第六話
オレリアに魔法を教わった翌日。
私はまた、チュートリアルダンジョンに来ていた。
でも、今日の目的地はここじゃない。
いつも通りに道中のビッグラットを倒して、広間でビッグラットとポイズンスパイダーのコンビを瞬殺する。
魔石と、5枚の銀貨を回収する。
周回するたびに落ちてるから、アイテムポーチ(小)には小さな魔石と銀貨がそこそこ貯まってる。
いまは使い道がない(モンスターと戦ってることがお父さんにバレたら怒られる)けど、高等学校入学のための軍資金にするつもりだ。
「さてっと……」
いつもなら、あとは引き返して一度地下水路の外に出て、周回するか家に帰って終わりだ。
でも今日は違う。
私は広間の奥、石壁が崩れてできた穴に体を潜り込ませた。
入り口こそ狭かったけど、中はそこそこの広さだ。
まだ8歳の私なら、普通に立って歩ける程度の高さがある。
なにしろここは、『ファイブ・エレメンタル』の聖女パーティが、高等学校一年の後半で身をかがめて通る場所だから。
3メートルぐらい歩いて穴を抜ける。
そこはいままでと同じように、中央に水が流れて左右に通路が続いている空間だった。
でも、空気が違う。
「雰囲気あるなあ……無理せず、集中して、一体だけ」
さっきはただ薄暗くて臭いだけだったのに、ここは、なんというか、嫌な感じがする。
光が少ないせいか、それとも私が「どんな敵が出るか」知ってるせいか。
「いまのうちから発動しておこう。【身体強化】!」
練った魔力を体に流して、発動ワードを口にする。
なんとなく、さっきよりまわりがよく見える気がする。
無属性魔法の【身体強化】はゲームでも優秀な魔法だった。
最初のうちは強化率こそ1.2倍と高くないものの、筋力・耐久・敏捷、3つのステータスに適用されるのがありがたい。
まあ【身体強化】は自分にしか使えないし、聖女が使える神聖魔法の【祝福】は誰にでも・全ステータスに適用されるから、ゲームでは使う機会が少なかったけど。
穴を出たところからほとんど動かずじっとしていると、やがてカチャカチャと音が聞こえてきた。
戦闘態勢を整えて、近づいてくるのを待つ。
現れたのは、骨格標本みたいな骨だけの体に、錆びた剣を持ったモンスター。
スケルトンだった。
「ゲームの通り、最初のうちは一体だけ。これならなんとかなる、はず!」
と言いつつ、退路は確保してる。
大人サイズのスケルトンは、私が通ってきた穴をうまく通れないだろう。
しゃがめば通れるかもだけど、そんなことしてきたらチャンスだし。
私の姿を見つけると、スケルトンはギラリと眼窩の赤い光を輝かせて剣を構えた。
生者が恨めしい、殺してやる、と言わんばかりの迫力にゴクッと息を呑む。
「大丈夫、戦える。私は勝てる。適正レベルより低かったって、一体ぐらいなら倒せる!」
チュートリアルダンジョンじゃない「ダンジョン・王都地下水路」の適正レベルは10〜15だ。
それも、聖女と攻略キャラの5人パーティで攻略する。
ここは高等学校一年の後半、クエストで訪れる場所だった。
入り口はこの穴で、出口は高等学校と街の外の2つある。
その2つの出口を発見して使えるようにすることでクエストは解決。
しかも、このクエストをこなしたあと、聖女たちは学園から街の外に出ることが可能になる。
……なにしろ王子や貴族の子息だからね! 街の外に気軽に出られるわけないよね!
制作者側としてはそれでも街の外に出したくて、そのために考えたクエストだったんだろう。
それはさておき。
つまり、近づいてくるスケルトンは、さっきレベル5になったばかりの私には格上の相手ってことだ。
でも。
振り下ろしてきたスケルトンの剣をかわす。
「年齢のマイナスはあっても! 敏捷40なら見てから【回避】余裕です!」
続けて横なぎに振ってくるけど、そこにはもう私はいない。
背後に回りこんだ私は、スケルトンの大腿骨に右足を叩き込んだ。
ペキッといい音がしてヒビが入る。
よろけるスケルトンの背骨に拳を突き出す。
振り返ろうとしたらまた回りこむ。
8歳の小さな体は、狭い通路も苦にならない。
「【体術】はスケルトンの苦手な打撃属性! ちょっとずつでもダメージ通ってるなら! 問題なし!」
ちょうど私の手も足も届くスケルトンの大腿骨を集中的に狙って、折ってからはラクだった。
倒れて、文字通り手も足も出ないスケルトンをボコるだけの簡単なお仕事です。
やがてスケルトンは動かなくなって、すうっと溶けるように消えていく。
あとに残ったのはビッグラットのより大きい、小石ぐらいの魔石と、さっきまでスケルトンが振りまわしてた錆びた剣の二つ。
「やったー! 格上狩り気持ちいい!」
喜びもそこそこに、戦利品をさっさとアイテムポーチにしまって、すぐ穴の向こうに撤退する。
一発ももらわなかったとはいえ、ずっと集中続けてたから精神的に疲れた。
「たぶん10分ぐらい戦ってたもんなー。上がりにくくなってきたレベルも、これなら……おおっ!」
昨日の朝、レベル4になってから、一日ずっと周回してビッグラットとポイズンスパイダーを倒してもレベルは上がらなかった。
さっき5になったのに、格上スケルトンを一体倒しただけでもうレベル上がってる!
「よしよしよし! 適正レベル10〜15ってことは、15ちょいまでここで上げられるはず! ソロだともうちょっとイケるかな?」
入り口近くは一体ずつだけど、少し進めば複数モンスターが出てきた、はず。
いまはまだ行く気はない。
「ちょっと休憩して、そしたらまたスケルトンを倒して。最初は無理せずレベル上げようっと!」
それでも、先のことを想像するとニヤニヤしてしまう。
あれ? マノンと一緒で私も脳筋だった? 私職業商人だし脳筋じゃないよね? レベルが上がってだんだん強くなっていくのってみんな楽しい、よね?
……。
…………。
………………。
とりあえず、今日は5周してスケルトンを5体倒しました。まる。
名前:マノン・フォルジュ
種族:人族
職業:商人
レベル:6
HP:171(-36)
MP:103(-18)
筋力:39(-6)
耐久:29(-6)
敏捷:45(-6)
知力:22
器用:31(-3)
スキル:
体術LV2(UP!)
体力回復強化
回避LV2(UP!)
移動速度上昇
俊足
跳躍
索敵
無属性魔法(身体強化)
魔力感知
魔力操作LV2(UP!)
算術LV3
ユーレリア大陸西方語LV2
礼儀作法
交渉
運搬
地図化
称号:なし





