37 最後の希望(守景)
37 最後の希望(守景)
西暦1614年。大坂城――。
豊臣家と徳川は両者の溝が埋まり良好な関係を構築したかに見えたが、それがあっさりと崩れ落ちた。
方広寺の鐘の銘文に秀頼は君臣豊楽国家安康と付けた事を家康が難癖を付けた。
徳川幕府は家康の名を引き裂くものだと言い、全国から四十万余りの諸大名の大軍を率いて大坂城を包囲した。
大坂城で秀頼の家臣として再び返り咲いた守景も決して何も手を講じなかった訳ではなかった。
予てより、寡黙なる義の将……かつての豊臣政権五大老上杉景勝と誼を通じていた。
しかし、その上杉家の宰相である直江兼続は乱暴に突き放した。
『守景殿。四十万の幕府軍に挑戦する等、正気の沙汰ではありません。
徳川家の天下に反抗する貴方達は狂人の類です。上杉家は遠慮なく幕府軍に与します。
貴方達は絶望を味わいながら、ゆっくりと死を待つしかないのです』
「これが義の将の振る舞いか!」
守景はその書状を読んで激昂し、ビリビリに破り裂いて、無力感に打ちひしがれた。
上杉にも見捨てられた。あれだけ、寡黙なる義の将を名乗っていたのに裏切るとは。
「上杉にも見捨てられたか……秀頼様に何とお伝えすればよいのか」
守景は絶望の色を顔に浮かべながら、その場に力なく項垂れていたが、
何も豊臣家に味方がいない訳ではなかった。真田信繁や後藤又兵衛に長宗我部盛親。
そして、何より、姉と慕う豪が大坂城に入ったのは歓喜するべきことだった。
――豪様が、味方になれば百軍の味方を得るような物だ。
降って湧いた希望に守景はまだ勝機はあると、手放しで喜んでいた。
兎にも角にも、守景は豪と再会することが出来た。その嬉しさは何よりも代えがたいものだった。
豪は相も変わらず、昔のように全てを慈しむように微笑んでいる。
「姉上……またお会いできて嬉しく存じます」
「守景……私も嬉しく思います。共に四十万の幕府軍を相手取りましょう。
安心しなさい。まだ豊臣家にも勝ち筋があります。諦めないで」
豪は不安に駆られる守景を優しく諭した。その言葉に守景は不思議と安心する。
苛んでいた不安の芽が、摘まれた瞬間であった。豪ならば、豊臣家を救ってくれる。
守景は豪の存在が、豊臣家を救う希望だと信じて疑わなかった。




