プロローグ1
「神よ、この者にふさわしい職業を示したまえ」
祭壇の前でぼへーっと立っていると、神父さまが私の頭に手をかざした。
なんとなく、温かい何かがすうっと体を通り抜けた気がする。
「貴女の職業は、『商人』です」
「商人……ありがとうございます、しんぷさま!」
優しく微笑む神父さまに頭を下げて、ささっと階段を下りる。
神父さまはもう次の子のために祈っていた。
リオナディア王国の王都では、6歳になった子供たちみんなに「職業判別の儀」が行われる。
王都にいくつかある教会のうち、馴染み深かったり近かったりする教会に行って、神様が一人にひとつ与えた「職業」を確かめるのだ。
「お父さん! 私、『商人』だって!」
「そうか」
教会の扉近くに立っていたお父さんの胸に飛び込む。
勢いよくいったのにお父さんはビクともしない。
背が低くてもガッチリしててさすがドワーフ。
「お父さんが作った武器も防具も、『商人』の私が売るね!」
「そうか」
三つ編みにした顎ひげをよけて顔を見上げると、お父さんはうれしそうに笑っていた。
他の人には見分けづらいらしいけど、4年も一緒に暮らしていたらさすがにわかる。
さっきから「そうか」しか言ってないけど思いも伝わってる。たぶん。
「鍛治師」のお父さんが武器や防具を作って、「商人」の私が売る。
うん、私もなんだかうれしくてニヤニヤしてしまう。
「帰るぞ」
「はーい!」
差し出してきた手を握る。
ゴツゴツの手はお父さんの勲章だ。
お父さんはドワーフで、私はちょっと特殊な事情はあるけど人間で。
あと何年かしたら、たぶん私はお父さんの身長を抜くだろう。
でも、きっとこの手を見るたびに、手をつなぐたびに、私は「お父さん」のすごさを思い知るはずだ。
縁も所縁もない人間の私を拾って、旅のドワーフだったのに私のために定住して、私が変わったことしても受け入れてくれて、武器も防具もアクセサリーも、なんならローブや服だって、なんでも作ってしまうお父さん。
尊敬するお父さんを支えられる職業でよかった。
たぶんそうだろうな、とは思ってたけど。
なにしろここは、この世界は——
「こ、これは……っ!」
「どうしたんですか、神父さま」
「あ、貴女の、いえ、アンリエット様の職業は……『聖女』です!」
「わっ、やっぱり!」
祭壇の声と、まわりの歓声が聞こえて振り返る。
神父さまの前には、アンリエットって名前らしい女の子が立っていた。
腰ぐらいまである銀の髪で、女の子の表情は見えない。
でも。
「ああ、やっぱり…………」
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
お父さんの手をぐいっと引っ張ろうとしてよろけて、でもお父さんに支えられて、転ぶことなく教会をあとにする。
リオナディア王国。
なんでも作れる凄腕のドワーフ。
アンリエットっていう名前の、銀髪の聖女。
間違いない。
——ここは、私が好きだったゲーム『ファイブ・エレメンタル』の世界だ。
……ということで、新作は女性主人公の長編です!