68 サマーバカンスBOOM!BOOM!
リリィガーデン王国がある大陸の気候は夏と呼ばれる時期が特に長い事が最大の特徴だろうか。
これは前時代からも変わらず、1年間のほとんどが夏のように暑い時期が続く。
春が4月頃まで、そこから急激に気温が上昇。11月まで暑い日が続き、また急激に気温が下がって11月半ばから曇りや雨の日が多くなる。
12月に入れば雪が降って2月頃まで耐え難い寒さが続くと2月半ばからまた気温が上昇していく……と毎年同じサイクルを繰り返すのだ。
何故、こんな話をしたかといえばリーズレット達がバカンスへと出発した日、遂にリリィガーデン王国の気象予報士が『夏』の始まりを宣言したからだ。
今日をもってリーズレットの夏が始まる。
ギンギンに肌を刺すような日差しが降り注ぐ中、お供を連れてバカンスへ出発したリーズレットはサングラスをかけたサリィが運転するスポーツカータイプのオープン魔導車の助手席に乗っていた。
いつもの赤いドレスを脱ぎ、今日に限っては赤色のキャミソールとデニムタイプのハーフパンツという淑女らしからぬラフな格好。サリィと同じくサングラスをかけたリーズレットは後部座席側へシートを倒し、腕を頭の後ろに組んでダッシュボードの上へ足を延ばす。
敢えて肌を刺すような日差しを浴びながら、魔導車のクーラーから出る風と備え付けた扇風機の風、魔導車が動く事で感じる外の風をごちゃ混ぜにして感じ取る。
リーズレットはモゾモゾと体を動かし、後部座席にあったクーラーボックスを開けた。
中には水と大量の氷。キンキンに冷やされた瓶のモヒートを取り出して、置きっぱなしになっていた栓抜きでキャップを開ける。
涼しい風を浴びていても尚暑いと感じてしまう日差し。その状態でこのモヒートをゴクリと一口。
思わずリーズレットの口から「あ~、たまりませんわ」と声が漏れた。淑女らしからぬ声であるが、今日のようなバカンスでは許されてしまう。
まさに夏だ。これこそ、バカンスにうってつけの夏。
この状態でカーステレオからパリピ感をマシマシさせる、エレクトロでノリノリなクラブミュージックでも流せば完璧か。
日焼けを気にせずにこうして過ごす事こそがバカンスへ向かう道中ならではの醍醐味。彼女なりの楽しみ方。
そんな彼女のお供達は、ラフな彼女と違ってちゃんと服を着ている。
左側で並走する魔導車には緑色から黄土色に変わった戦闘服を着て、頭には同じ色のジャングルハットを被ったマチルダが。
右側で並走する魔導車には青いドレスを着たコスモスとブラックチームの面々が。
彼等の後ろには黄土色の大地に合わせた迷彩柄の戦闘服を着た軍人達が30台の新型武装魔導車に乗って後に続く。
空には軍がリーズレットから買ったイーグルが彼女等の列を追い越し、先行して目の前にある施設へと向かって飛んで行った。
それもそのはず。前の前にあるのは南部戦線を支えるグリア共和国の前線基地、マードック伯爵が支配していた街を攻撃された事によって共和国軍が新たに建設した最新施設である。
リリィガーデン王国南部戦線の防衛地であった基地と元マードック伯爵領土の街の間に作られた基地が、小さいながらも目視できる距離にあった。
「マム! 攻撃を開始します!」
何度も言うが、リーズレットはバカンスに向かう途中だ。
暑い夏は海でのバカンスに限る。でも今は戦争中。だったら南部の海に向かう途中、ついでに南部戦線を押し上げれば良いじゃない。
そんな彼女らしい考えで対峙しているグリア共和国軍はどう思うだろうか。
しかし、彼等の気持ちなどお構いなし。
リーズレットはマチルダの叫びに対して声は出さず、モヒートの瓶を口に当てながら人差し指と中指の二本を相手の基地に向けて指し示す。
「イーグル。攻撃を開始。相手を基地の中に留まらせろ」
彼女の無言なる攻撃指示を受け取ったマチルダが先行したイーグルに指示を出す。
小さく見える基地の上に先行していったイーグルが攻撃を開始したのだろう。リーズレットの耳には機銃の発砲音と基地の中で爆発が起きる音が聞こえた。
「後続車両、攻撃準備だ」
続けてマチルダは後続車両30台の内、最後尾に位置していた5台の魔導車――多連装ロケット砲を積んだ自走多連装ロケット砲魔導車へ指示を出した。
彼女の指示を受けて、ロケット砲魔導車の運転手は8連装発射機を起動。走りながらも積まれた発射機は斜め上に可動して、リトル・レディから送られる観測データを参照して自動で発射角を設定。
あとは助手席にいる者が発射ボタンを押すだけだ。何ともお気軽で簡単な殺戮兵器だろうか。
前進するリーズレット隊の最後尾から破壊力抜群の大型ロケット弾が敵基地に向かって一斉に発射され、空からズンドコと降り注ぐ。
一時退避したイーグルが空から命中を観測してマチルダへと報告。基地には命中した証として大爆発と共に大量の土煙と建物の残骸が空へと舞い上がった。
『敵基地沈黙』
土煙が晴れると敵の基地には巨人が手で大地を抉ったかのような跡があった。基地の内部はズタボロになり、建設されていた宿舎や見張り台などは跡形もなく吹き飛んでいる。
基地の敷地内にいたグリア兵が無事とは到底思えぬほどの瞬間殲滅力。これがリリィガーデン王国の新兵器だと見せつけた。
『仕上げを行います』
そんな状態にも拘らず、空に浮かぶイーグルはダメ押しとばかりに基地の敷地内に向けて機銃掃射。
もう人の声は聞こえない。機銃の発砲音と辛うじて残っていた建物が壊れる音が地上に響く。
10分……いや、5分と掛からずに敵基地は消滅した。
「マム! 掃討完了です!」
「ご苦労様。先を急ぎましょう。海が私達を待っていましてよ」
マチルダの叫びに対し、リーズレットはモヒートを飲んで暑い日差しを肌に受けながら言った。
何度も言うが、彼女はバカンスに向かう途中なのだ。
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リーズレットが最終目的地として定めたのはマードック伯爵が元々統治していた街から南に徒歩数分の場所にある海辺であった。
グリア共和国が攻め入る前はリリィガーデン王国領土内となっていて、戦争が始まる前は国内向けのビーチにしようと計画していた事もあり、街からも近く立地としては非常によろしい。
もしも、マードック隊が街を占拠していなかったら。戦争なんぞ起きていなかったら。
この海辺は開発されて国内観光客で賑わっていただろう。
しかしながら、バカンスに来たリーズレットとしては丁度良い。誰もいない綺麗で白い砂浜を独り占めできるからだ。
自然に生えたヤシの木と爆発音が聞こえてくる街を背景にしながら、リーズレットは赤いビキニを纏ってビーチパラソルの下にあるサイドテーブル付きのリゾートチェアでくつろぎ始めた。
「お嬢様。ドリンクができましたよ~」
白い砂浜の上に作られた簡易バー。
机の下に様々な種類の酒瓶や果物の入ったクーラーボックスが置かれ、カクテルを作る為の道具が用意された場所から『さりぃ』と名札の入ったスク水姿のサリィが、グラスに注がれたトロピカルジュースを持って来てくれる。
「ありがとう、サリィ。貴女もバカンスを楽しみなさい?」
「はいですぅ」
パラソルの下でサングラスをかけながらジュースを受け取ったリーズレットはサリィを隣のリゾートチェアに誘う。
何度も繰り返し言うが、彼女達はバカンスにやってきたのだ。
ストローでジュースを一口飲んで喉を潤すリーズレットの隣に、サングラスをかけたサリィが横になる。
お嬢様と侍女という間柄ではあるものの、バカンスである今は2人揃って安らぎを楽しむ。
「あー……気持ちいいですわねー……」
パラソルで日差しを遮った事で青空から降り注ぐ心地よい夏の気温を感じられ、海から押し寄せる穏やかな波の音は彼女達の心に平穏を与える。
「こんなにのんびりするのも久しぶりですぅ~……」
そして、リリィガーデン軍が一新された装備と新兵器を使って元マードック伯爵領の街を再占拠する戦闘音がビーチの背後から聞こえてくるのだ。
前方には何とも平和な青い海の景色。前時代にあった街が海に沈んだのか、海の底から飛び出た背の高い建物の頭がちょっぴり見えて世界が再スタートした証拠が感じられる。
ただ、それも静かで誰も知らぬ秘密のビーチといった雰囲気にマッチしていてプライベートビーチ状態の雰囲気を損ねてはいなかった。
そんな目の前の景色をのんびり楽しむ2人の背後からは、ドッカンドッカンと響き渡る爆発音と銃撃音。時折聞こえる豚共の悲鳴が心地良い。
本当に前方周囲180度、他人は誰もいない。お供であったマチルダ、コスモス、ブラックチームと他の軍人達は全員揃って街の再占拠に向かって行った。
情報部曰く、空から死体が降る街と噂された場所はグリア共和国貴族達の中で気味悪がられ、最低限の共和国軍人達だけで防衛されているそうで。
故に前線基地を新たに作ったのだろう。その基地も数時間前に吹き飛んだが。
「今夜はここでバーベキューをしましょう」
「賛成ですぅ」
夏を楽しむリーズレットは彼等が帰還した後の予定を呟き、サリィはそれに同意した。
薄気味がられた結果、統治する貴族も軍の指揮官もいない街だ。リーズレット抜きで再占拠するとしても、そう長くは掛かるまい。
リーズレットのやり方を学んだマチルダとコスモスが全体の指揮を執っているので街にいる共和国人がどうなるかは想像するに容易い。
北部にあった元マチルダの領地街と違って既にリリィガーデン王国国民も全て脱出済みだという。
理由は3ヵ国のうち、グリア共和国だけが南部戦線を押し上げるタイミングが遅かった。
北部と東部戦線が始まり、共和国が2ヵ国へ支援をしているという情報を掴んでから早急に国民を首都方面に退避させるようガーベラが命じたのが功を奏した。
つまりは、北部の時と違って国民が人質になっていない街は好きにして良いという事である。
街を占拠する軍人を1人1人排除して、共和国人を追い出してから拠点として使っても良し。
面倒ならばロケット弾で街全体を更地に変えても良し。
どちらにせよ、戦争で人口が減少してしまったリリィガーデン王国の国民が再びこの地で暮らすには少々の時間を要するだから。
「お嬢様、泳がないんですか~?」
「あ~……。こうしてグダッとしているのが……。もう少しこのまま寝転がっていたいですわね~……」
サリィの問いにまどろみながら答えるリーズレット。
普段の彼女からは想像も出来ぬような気の抜けよう。だが、それで良い。
何故ならバカンスだからだ。背後で爆発音と銃撃音が鳴り響き、豚共の悲鳴が聞こえようとも、彼女達はバカンスに来たのだ。
リリィガーデン軍が海側へと続く道を封鎖して、ビーチにいる2人をガッチリガードしてはいるものの。敵地となっている海辺で少々気が抜けすぎではないかと思うだろう。
しかし、リーズレットは抗えない。この優雅でのんびりとしたバカンスタイムに。
「あー……たまりませんわね」
彼女はサイドテーブルに置いてあったグラスを手に取って、ストローをチュウと吸った。
夏特有の暑い気温で熱した体にキンキンに冷えたジュースが浸透していく感覚がたまらない。
「さいっこうですわぁ……。これでイケメンにでもナンパされればもっと最高ですのに……」
「残念です~。でも、私がいますよぉ~」
「ふふ。そうですわね。貴女と過ごせて嬉しいですわよ」
「えへへぇ~」
残念ながらビーチにイケメンはいないが、信頼するサリィがいる。女2人きりでビーチを独占するのも悪くはない、と彼女達は笑った。
伝説の淑女すらも抗えぬ、夏のバカンスが与える心地良さ。人を堕落させる魔のひと時。
リーズレット、2周目の18歳。彼女は信頼する侍女と共に最高の夏を満喫していた。
読んで下さりありがとうございます。
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