第五話
私がはじめてチュートリアルダンジョンに行ってから三日が経った。
この三日間、私は何度もチュートリアルダンジョンを周回した。
ゲームと違って何回も入れたうえに、一度外に出ると中のモンスターが復活してたから。
しかも、同じ場所、同じモンスターが。
「なんでだろ……『ゲームの強制力』みたいなヤツ? それっぽく言ったら、あそこはビッグラットやポイズンスパイダーが好む場所で、いなくなるたびに奥からやってくるってことなんだろうけど……」
考えたところでわからない。
倒してしばらく観察してたけど、私がいるときにモンスターが復活? リスポーン? したり、移動してくることはなかった。
「まあ、周回してレベルもスキルも上げられるからOKってことで!」
「マノンちゃーん!」
無理やり自分を納得させたところで、私を呼ぶ声が聞こえてきた。
裏庭の芝生(雑草)から腰を上げる。
オレリアがほわっと笑顔で、ぽてぽて走ってくる。
腕を広げて待ち構えてると、オレリアはそのまま私に抱きついてきた。
ふわふわで土とお陽さまのいい匂いがする。
鼻の奥にこびりついた地下水道の悪臭が洗い流される。
「ひさしぶりぃ、マノンちゃん!」
「4日はそんなにひさしぶりじゃないんじゃない?」
「ええー? そうかなぁ」
ほてっと首をかしげるオレリアに癒やされる。
守りたい、この笑顔!
「じゃなくて! 学校はどう? イジメられたりしてない?」
「みんな優しいよぉー。マノンちゃんと一緒に勉強してたから、授業にもついていけてるんだぁ」
「そっか、よかった!」
「あっ。でも、魔法の先生が教えてくれたことと、お母さんが教えてくれたことが違うんだよねぇ」
「どう違うの?」
「えっと、先生は『魔法は詠唱が大事』って言ってて、お母さんは『魔力を練ることとイメージが大事で、あとは発動ワードだけでいい』って」
「なるほど?……それたぶんおばさんが正しいって!」
「そうかなぁ」
「きっとそうだよ! だっておばさん、ハーフエルフなんでしょ? ほら、長命で魔法に長けたエルフ流ってヤツなんだよ!」
「おー!」
私の説得に、オレリアが目をキラキラ輝かせる。
ちょっと罪悪感がある。
だって、「ゲームじゃ詠唱はなくて、魔法名を言うだけで発動してたから」って、前世の記憶が「おばさんが正しい」って思った理由だし。
「じゃあオレリア、私に学校で習ったことを教えてくれる? 魔法はおばさんの教えの方で!」
「はーい。ふふー、マノンちゃんが生徒で私がせんせーだねぇ」
二人で芝生(雑草)のうえに座り込む。
木の板を黒板とノート、木炭を鉛筆がわりに、青空教室だ。
オレリアが言う通り、読み書き・算術は特に問題なし。
基礎の基礎だから、いまなにを習ってるかだけ確認して終わり。
このリオナディア王国を中心とした歴史の授業は面白かった。
『ファイブ・エレメンタル』の公式設定集に載ってなかったこともバンバン出てくる。
そして本命、魔法の授業だ!
といっても、初等学校で教わるのは基礎の基礎で、特に「攻撃に使える魔法」は教えないらしい。
8歳〜12歳の子供たちに教えたら危ないもんね!
ぜったい試す子でてくるし、やらかす子いるでしょ!
……私も気にせず使うし。私は中身オトナだった経験あるからね、問題ないってことで!
「そういえば、オレリアはなに属性だったの?」
「わたしはねえ、土属性なんだぁ」
「おー! よかったね! 職業村人で土属性って、これは『植物育てなさい』って言われてるようなものだよ!」
「うん。あのね、マノンちゃんにもらったスコップで、お父さんがくれた鉢植えに、お母さんがくれた薬草を育ててみてるんだぁ」
照れ照れしながら報告してくれるオレリアはほんといい子だ。
思わず頭を撫でると、にへっとだらしない笑顔を見せてくれた。
「よかったねえ。造ったお父さんもきっと喜ぶよ!」
「まだうまく育つかわからないけど……」
「薬草だもんね! オレリアには【栽培】スキルもあるんだし、気長に、いろいろ試してみよう!」
私は無属性で、オレリアは土属性。
二人して地味な属性だけど、二人の性格には合ってるのかもしれない。
そういえば攻略キャラも、土属性の男の子は地味めだったなあ……。
「よーし、じゃあ二人とも魔法を使いこなせるように、練習していこっか!」
「うんー」
そこからは、念願の魔法の授業だ。
オレリアは授業で習ったこととおばさんから教わったことを、うまく融合して噛み砕いて教えてくれた。
特に準備なく、即興で。
……えっ、オレリア頭よすぎない? これが初期知力値16の実力か!
お昼を挟んで、午後遅くまで二人で試行錯誤した結果。
「えっとぉ……『穴掘り』!」
「おー! すごいよオレリア、ちゃんと地面がへこんでる!……『落とし穴』じゃないところがオレリアらしくていいと思う」
「えへへー」
オレリアは、土魔法の『落とし穴』(オレリア流だと穴掘り)を使えるようになった。
直径も深さも30センチぐらいの、まだまだ小さな穴だけど。
「発動ワードが大事」っておばさんの言葉は、ゲームみたいな「魔法の名前」じゃなくて「イメージに紐づく単語」なのかもしれない。
そして。
「じゃあ私の番だね! 『身体強化』!」
「おおー、マノンちゃんはやい! すごいなぁ」
私は、無属性魔法の『身体強化』を発動できた。
体感では速さも力も1.2倍ぐらいになった感じ。
ゲームでは初期の強化率はそれぐらいだったから合ってると思う。
「ほんとは無属性の攻撃魔法、『弾丸』を覚えたかったんだけどなあ」
「攻撃魔法はもっとオトナになってからって、お母さんも言ってた」
「うん、いまはまだいいか! 練習してけばそのうち使えるようになるでしょ!」
いけないんだぁ、と言いたそうなオレリアの視線は受け流す。
ひとつでも攻撃魔法がないと、物理に強いモンスターに苦戦するからなあ。
とにかく。
オレリアには癒やされるし、知らなかったこの国の設定を知れたし、魔法もひとつ覚えられたし、空気はキレイで変な臭いもしないし。
いい一日だったと思う。
それにしても……。
最初に覚える魔法が『身体強化』って、マノン・フォルジュはやっぱり脳筋キャラなんだなあ…………。
名前:マノン・フォルジュ
種族:人族
職業:商人
レベル:4
HP:147(-36)
MP:79(-18)
筋力:31(-6)
耐久:23(-6)
敏捷:35(-6)
知力:18
器用:25(-3)
スキル:
体術
体力回復強化
回避
移動速度上昇
俊足
跳躍
索敵
無属性魔法(身体強化)(NEW!)
魔力感知
魔力操作
算術LV3
ユーレリア大陸西方語LV2
礼儀作法
交渉
運搬
地図化
称号:なし
名前:オレリア・フィジク
種族:エルフ(クォーター)
職業:村人
レベル:1
HP:43(-7)
MP:97(-21)
筋力:8(-3)
耐久:6(-3)
敏捷:5(-3)
知力:16
器用:12(-3)
スキル:
土属性魔法(穴掘り)(NEW!)
魔力視LV2
魔力感知LV2
魔力操作LV3
算術LV2
ユーレリア大陸西方語LV2
農耕
伐採
栽培
称号:なし





