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1 誓い

豊臣家に有能な親族が残っていたらという設定です。

 1 誓い(守景)



 1598年(慶長三年)――。

 守景もりかげは天下人、豊臣秀吉の遠縁であった。齢十五歳という若さである。

 血縁は薄いが、幼き頃、秀吉に拾われる。利発で賢い子だと分ると、

 秀吉は守景を五歳になる豊臣の後継者である秀頼の傅役に抜擢した。

 五歳になる秀頼の傅役として、豊臣家の血縁者として秀頼を守る。

 そんな守景は秀吉が催す大茶会、醍醐の花見の朝、不吉な夢で目が覚めた。

 大坂城が炎に包まれ、守るべき存在である秀頼は自害。

 遥か遠くで諸大名を率いる家康が笑みを浮かべている。その光景は頭に焼き付いて離れなかった。

 普段ならば、目を見張るような利発さが伺える理知的な顔立ちと瞳は一気に不安の色に染まる。

 大量の汗が体中から吹き出し、守景は冷水に浸かり身を清めた。

 その後、着替えて秀吉の御前に姿を見せた。秀吉はある一室で、

 目に入れても痛くない我が子、秀頼と朗らかな笑顔で戯れていた。一先ず秀頼の無事を確認して、

 守景は心の底から安堵する。そんな守景を秀吉は不思議そうに見つめていた。


「守景。疲れ切った表情をしてどうした? お主らしくないぞ」


「は、はい……」


 秀吉は今日催される醍醐の花見を前に上機嫌であった。

 彼が、この日を待ち望んでいたのは想像に難くない。不吉な夢の後の温度差が一室に去来した。

 夢の話を秀吉に伝えるかどうか悩んだが、きっと秀吉は不吉な夢を知ったら不機嫌になるだろう。

 秀吉は老境に至り、癇癪を起こす頻度が増していた。

 昔は人たらしと呼ばれる程、笑顔の絶えない人物であった。

 現在の秀吉は気持ちの移り変わりが激しい事は周知の事実であった。

 秀吉のお気に入りである守景でさえ、秀吉の勘気に触れればどうなるか分からない。

 守景は喉から出そうな不吉な夢の事を黙っておくことにした。

 今日は彼の生涯最高の日である筈。彼の機嫌を損ねる真似はしたくはない。


「殿下、秀頼様は何があっても……私が命を賭してお守りします」


 気品に満ち溢れた中性的な顔立ちを強調させて、秀吉に熱い思いを吐露した。

 あのような夢は絶対に現実には起こさせない。秀頼は自分が、命を懸けても守るのだ。

 それは守景の決意の表れであった。豊臣の盾として存在するのが自分なのだ。


「守景、何かよく分からないが、其方の熱い気持ちは伝わった。

 其方ならば秀頼を任せられると信じておる。優しく利発な子だ。何の懸念があろうか」


 秀吉は朗らかに守景を諭す。その秀吉の温かさに守景は感銘を受ける。

 そんな朝のやり取りをしていると、醍醐の花見の準備が整ったという報せが舞い込む。

 遂に秀吉の……豊臣家の権力と威光を知らしめる一世一代の花見の宴が始まる。

 そして目まぐるしく時が動く。醍醐の花見の最中、秀吉が突然倒れた。

 あれだけ元気が良かったのに、病状が悪化したのだ。秀吉は原因不明の病に侵されていた。

 大坂城の秀吉の部屋に運ばれ、天下の名医が、薬を調合し、病床の秀吉に届けられる。

 時が経ち、危篤状態に入ると、五奉行、五大老が招かれ、遇にも意識を取り戻した秀吉が、

 一人一人に秀頼の事を頼むと懇願し、忠誠の誓いを立てさせた。

 そんなものが無意味だと権謀術数を幾度も巡らせた秀吉自身が知っている筈だが、

 それを忘れて懇願する程、この世に未練がある様子だった。

 五奉行、五大老が退出すると、仮にも秀吉の血縁である守景が呼ばれた。

 近くで秀吉を見るとげっそりとして痩せ細り、顔に生気が無かった。


「守景……儂はもうすぐあの世に旅立つ。懸念はやはり、我が子秀頼じゃ。

 秀頼が成人するまでは生き永らえたいと願っていたが、叶わぬらしい。

 お主にしか、秀頼は託せない。お主の豊臣への忠義を疑ったことは一度も無い。

 秀頼の事、豊臣家の行く末をしかと頼んだぞ。どうやら、迎えが来たようじゃ」


 秀吉は守景の顔を見て、安心したのか、暫くして息を引き取った。享年六十二歳。



 露と落ち、露と消えし我が身かな。難波の事も夢のまた夢。



 一代で天下を取った英雄は呆気なくこの世を去った。世は再び動乱の予兆を予感させる。

 守景は秀吉の遺体に誓った。豊臣家を……主君の忘れ形見である秀頼を守り通すと。

最初は秀吉の死から始まります。

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