第三話
Cランク冒険者パーティ「未知への探求」を見送った次の日。
私は、鍛治工房裏手の庭にいた。
昨日は「未知への探求」の旅立ちを見送る日だったけど、今日はある意味で私の——私たちの、旅立ちの日だ。
「お父さん……この防具は、さすがにやりすぎじゃないかなあ」
「安全第一だ」
めずらしく裏庭にいるお父さんに言っても、お父さんはぐっと口を引き締めて譲らない。
表情は変わらないけど一緒に暮らしてる私にはわかる。
これ、お父さん、梃子でも動かない構えだ。
この2週間、お父さんは「未知への探求」の武器防具だけじゃなくて私の——私たちの装備を作ってくれた。
むしろ、そのために試行錯誤を繰り返してたと言ってもいい。
レベルに合った敵を相手に、戦闘技術を磨けるようにってことで武器は変わらず突撃犀の手甲で、足元の軍馬の半長靴も変わらない。
お父さんが私に作ってくれたのは、敏捷を活かす軽い防具だ。
妖精絹の服と、胸部やお腹なんかの急所をカバーする竜革のプロテクター。
軽い上に防御力も高くて、お父さん謹製のおかげか動きも阻害しない。
しかもゲーム『ファイブ・エレメンタル』ではできなかった、「服の上からプロテクターをつける」二重装備だ。
お父さんの愛情が嬉しい反面、やっぱりやりすぎなんじゃないかなあと思う。
これ、瘴気渦巻く宵闇城でも通じる防具なんですけど?
私、これから行くのゲーム最初のチュートリアルダンジョンなんですけど?
よく行ってたダンジョン・王都地下水路でもダメージ受けそうにないし、なんならその先もしばらくはノーダメで行けそう……。
さっすが周辺諸国イチの鍛治師!
戦うのは認めたけど、怪我はさせたくないって親心なんだと思う。
スケルトンナイトとオーガ(あとゴブリンライダー)の討伐、「未知への探求」と訓練、お父さんがくれた装備。
私は強くなった。
名前:マノン・フォルジュ
種族:人族
職業:商人
レベル:17
HP:348(-18)
MP:235(-9)
筋力:83(-3)
耐久:62(-3)
敏捷:100(-3)
知力:44
器用:64
スキル:
体術LV7
体力回復強化LV5
回避LV7
見切りLV3
移動速度上昇LV4
俊足LV4
跳躍LV5
索敵LV4
打撃耐性LV5
刺突耐性LV3
斬撃耐性LV6
毒耐性LV3
闇耐性LV3
無属性魔法(身体強化、弾丸、魔力障壁、結界)
魔力感知LV4
魔力操作LV5
算術LV5
ユーレリア大陸西方語LV4
礼儀作法LV2
交渉
運搬LV3
地図化
鑑定(NEW!)
称号:格上殺し(NEW!)
強敵を倒したことで、レベルは2上がって17に。
私のウリである敏捷はついに100を超えた。
ずっと適正レベル以下で戦ってきたからか、称号もついた。
格上殺しは、ゲームではレベルが上の相手と戦うほど補正がかかる称号だった。
現実ではどうなるかわからないけど……あって困るものではない、と思う。
それに、未知への探求の商人ユベールさんには報告できなかったけど、作ってもらったお父さんの装備を見てたら念願のスキル【鑑定】を手に入れた。
ステータスやスキルは大きく変わったわけじゃない。
でも、私は強くなった。
周辺諸国イチのドワーフが全力で造った防具があるからね!
武器も靴もお父さん謹製、これはつまりお父さんの愛に包まれているということ!
「マノンを頼む」
「はい。マノンちゃんが暴走しないように止めるのはわたしの役目ですぅ」
ふんす、と私が拳を握っていると、お父さんはオレリアに話しかけていた。
いつもふわふわしたオレリアがキリッとした顔してる。
オーガとゴブリンライダーに襲われたあと、オレリアは強くなることを決意した。
私を、みんなを守るために。
「未知への探求」とも一緒に訓練して、戦い方を教わって。
オレリアは、麻の服っていういつもの格好じゃなくなってる。
私と同じ妖精絹の服に、ミスリルローブを羽織ってる。
私の前世の記憶から、「金属糸」の存在を知ったお父さんの反応は、それはもうすごかった。
目を丸くして口をぽかーんとして固まったあと、すぐに鍛冶場に駆け込んで。
スキルやドワーフの固有魔法「金属強化」、これまでの知識と技術を駆使して、私の記憶やアイデアを掘り出して、それでも試行錯誤して。
なんとか形になったミスリル糸を使ったのが、オレリアの「ミスリルローブ」だ。
すべてミスリルではなく、ミスリル糸と氷雪羊の糸を織り込んだらしい。
じゃないと、金属にしては軽いミスリルでも重くなるって。
織り込むのに相性のいい素材や、ほかの金属をどうにかできないか、まだ試行錯誤中なんだとか。
武器は歳経たトレントを使った魔術師の杖。
クセがなく使いやすいけど、そんなに強い武器じゃない。
でも、「未知への探求」との訓練で成果が一番出たのはオレリアだ。
名前:オレリア・フィジク
種族:エルフ(クォーター)
職業:村人
レベル:3
HP:59(-7)
MP:131(-21)
筋力:14(-3)
耐久:10(-3)
敏捷:9(-3)
知力:26
器用:20(-3)
スキル:
土魔法(穴掘り、土壁)
魔力視LV2
魔力感知LV2
魔力操作LV3
精霊視(NEW!)
精霊語(NEW!)
算術LV2
ユーレリア大陸西方語LV2
農耕
伐採
栽培
称号:なし
旅の間にモンスターを倒したり、オーガとの戦いで魔法を補助に使ったりして、レベルが1から3に。
MPと知力の上がり方がえぐぅい……。
エルフのレオンツォさんに教わって、あっさりスキル【精霊視】【精霊語】を覚えて、もうすぐ【精霊魔法】も使えるようになりそう、らしい。
職業・村人で土属性魔法のおかげかオレリアは土の精霊・ノームと相性がよくて、仲良しになったからお願い聞いてくれそう、なんだとか。
私のオレリアは天才かな?
「何があっても必ず二人を助けて、生きて帰ります」
「そう、忘れちゃいけないよ。魔物を殺すために」
私とオレリア、バティストの旅立ちを見送りに来たのはお父さんだけじゃない。
闇堕ちしなかった錬金術師・ジスランおじさんもいる。もちろん、薬師のフィロメナおばさんも。
ちょっと物騒な発言してるおじさんだけど、「強くなる」って決めた娘の意思を尊重してサポートしてる。
具体的に言うと、私のアイテムポーチにはHP回復用のポーション、毒や麻痺を癒やす状態回復ポーション、それどころか高価なマナポーションまでぎっしり入ってる。
私たち三人には回復役がいないからほんと助かる。
あと、おじさんはバティストに「訓練後の栄養補給」の栄養ドリンクをあげてた。
大剣を使うなら体を作った方がいいって。
その甲斐もあってか、バティストは出会った頃より5センチぐらい背が伸びて、体もひとまわり大きくなった。
……その栄養ドリンク、プロテインみたいなものだよね? 危ない薬じゃないよね?
バティストの装備もお父さん謹製だ。
強麻の服に竜革鎧は、下手な金属鎧より防御力が高い。
目元を隠してたダークグレーの髪をばっさり切って、ツンツン立っている。
黒を基調にした装備とあわせて、見た目は『ファイブ・エレメンタル』のバティストに近い。
でも、三人の中で唯一、武器はお父さんの作じゃなくて自分で用意したものだった。
父親の形見だっていう、黒い長剣。
バティストのユニークウエポン「英雄の剣」だ。
ダンジョン産の武器で攻撃力はそこそこだけど、バティストしか使えないその剣は物語の後半になればなるほど強くなった。
隠しパラメータの「名声値」に係数を掛けて、攻撃力に上乗せされるから。しかも、相手の防御力に影響されない値で。
しかも、ムナクソなイベントを越えれば係数が変わってさらに強くなる。
武器に厳しいお父さんが、英雄の剣を見て「いい剣だ」って言っただけのことはある。
そして——
名前:バティスト・オプレシオ
種族:人族
職業:豪剣士
レベル:3
HP:140(-25)
MP:53(-13)
筋力:30(-5)
耐久:25(-5)
敏捷:20(-5)
知力:12(-2)
器用:16(-2)
ユニークスキル:豪撃
スキル:
剣術
体力回復強化
飢餓耐性
無属性魔法(身体強化)
算術
ユーレリア大陸西方語
罠作成
称号:なし
——バティストは強い。
さっすが、2周目以降の隠し攻略キャラ!
燦然と輝く「ユニークスキル」の文字がまぶしい!
こんなに幼くてレベルが低い「バティスト・オブレシオ」を見るのは初めてだけど、きっと戦力になってくれるはずだ。
高い筋力と耐久値、それにHP。
純前衛がいてくれるのは心強い。
「いいかい、バティストくん。もしもの時はこれを使うんだよ」
「はい! 僕は……俺は、もう、ためらわない」
そのバティストに、おじさんがこっそり小瓶を渡していた。
決意を秘めた眼差しで、口調を変えたバティストが頷く。
…………んんんんん??? それ大丈夫な薬かなあ?????
ともかく。
今日、私とオレリアとバティストは、チュートリアルダンジョンへ向かう。
強くなる。
みんなで強くなって、ゲームのイベントを潰す。
とりあえず……高等学校入学までの目標は、レベル40だ。
学校卒業時の聖女はだいたいレベル20〜25程度だから。
レベル40もあれば、たいていの悲劇は潰せる、はずだ。





