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40 炎上(守景)

 40 炎上(守景)



 軍議を終え、豪と真田信繁を送り出した守景であったが、その心中は張り裂けそうだった。

 滂沱の涙を流して天守閣から、その行方を見守っていた。豪は幕府軍の群れに突っ込んでいく。

 それに真田が追随していく。恐らく、豪は生きて戻っては来ないと守景には分かっていた。

 ふと、事ここに及んで、昔……幼き頃、豪と秀家と遊んだ記憶が脳裏に沸き上がった。

 河原で遊んでいた時の事だ。守景は川に流されて溺れかけた時があった。

 その時、豪は川に飛び込んで、水連達者の如き泳ぎで、溺れかける守景を見事助けた。


 ――豪様……秀頼様は私が全霊を捧げて守ります。


 蘇った遠い昔の記憶……それは色褪せないものだった。心の奥底にしまっていた守景の大切な思い出。

 守景は様々な豪との思い出が浮かんでは消えていく。何とも言えない不思議な感覚を覚えた。

 豪の最後の言葉通り、何としても秀頼を守るつもりだった。

 そして、旗色がどんどん悪くなってくる。幕府軍の猛攻は凄まじく、

 槍の達人である筈の後藤又兵衛も討ち取られたと報告が入り、大坂城攻防戦は一挙に佳境に入った。

 大坂城内部に入り込んだ斥候により、火を放たれ、大坂城は炎上する。

 豊臣家の栄華の象徴が、盛大に燃えさかる。守景はこの光景を防ぐために尽力していた。


「防げなかった……秀吉様の忘れ形見を守る為に私は何をしていた!」


 守景は号泣し、刀を床に突き立てる。そうして、ハッとして秀頼を見た。

 秀頼の表情には諦めの色が浮かんでいる。守景はそれを見て息を飲んだ。


「兄上、良く今まで私の為に仕えてくれた。礼を言うぞ。

 最早、これまで。私は潔く自害する。兄上には本当にお世話になった。

 思えば、父上が亡くなられた時点で豊臣の終焉は見えていた」


 秀頼は刀を抜いて覚悟を決めた様相を呈する。刹那的に迫る運命の時、守景は慌てて制止した。

 太閤殿下との約束を無下にできない。自分は秀頼の事を託されたのだ。


「秀頼様……貴方は死んではなりません。まだ貴方を助ける策は残っております」


 涙腺から涙を溢れださせながら、守景はそう言い、豊臣家の蔵を全て開き、

 秀吉が築いた富の全てをばら蒔き、その隙に予め用意していた逃走経路に秀頼を逃がした。

 守景は秀頼が手配した供を連れて逃げたのを確認すると疲れたのか、その場に眠り込んだ。


 ――これで、打つ手はすべて打った。


 守景は座って天守閣の柱に拠り掛かり、瞼をゆっくりと閉じる。

 途端に睡魔に襲われ眠りについた。炎が燃え広がる天守閣と共に運命を共にする。

 色々な事があり過ぎて、守景には疲れが生じていた。大坂城と運命を共にするのも悪くなかった。

 秀頼さえ、生き延びてくれれば良い。それが太閤殿下との約束なのだ。

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