47 決着(徳川家康)
47 決着(徳川家康)
家康は真田と豪の猛攻にあと一息で討ち死に寸前まで追い込まれたことに些か動揺していた。
まさか、四十万の軍勢が一度は総崩れになる失態に家康は歯軋りをした。
ここまで追い込まれるのは何十年ぶりか……遠い昔、若い頃、武田信玄に敗れた時以来であった。
三方ヶ原の戦いは家康初めての敗北であった。その辛酸から数十年余り経過していた。
その間、様々な苦難を経験した。しかし、家康はどっしりと構えて幾度も難局を乗り切った。
抜群の忍耐強さが彼の強さの裏付けだった。落ち着いてじっくりと勝機を伺う。
それが家康の最大の持ち味であり、秀吉や信長には無い、家康だけが持ち合わせたものだった。
「だが、これで儂に刃向う者はこの世から全て消えた。
儂の完全勝利だ……だが、ここまで来るのにどれだけの辛酸を味わったか」
幼き頃よりの今川での人質時代……そして秀吉に屈し、面従腹背の日々。
様々な強敵が自分の前に立ちはだかった。武田信玄、豊臣秀吉、黒田官兵衛。石田三成。
どれも強大な敵であった。彼らを打ち破り、最後に生き残ったのは自分なのだ。
家康は戦国の世に生まれ、数々の強敵を討ち滅ぼし、最後まで生き残った事に一抹の寂しさを感じていた。
だが、これで全て終わった。この世の全てを我が手に入れた。しかし、唯一の懸念は守景であった。
最早、守景とは形上では親子の縁を切ったが、大切な我が子には変わらない。
沢山いる子供の中で守景だけは異質であった。秀忠とは比べるまでも無い賢い幼子であった。
常識では計り知れない利発さは幼き頃の自分と重ね合わせていたのかもしれない。
――守景は助からぬか……。
守景は不思議な子だった。類まれなる利発さを持ち、後継者として育てるのに思いを馳せていたが、
それに目を付けた秀吉に強引に奪い取られた。それだけに守景に対する想いは並大抵ではない。
出来るならば生きていて欲しかった。可能ならば、一緒に酒を酌み交わしたかった。
守景と飲む酒はさぞ、美味しいだろうと思うと家康は年甲斐もなく涙腺が崩壊しそうだった。
「大御所様……守景様ですが、大阪城天守閣より発見し、助け出されたようです」
「……そうか。守景は助かったか」
家康は物見からの報告により、心の底から安堵した表情で膝を付いた。
これで何もかも終わった。唯一の憂いであった豊臣家も滅びた。なのに、この虚しさは何だ。
――確かに儂は太平の世を築いた。だが、それは数々の犠牲を伴うものだ。
家康は例えようのない虚しさを感じながらも、太平の世を築いた事への嬉しさもあり、
何とも言えない気分を催した。兎に角、全てに決着がつき、徳川の天下は盤石なものとなる。
最後に笑ったのは石田三成でも黒田官兵衛でもなく、家康であった。
豊臣家と言う火種が燃え尽き、悠久に続く太平の世が迫りつつあった。




