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35 激怒(徳川家康)

 35 激怒(徳川家康)



 江戸城徳川家四百万石――。

 守景が去った江戸城にて、徳川家康は烈火の如く激怒して周囲に当たり散らした。

 何事にもジッと耐える忍耐が持ち味の家康が本気の本気で激怒するのは極めて稀である。

 それ程、家康は腹に据えかねていた。最愛の息子が、不倶戴天の敵である豊臣に靡いたからだ。

 後継者に育て上げた守景が江戸を去り秀頼の元に身を寄せていると知ったからである。


「おのれ……! 守景、散々目にかけてやった恩を忘れおって。

 こうなれば全力を挙げて豊臣家を滅ぼしてやる。儂に恥をかかせおって。

 儂は天下人だぞ。この世で一番偉いのだ。儂の意に逆らう者は天誅を喰らわすのみ」


 家康は相当荒れていた。近習たちも家康の怒りを受けて恐々としている。

 すぐにでも四十万の兵力を動員して豊臣家を滅ぼしたいが、少々時期尚早すぎる。

 じっくり外堀を埋めてから戦を仕掛けるのが家康の常套句。

 布石もまだ構築してはいない。ならば、と家康は秀頼と淀殿にある提案を持ちかけた。

 少しでも豊臣家の力を削ぎ、戦の為の資金調達を兼ねた策を考え付いた。

 家康が苦虫を押し殺して淀殿に対して持ち掛けた提案は以下のとおりである。


『淀殿様、度重なる戦で亡くなった者の供養をするのも天下人の務めですぞ』


 と書状を送り、寺社に寄進をさせ、豊臣家の財力を削いで弱らせる作戦だった。

 武家の娘に生まれ、二度の落城を経験している淀殿は、戦の虚しさを理解し、

 莫大な財を家康に渡した。家康は寺社に寄進する振りをして、それを全て自らの懐に入れた。

 家康は淀殿に当てた書状とは大違いに、一転して大笑いして自室で笑い転げながら、


「戦で死んだ者など儂が知ったことか。莫大な財は遠慮なく豊臣家を滅ぼす戦の資金にするぞ」


 家康はまんまと引っかかった淀殿の浅はかさを影で笑った。

 あの女城主は本当に未だに豊臣家が天下の主だと信じ切っている節がある。

 それを家康は利用したのだ。善意を逆手に取った家康の悪意に染まった策謀だった。

 そして家康は豊臣家を滅ぼす為の軍備を増強した。家康はすぐには戦を起こさず、

 その前に豊臣秀頼という人物を把握したかった。うつけであるならば、無理に滅ぼさず、

 関白職を歴任する高家として存続させてもいいと考えていた。家康にしては珍しく温情を見せた。

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