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乙女ゲーのメインキャラでもモブでもない鍛冶屋の看板娘に転生した私は、悪役令嬢にハッピーエンドを迎えさせたい  作者: 坂東太郎
『第二章 レベルを上げてスキルを覚えて……私はこの手で推しを助ける!』

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第十四話


 強くなって、友達も悪役令嬢も助けるし、悲惨なイベントも(できるだけ)防ぐ。

 私がそう決意して胸を熱くたぎらせている間に、オレリアのおじさんと、お父さんと一緒に来た冒険者たちがあと片付けを進めていた。


 冒険者たちが手分けしてゴブリンライダーから魔石を取り出し、討伐証明になる右の耳を落とす。

 オオカミは毛皮を剥いでいく。

 オーガは魔石のほかにもさまざまな部位が素材になるらしく、そのまま持って帰るみたいだ。


 ……というかあの冒険者さんたち、グラフィックが違う——装備が違うけど、「未知への探求」じゃない?

 お父さん、「未知への探求」と知り合いだったの!?


 そのお父さんは、横倒しになった荷車をあっという間に修復して動くようにしていた。

 馬はいないけど、王都まで近いし冒険者さんが引いていくらしい。

 荷車には持ち主であろう男性が乗せられていた。

 まだ私と同い年の隠し攻略キャラ「モンスター絶対殺すマン」——じゃない、男の子が、息を引き取った男性の手を握る。

 目からはポロポロと涙がこぼれていた。

 泣きながら、それでも唇を引き結ぶ男の子におじさんが声をかけている。


 胸が痛い。

 お父さんに「よくやった」って言ってもらっても。

 10歳の私がオーガを倒してオレリアの家族を助けられたって事実があっても。


 もし私が本気で鍛えていれば——もしくは、ちゃんとゲーム知識を思い出していれば、もっとやれることはあったはずだ。

 たぶん男性も助けられた。


 後悔してると、左腕がむぎゅっとした感覚に包まれる。

 見ると、オレリアがいまにも泣きそうな顔で私にしがみついていた。


「オレリア? どうしたの?」


「マノンちゃん……わたし、すごくこわくて」


「それは仕方ないよ。オーガは迫力あったし、ゴブリンライダーは危ないところだったから」


「ううん、モンスターがこわいんじゃないの」


「じゃあ何が」


「マノンちゃんも、お父さんもお母さんも死んじゃうかもしれなくて、それがすごくこわくて」


「オレリア……」


「わたし、なんにもできなくて。一生けんめい勉強したのに、役に立てなくて」


「そんなことないよ。オレリアの『穴掘り』も『土壁』も、オーガの足止めに役立ってた。だから私が間に合ったんだよ」


 オレリアがモンスターと戦うのはこれがはじめてか、少なくとも今回の小旅行がはじめてだったはずだ。

 つまり、レベル1。せいぜい2。

 それが、本来はレベル20ぐらいのパーティで倒すはずの、格上どころじゃないオーガを相手に適切な魔法を使えてた。

 やみくもに攻撃するんじゃなくて、足止めに徹する。

 オレリアができることの中で正しい選択をしてた、と思う。

 10歳の女の子が、死の危険を前にして。

 私のオレリア(親友)は天才かな?


 でも、オレリアは納得できてないみたいだ。

 男性を助けられなかった私と同じように。


 うつむいていたオレリアの震えが止まった。

 顔を上げる。

 私の腕にしがみついたまま、涙の跡を残して、強い目で私を見つめる。


「わたし、強くなりたい! マノンちゃんも、お父さんもお母さんも、みんなみんな守れるように!」


 強くなりたい。

 「自分がオーガを倒す」じゃなくて、「みんなを守る」ために。


 やっぱり、オレリアは優しい。


「私も強くなりたい。私の願いが叶えられるように。だから——」


 向き直って、オレリアの手を握る。

 オレリアの優しげな垂れ目に、いまは強い意思が見える。


 私たちは『ファイブ・エレメンタル』の——この世界の、「主要キャラ」じゃない。

 それでも。


「——強くなろう。二人で。どんな相手にも、何があっても、私の、オレリアのやりたいことを貫き通せるように」


「うんっ! ありがとう、マノンちゃん!」


「二人で修行しようね、強くなるために!」


「わたし、がんばる!」


 遠慮なんてしない。

 傍観者になって引いた目でなんて見てやらない。


 私は鍛冶屋の看板娘じゃなくて——鍛冶屋の看板娘だけど——この世界で生きる、マノン・フォルジュだから。

 無属性の職業(クラス)・商人だって関係ない。

 職業(クラス)・村人のオレリアは魔法の天才っぽいしね?


 あーでも、この世界で「強くなる」ってことは「モンスターと戦う」と同じ意味なんだよなー、お父さんはともかく、オレリアのおじさんとおばさんにどう説明しよう、なんて考えてたところで。


 私たちの横に、男の子がふらふらとやってきてた。

 オレリアと違って涙も震えも止まってない。

 それでも。


「お願いします! 僕も、修行に参加させてください!」


 男の子は、地面に膝をついて頭を下げた。土下座した。


「強くなりたいんです! 僕が強ければ! ジルさんは死ななくて済んだ! 僕が強ければ! みなさんを危険な目に遭わせることもなかった!」


 男の子はまだ10歳だ。

 なのに、何もできなかった自分を責めている。

 この子は『ファイブ・エレメンタル』の二周目以降で攻略できる隠しキャラで、とうぜん、強力な職業(クラス)だからこその自責なのかもしれない。

 ……あ、私はまだこの子の名前も年齢も、何も知らないんだった。


「だから、お願いします! 僕にできることならなんでもします!」


「マノンちゃん、どうしよう?」


 自分にも関係するのに、オレリアは判断を私に任せるつもりらしい。

 なら、私の結論は決まってる。


「キミ、名前は?」


「バティスト・オプレシオです! 職業(クラス)は『豪剣士』です!」


 知ってる。

 知ってるけどね、聞かないと「なんで知ってるんだ」って話になるからね。

 バティストが「豪剣士」って職業(クラス)を明かすと、冒険者パーティ「未知への探求」からおおーっとか、ヒューとか感嘆が上がった。


「バティストくん、私たちじゃなくて、親やほかに頼れる人を——」


「いません。いえ、()()、いなくなりました」


 チクッと胸が痛む。

 知ってても知らないことだから、聞かなきゃ話が進まなくてしょうがないとはいえ。


「わかった! じゃあ、三人で強くなろう! いいかな、オレリア?」


「うん!」


 地面にひざまずいたバティストの手を取って立たせる。

 私の判断を信頼しきるオレリアがいい子すぎて悪いヤツに騙されないか心配です……。


 三人で握手して自己紹介を進めていく。


 本当はわかってる。

 ほかに頼れる人はいないってことは、住むところはどうするのか、とか、修行はいいとして生活費はどう捻出するのか、とか考えなくちゃいけないことはたくさんあるって。

 私じゃなくてバティスト本人が考えることだとしても、まだ10歳だし。


 ということで、私も気づかないフリして押し切る!

 なにしろ!

 隠し攻略キャラだけあって、バティスト・オプレシオはめちゃ強くなるからね!

 いままで一人でダンジョン攻略してきたところにオレリアと二人、さらにバティストも加入すればレベル上げもスキル上げも加速できる!

 『ファイブ・エレメンタル』のメイン舞台、高等学校に入る前に上げられるだけ上げておかないと!


 ということで、バティストがパーティ参加を希望してくるなら受け入れ一択です!


 ゲーム中では、加入させるのもひと苦労だったなぁ…………。




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