7 秀頼の成長(守景)
続きです。
7 秀頼の成長(守景)
豊臣家――。
朝鮮の役より帰還した諸将のもてなしを経て大坂城に戻った守景は、
幼い秀頼に万事滞りなく終えた事を報告した。秀頼は一室の上座にて、
それを聞き安堵した表情を浮かべる。隣には秀頼の生母である淀殿が控えていた。
美しく極めて聡明な女性だが、二度の落城と言う暗い過去を抱えている。
「大儀であった。本来ならば私が諸将を出迎えればならぬ事を任せて申し訳ないと思う。
だが、私は父、太閤殿下の後継者として勉学や剣術の修業、作法を学ばなければならない。
その為に忙しい毎日だ。公の仕事は今後も兄上に任せる他ない」
秀頼は申し訳ないと言う表情で、頭を下げて、守景に謝った。
秀頼は守景を兄と慕っており、憚ることなく兄上と呼んでいる。
「恐縮です。秀頼様には太閤殿下の後を継いで貰わなければなりません。
その為に日々、精進を心がけてくだされ。ですが、秀頼様は利発にご成長成された」
守景は秀頼の賢さに度肝を抜かれた。暫く見ない間に随分、利発に成長したものだ。
十にも満たぬ幼子が、既に大人と同じ考えを示している。聞けば書物を驚異的な速度で読むと言う。
そして豊臣家の現状と自身の境遇を理解している。必ずや天下人として成長すると守景は確信していた。
「兄上、私は身分と言う人を隔てる鎖を無くし、
万民が笑いあい、手を取り合って謳歌できる世を作りたい。
それを実現するために私は毎日、気を抜くことなく精進を続ける」
秀頼は幼子には似合わない厳しい顔をして言葉を紡ぎ、上座を離れ、
自室に戻り書物の続きを読むのだと言って退出した。秀頼の立派な一言に守景は感銘を受けた。
「淀様……秀頼様は太閤殿下の聡明さを受け継いだ麒麟児です。
必ずや豊臣家の当主として、天下人に相応しい人物に成長するでしょう」
守景は興奮入り混じりつつ、淀殿に言った。しかし、淀殿は首を振り。
「あの子は賢すぎる。それでは家康があの子の存在を許す筈がありません。
秀頼には天下人の後継者ではなく、普通の人生を歩ませたかった」
淀殿は秀頼の身を案じる様子で守景にそっと言った。その心情を察した守景は言葉を失った。
豊臣秀頼登場。非常に賢いという設定です。