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13 天下人への布石(徳川家康)

 13 天下人への布石(徳川家康)



 1600年(慶長五年)九月十五日。美濃関ケ原桃配山徳川本陣――。

 両軍が必勝を期して布陣を整える決戦の地。家康は豊臣系大名を前衛に配置し、

 自らは自軍の消耗を抑えるために後詰として後衛に布陣。桃配山に本陣を敷いた。

 その数三万にも及ぶ軍勢である。本来ならば徳川本隊である秀忠率いる三万八千の軍勢が、

 到着予定であったが、懸念通り、中山道にて真田親子に足止めされていると急使が来た。

 それでも、家康は自分の勝利を疑ってはいなかった。想定通り、関ケ原の地へと三成を誘い込んだ。

 城攻めが苦手な家康を意識して三成は大垣城へと籠城する可能性も少なからずあったが、

 予定通り関ケ原を自らの処刑場へと選んだようだ。

 家康はこの戦いで、反徳川勢力を根絶やしにするつもりであった。

 全ての危険要素が去った所で、幕府を開き征夷大将軍となり、天下人となる。

 家康は桃配山本陣にて、側近であり知恵袋である本多正信と南光坊天海大僧正と茶を飲んでいた。


「この関ケ原の地は儂が数々の布石を打っている。

 優雅に茶でも飲んで西軍諸将が崩壊する様を見届けるのだ」


「「仰せの通りに。それでは頂きます」」


 家康は決戦の地へと布陣を終えても、茶を飲み、正信らと談笑する余裕があった。

 既に幾つもの布石が打たれている。それも随所に細かく囲碁で培った相手を詰ませる手段は巧みであった。

 既に家康の頭の中では関ヶ原に両軍が布陣した段階で三成率いる西軍は詰んでいる。

 家康の勝利への巧みな筋書きは以下のとおりである。

 まず、三成が頼みとする西軍副将にして備前宰相と称される五大老宇喜多秀家一万七千。

 動員兵力は膨大だが、将の質では各諸将に劣っていた。

 それもその筈、御家騒動で家臣団の半数が離反した。秀家の統制能力が問題だと揶揄されていたが、

 実は宇喜多秀家の戦力を削ぐために家康が仕組んだことであった。

 よって、宇喜多秀家一万七千は数だけが頼りの烏合の衆も同然。家康の思惑通りだった。


「宇喜多の小僧……美人と誉れ高き豪姫に現を抜かしておった報いだ。

 儂の策略で家臣団の多くは離反した。痕跡を残さない儂の手際の良さを思い知ったか。

 この決戦に勝利した後、戦勝のどさくさに紛れて豪を貰い受けるぞ」


 家康は宇喜多秀家に対する愚痴と欲望を吐露し、茶のお代わりをした。

 そして松尾山に陣取る小早川秀秋も家康が篭絡し、裏切りの手はずを整えている。

 彼は二十歳にも満たない青年大名だが、豊臣一門であり、筑前五十二万石を領している。

 それ故、動員兵力は膨大で一万六千。十分戦局を支配できる力を持つ。

 小早川が家康の合図で、松尾山を駆け下る。その勢いで西軍の脇腹を突き、西軍は総崩れとなる。

 更に家康の後方の南宮山に布陣する毛利軍は動かない。

 毛利の軍事を司る吉川広家と家康は秘密裏に内通していた。毛利家の所領の安堵と言う盟約で。

 更に家康は西軍諸将の三成以外のほぼ全員に文を送っている。毎日昼夜を問わず書き続けた。

 筆を持つ手が震えるまで、執拗に寝返りの為の文を書き続ける執念深さと用意周到さ。

 小早川秀秋にしても、家康は三成との決戦の為だけに急接近し、

 努めて優しく面倒を見て、秀秋の悩み事や相談事に親身になって乗ってあげていた。


「小早川……日頃から儂が目を掛けていた恩を返して貰うぞ」


 家康は天下を取る。その目的の為ならば形振り構わない周到さがあった。

 天下取りに掛ける異常なまでの常軌を逸する程の執念深さ。

 家康はこの戦の結末を見据えながら邪悪な笑みを零しながら茶を啜った。

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