙女ゲー『ファイブ・エレメンタル』の世界だってまだ確定したわけじゃない。
でも、これだけ共通する部分があるなら、『スキル』ぐらいは同じはずだ。
ちなみに。
泣き止んだオレリアは、「これでも大丈夫かなぁ、スキルおぼえられるかなぁ」ってステータスを教えてくれた。
名前:オレリア・フィジク
種族:エルフ(クォーター)
職業:村人
レベル:1
HP:43(-21)
MP:97(-42)
筋力:8(-3)
耐久:6(-3)
敏捷:5(-3)
知力:16
器用:12(-6)
スキル:なし
称号:なし
待って、「エルフ(クォーター)」!? じゃあスレンダーなオレリアのお母さんがハーフエルフ!?
しかもMP高すぎない!? 攻略キャラの初期値MAXは100って、そっかあれ人族の話だった! エルフはもっと高くてもおかしくない!
そして筋力と耐久と敏捷の低さよ……。
あと「知力:16」。
わたし、マノン、前世の記憶持ち、知力、12。
…………負けてるんですけど!?
前世で社会人まで生きた記憶が(ぼんやり)あるのに6歳女児に知力負けてるんですけど!?
ス、ステータスの「知力」は「魔法攻撃力」とリンクする数値だから……つまり魔力的なアレだから……頭の良さとか知識量ってことじゃないし……きっとそうだし…………。
「マノンちゃん? だいじょうぶ?」
「うん……安心してね、オレリア。両親の手伝いどころかもっといろいろできそうだから……これぜったい魔法使えるやつだから……」
「ほんとう? えへへ、そうだといいなぁ」
にへっと笑うオレリアは、素直でかわいいと思います。
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