44 寧々と松(寧々)
44 寧々と松(寧々)
名のある寺の境内で、遥か遠くの大坂城が炎上する様を寧々は見ていた。
寧々は一筋の涙を頬に伝わらして、かつて栄華を誇った豊臣家の終焉を見届けていた。
秀吉の正室である自分は豊臣家の終焉を最後まで見届ける義務があると寧々は思っていた。
寧々は豊臣秀吉の正室として、陰からその覇業を支えてきた間柄である。
秀吉とは苦楽を共にした中……ならば、彼の残した豊臣家の最後をしっかりと見届けるのが務め。
「秀吉様……淀殿と秀頼殿は最後まで立派な最期でしたよ」
静かに誰に聞こえるでもなく寧々は静かに語り掛けるように言った。
きっと、二人は立派な最期を遂げたのだろうと、寧々は信じていた。
その一方で人生の中で三度の落城を経験した淀殿を不憫にも思った。
戦国の世に生まれ落ちた者としての宿命であるが、些か不憫である。
「寧々様」
後ろから寧々と同じぐらい年を重ねた女性が、声を掛けてきた。
振り返ると、前田利家の正室……松が、そこに佇んでいた。
松とは身分が低い時代からの付き合いで。家族ぐるみで仲が良かった。
「松殿……そういえば、豪は大坂城に入ったのでしたね」
豪は秀吉の養女である。ならば寧々に取っても豪は娘のようなものだ。
秀吉とは夫婦仲は良かったが、唯一……子宝には恵まれなかった。
そんな寧々を哀れんで、松と利家は自分たちの娘を差し出した。その恩は色褪せることは無い。
「ええ、あの子は守景殿の為に懸命に戦ったでしょう」
そうだ。豪と守景は姉弟の誓いをした仲なのは周知の事実だった。
あの二人の絆は固い。豪は守景を弟同然に思い、常にその身を案じ、守景は豪を姉と慕っていた。
「守景……あの子はとても不思議な子でしたね」
寧々と松は決して目を逸らすことなく、炎上する大坂城を静かに見届けていた。




