表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/48

28 驕る家康と挑戦状(豪姫)

 28 驕る家康と挑戦状(豪姫)



 豪は改易処分となり八丈島へと流された宇喜多秀家の正室である。

 夫と息子達は八丈島へと流されたが、豪だけは丁重に扱われ、江戸へと送られた。

 屋敷を宛がわれ、見張りも大勢付き、軟禁状態となっている。どんな沙汰が下されても、

 豪は受け入れる覚悟をし、弟同然に思っている守景の身を案じながら屋敷にて沙汰を待っていた。

 悲壮なる決意を胸に秘める豪。彼女は先を見据える先見の明でどのような沙汰も視野に入れていた。

 そして豪に思いもかけない事態が訪れる。家康が下した沙汰は予想外のものであった。


『豪姫よ。お主は儂のものとなるのだ。お主の器量には昔から目を付けていた。

 宇喜多の小僧にはお前は相応しくない。全てを兼ね備えた選ばれし者である儂にこそ相応しい。

 偉大なる天下人である儂の側室となることを光栄に思うがいい』


 家康からの書状を読んで豪は激怒したが、表情には一切出さなかった。

 それでも怒りの様相を十分に窺い知れた。普段は全ての人を慈しむ慈愛の精神の豪であったが、

 この時ばかりは怒りが全身から迸っていた。警備の兵も殺気立つ豪に恐々としている。

 豪は怒り心頭に達し、ある決意を胸に秘策を考え、家康に書状を書き、挑戦状を叩きつけた。


『家康殿。私を側室にしたいならば、貴方が得意な将棋で勝負して決めましょう。

 もし、私が勝ったら、その思い上がりと横暴な振る舞いを直しなさい』


 豪は教養の深き家康に挑戦状を叩きつける。当然、豪は将棋など差したことなど無い。

 それでも、豪は家康に屈するのは嫌だった。家康の側室になるのを頑なに拒む姿勢を崩さない。

 逆に家康は豪の挑戦状を笑いながら、受けると聞いて、豪はある秘策を抱いて決戦に臨んだ。

 そして運命の対局が始まる。噂に聞けば、家康はあらゆる教養に秀でており、

 無論、将棋の腕前も非凡ではないとの前評判だった。江戸城のある一室にて、

 対局は行われた。教養のある諸大名達が、二人の対局を緊迫の空気の中、見届けている。

 居並ぶ諸大名を前にしても豪は毅然とした態度を崩さない。豪は誓った。


 ――秀家様……豪は勝ちます。秀家様の仇は私が取ります


 豪は心に誓う。八丈島で暮らす夫と息子達の為に勝利を捧げると意気込んでいた。

 豪と家康は相まみえる。家康は欲望を宿らせた濁った眼をしていた。

 これが、あの天下人……豪はこんな邪な老人に三成や秀家が、負けたと思うと腹立たしかった。

 しかし、視線の奥……居並ぶ大名衆の中に可愛い弟同然の守景が見ていた。

 守景の雰囲気が以前と違うことに豪は機敏に気付いた。豪の驚きを察した様子で家康は言った。


「豪。お主の大事な守景は儂が一年余り掛けて教育し、洗脳した。

 最早、お主の知る守景ではない。そのおかげで、守景は儂の後継者に相応しいものとなった。

 儂は幸せ者だ。比類ない後継者にも恵まれ、そして美人と誉れ高き側室を得るのだからな」


 家康は既に勝敗が決したかのような振る舞いを見せて余裕然としている。

 それが、豪に取っては気に入らなかった。豪は怒りを全身から発する。

 静かなる殺気が、家康の心臓を抉る。迸る殺気は部屋中に漂い、緊張感が辺りを渦巻く。


「家康殿、その驕りが命取りとなるのです。私は絶対に勝ちます」


 豪は毅然とした態度で勝利宣言をした。それを家康は豪快に笑い飛ばす。

 女子だと思って、侮るような態度をあからさまに家康は表情に醸し出す。


「お前如きに敗れる儂ではない。まあいい……自ずと分かるであろう。

 自分がどれだけ非力な女子だったと後で後悔させてやる」


 そして運命の対局。先手は豪。後手は家康となった。豪にはある秘策があった。

 豪は先手を貰いながら、中々打とうとはせず、家康は苛立ちを募らせる。

 それが豪の狙いであった。家康はこの時、既に豪の術中に嵌められていた。

 豪は逆に後手であるかのように振る舞い、家康に早く打ちなさいと誘導した。

 家康は困惑し、自分が先手だと誤認する。豪も頷いて家康を促した。

 家康は豪の秘策に嵌り、後手でありながら、思わず打ってしまい、家康は反則負けを喫してしまう。


「ああああ……儂が負けた? 偉大なる天下の主である儂が……!」


 家康はその場で泣き崩れて、項垂れながら恥も外聞もなく絶叫を上げる。居並ぶ諸大名の前で。

 当然、家康に靡いていた者もいたであろう。諸大名は失望した視線を一斉に項垂れる家康に向けていた。

 豪はその才覚により、難を逃れた。豪を翻弄していた才が彼女を助けたのだ。

 家康の信頼は一気に失墜し、幕府の求心力が下がる事態へと発展する。

 徳川幕府。その根幹が揺れ動いた瞬間であった。家康の油断以外の何物でもない。


「家康殿、貴方の負けです」


 立ち上がり、項垂れる家康を、まるで虫を見るような眼差しで見下ろし、

 諸大名が注目する中で、豪は勝利宣言をする。それを家康は絶望の眼差しで見上げていた。

 勝者と敗者の構図がそこに厳然と存在した。全ては家康の驕りが招いたことなのだが。


 ――秀家様、豪は勝ちましたよ。


 豪は秀家に心の内で勝利を告げると、離れ離れになった夫と息子の事を想い、薄っすらと涙を浮かべた。

 この時の対局は歴史に刻まれ、豪の聡明さに諸大名は大いに驚いたと言う。

『豪姫様は甚だ聡明なり』と公式に記録された。豪は類まれなる才覚を歴史に刻むこととなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ