第十五話
私とオレリア、バティストが三人で握手して自己紹介を進めていく。
自己紹介って言っても、名前と職業を教え合うぐらいだ。
バティスト・オブレシオは『ファイブ・エレメンタル』で2周目以降に仲間にできる隠し攻略キャラだ。
クリア後のエクストラダンジョンで活躍させることを想定してか、ポテンシャルは高いしユニークスキルも強い。
2周目でも仲間になるのは物語の後半、つまり15歳の時だった。
その頃はダークグレーの短髪で、顔や190センチ超えの大きな体にいくつも傷跡が残ってるワイルド系イケメンだった。あと主要キャラで唯一のマッチョ。
でも、10歳のバティストは、背こそ高いもののあまり筋肉がなくてヒョロっとしてる。
たぶん物語上では、目の前で人が殺されたのを機に、一人必死で修行するんだろう。
結果、職業「豪剣士」の能力を活かすためにマッチョになると。
私が回避アタッカーとすれば、バティストは純粋な物理アタッカー。
オレリアが魔法で、攻撃というよりはサポート系。
…………あれ? このパーティ、バランス悪くない? 魔法アタッカーは? 回復役は? 盾役は?
レベルを上げてスキル磨いてなんとかするしかないかなあ、と思ってたら、おじさんが近づいてきた。
「バティストくん」
「はい」
「家族も、頼れる人もいないというのは本当かな? 故郷に帰っても、王都でも?」
「お母さんは生まれた時に、お父さんは2年前に死にました。行商人のジルさんが、王都の家の屋根裏に住ませてくれるって言ってたんですが……」
「そのジルさんが亡くなってしまったと。つまり、身寄りはないし、住む場所も予定通り住めるかどうかわからない」
「はい……」
「それで、ウチの子とマノンちゃんと修行して強くなりたいと。その間、住むところや生活費はどうするつもりだったのかな?」
「僕は10歳なので、王都の冒険者ギルドなら見習い登録できるって聞きました。お金はそれで稼いで、住むところは、どこか雨風をしのげる場所を見つけて」
10歳でストリートチルドレンになる決意!?
強くなるって決める前に生活を安定させるべきでは!?
断らなかった私が言うのもなんだけど!
「……先ほどの、強くなりたいという決意は本物かい? どんなことをしても?」
「もちろんです! 僕は、ジルさんやみなさんに助けられました。二人と一緒に修行して、もし危ないことがあったら……僕は、二人を守るために死んだっていい!」
いやバティストの決意が重いな!?
そんなキャラだっけ、って違う、ここは『ファイブ・エレメンタル』に似た世界だけどそのものじゃない。
ここにいるバティスト・オブレシオは、『ファイブ・エレメンタル』のバティスト・オブレシオとは別人だ。
……成長方針はゲームの情報を参考にするけど。それはそれとして。
「バティストくんと言ったね、ひとつだけ約束してほしい。それを守ってくれるなら、娘との修行も認めるしキミが住む場所も探してみよう」
「なんでしょうか?」
「たとえ二人を守るためとはいえ、死んではいけない。バティストくんも死なずに二人を守るんだ」
「なぜ、ですか? 僕は助けられて、命の恩は命で返したって別に——」
おじさんいいこと言うなー、まだ若いんだし捨て鉢になっちゃダメだよ的なことだよなー、とかのんきに思ってたら。
「いいかい、バティストくん。死んだらそれ以上モンスターを殺せないだろう?」
「……え?」
「キミの恩人、ジルさんを殺したのはモンスターだ。私たちが、マノンちゃんが危険な目に遭ったのはキミのせいじゃない、モンスターのせいだ」
「…………たしかに。僕のせいじゃないかは別ですけど、襲ってきたのはモンスターで」
「そう、すべてモンスターが悪い。けれど、死んだらそれ以上モンスターを殺せなくなる」
「はい」
「だからバティストくんは死んじゃいけない。オレリアとマノンちゃんを守って、キミも生き延びなくてはならない」
「はいっ! 生きて、モンスターを殺します!」
…………あれえ?
私は間に合って、結果、バティスト・オブレシオがトラウマを抱えることはなくなって、「モンスター絶対殺すマン」じゃなくなると思ったんだけどなあ?
「ジルさんやマノンちゃん、微力ながら私たちに助けられた恩を感じるなら。みんなを危険な目に遭わせるモンスターを殺して殺して殺しまくりなさい」
「二人と修行してる時に危ない目に遭ったら、なんとしても生き残って、モンスターを殺しまくります!」
「なんとしても? その言葉に二言はないね?」
「もちろんです!」
非道な人体実験も辞さない「闇堕ち錬金術師」が危ない問いかけしてるー!
…………あれえ?
私は間に合って、結果、フィロメナおばさんもオレリアも助かって、おじさんは闇堕ちすることはなくなると思ったんだけどなあ?
おじさんなんかお目々がぐるぐるしてない?
闇堕ちしかけてない? 妻と娘が危険な目に遭っただけで? 助かったのに?
だ、大丈夫大丈夫。
きっと、「なんとしても生き延びる」ための錬金術師が創る便利アイテムの話だ。
それか、バティストが豪剣士の能力を活かすためにマッチョになるプロテイン的なアレのことだ。
違法な薬のことじゃない。きっとそうだ。
それに私とオレリアもいるんだし、バティストに何かあったら止めればいい。
うん、大丈夫大丈夫。
大丈夫、だよね?
これ洗脳とか物語の強制力とかじゃないよね?
「では、私は、キミが娘とともに修行に励むことを認めよう。マノンちゃんは私たちの命の恩人で、そのマノンちゃんが許可したのだから」
「ありがとうございます!」
「おじさん……」
おじさんとバティストの会話は、いい感じにおさまっていた。途中さえ気にしなければ。
住むところは、おじさんがバティストと一緒に行商人のジルさんが亡くなったのを報告に行って、そのままジルさんのつながりや職人ネットワークで、小さな部屋でも借りられないか探してくれるらしい。
おじさんの家や私の家?
工房も兼ねてるから家族以外は住ませたくないんだと思う。
親バカ二人だけど「娘とひとつ屋根の下に男を住ませるなんて!」ってことじゃない、はずだ。
ともかく、これで「三人パーティ」はおじさんに認められた。
あとは…………。
「お父さん」
「好きにしろ」
と思ったら、お父さんはあっさり認めてくれた。
この無表情は別に怒ってない時の顔だ。
「ドミンゴさん、マノンちゃんのことが心配じゃないんですか? ここまで強くなるには、おそらくいままでもモンスターと戦っていたのでしょう」
「本人が決めたことだ。それに」
「それに?」
「武器も防具もアクセサリーも、いま子供たちが扱える最高のモノを用意してやる」
「なるほど……では私とフィロメナも協力しましょう。錬金術師と薬師として、全力で」
父親二人が固く握手する。
王都イチ、というか公式設定集では周辺諸国でも一番の凄腕鍛治師と、闇堕ちしてからは一般人さえ聖女パーティと戦えるようになる魔法薬を創った錬金術師が。
過保護ォー!
二人とも過保護すぎるんですけどー!?
お父さん、「最高のモノ」ってそれもうラスボスと戦えるレベルの装備では!?
あ、「子供たちでも扱える」って制限付きか。
でもぶっちゃけ助かります!
突撃犀の手甲も軍馬の半長靴もすごかったし!
お父さんの本気って、めちゃワクワクする!
よくわかってないオレリアとバティストの横で、私はしばらく小躍りしていた、らしい。
これで今章終了としまして、次話は間話としてお父さん視点のお話を。
28(日)に投稿予定です!





