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乙女ゲーのメインキャラでもモブでもない鍛冶屋の看板娘に転生した私は、悪役令嬢にハッピーエンドを迎えさせたい  作者: 坂東太郎
『第三章 パーティ組んでもっと強くなって……ダークファンタジーぶった悲惨なイベントなんて潰しまくる!』

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第四話


「王都にこんなところがあるんだねぇ」


「うん。私はここで強くなったんだ」


「二人を守る。モンスターを殺す。強くなる。もっと守れるようになる。もっと殺せる。もっと強くなれる」


「落ち着いて、バティスト。ここに出るのはそんな強いモンスターじゃないから」


 お父さんとオレリアの両親・ジスランおじさんとフィロメナおばさんに見送られて、私たちが向かったのは王都の地下水路だ。

 もちろん、ダンジョンの方じゃなくてその手前、チュートリアルの方。


 いくら二人に素質があって、お父さんからもらった装備やおじさんがくれたポーションがあると言っても、二人は戦い慣れてないからね。

 最初はここで充分だろう。


 水が流れる水路の横、石造りの通路を歩いていると、カチカチって音が聞こえてくる。


「あると便利な【索敵】はあとで練習してもらうとして……ほら、来るよ」


 私にとっては、この2年間ですっかり聞きなれた音。

 でも、何も知らない二人は私の警告に緊張してる。

 オレリアはゴクッと唾を呑み込んで杖を構え——


「く、くる。だ、大丈夫、怖くない、痛くない、殺られる前に、殺ればいいんだ! あああああっ!」


 ——ブツブツ言いながら震えていたバティストは、雄叫びをあげて突っ込んでいった。


「あっ、ちょっ!……まあ負けるわけないし、お説教はあとでいいか」


「たいへん、マノンちゃん! バティくんが!」


「バティくん……? 焦らなくていいって、オレリア。ほら」


 しがみついてくるオレリアの肩を抱いて落ち着かせて、ゆっくり通路を歩いていく。

 角を曲がったところで、バティスト……バティの攻撃がビッグラットに当たった(ヒットした)のが見えた。

 重い一撃に、ビッグラットはすぐに消えて、小さな魔石を残す。


「はあ、はあ、はあ、はあ」


「バティ」


 息の荒いバティストに声をかけても、呆然とビッグラットがいた場所を見つめて返事がない。

 そういえば、バティスト・オブレシオは根が臆病で、だから「早くモンスターを排除する」ために怪我を恐れず攻勢に出る、っていう性格(キャラ設定)だったっけ。


「バティ!」


「はっ。マノンさん、オレリアさん、無事で……」


「もちろん。バティが倒してくれたし、そもそもビッグラットなんて何体来ようが相手にならないからね」


「よかった…………」


「それよりバティ。一人で突っ走らないで。私たちは『パーティ』なんだから」


「でも僕……俺は」


「もしバティが突っ込んで、私たちの方に強力なモンスターが来たらどうするの?」


「うっ……すみません……」


「怖くても、勝手に突っ込まない。それが一番効率的で、一番速くモンスターを倒すコツだよ」


「一番効率的で、一番速く……」


「だいたい、必要以上にモンスターを怖がる必要ないって。バティの防具はお父さん謹製だよ? この辺でダメージ与えられるモンスターなんていないから」


「はい……」


 出会った時よりちょっと身長が伸びて筋肉ついて、髪をツンツンにして、強がっても中身はそうそう変わらない。

 「英雄の剣」を手に持ったまま、バティはしゅんと肩を落とした。


「いままで罠を仕掛けて仕留めてきたってことは、ちゃんと戦うのははじめてだったもんね。そう考えたら仕方ない、よくやったよ! ちゃんと倒してるし!」


「はいぃ……」


「次は見ててね! 私のオレリアが戦うから!」


「うん! わたし、がんばるよ! マノンちゃんみたく強くなるために!」


 すっかりしょげちゃったバティの横で、オレリアがふんす、と鼻息荒く杖を握りしめる。

 なにそれかわいい。


 飛び出さないようバティは私の後ろ、気合い充分に杖をぶんぶん振るオレリアを先頭に通路を進む。

 チュートリアルダンジョンの通路は、モンスターは一体ずつ、それもビッグラットしか出てこない。

 しかも私の【索敵】【地図化(オートマッピング)】を併用した脳内便利MAPで、赤い光点を見逃すことはない。

 だから、本来後衛のオレリアを先頭にしても心配はいらない。


「オレリア。そこの角からモンスター……ビッグラットが近づいてくるよ。攻撃手段は噛みつきと引っ掻き、それと体当たりで遠距離攻撃の手段はなし」


「マノンちゃんは物知りだねぇ」


 にこにこのオレリアに褒められて悪い気はしない。

 ゲーム『ファイブ・エレメンタル』の知識が基本だけどね!

 いまのところ、お父さん以外に「前世がある」とか「ゲーム(物語)の知識がある」ってことは話していない。

 いつかオレリアには話すかもしれないけど……。


 考えてる間に、本日2体目のビッグラットの姿が見えた。

 オレリアが魔術師の杖を構えて魔力を練る。

 いや、もともと練っていた魔力を動かす。


「いくよー! 『泥団子』!」


 オレリアにしては気合いの入った声をあげると、魔術師の杖の前に魔力が渦巻き、形を為した。


 水分多めの、ちょっとべちゃっとした泥の玉を。

 泥団子……? 土魔法なんだし、『石つぶて』とか『石弾』とかじゃなくて……?


「てーいっ!」


 オレリアがもうひとつ叫ぶと、()()()はばびゅんと飛んでいった。

 高い敏捷のせいか動体視力もよくなった私の目で、ギリギリ追える速さで。


 とうぜん、そんな「質量のある泥団子を高速で」ぶつけられたビッグラットは死ぬ。


「…………えっ?」


「やったっ! 倒した、倒したよマノンちゃん!」


 振り返ったオレリアは、満面の笑みで、嬉しそうに私の手を握る。

 優しいオレリアだけど、モンスターを倒すことに「かわいそう」とは思わなかったらしい。

 ちょっと意外だ。

 でもきっと、この世界ではモンスターは人間に害なすモノで、そう教えられて育ってきたんだろう。


 ……『ファイブ・エレメンタル』の主人公が「聖女」だったせいか、直接攻撃じゃなくて「モンスターとの戦闘に寄与」すれば経験値が入ってレベルが上がる。

 だから、オレリアは補助にまわってもらえばいいかなー、と思ってたんだけど。

 うん、この笑顔と新しい魔法を覚えた努力を見ちゃったら、ちょっと言い出せないです。


「よ、よーし! この調子で一番奥まで行こう!」


「うん!」


「次は、俺も、ちゃんと戦います」


 はしゃぐオレリアと、決意を秘めたバティに宣言する。

 もっとも、行くのは「チュートリアルダンジョンの一番奥」だけど。今日のところは。


「で、終わったらいったん外に出て周回します! 日が暮れるまで!」


「うん?」


「経験を積む、慣れるってことですね。俺、がんばります」


「あ、そうそう、バティは強麻の服と竜革鎧脱いでね」


「うん!? マノンちゃん!?」


「えっ!? マ、マノンさん……? た、助けてもらった身です、マノンさんが望むなら何をしてもかまいませんけど……その」


「そうそう、本来は陰のあるイケメンの幼い頃の裸を……じゃなくて! お父さんの鎧着てたらダメージ受けなくて耐性上がらないから! 強くなるためだから!」


「マノンちゃん? さっき、ダメージ受けないから怖がる必要ないって……」


「あっ…………慣れ! 慣れは大事だし近接職必須の【打撃耐性】も【刺突耐性】も【斬撃耐性】もここなら簡単に覚えられるから! がんばれ! がんばれ、る?」


「やります」


「えっと、わたしは、ちょっと恥ずかしいかなあって、マノンちゃんだけならいいけど」


「オレリアはいいの! むしろ脱いじゃダメ! 後衛、そう、後衛だからね! そのへんのスキル覚える必要ないから!」


 迷いながらもじもじうにょうにょするオレリアを必死に止める。


 女の子が野外で服を脱いじゃいけません!

 耐性スキル得るためとはいえ、オレリアにモンスターを群がらせるなんてとんでもない!



 三人で初めての「冒険」は、そんなひと悶着があったけれど、無事に終わった。

 これからしばらくはこれを続けて、オレリアとバティがレベル8ぐらいまで行ったら、奥のダンジョン『王都地下水路』でレベリングして。


 その先は——



 いよいよ、私も初体験の、王都の外のダンジョンだ。






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― 新着の感想 ―
1話で「あ、貴女の、いえ、アンリエット様の職業クラスは……『聖女』です 「わっ、やっぱり!」 ゲーム知識あり転生者か?マノン見ても公式チートだしと納得?
[一言] いい人たちだらけの暖かい作品世界が好きです。 聖女ちゃんとやらも露骨な悪役じゃないといいなあ。
[良い点] いつも楽しく読まさせていただいています。 [気になる点] 作者様がいる世界線では、来週も今年なんですか? [一言] ご自分にあったペースで更新していただければ。
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