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婚約破棄されたので全員殺しますわよ ~素敵な結婚を夢見る最強の淑女、2度目の人生~  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中
本編

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86 北部販売組織


 共和国首都を制圧したリーズレット達は後続部隊の到着を待ち、1週間程度の休息と補給の期間を設けた。


 なるべく早く拠点を探す必要があると決定したものの、イーグル1機が撃墜された事態はリリィガーデン王国上層部にとって非常に重く受け止める事態であると判断された。


 王国上層部は新型対空兵器への懸念があると認めながらも前線へイーグルの追加配備を決定。


 何より空を飛ぶ兵器は攻撃も輸送も同時にこなせるため汎用性が高い。


 加えて、次の目的地である共和国北部から共和国人を北上させる為にも、空に浮かびながら明確な脅威として姿を晒すイーグルは効果抜群だろう。


 そんな上層部の考えもあってリーズレットが滞在する共和国首都には追加生産されたイーグルが5機投入された。


 これにより5機のイーグルは先行部隊を積んで共和国北部へ『追い込み』をかけるのだが……。


 次の舞台となる共和国北部はリリィガーデン王国情報部が目論む状態になっているのであった。



-----



「おい、貴様がバイヤーか?」


「あ?」


 共和国北部の街、表通りからスラムへと向かう裏路地へ数分進んだ場所に煌びやかな服を着た中年男が従者を連れてやって来た。


 こんなキンキラリンに輝く宝石を散りばめた服を着ている者など貴族以外にありえない。


 バイヤーか、と問われた男はすぐに客の身分を察した。


「そうだ」


 しかし、中年男の顔色は悪い。全体的に白く、目の下には濃い隈。


 今や街の裏側を牛耳る傭兵団の一員である男は客の顔を見て更に察した。


 ああ、コイツは首都から逃げてきた貴族だなと。


「クスリを寄越せ」


 中年貴族は不機嫌そうに鼻を鳴らし、広げた手を差し出す。


「透明? 白?」


 バイヤーはいつも通りの売り方で対応すると、中年貴族が少し戸惑うように一瞬だけ顔を歪めた。


「透明……? なんだそれは?」


 戸惑った中年貴族は謎の問いかけに答えようと悩む素振りを見せたが、諦めて素直に聞く事にしたようだ。


 ここでバイヤーの男は更に察する。コイツは他の誰かからオススメされて、夢の味を知った者であると。


 見事にハマり、教えてくれた友人か仲間からここへ来れば買えると聞かされたのだろう。


「液体と粉、2種類ある」


 最初の問いは2種類あるクスリの色を示すモノであった。これはまだクスリを売り始めた頃、共和国警備隊に摘発されないよう決めていた隠語のようなものだ。


 貴族が堂々と買いに来る今となってはもう必要無いかもしれないが。


「ふむ。どちらも寄越せ。あるだけ全てだ」


 そう言って、中年貴族は広げた手を上下にブラブラ動かす。


 客の注文に対し、バイヤーの男はポーチの中身を見た。


 粉の数が20。液体の入った小瓶は10。


「全部で5000万になるよ?」


 バイヤーはそう言いながらも、相手がそれほどの大金を持っているとは思えなかった。


 共和国で採用されている金は紙幣であるが、5000万もの大金となれば紙幣を入れるカバンか何かが必要だ。


 しかし、中年貴族も従者も手ぶらである。


「貴様ッ! 私を誰だと思っているんだ! 私が寄越せと言ったら寄越せば良いんだ!」


 典型的な権力者の言い分が飛び出した。だが、もう共和国貴族が凄んで下々を思い通りにさせる時代は終わった。


 それも、つい数日前に。


「金無いなら渡せないね。クスリ作るのもタダじゃないんだ。あんたが金を払わなきゃこっちはクスリが作れない。どうせ、クスリが無くなったらまた欲しがるんだろう?」


 そうなった時、あんたが金を払わなかったせいでクスリは作れなくなっているかもね。


 バイヤーは正論で中年貴族をぶん殴った。


 国の政治を任されていた貴族が悪徳傭兵に正論を説かれる。何とも意味不明な状況だ。


「ぐ、ぐぐ……!」


「金を作ってきたら、また来な」


 悔しそうに奥歯を噛み締める中年貴族にバイヤーは手を上げて立ち去ろうとするが、


「待て!」


 中年貴族は背中を向けたバイヤーを呼び止めると、ポケットから共和国紙幣1枚を取り出して差し出した。


 彼が差し出したのは1万グリア紙幣。発行されている紙幣の中では最高金額であるが、クシャクシャになった1万グリア札を見てバイヤーは鼻で笑った。


「馬鹿じゃねえのか。共和国紙幣で買えるわけねえだろう? 連邦紙幣か(きん)でしかもう取引してねえんだ」


「な、なに? 何故だ!?」


「何故だもクソもねえだろう? もう共和国は終わったんだ。消える国の金なんてケツ拭き紙にしかならねえよ」


 そう、もう共和国は終わった。首都が堕ち、数日後にはこの北部の街にリリィガーデン王国軍が攻めて来るだろう。


 侵攻予定日を明確に知るバイヤーは共和国紙幣での取引に関して一切のお断りを既に数日前から決めていた。


 それを聞き、絶望するかのような表情を浮かべる中年貴族。彼に対してバイヤーは再び鼻で笑って立ち去ろうとするが……。


「ま、待て! 待ってくれ! そ、そうだ! この服でどうだ!? 宝石が散りばめられている!」


 中年貴族は慌てて上着を脱ぎ始めた。従者が「もうお止めください!」と制止するが止まらない。


「あー……。まぁ、いいか。寄越しな」


 バイヤーは中年貴族の上着を受け取ると、その小さな宝石が散りばめられた煌びやかな上着を羽織った。


「ほらよ」


 バイヤーは白い粉の入った小袋を地面に投げ捨てる。


 薄いシャツとズボンだけになった中年貴族は慌てて地面の小袋に飛びついた。


「はは。じゃあな」


 もはや、立場は上下逆転した。


 薄暗く小汚い裏路地でコソコソとクスリを売っていたバイヤーは煌びやかな上着を羽織って去って行く。


 その場に残ったのは嘗て権力と金を手にして、一般人を「クズ」「無能」「労働力」と罵っていた共和国貴族。


 我慢できなくなった中年貴族がその場で白い粉に夢中になる中、バイヤーは裏路地に差し込んだ月明かりを上着の宝石に反射させて悠々と道を行くのだ。


 ああ、素晴らしき戦争。これぞ敗戦国の末路か。


「戻りやした~」


「おう。……なんだ? その服」


 バイヤーが拠点に戻ると煌びやかな服を着た部下に首を傾げる血濡れの刃リーダー。


 バイヤー役をしていた部下がリーダーに事の経緯を説明すると、リーダーは腹を抱えて大笑いした。


「ははッ! そりゃあ、とんでもねえアホウだ!」


「でしょう? あれが連邦に逃げ込むとなりゃあ……。連邦人に同情しちまいますよ」


 2人は連邦に薬物汚染された穀潰し共和国貴族が雪崩れ込む未来に声を上げて笑う。


 腹を抱えて笑っていたリーダーが落ち着きを取り戻すと、コップに入った酒を飲み干してから告げる。


「明日にはここを出るから用意しておけよ」


「って事はもう?」


「ああ。3日後には北部へ侵攻するとさ。俺らは東部へ向かうぜ」


 遂に情報部から連絡が入り、すぐに移動しろと命令が下った。拠点にある金を金庫に入れた状態で、在庫だけを持って東部へ向かうように、と。


 北部に攻め込んだ王国軍がついでに金庫の金を回収する流れのようだ。


 金の回収方法はさておき、血濡れの刃リーダー達が向かう先は連邦東部。


「西部じゃなく? 東部なら、元の拠点を使うんですかい?」


 彼らが元々活動していた場所は連邦首都から東部方面に寄った場所だった。古巣へ帰る、といった具合になるだろう。


 しかし、元々使っていた拠点――リーズレットの襲撃を受けた廃墟には戻らないとリーダーは首を振る。


「西部は火グマ団の奴等が順調に流してるからな。俺らは東部の街に向かうぜ。あそこは少し小さいが、顔が利く」


 リーダーが拠点に使おうと考えた街はリーズレットも一度立ち寄った事のある街。


 リーズレットが酒場でナンパされ、サリィによって爆死させられたイケメン男がいた街である。


「分かりやした。さっそく準備してきやす」


「おう。あと、その趣味のワリィ服は脱いでおけよ」


 翌日、彼等が北部を脱出してから2日後。予定通り北部に侵攻したリリィガーデン王国軍は5機のイーグルを用いて空からの制圧射撃を開始。


 北部の街は阿鼻叫喚の地獄となって、連邦南部の街へ続く道には共和国を脱出した難民で溢れかえるのであった。 



読んで下さりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 薬物で敵国を汚染してから攻めるというのは知っていてもなかなか防ぐのが難しいのにこの世界では知られて無いだろうから防ぎよう無いね。
[良い点] そして穀潰し豚どもは連邦を食い尽くす蝗の大群の如く(笑)
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