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乙女ゲーのメインキャラでもモブでもない鍛冶屋の看板娘に転生した私は、悪役令嬢にハッピーエンドを迎えさせたい  作者: 坂東太郎
『第三章 パーティ組んでもっと強くなって……ダークファンタジーぶった悲惨なイベントなんて潰しまくる!』

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第八話


 私とオレリアとバティ、それにお父さんとオレリアの両親。

 6人で、「学園入学前の思い出作り旅行」にやってきたのはバティの生まれ育った村だ。


「見られてしまったか」


 綺麗に磨かれた両親の墓と碑文を見て、バティは呆然としていた。


 ――英雄、ここに眠る――

 ――私たちは、二度と英雄に頼らない――


 自分に冷たく接してきた村人たちは、両親に感謝していた。

 『豪剣士』という英雄の職業を授かったバティを村から送り出すための行動だった。


 レベルが上がってステータスが高くなって、モンスターと平常心で戦えるようになったと言っても、バティはまだ11歳だ。

 混乱するのも当然だろう。


「これ、これって、村長、これは」


「見られたからには、話すしかなかろうな」


 大きなため息を吐いて、村長がまわりの村人を見わたす。

 村人たちは静かに頷く。


 それから、村長が語り出した。


 村から外に出たバティの父親は冒険者として活躍していたこと。

 それを知った昔の村長は、困窮する村を見かねて戻ってきてほしいと手紙を出したこと。

 バティの父親が母親を連れて戻ってきて……バティが生まれた後、母親は流行病で死んでしまったこと。

 村長と村人の後悔はそこからはじまって。

 もし、この村じゃなければ。

 バティのお母さんは助かったかもしれない。

 お父さんは、村を守るために死ぬこともなかったかもしれない。


 ——そして、諸国に名が轟くほどの英雄になっていたかもしれない。


 こんな小さな村の、村人以外は誰にも知られない()()ではなく。


「だから儂らは決めたのだ。もう英雄には頼らないと。ゆえに、バティストをこの村から出すと」


「そんな、そんなの、言ってくれれば」


「言ってどうする。儂らの気持ちを押し付けて、バティストが村に心残りを作ってしまったら」


「父さんが守った村を、僕だって」


「そう思い、村の危急の時には駆けつけてしまうだろう。儂らはな、バティスト。もう儂らのせいで英雄を死なせたくないのだ」


 もしかしたら、バティのお父さんは——守った側には、悔いはないのかもしれない。故郷を守れたと。

 けれど、守られた側は悔しかった。力がないばっかりに、英雄を、『剣豪』を死なせてしまったと。村人が『村人』だったばっかりに。


「けど村長さん、バティのお父さん、継いでバティは村の主力だったわけで。いなくなってからモンスターが村を襲ってきたらどうするつもりだったんですか?」


「戦うとも。儂ら『村人』が命をかけて」


「素晴らしい心がけです! 『村人』であってもモンスターを殺そうだなんて! けれどいけませんね、『命をかけて』などと、死んでしまってはモンスターを殺せなく——」


「あなた。ちょっと黙ってましょうね」


「英雄の職業(クラス)の人じゃなきゃ倒せないような、強いモンスターが出たら?」


「その時はその時だ。『村人』が戦い、戦えない者を逃がすことになるだろう。村が潰れようと、儂らは英雄には頼らない。そう決めたのだ」


 村長の目に迷いはない。

 まわりを見ても、村人たちは晴れやかな顔をしていた。

 ジスランおじさんじゃないけど、その心意気は素晴らしい、と思う。()()()だけは。


「それで、レベルはどんな感じなんですか? 意図的に何人か高レベルの『村人』を作ったり?」


 私の横でオレリアがピクッと反応する。

 そう、オレリアも職業(クラス)は『村人』だ。

 『村人』だからって戦えないわけじゃない。私のオレリアは天才だから特別強いとしても!


「いや……」


「あっ、じゃあ高レベルの『村人』を作るんじゃなくてできるだけ大勢の『村人』のレベルを上げる感じですか? 『囲んでボコれー!』みたいな」


「いや…………」


「まさかとは思いますけど、バティのお父さんとバティがやってた『狩人』の役割は? 職業(クラス)じゃなくて、森の見まわりとか、縄張りに変化がないか、とか」


「い、いや………………」


「武器は」


「村長さん、お父さんが武器は用意してるのかって」


 村長さんがそっと目をそらす。

 さっきまでのキリッとした顔はなんだったのか。

 せっかくお父さんが質問したのに! 答えないなんて!


「防衛施設は」


「えーっと、木の柵と門だけですか? 村にしては立派だと思いますけど、物見櫓とか、罠や堀、バリスタ、あ、投石機がどこかに……」


「マノンちゃん。わたし、普通の村にはそういうのないと思うなぁ」


「ないんですか!?」


「ま、まあ、ないのう。この村はそれほどお金に余裕があるわけではなく……」


「はあああああ!? つまり心意気だけ! 口だけってことですか!?」


「う、うむ」


「ぜんっぜんダメ! バティ——バティストなんて、10歳の頃からあんなにがんばってきたのに!」


「マノンさん……」


「強くなるために頭を下げて! モンスターと戦うために必死で訓練して! 怪我しても怖くても泣き言なんて言わないで!」


「褒められてよかったねぇバティ」


「はい、オレリアさん。でもお二人はもっと小さい頃から鍛えてたって」


「へへー。それはそれだよぅ」


「それで『村は儂らが守る』って言ったって! そりゃ守りきれないでしょう!」


「う、ううむ」


 ぐうの音も出ない村長をよそに、お父さんがうんうん頷いてくれてる。

 旅をしてきたお父さんは、外で出会うモンスターの怖さを知ってる。防衛に力を入れてる村も、逆に力を入れてなくて滅んでしまった村も見てきた。たぶん。


 職業(クラス)はあるけど、この世界にはレベルとステータスとスキルがある。

 だから、職業(クラス)(と成長値)は「強くなりやすいかそうじゃないか」を決めるだけで、鍛えれば誰だって強くなれる。

 私みたいな『商人』だって、オレリアみたいな『村人』だって。


 だから。


「一週間!」


「マノンちゃん?」


「私たちが、この村を一週間で生まれ変わらせます! ()()なしでも守り切れるように!」


「マノンさん……いいんですか?」


「お父さんも、ジスランおじさんたちも協力してくれる?」


「マノンが言うなら」


「もちろんですよ。モンスターを殺す、素晴らしい心意気を実現するための力をつけていただきましょう」


 さっすがお父さん、頼もしい!

 あとなんか闇堕ち(堕ちてない)錬金術師のスイッチが入っちゃってる。村人が魔改造されないかなあ……。ま、まあゲームと違って、ジスランおじさんはいまのところ非人道的なことはなにひとつしてないし。信頼、信頼しなきゃね。


 ということで。


「マノンズブートキャンプ、はじめるよー!」


「おー!」


「ぶーと……?」


 一週間で、バティの故郷の村を強化したいと思う。


 期限を切ったのは、今回の旅の目的地はもうひとつあるから。


 それと。


 本来は間に合わないはずのひとつの惨劇(イベント)をぶっ潰すには、一週間もあれば充分だからだ。


 ゲーム《ファイブ・エレメンタル》のシナリオ? 強化イベント?

 そんなことより、胸糞悪い惨劇(イベント)を防ぐ方が優先です!

 よく似た世界でも、この世界の人はちゃんと生きてるんだから!


この辺のエピソードは二話ぐらいで終わるはずだったのですが……あれえ?

ぼちぼちペースですが、今後も更新していきますー。



【告知】

別作(短編)『婚約破棄された侯爵令嬢は落とし前をつける。拳で。』が

コミカライズされました!

単行本アンソロジーは4月14日の発売ですが、

本日よりBookLiveさまで一話ごとに独占先行配信されるそうです!

ぜひ読んでやってください!

URLは活動報告に記載しておりますー。


なおアンソロジーの書籍情報は以下の通りです。

また、下の書影をクリックすると試し読みにジャンプできます!

紙や電子の単行本、あるいはほかのマンガサイトでもいずれあるかもしれない電子の単話配信で

ぜひ!よろしくお願いしますー!


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『悪役令嬢にハッピーエンドの祝福を!アンソロジーコミック』

レーベル:avarus

発売日:2022年4月14日(木)

価格:定価660円(税込)

ISBN:978-4-8000-1199-2

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◆収録作品タイトル


『婚約者が無視ばかりするので、婚約破棄します』

漫画:小箱ハコ 原作:立草岩央


『旦那様は私を殺したいほど憎んでいる』

漫画:真柴なお 原作:鈴元香奈


『悪役令嬢ですけど、すでに義弟をいじめた後でした。』

漫画:赤羽にな 原作:餡子


『悪役令嬢、物語の冒頭で死ぬ伯爵の未亡人になろうとしたのに、伯爵様が死にま

せん。なんで?』

漫画:みけだて 原作:枝豆ずんだ


『婚約破棄された侯爵令嬢は落とし前をつける。拳で。』

漫画:榎のと 原作:坂東太郎


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― 新着の感想 ―
面白かった! 作者さん続きが欲しいですー!!
[一言] 一気に読ませていただきました(*^^*) 続きが、気になってるので、たまにでも良いので執筆再開されるのを待ってます!
[良い点] とても面白かった。 [一言] 更新が待ち遠しい。
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