14 義戦(石田三成)
14 義戦(石田三成)
笹尾山石田三成本陣――。
三成は濃霧が漂う不気味な静けさに戦々恐々としていた。
事ここに及んで徳川家康に挑むと言う事に恐れを抱き、軍配を持つ手が微かに震える。
「三成殿。この戦に勝利し、太閤殿下の恩義に報いましょう」
後ろから聞こえる声に震えが不思議と止まった。その三成の震えを取り除いてくれたのが、
他でもない北条守景(羽柴姓を名乗っていたが、北条の名跡を継ぎ、名を改めた主人公)
守景は豊臣家麾下の軍勢八千を率いて関ケ原の地へと布陣した三成の隣に本陣を置いている。
三成としては非常に心強い。最大にして最高の友が隣で共に戦ってくれるのだから。
しかし、三成はまだ子供のような年齢の青年を死地に向かわせる事はしたくはなかった。
だが、守景は自分の為に豊臣麾下の兵を率いて馳せ参じてくれた。
豪姫様にこの戦が終わったら叱られるな、と三成は自嘲した。
更に心強いのは我が軍略の天才、島左近……左近は関ケ原布陣の盤面を見て一人で相槌を打っている。
「この戦、我が軍略によって大勝間違いなし」
島左近は独り言を言って三成と守景を交互に見る。島左近は三成に必勝の布陣を用意して見せた。
鶴翼の陣と言って、鶴が翼を広げたように西軍が東軍を包囲するように陣を敷いている。
自らの懐刀の天才的軍略に三成は信頼し、鶴翼の陣を敷いた。
「左近……お主を信頼しておるぞ」
「殿。我が軍略、照覧あれ……三時間後には家康の首は取れるでしょう」
「……そうか。この戦に勝利して見せる。太閤殿下の恩義に報いるために」
三成は目を瞑り、一滴の涙を流す。太閤殿下を思い出し目頭が熱くなる。
太閤殿下の恩義がありながら、家康に尻尾を振る連中の気持ちが、自分には理解できなかった。
しかし、三成の志を理解し、付いてくる者も中にはいる。守景や豪姫様に宇喜多秀家、そして島左近。
――嫌われ者が性分の儂に付いてくる者が大勢いるとは……。
三成は感慨に耽り、今度は嬉し涙を零した。自分は一人ではない。
そう思い始めた瞬間であった。迷いが断ち切れたと同時に覆っていた霧が瞬く間に晴れる。
三成は遂に覚悟を決め、天を見上げて太閤殿下が我らを見守って下さる、と信じ、軍配を掲げる。
「この戦は太閤殿下の恩義に報いるための義戦である。
逆賊徳川を誅滅し、豊臣の天下を全霊で捧げて守り抜くのだ。
太閤殿下が見守って下さる。必ずや勝利を手にし、秀頼様に戦勝報告を届けるのだ」
三成は全軍に命じ、決戦開始の狼煙を盛大に挙げて、手勢六千の軍勢に出撃の下知を下す。
最早、軍配を持つ手が震える事は無かった。強い信念を持って、全力を尽くすのみだ。
遂に関ヶ原の戦いです。
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