87 拠点捜索
リリィガーデン王国軍が共和国北部を制圧した事で共和国領土は完全に地図上から消え去った。
故郷を失った共和国人は連邦へと逃げ出し、ラディア人と同じく難民となってしまう。連邦南部に逃れた共和国難民の数は5万人以上。
そのほとんどが金品を所持しておらず、着の身着のまま逃げ出した者ばかりであった。
共和国人難民の状況はラディア人難民とほぼ一緒。連邦は食うに困る人種をさらに1種抱える事となってしまう。
連邦政府は難民を受け入れはしたものの、目下の不安要素と言えば食糧問題である。
連邦は共和国北部から食料を輸入していた。連邦国内には前時代の残骸が多く残され、荒れた土地が多く農地に向いていない。
現状、連邦国民は食うに困ってはいない。政府も穀物を貯蔵して非常事態に備えてはいた。
しかし、用意していたのは国民全員を賄う量だ。他国の難民を無償で食わせられるほど備えてはいない。
勿論、今現在も戦争を行っていない東側他国からの食糧輸入計画は進められているがすぐに全員の腹を満たせるわけじゃない。
これまでラディア人難民の生活及び発生した問題は連邦西部を統括する西部地方軍と西部行政にお任せ状態であったが、南部でも難民を抱えた事で連邦中央政府がいよいよ動き出した。
連邦中央政府が打ち出した難民対策をざっくり簡単に言うと、
「難民の方々は食糧を配給制とします。そして、対象年齢の方は兵士となって戦って下さい」
という事である。
難民1人に対して配給される食糧は一日一食。生産量の多い芋類が1~2個配られる。足りなかったらお金を出して買ってね、という事だ。
そして、難民の10代から50代までの男性は兵士として徴兵制度が適応される。
女性に関しては連邦内にある小さな農地で働くか、異性を相手にする夜の仕事を求められた。
この徴兵制度及び仕事への従事は元貴族であろうが適用された。難民が失われた国で元々どんな地位にいようが関係ない。
少年も貴族の男も揃って魔法銃を持って前線へ派兵させられる。
つまり、食糧難を抱える連邦は食うに困る難民を兵士として採用し、前線へ送り出して数を減らそうという考えだ。
一言で言えば口減らしである。
難民が死ねば消費される食糧は減る。難民が1人でも敵兵を殺してくれれば儲けもの。最悪、正規軍の盾になればよし。
戦争で勝利する為の基本は数だろう。兵士の数をより多く投入できれば勝つ見込みは上がる。
よって、連邦は難民を徴兵してろくに教育も施さぬまま前線へ投入する事を決定。
同時に連邦軍は積極的な攻勢に出る事を宣言した。
徴兵された難民兵1万人を投入した最初の舞台は連邦首都から南東、元共和国北部を制圧したリリィガーデン王国軍が向かった先であった。
連邦政府にとって想定外だったのは予想以上に難民が薬物汚染されていた事だろう。
そして、その薬物汚染は既に……。
「おい、何をしているんだ?」
南東に向かう途中、連邦の正規兵は白い粉を鼻から吸い込む難民兵――元共和国軍兵を見つけて声を掛けた。
「え……。病気のクスリでさぁ~」
そう返答した男の目は虚ろで、鼻から吸引したソレはどう見ても病気を抑制するクスリには思えない。
「何をしているんだ! 寄越せッ!」
連邦正規兵は男からクスリを奪い取った。男の着ていた服のポケットを弄り、持っていた残り2袋も没収する。
「これは没収だ!」
「ああ~……」
夢のクスリを奪われた男は虚ろな目をしながら震える手を伸ばす。
キメたばかり故に思考が追い付かず、クスリは没収されてしまった。
クスリを没収した正規兵は「まったく」と呆れる素振りを見せながら立ち去って行く。
難民兵からクスリを没収した正規兵は奪った白い粉の入った袋を見つめながら、
「……液体だけじゃなく、粉末もあるのか」
ニコリと笑ったのだった。
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共和国北部を制圧したリーズレット達はアイアン・レディが極秘に建設した拠点の1つを探しに北東へ進軍を開始。
アドラから受け取った地図が示す場所は連邦領土の端であり、共和国へ続く国境を背にした場所にある大きな山であった。
データ上で示された場所には到達したものの、入り口の詳細などは一切なく。自力で探さねばならない。
山を示しているという事は、拠点は山をくり抜いた場所なのか。それとも地下か。
山の内部に続く坑道、もしくは地下へ続くハッチなど、リーズレットが思いつく入り口の特徴をリリィガーデン王国軍に伝えるが……。
率いていた兵士の8割を動員して山を捜索するも入り口らしき物は発見できず。
「見つかりませんわね。一体どこに隠したのかしら?」
「見落としでしょうか?」
頬に指を当てて可愛らしく悩むリーズレットにコスモスは腕を組みながら「ううむ」と眉間に皺を寄せて悩む。
山の麓をぐるりと一周して、横幅等間隔で開けた兵士が山の頂上まで1度登った。
5機中、3機のイーグルを用いて空からの探索も行ったがそれらしき入り口は見つからなかった。
「お嬢様、見つけられませんでしたぁ~」
『申し訳ありません』
今しがた戻ってきたサリィも首都から持って来たナイト・ホークを操縦し、同乗していたロビィがドローンを放って捜索したが見つからなかった様子。
「どういう事でしょう? 全く新しい概念の入り口なのかしら?」
リーズレットはそう言いながら、拠点の隠された山を見つめた。
視線の先にある山は所々ハゲている部分はあるものの、7割は木々で覆われている。
まだ緑残る部分に入り口が隠されているのか、と予想して重点的に探しているが全く見つからない。
「もう一度捜索隊を組みます」
「ええ、お願いしますわ。見つけたら私かサリィに声を掛けるよう伝えなさい」
それらしき物が見つかったら、アイアン・レディ拠点入り口のドアをロック解除するキーを持った自分かサリィが向かう手筈となっていた。
捜索隊を編成しに向かったコスモスの背中を見送りながら、リーズレットは思考の海に潜った。
当時いた見習い淑女達――特に拠点建設の中心であったであろうアルテミスの思考を読む為に。
彼女が拠点の入り口を隠すなら、どうするか。
リーズレットは設営された大型テントの中にあった椅子に腰を降ろして悩み続けた。
すると、外が少々騒がしくなった事に気付く。どうしたのか、と顔を上げた時、丁度良くマチルダがリーズレットの元へやって来た。
「マム。連邦が攻めて来るようです」
「連邦が?」
「はい。情報部からの通信によれば、連邦政府が積極的な攻勢策を打ち出したそうで」
怒涛の勢いで敵国を蹂躙するリーズレット率いる部隊を先に潰す、もしくは消耗させようと目論んでいるのではないか。
マチルダは情報部が分析した意見を口にする。
「なるほど。しかし、拠点が見つかっていない以上は退けませんわ。捜索は続けさせますが、捜索隊に動員する兵の数を減らしなさい。敵殲滅を優先しますわよ」
「了解しました。全軍に伝えます」
マチルダがリーズレットの命令を各所に伝えに出て行くと、椅子から立ち上がったリーズレットはアイアン・レディを抜いてマガジン内にフル装填されているか確認を行う。
「すぐ見つかるといいのですけど……」
テントを出て山を見上げたリーズレットの胸には何かが起きそうな予感があった。
前時代から戦争に身を投じていた彼女が感じる予感は良い意味でも、悪い意味でもよく当たる。
自分達にとって良いものであればいいが。そう思いながら、部隊が待つ場所に歩き出すのだった。
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