４３ 猛将の涙（福島正則）
４３ 猛将の涙（福島正則）
大坂城が炎上し、それを遠くから眺めている筋骨隆々の武者、福島正則は号泣していた。
福島正則は関ヶ原で宇喜多秀家の配下の明石全登に討ち取られたとされたが、実は生きており、関ケ原で討たれたのは正則の影武者であった。
猪武者ながら影武者を用意する様は流石に戦国の世を生き抜いた凄味があった。
主家である豊臣家の滅亡……豊臣家武断派筆頭である彼には耐えがたいものであった。
時勢の流れを機敏に読み、徳川に靡きつつも、本心では豊臣家の事を想っていた。
「秀頼様……御立派な最期でした。儂は未来永劫、豊臣家に殉じた者達を後世まで語り継ぎます」
正則はそう決意し、炎上する大坂城を見上げていた。
大勢いた豊臣系大名も正則以外、死に絶えており、正則だけが豊臣家の最後を見た。
それだけに感慨深いものだった。自分にはもっと豊臣家の為に出来たのではないだろうかと。
関ケ原の折、三成の言葉に耳を傾けていれば、こんな結末にはならなかったのではないか。
家康に着いたのも、自分の身が可愛いからではないのか。
正則は胸中で渦巻く、罪の意識が拭い去れなかった。
「秀吉様。申し訳ありません。貴方の築いた豊臣家が滅んだのは儂の責任です。
儂はもう戦わない……家督は息子に譲って隠居する。
所領である広島四十九万石も難癖を付けられて改易されるかもしれん。
それも致し方なし。豊臣家を見限った者の末路に相応しいかもしれない」
正則は自身の所領も何れ改易されることを事前に予見していた。
その目論見通り、哀れ、広島四十九万石は没収され、改易されて福島家は後に滅びるのだが。
「守景様……朝鮮の役より帰還した時のもてなしは最高の思い出でした。
貴方には何一つ恩義を返せなかった。すまぬ……」
正則は守景に対しても敬意を払っていた。豊臣家に最後まで殉じた者として尊敬しているのだ。
両目から涙を滝のように流し、ふと、天を見上げる。あの世で太閤殿下はお怒りであろうか。
正則は無骨ながら様々な想いを巡らしながら、豊臣と徳川の決着を見届けようとしていた。
