18 強者の意地(福島正則)
18 強者の意地(福島正則)
関ケ原中央最前線。福島正則軍五千――。
豊臣家武断派の筆頭であり、賤ケ岳七本槍に数えられる歴戦の猛将福島正則は、
先程まで、押していた宇喜多秀家軍が盛り返してきたことに一抹の驚きを見せていた。
――宇喜多秀家……秀吉様に猫可愛がりされていただけでは無かったようだな。
正則の身長はそれほど高くはないが、無精ひげを生やし、筋骨隆々。
歴戦の古豪を思わせる風貌であった。正則は攻勢に出る宇喜多軍を敵ながら褒め称えた。
逆に敵の攻勢に背を見せる自軍の兵を見かねた正則はその手に握る矛で切り捨てた。
「宇喜多の小僧如きに背を見せる臆病者はこの儂が切り捨てる!」
毅然とした態度で武士の風上にも置けない自軍の兵も屠っていく。
その時だった。一人の壮麗な騎馬武者が、単騎で、正則に突進して来るではないか。
「お前は……宇喜多の小僧! 大将であるお主が前線に打って出るとは無謀な!」
正則は自分に突進してくる秀家の槍の連打を矛で軽く受けつつ、罵声を浴びせた。
成程……宇喜多軍の攻勢は秀家の出陣故だったのだ、と正則は理解。
「正則! お主だけは、私が討ち取ってくれる!」
「愚かな……秀吉様の元でぬくぬく育ったお主とは場数が違うわ!」
正則は笑止とばかりに槍さばきで攻め寄せる秀家を翻弄し矛で一刀両断しようとする。
それをさせまいと同じく歴戦の勇者である明石全登が僅かな隙と油断を突き、
正則の脇腹を槍で貫いた。それは正しく油断以外の何物でもなかった。
「我が武運もこれまでか……高名を馳せている明石全登に討ち取られるならば悪くない」
福島正則は潔く馬上から転落し、絶命した。流れは大きく変わるかに見えた。




