85 共和国首都攻撃 3
共和国首都の上空を飛ぶ2機のイーグルはリーズレット達の頭上を通過して与えられた任務を忠実にこなそうとしていた。
1機が空中にいるドラゴンライダーを殲滅するべく機銃とロケットランチャーを放つ間、もう1機は首都内にある一番背の高い建物の屋上にブラックチーム達を下ろそうと高度を下げる。
建物の屋根へと降下しながら位置を調整して後部ハッチを開けようとした時、イーグルのコックピットに『ビービービー』と警告音が鳴り響いた。
「なんだ!?」
レーダーを確認すると高速で向かって来る物体が。その正体は議事堂周辺に配置されたマギアクラフト製の最新対空兵器から放たれた攻撃であった。
「回避がッ! ぐあッ!?」
対空兵器の攻撃はブラックチームを運んでいたイーグルの横っ腹に命中。
今までの対空兵器とは威力が段違いで、分厚いイーグルの装甲を抉るように破壊した。バランスを崩したイーグルは首都の西側へフラフラと泳ぎ、2発目がローター部分に着弾。
「メーデーメーデーメーデー!」
「ダメだ! 堕ちるッ! 対ショック体勢ッ!」
操縦席に座っていた2人は運んでいたブラックチーム達へ必死に呼びかける。
攻撃されたイーグルは黒い煙を噴出しながら首都に建ち並ぶ家屋の上に墜落した。コックピット部分が下になって堕ちた事で、操縦席にいた2人は死亡してしまう。
「ぐ、く、そ……!」
中にいたブライアン達はシートベルト等で体を固定していたおかげで無事であったが墜落の衝撃で体に傷みを感じる。
「み、みんな無事か!?」
シートベルトを外し、仲間の安否を確認するブライアン。
ブラックチームは無事だったものの、共に突入する部隊の数人が横っ腹に直撃した対空兵器の攻撃で死亡。
さらに墜落時に積んでいた荷物の下敷きになって骨を折った者が1人。これでは同行していた部隊は満足に任務を続行できまい。
動けるのはブラックチームくらいだが……。
「墜落したぞ!」
「生きているヤツがいたら殺せ!」
外から共和国軍兵士の叫び声が聞こえて来た。
彼等の声には殺意が充満しており、戦闘を回避するのは不可能だとブライアンは悟る。
「動ける者は外に出て応戦! 現場を確保したら救出する!」
まずはこの場を確保せねばなるまい。ブライアンは機体の側面にあった緊急脱出用扉を開放してイーグルの外に出た。
扉を潜ると家の中であった。家屋の屋根に墜落したイーグルは屋根をぶち破って家の中に墜ちたのだ。
しかも、最悪な事にイーグルから発火した炎が家に燃え移っている。このままでは家全体が燃えて、イーグルの中で動けなくなっている仲間は燃え死ぬだろう。
「2人は救助しろ! 俺達で時間を稼ぐ!」
ブライアンは部下に仲間の救助を命じると、残りの仲間と共に家の外へ飛び出した。
案の定、家の外にある道の先から共和国軍兵が走って来ていた。すぐに銃を構え、近寄らせまいと発砲を繰り返す。
墜落した衝撃で崩れ落ちた屋根や家の壁を遮蔽物にしながらブライアンは時間を稼ぐ。
リーズレットのやり方を学んだ彼は共和国兵を撃ち殺し、仲間との連携で相手を近寄らせはしなかった。
「なんだ?」
しかし、共和国兵の中に全身真っ黒なアーマーを着た部隊を見つける。
黒いアーマーを着た部隊は道の先から共和国兵と共に発砲を繰り返し、共和国兵にとにかく撃てと怒声を上げた。
遮蔽物に隠れたブライアン達が身を晒す事が出来ないくらい、絶え間ない発砲が続く。
このまま隠れているのはマズイ。距離を詰められる、と思った矢先に発砲が止んだ。チラリと顔を覗かせて相手を見れば、発砲していた位置から一歩も動かずにリロードをしている様子。
(距離を詰めない?)
ここで、ブライアンは違和感を覚えた。
自分がもしも相手側であれば距離を詰める。相手を追い込むか、もしくは散らして各個撃破するか。
しかし、相手は動かない。何故か。
ブライアンは頭を回転させて気付いた。もう、自分達は追い込まれているんだと。
「マーク! 家の中へ逃げろッ!」
自分よりも後ろ、背後で最前線のブライアンと仲間を援護していた部下に叫んだ。
「へえ。女の後ろに隠れている軍隊にしちゃあ、鼻が利くヤツがいるじゃないか」
逃げろと指示をしたマークの背後に、屋根の上から移動していたであろう黒いアーマーを着た人物が着地した。
ブライアンは正体を知らぬが、背後を取った男こそマギアクラフト隊を率いるジェイコブであった。
3メートルはあろう屋根の上から着地したジェイコブは魔法銃を振り返ったマークの頭部に向ける。
タン、と発砲音が鳴ると魔法銃から吐き出された炎の弾がマークの頭部を撃ち抜いて燃やした。
「全員、家の中へ退避ッ!」
ブライアンは腰のポーチからスモークグレネードを取り出してピンを抜くと、マークを撃ち殺した男の足元へ転がした。
一気に噴出された煙はブライアン達の姿を隠し、その間に墜落したイーグルがある家の中へ窓を乗り越えて戻った。
割れた窓から銃口を出し、煙が晴れぬ前に射撃を開始しようとするが、
「なるほど、前時代的だな」
ジェイコブはヘルメットの側面、耳の辺りに手を添えるとバイザー越しに見える映像が白黒の世界に変わった。
彼の目には家の中で銃を構えるブライアン達の姿がハッキリと捉えられていた。
視界不良なはずの煙の中に立ちながらブライアン達の向ける射線から逃れ、逆にスモークを炊いたブライアン達の意識外から銃を撃とうとするが――
メインストリートの方向から複数台の魔導車が銃座にあるミニガンを連射しながら一気に突っ込んで来た。
「ブライアン! 聞こえるかッ! 援護するから逃げろッ!」
声の主は救出に向かえと命じられたマチルダだった。彼女は道を塞ぐ共和国軍に銃を発砲して墜落現場から敵を散らそうと試みる。
確かに、ただの共和国兵はミニガンの連射でほとんどが死亡した。スモークの煙が薄くなると地面には共和国兵の死体が散らばっていた。
しかし、その中に混じっていた黒いアーマー部隊は屋根に飛び上がってミニガンの連射を躱す。
ブライアンを仕留めようと狙っていたジェイコブは、ブライアンが逃げ込んだ家とは反対側にあった家と家の隙間に逃れ、銃口と顔を半分だけ出してミニガンを撃つマチルダを狙い出した。
ジェイコブがスコープに映る照準の真ん中にマチルダの頭部を合わせた時、ジェイコブに向かって発砲をしたのはブライアン。
薄くなった煙の隙間からマチルダを狙うジェイコブが見えたのだ。銃を連射してマチルダへの狙撃を阻止したはいいものの、マガジンの中の弾が切れてしまう。
「うおおおッ!」
ブライアンは無謀とも思える行動に出た。アサルトライフルを手放し、ハンドガンを抜いて窓枠を飛び越えた。
飛び越えながらハンドガンをジェイコブに連射しながら突撃。ジェイコブは撃ち出された弾を腕のアーマーで防ぐが、ブライアンの接近を許してしまう。
「このッ!」
ジェイコブに向かって渾身のショルダータックル……だったが、衝撃を吸収する最新式のアーマーを着たジェイコブには生身の人間が繰り出す体術など効かなかった。
「ぐっ!?」
逆に魔法銃のストックで顔を殴られ、地面に倒れるブライアン。ジェイコブが倒れたブライアンに向かって銃口を向ける。
「ブライアン! そのまま倒れていろッ!」
気付いたマチルダがミニガンの銃口をジェイコブへ向けた。ミニガンの銃身が回転し始めたのを察したジェイコブは家と家の隙間に身を潜らせた。
高速で吐き出された弾はジェイコブがいた場所に向かって飛んでいき、家の壁を削り取る。
「撤退する」
逃れたジェイコブは屋根の上に飛び上がるとマギアクラフト隊にハンドサインで指示を出して、屋根の上を走って逃げ出した。
敵が屋根の上を逃げて行くのを見送ったマチルダは魔導車を降りてブライアンへ駆け寄った。
「無茶をしすぎだ」
頭を手で覆ったまま、ミニガンの弾が削り取った壁の破片を浴びて薄汚れたブライアンへ手を差し出すマチルダ。
「マチルダ様がいなくなれば、軍としてかなりの損失になります」
だから未知数な敵に向かって飛び出し、勝てるかどうかも分からぬ接近戦をしたと言い訳を語るブライアンはマチルダの手を取った。
「お前がいなくなっても大きな損失になるだろうが。……だが、そういった行為は嫌いではないな」
北の女傑と呼ばれたマチルダは無謀だが男らしい行動を取ったブライアンに口角を吊り上げながら笑った。
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一方、対空兵器の排除に向かったリーズレットは苛立ちを露わにしていた。
何故かと言えば、マギアクラフト隊が対空兵器に爆薬をセットして人が近寄った瞬間に爆発するブービートラップを仕掛けていたからだ。
これにより、対空兵器を確保しようとしたリリィガーデン王国軍の兵士が近寄った瞬間に大爆発を起こした。
敵の新型兵器は木っ端微塵。味方の兵士も数名が死亡した。
イーグルを撃墜するほどの新兵器ならば持ち帰って解析に回したいところであったが、全て自爆してクソの山に変わったのである。しかも味方数名を道連れにして。
リーズレットとしてはコケにされたような気持ちだろう。
ブービートラップは彼女のオハコでもある。それを逆に仕掛けられ、損害を受けた。
もはやリーズレットの怒りは爆発寸前。その煽りを喰らった憐れな豚は議事堂にいた共和国軍最高司令官と幹部達である。
ミニガンを連射して荒れ狂うリーズレットが議事堂前を確保すると、魔導車に積まれていた火炎放射器を持っていざ出陣。
「ブーブーブーブーうるさいですわねえええええッ!!」
「丸焼きですぅ」
隣を共に歩くサリィも同じように火炎放射器を装備して、議事堂内にいた共和国兵を次々に焼いていく。
廊下に火が燃え移り、建物の中が燃え始めようがお構いなし。
ゴウゴウと凶悪な炎を吐き出す悪魔の如く彼女達は議事堂の講堂を目指した。
「オラァ! ですわよォッ!」
講堂へ続くドアを蹴破ると中には共和国の腐れ豚野郎共がたむろしていた。
「貴様等! ここで――」
「ファアアアアアアック!!!」
共和国軍最高司令官が何か言い出したがリーズレットは怒声を発してファイアクラスターマインをポイポイッと投げ込んだ。
コロコロと転がったマインはセンサーで共和国産の豚を見つけると、赤いランプを点滅させながら転がり出す。
グングンと加速して最前列で最高司令官を守っていた共和国兵の足元に到達すると中身であった小さな爆弾を撒き散らして爆裂。
束になった火花が散り、共和国兵の着ている服に飛び火すると一瞬で火達磨に変えた。
「ああ!?」
最高司令官は自分達を守る末端兵が火達磨になったのを見て絶望した。
震える手で銃を抜いたがもう遅い。リーズレットの持つ火炎放射器の大きな口が彼等へと向けられているのだから。
「クソですわッ! やっぱり外国産のクソ豚が燃える匂いはクセェですわねッ!」
やはり外国豚は品が無い。匂いで分かる。
「サリィ、全て焼いてしまいますわよ! 賞味期限切れの汚物は焼却処分するに限りますわッ!」
「はいですぅ!」
火炎放射器を持った2人は炎を吐き出しながら共和国軍に迫る。
共和国兵に、もはや逃げ場無しッ!
豚共は一切合切の差別無く。最高司令官だろうが、幹部だろうが、末端兵だろうが、全員等しく燃えて死んだ。
「おーほっほっほっ!! ロケットランチャーで爆殺する快感もたまりませんが、豚を直火焼きするのもまた赴きがあってよろしいこと!!」
共和国軍を燃やし尽くしたリーズレットは高笑いながら天井に向かって炎を噴射させた。
議事堂の中は炎で染まっていき、講堂の中に飾られていた共和国国旗に火の粉が飛ぶとジリジリと端から燃えていく。
国旗が焼かれ、だんだんと焦げ落ちていく様は共和国の現在を表現しているかのよう。
「リズ、楽しそうだなぁ」
議事堂の外ではコスモスとラムダが他の敵を寄せ付けぬよう待機していて、中から微かに聞こえたリーズレットの高笑いにラムダは嬉しそうに笑う。
2人の元にブライアンとマチルダが合流すると、リーズレットの居所を聞いた。
ラムダは親指で背後にある議事堂を指し示す。燃えていく議事堂の中からリーズレットが現れ、マチルダとブライアンは遭遇した黒い部隊について報告した。
「そう。ご苦労様」
報告を聞いたリーズレットは頬に指を当てて可愛らしく考える。
話を聞く限り、相手が装備していた黒いアーマーは共和国や連邦と違って前時代の名残を感じる。
恐らく黒い部隊はマギアクラフトの軍隊なのだろう、と。
入り口に張られていた広範囲の魔法防御。イーグルを撃墜した対空兵器。
マギアクラフトも本腰を入れて戦争に介入してきたようだ。それと同時にリーズレットは前時代に勃発した戦争と同じ匂いを感じ取る。
「これは時間を掛けている暇は無さそうですわね」
今回の兵器導入でマギアクラフトはリリィガーデン王国軍に……いや、アイアン・レディ製の兵器に成果を出した。
時間が経てば更に改良を加えられてしまうだろう。
そうならない為にも、早々に決着させる必要がありそうだ。
「となると、2つの拠点を早急に発見した方が良さそうですね」
コスモスの言葉にリーズレットは頷きを返す。
「ええ。アルテミスとユリィが残した物を回収しなければ、マギアクラフトに圧される可能性もありましてよ」
現状のナイト・ホークやイーグルといった兵器も現代にとってはオーバーテクノロジーに属する。
しかし、前時代から生き残って技術を積み重ねたマギアクラフトに勝つには更なるオーバーテクノロジーが必要だ。
最低でも前時代後期に登場したアイアン・レディの兵器が無ければ太刀打ちできなくなる可能性が見えた。
「共和国北部に向かいましてよ。予定通り、連邦に共和国人を送り込んでから拠点を探しましょう」
「「「 イエス、マム 」」」
読んで下さりありがとうございます。
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