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2 侍女との脱出は爆発を添えて


 この国の王子を殺したとなれば当然騒ぎになる。それが現王の尽きぬ性欲の果てに生まれた出涸らし四男坊であってもだ。


 ローズレットは学園から出て行こうとするが、即座に通報されて学園の警備兵に囲まれた。


 さすがの淑女でも素手の状態で20人の男に囲まれたら分が悪いだろうか?


 だが、彼女は見た。


 囲んでいる男達が手に持つ物を。


 魔法銃。魔法の弾を飛ばす銃だ。体内魔力が少ない男性でも威厳を保つ為に、旧時代の遺跡から発掘された遺物(レリック)を解析して開発された遠距離武器である。


「おーっほっほっほ! 頂きますわよォ!」


 ローズレットは銃を構える警備員の1人向かって、目を輝かせ高笑いしながら走り出す。急接近し、銃を持った腕を弾き首に拳を一撃。


 苦しんでいる間すぐに首へ腕を回して背後に回る。銃を持っている腕を持ち、警備員を肉盾にしながら男の指の上からトリガーを引いて魔法銃を乱射した。


 ローズレットが撃った魔法の弾が他の警備員に当たると腹に穴が開いた。反撃して来た弾は肉盾の警備員に着弾してローズレットは無傷。


 被弾して死んだ肉盾から銃を奪い、死体の背中を蹴って残りの警備員を即座に射殺する。


「ヒュウ! やっぱり銃は最高ですわね!」


 まるで容赦がない。慈悲もない。復活した淑女は犯罪者を捕まえようとやって来た警備員を全員等しく殺す。


 彼等にも家族がいる? 残された子供はどうなる? ローズレットには全くもって関係ない。


 彼女は平等だ。強者であっても、弱者であっても。己の敵は全て殺す。


 ただ、平等な殺戮を。蘇った伝説の淑女は学園前に小さな地獄を創る。


 追加でやって来た10人の警備員も奪った魔法銃を撃ち、ワンショットで首から上を消し去った。


「フォルム以外はご機嫌な武器ですわね。なんで私は今まで使ってなかったのでしょう?」


 銃の見た目が丸っこい。見た目がオモチャのようであまり好みではないものの威力は申し分ない。反動も少なく使い易い銃と評価できる。


 こんな銃が存在しながら、今まで抵抗しなかったのは何故だろうか。こんなにも簡単に敵を殺す道具が世界には存在するのに。


 そう改めて思ってしまうほど、彼女の頭はスッキリしていた。今まで頭にあったモヤが一気に晴れたかのように、清々しい気分であった。


 警備員から魔法銃のマガジンをいくつか奪い、財布から金を抜き取っていると魔石で動く車――魔導車が学園の前に停車した。


「ローズレット!」


 降りてきたのはローズレットの父親だった。彼の顔は真っ赤に染まっている。ブチギレてますよ、と一目でわかるほどに顔が怒りで歪んでいた。


「貴様ッ! 何をしているのだ!」


 王子を殺したと連絡が入って駆け付けたのだろうか。加えて、駆け付けた先には警備員の死体と死体を漁る娘の姿。


「貴様はッ! 貴様はッ!!」


 言葉にならない怒りとはこの事だろう。女のくせに何をしているんだ、と言いたいのかもしれない。


「私の手で殺し、陛下の前に晒さねば私も同罪になってしまう!」


 実の娘に向かって魔法銃を向ける父親。だが、ローズレットは動じない。それどころかニコリと笑った。


「それは大変ですわね? でも、安心なさって下さいまし」


 父親が撃つよりも早くトリガーを引いたローズレット。彼女の放った弾は父親の腕に当たった。


「ぎゃあああ!」


 腕が吹き飛んだ父親は悲鳴を上げて地面に転がった。血が噴き出る腕を抑えていると、彼の頭上に影がさす。


 顔を見上げれば娘が見た事もない笑顔で笑っていた。


「今すぐ死ぬので問題ございませんことよ?」


 パン、と顔面を吹き飛ばされた父親は死んだ。


 頬に返り血を浴びたローズレットは頬を手で拭って魔導車に乗り込む。魔導車を運転して自宅に戻り、屋敷のドアを開けると彼女を見たメイドや執事から悲鳴が上がった。


「お、お嬢様!? そ、それは……!」


 返り血を浴びて服が赤く染まった姿を見たメイドが問い、


「お、お嬢様! 旦那様は……!」


 当主が乗って来た車で帰宅した彼女に対して問う執事。


「豚なら殺しましたわ。以降、貴方達も身の振り方は好きになさってよろしくてよ」


 メイドと執事の質問をまとめて答えた。加えて、奴隷身分にある彼等に自由を与える。


 当家は今日で消滅。よって、好きな場所に行けと命令を下して2階に上がった。


「お、お嬢様~!」


 そんなローズレットを追いかけてきたのは黒色の侍女ドレスに白いエプロンを付けるサリィだった。


 ローズレットは現在18歳だがサリィとの付き合いは8年になる。彼女はオーガスタ家に買われ、それ以降はローズレットの侍女として共に生活を送っていた。


 彼女にとって15歳のサリィは唯一気を許せる妹のような存在。灰狼族のサリィは灰色でモフモフな尻尾と耳、セミロングに切りそろえた髪をふりふり揺らしながらローズレットに追いついて問う。


「お、お嬢様! どうしたんですか! どうしちゃうんですか! これからどうなっちゃうんですか~!」


 もう混乱して仕方がないといったところか。


「落ち着きなさい。淑女はいかなる時でも慌てないものでしてよ」


 キリッとした顔でそう言ったローズレットの顔をサリィはジッと見上げた。 


「お嬢様、何か変わりました?」


「ええ。私、思い出しましたのよ」


 全てを。


 そう思うローズレットにサリィは「何を」とは問わなかった。


「お嬢様! お嬢様がどこかへ行かれるなら……私も連れてって下さい!」


 少々顔を伏せがちにそう言ったサリィ。メイドと執事を自由にした命令を聞いた彼女は、自分もお役御免になると思ったのだろう。


 だが、彼女の気持ちは違う。姉のようで、立場が弱くとも弱音を吐かず、いつも美しくいたローズレットとこれからも一緒にいたかった。


「よろしくてよ。その代わり、私の事はこれからリーズレットと呼びなさい」


「リーズレット……? 改名なさるのですか?」


 サリィは逃げる為の改名なのだと思い、頷いた。


 何度も小さな声で「リーズレットお嬢様、リーズレットお嬢様、リーズレットお嬢様」と繰り返して、頭に新しい名前をインプットする。


「かしこまりました! リーズレットお嬢様!」


「よろしい。サリィ、まずは家にある金品を集めなさい。それと貴方の服もバッグに詰めなさい」


「はいですぅ!」


 サリィが宝石や金を集めている最中、ローズレット改め、リーズレットは自室にある洗面所で服を脱いだ。


 全裸になって返り血が付着した顔を洗う。タオルを濡らして全身の汗を拭く。


 姿見に映った全身を見て、


(前よりは少し大きいですわね)


 前よりもスタイルが――特に胸が前よりも少し大きい事を確認して、旦那様獲得の武器が増えた事を喜ぶ。


 緑色のエメラルドのような瞳も特徴的だ。我ながら容姿は美しい、と自画自賛。


 最後にプラチナブロンドのロングヘアーをどうしようか悩んだ。アイデンティティである巻き髪を作ろうにも道具がない。


 作るなら本格的にやりたいと思うリーズレットは、今回はピンを使って後ろ髪をアップにまとめるだけに留めた。


 ヘアスタイルをセットし終えると全裸のままクローゼットの前に行き、両開きの扉を開く。


 ズラッと並んだドレスの中から彼女は、内側に黒いレースの装飾生地と赤色の外生地が縫い合わされた赤いドレスを選んだ。 


「うん。やっぱり、これですわね」


 元々は王国男子の為に媚を売る為に用意されたドレスであるが、ドレスの作りは上等。


 娘を政争の道具、成り上がる為に上級貴族へ貢ぐ性処理道具としか思っていなかった豚も金に関してだけは少しは役立つ。


 着替え終えると、倉庫から魔石を取り出して工作を始める。工作を終えたら、まだ玄関でオロオロしていたメイドと執事全員に最低限の金を配った。


「これしか渡せませんが、あとは各自好きになさい。故郷へ戻るなり、貴方達は自由ですわよ。さぁ、お早く王都から脱出なさい」


 使用人達を屋敷から残らず追い出して、屋敷の各所に手作りの『ブツ』をセットした。


「お嬢様! 準備できました!」


「よろしい。では、参りましょう」


 屋敷を出て魔導車に2人で乗り込む。魔導エンジンをスタートさせて、アクセルを踏んだ時――


「容疑者発見! かくほうぎゃあああ!?」


 淑女は躊躇い無く轢いた。ガタンガタンとタイヤが人の体を踏むと車体が少し浮いた。


「お、お嬢様!? 今、人を轢きませんでしたか!?」


「人は轢いていませんわよ。豚なら轢きましたけどね?」


 サリィにニコリと笑って今度こそ屋敷の敷地内から飛び出すと、運転しているローズレットはボタン付きの魔導具を助手席のサリィに渡した。


「サリィ、それを押してごらんなさい。とても素敵な事が起きますわよ」


「え? はい!」


 ポチ。


 押した瞬間、背後にあった屋敷が大爆発した。爆炎と煙が舞い上がって街の至る所から悲鳴が聞こえ始めた。


 爆発させた張本人は口を半開きにしながら尻尾と耳をピンと伸ばし、車内から爆発現場とリーズレットの顔を交互に見た。


「どう? 最高でしょう? これで貴方も淑女見習いでしてよ?」


「え、えへぇ……」


 ニコリと笑うリーズレットにサリィは冷や汗を流しながらぎこちない笑顔を浮かべた。


 運転するリーズレットはそのまま王都の外へ続く門を目指す。門には警備隊が門前をバリケードで封鎖していたが、スピードを上げてそのまま突っ込んだ。


「待て! 止まれ! 止まれえええ!! へ?」


 叫ぶ警備隊。リーズレットは窓を開けてポイと小包を男に投げる。投げ終えて、胸の谷間から取り出した新しいボタン付きの魔導具をサリィの膝に置く。


 アクセルペダルはベタ踏みのまま。バリケードを突破して王都の外へ出た。


「サリィ。もう一度ボタンを押しなさい」


 ポチ。


 ズドンと門で大爆発が起きた。屋敷と一緒だ。投げた小包は魔石と薬剤を合わせて作った即席爆弾。


 リーズレットは窓から手を出して中指を立てる。


「キィス、マァイ、アァァァスッ!!」 


 ヒャッハーと笑う淑女。ボタンを押したサリィは爆発した門と高らかに笑うリーズレットの顔を交互に見て、


「え、えへぇ……」


 やっぱりぎこちなく笑った。



読んで下さりありがとうございます。

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