第七話
私が冒険者見習いをはじめてから1年が経った。
チュートリアルダンジョンをクリアして、ダンジョン・王都地下水路を探索するようになってからもそれぐらいになる。
でも最近は、レベル上げがはかどってない。
お父さんのお手伝いやオレリアとの勉強会もあるっていっても、ダンジョンにはだいたい週5で通ってるのに。
理由はいくつも考えられる。
「やっぱりレベル10を超えてから上がりづらくなってるよね、っと!」
ゲーム『ファイブ・エレメンタル』では高等学校一年の後半で行くことになるダンジョン・王都地下水路の適正レベルは10〜15だ。
レベル10まではいいペースで上がったけど、そこからはなかなか上がらない。
周回するだけでレベル上がってたら後半が楽になっちゃうから、その辺は設定がうまかったんだと思う。
「あとは……ソロだと、やっぱり集団戦がキツいからなあ」
ボヤきながら二体の盾持ちスケルトンソルジャーをかわして、後衛のスケルトンハンターまで【俊足】で走る。
腕を折って弓を使えなくしたところで、前後からスケルトンソルジャーが迫ってきた。
「でもこっちの対処が先! 『弾丸』!」
片手剣を【回避】して、天井に向けて無属性の攻撃魔法を放つ。
半年前にやっと覚えた弾丸は、頭上から奇襲しようとするスライムを倒した。
もう一体のスケルトンソルジャーの攻撃を【回避】できずに腕で受ける。
「いったー! もう! 武器も防具も更新したい! お金ならあるのに!」
面倒な後衛とスライムは倒した。
二体がかりで挟み撃ちされても、近接攻撃しかないスケルトンソルジャー相手ならあとは時間の問題だ。
それでもダンジョン中盤、倒し切るには時間がかかった。
私はソロなわけで、うまく攻略するためには武器を新調して攻撃力を上げたいんだけど……。
いくら公式チートキャラ鍛治師のお父さん謹製のグローブでも、これは「作業用」の皮手袋だ。
「でもモンスターと戦ってるってお父さんにはナイショだし、ほかの店で買ってもお父さんに話いくだろうからなあ」
王都は広いけど、王都内の鍛治師の世界は狭い。
ゲームと違って武器防具アクセサリーはウチの店だけってわけじゃない。
でも、ドワーフのお父さんは凄腕なこともあって鍛治師界隈じゃ有名で。
私も、その娘ってことで顔は知られてる。
お父さんにバレないように武器や防具を買うのは難しい。
スケルトンが落とす錆びた剣や槍なんかは、もうアイテムポーチにも入らなくって、階段横の小部屋に放り込んでるけど。
マノンに——私に向いてるのは【体術】だ。
いちおう振ってみたけど、剣も槍も使いこなせない。スキルも生えない。
「冒険者ギルドに行っても、9歳じゃパーティ組めないしなー。そもそも私の知識を怪しまれるから、ソロでいった方がいいのも間違いないわけで」
魔石とドロップアイテムを拾い集めて、私はその場をあとにする。
道中、群れで出てきて連携するようになったビッグラットやポイズンスパイダーを一蹴する。文字通り蹴りで倒しまくる。
「よし! 考え方を変えよう! 強くなるために、レベルじゃなくてスキルを上げる!」
無理をすればもうちょいダンジョンの奥に行けると思う。
ただ、ゲームと違ってこの世界で死んだら(たぶん)終わりだ。
安全マージンはしっかり取りたい。
なので、私はしばらく方針を変えることにした。
ちなみに、9歳でレベル10の私のステータスはこんな感じだ。
名前:マノン・フォルジュ
種族:人族
職業:商人
レベル:10
HP:239(-36)
MP:151(-18)
筋力:55(-6)
耐久:41(-6)
敏捷:65(-6)
知力:30
器用:43(-3)
スキル:
体術LV5(UP!)
体力回復強化LV2(UP!)
回避LV4(UP!)
移動速度上昇LV2(UP!)
俊足LV2(UP!)
跳躍LV2(UP!)
索敵LV3(UP!)
無属性魔法(身体強化、弾丸)
魔力感知LV2(UP!)
魔力操作LV3(UP!)
算術LV3
ユーレリア大陸西方語LV2
礼儀作法
交渉
運搬LV2(UP!)
地図化
称号:なし
9歳になっても、ステータスのマイナスに変化はなかった。
ちょっとガッカリしたけど、もうそんなの関係ないぐらい各値は上がってる。
でも、最近新しく覚えたスキルはない。
「スキルを鍛えれば! もっと戦闘が楽になって、攻略も楽になるはず! がんばるぞー!」
私の声に応えはなく、王都地下水路に「おー!」という独り言が虚しく響いた。
あ、ちなみに【運搬】のスキルレベルが上がってるのは、アリバイだった「水路のゴミ拾い」を続けてて、水に濡れて重いゴミを毎回ちゃんと冒険者ギルドに届けてたからだと思います。
受付のコワモテおじさん職員ともだいぶ仲良くなりました。
上がりづらくなったレベルじゃなくて、スキルを覚えたりスキルレベルを上げることを目指す。
そう決めた翌日。
私は今日も、「ダンジョン・王都地下水路」に来ていた。
9歳で「冒険者見習い」だと街の外には出られないからね、対モンスター用スキルを効率よく上げるにはここしかないよね。
「ダンジョン・王都地下水路を攻略するために、継戦能力を高めよう!」
職業商人の私は回復系の魔法が使えない。
スキル【体術】で戦う回避アタッカーの私が継戦能力を高めるには……。
ひと晩考えた作戦を実行に移すことにする。
まずは、チュートリアルダンジョンのモンスターを掃除。
これはもういつも通りで、あっという間だ。
広間に何もないことを確認したら、崩れた壁の穴をくぐってダンジョン・王都地下水路へ。
ここからがいつもと違う。
ダンジョンの方の王都地下水路では、適正レベルが10〜15ということもあって、チュートリアルに出てきたビッグラットやポイズンスパイダーは群れてくる。
しかもどっちも、時間が経つと仲間を呼ぶ仕様だ。
「スキル上げには、これを利用する。……っと、きたきたー!」
途中の単体スケルトンはサクッと倒して、5匹のビッグラットを倒さず【回避】し続ける。
と、中の一匹がチュー!と力強く鳴いた。
ゲームなら「ビッグラットは仲間を呼んだ!」とかメッセージが出るやつだ。
リアルタイムバトルの『ファイブ・エレメンタル』ではそんな親切なメッセージ出なかったけど。
ビッグラットに追加が来る前に、私は来た道を引き返す。
【移動速度上昇】と【俊足】のスキルのおかげか、ビッグラットに追いつかれることもなく、距離を保ったまま目的地にたどり着いた。
チラッと振り返る。
「えーっと、あわせて10匹ぐらいかな? 狙いどーり!」
数を確認して、私はまた走り出す。
高等学校一年、13歳なら身をかがめないと通れない通路を、立ったままささっと。
もちろん、私より小さなビッグラットは遮られることなく追ってくる。
そうして私と、12匹のビッグラットは、チュートリアルダンジョンの広間にやってきた。
「足場よし! ほかに敵なし! よーし、スキル上げがんばるぞー!」
さすがに、私を狙うモンスターが12匹もいると迫力を感じる。
わざと大きな声を出して自分を励まして、私は戦いをはじめた。
いや、戦いとは言えないかもしれない。
ビッグラット12匹の攻撃を、かわしてかわしてかわしまくる。
私から攻撃はしない。
「おっ、案外イケるもの、次はこっち、かわし、痛っ! いやもうあんまり痛くないけど! 気分的に!」
一年前、レベル2で耐久17の頃に食らったビッグラットの体当たりは「ちょっと痛い」程度だった。
レベル10、耐久41(たぶん年齢のせいで-6されてるけど)のいまでは、「当たったなー」ぐらいの感覚しかない。
さっきチュートリアルダンジョンでステータスを見ながら戦って、ぜんぜん痛くないけど微妙にHPが減ることは確認した。
つまり。
「かわし続ければ【回避】が上がる! かわせなくても減るHPは1か2で危なくない! スキル上げには最適、のはず!」
ってことだ。
しかもビッグラットの体当たりは打撃、噛みつきは刺突、引っかきは斬撃に分類される。
うまくいけばスキル【打撃耐性】【刺突耐性】【斬撃耐性】をゲットできるかもしれない。
「ううっ、集中力なくなってきた……ここからは! 本気で戦います!」
モードを切り替えてビッグラットを攻撃していく。
レベル10で筋力55の私なら、かすめるだけでビッグラットは倒れて消えていく。
12匹いたビッグラットも、私が攻撃に転じたらあっという間に全滅した。
「はあ、はあ……うん。安心安全のスキルレベル上げ、これでいけそう!」
ただ、ひとつだけ誤算があった。
攻撃を受けるってことは、防具にダメージがくる。
お父さんが用意してくれたオーバーオールはなんの影響もなかったけど……。
中に着てた服の袖を引っかかれて、小さな穴が空いていた。
「だ、大丈夫大丈夫。これぐらいなら繕えるし。ダメでも『ちょっと外で何かに引っかけちゃってー』って言い訳できるし。モンスターと戦ってたってお父さんにバレない。バレない、はず!」
お父さん、職業柄いい目してるからなあ……。
冷や汗をかきながら、私はもう一度ビッグラットを引っ張ってくることにした。
今度は、しっかり腕まくりして。
何度も間違えてすみません、いまのマノンにはスキル「魔力視」ないんです……
コピペミス……………今後も入ってたらすみません…………





