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39 豪の秘策(豪姫)

 39 豪の秘策(豪姫)



 西暦1615年。大坂夏の陣――。

 豪は豊臣家の評定の間に豊臣家が迎え入れた浪人衆に混じって軍議を聞いていた。

 女の身でありながら、豪は戦に加わる姿勢を崩さなかった。

 全ては弟同然である守景と豊臣家を案じての事だった。ジッと正座して豪は軍議を、

 一言一句、漏らさずに聞いている。しかし、出てくる作戦はどれも消極的なものだった。

 こんな作戦では家康には勝てない、と豪は出てくる全ての作戦を駄目だと断じた。

 豪も意見を言いたいが、本来の気質として、出しゃばるのは本意ではない。

 しかし、勝つ為には豪自身が作戦を述べねばならない。


「どの作戦も消極的な作戦ばかり……。

 名だたる将が集まってこれですか! 私に取って置きの作戦があります。

 この作戦しか恐らく豊臣家は勝利できない。難しく考える必要はありません。

 家康の首を取る……只それだけです。その為に全霊を捧げるべきです。

 家康の首さえ取れば、幕府軍は撤退することは必定……その作戦を遂行するには、

 類まれなる武勇が必要です。それを備わっている将はこの場に一人しかいません」


 豪はそこまで言い、眼を静かに閉じる……閉じた瞼に焼き付いているのは、

 夫、秀家……そして関ケ原で散った三成……様々な人物が浮かんでは豪に勇気を与えていた。


「それが備わっている将とは誰なのです?」


 守景が、豪の作戦を聞き、首を傾げ、皆目見当が付かないような表情をする。

 豪は色んな者達の勇気を胸に、ゆっくりと瞼を開け、守景の問いに応える。


「私です。私が家康の首を取って見せます。私なら出来る。

 私は誰よりも強い。私が家康をこの手で討ち取って見せましょう」


 豪はそう啖呵を切って、評定の間を出て一軍を率いて出陣しようとするが、

 とある人物がそれに追随しようとした。六文銭を掲げた武将……真田信繁だった。

 真田信繁は天下一の軍略家として名高い、真田昌幸の次男である。

 関ケ原の折、中山道にて真田父子は、その軍略により、

 徳川秀忠軍三万八千を巧みに翻弄し、関ヶ原に間に合わせなかった。

 そのおかげで秀忠は家康の叱責を受けて、後継者の座が揺らぐ事態まで発展した。


「豪姫様の露払いとして、私もお供仕る!」


「豊臣家の為に忠義を捧げる覚悟が貴方に有りますか?」


「勿論!」


「ならば、私の露払いに丁度良いでしょう。付いて来なさい」


 これも何かの縁だと思い、豪は勇ましくも、真田を連れて評定の間を去ろうとする。

 そして、豪の最も大事な存在である守景が、あろうことか付いてきた。

 豪は最も大切な守景を死地に追いやる気はサラサラない。冷たく突き放すしかないのだ。


「豪様、私も……守景も加わりとうござります」


 豪の懸念通り、守景は自分達と一緒に死地へ飛び込む覚悟を告げた。

 それは何としてでも避けたかった。守景には秀頼と共に生き抜いて欲しい。


「守景……貴方では足手まといです。それに、貴方には秀頼様を守ると言う大役があります。

 その務めを蔑ろにするものではありませんよ。守景、今まで有難う」


 豪は必死に涙を堪えながら、真田を連れてその場を去り、一軍を率いて出陣した。

 悲壮なる覚悟……豪は戦国の世に生まれ落ちた者の宿命を背負い、捨て石となる覚悟を決めた。

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