59 中央突破
ラディア王国内に進軍したリーズレット率いるリリィガーデン王国軍は領土内中央に位置する王都を目指して中央突破を続けた。
まるで敵の腹に剣を突き刺すような鋭い進軍。当然、ラディア王国も指を咥えて見ているだけなんて事はしない。
次々と街を落しては住民を皆殺しにしていくリリィガーデン王国軍を包囲しようと、東と西に位置する領主軍に相手の背後を取るよう通達。
中央からの指示通りにリリィガーデン王国軍の背後を取った東西の領主軍は王都近郊にある最終防衛地点で包囲網を完成させるつもりだった。
「マム。後ろから大軍が包囲するよう動いているとの情報が入りましたが」
同行する情報部の1人がサイモンから得た情報をリーズレットに伝える。
前には堅牢な要塞、後ろには2万を超える軍隊。前後左右に身動きが取れなくなれば、軍としては致命的な位置取りとなるだろう。
しかし、伝説の淑女は一味違う。
「だったら前にある要塞をクソに変えてしまえばよろしくてよ」
動けなくなりそう? だったら動けるようにすれば良いじゃない。
どんなに巨大な要塞であろうとも、打ち崩せる自信があるリーズレットだから言える一言だろう。
彼女はやや円形をした巨大な要塞にある魔導兵器射程外に軍を展開させる。
「パーティータァイム」
そして、彼女は軍のほとんどを待機させてセーフハウスで回収したショットガン片手にコスモスの運転する魔導車で突っ込んだ。
それに続くマチルダ隊の男達。最早、恐れを感じずにリーズレットと共に敵と突っ込める彼女等はリリィガーデン王国軍の立派な斬り込み部隊と言えるだろう。
ただ、要塞には様々な魔導兵器が用意されており、平地を簡単に抉るような砲台だって存在する。しかし、彼女には頼もしい味方がいるのだ。
「ふぁっきゅーですぅ!」
そう、ラディアの空を支配する侍女長が。
地上を走るコスモスが操る魔導車と連動するように空を舞い、要塞の魔導兵器に向かって威嚇射撃開始。
要塞の2階外周に配備された魔導兵器を壊そうとはせず、敵の視線を空へと釘付けにして華麗なテクニックで魔導兵器の攻撃を躱す。
『チーフ、ロックオンされました』
魔導兵器の1つ、敵を自動追尾する炎の弾がヘリを捕えた。
「魔導フレア展開ですぅ」
シュポポ、とヘリのケツからフレアが展開。自動追尾してきた炎の弾がフレアに直撃して霧散した。
前時代からある対魔導兵器用の防御装置だが、魔素や魔石のエネルギーがある限り無限に撃てる魔法と違ってこちらは有限。
フレアの使用回数は決まっていて、そう長く誤魔化せない。
しかし、地上にいるリーズレットがサリィを信頼しているように、サリィもまたリーズレットを信じているのだ。
その証拠にリーズレットとコスモスはマチルダ隊の男共を引き連れて、要塞まで残り数メートルといったところまで接近。
マチルダ隊の男が魔導車の銃座にある機関銃で要塞の壁に穴を開け、別の男が停車した魔導車から飛び降りると火炎放射器を手に走り出した。
「丸焼きにしてやるぜぇ~!」
ヒャッハーッ! と言わんばかりに要塞内へと炎を噴射。ラディア兵の悲鳴が響く。
追加のグレネードを投げ込んで内部を爆発させると、ショットガンを構えたリーズレットが先頭で突撃開始。
「おーっほっほっほ! ご機嫌麗しゅう~!」
穴の空いた外壁から要塞内部へと侵入すると、爆発から逃れようと要塞内部の通路で団子になっているラディア兵にショットガンを連射。
体がバラバラになった豚共を踏み越えて、弾が無くなるまで通路に現れる豚を殺し続けた。
要塞1階部分は敵が侵入しても良いように狭い通路が複数あって、迷路のような状態になっているようだ。
侵入したリーズレット達は要塞の中央を目指して前進を開始。敵が侵入者を排除しようと通路の曲がり角に潜み、彼女達が見えたら角から攻撃をするというパターンを繰り返す。
が、角から顔を出した瞬間にリーズレットのショットガンに撃ち抜かれ、追加のグレネードで木っ端微塵。そこで死ななくとも前進して来た彼女達に撃ち殺される未来が待っていた。
それを繰り返しながら通路を進む。弾切れになったら背後で列になっているマチルダ隊の男へショットガンを投げ渡し、ベルトで吊り下げていた新しいショットガンに構え直す。
「コンタクトッ!」
要塞内に張り巡らされた通路を熟知しているラディア兵は突入したリーズレット達の背後を取ったが、そんな事など想定済み。
前方から挟み込もうとしてきた者はリーズレットに、背後に回った者はコスモスに体を出した瞬間撃ち抜かれる。
2人の女性は丁度真ん中にいる男へ空になった銃を渡し、リロードを任せる。
通路を前進しながら弾切れになれば男達がリロードを終えた銃を渡す。この流れるような連携の繰り返しで内部を進み、2階へと続く階段を確保した。
「組み替えなさい、貴方と貴方は頭上警戒!」
「イエス、マム!」
ここからは男達もリロード係から銃撃担当にシフト。全員が銃を構え、前後に銃口を向ける女性達に加えて階段の上を警戒する男の陣形が作られた。
2階に到達すると外周を目指す。目的地は敵が使う魔導兵器の設置場所だ。
2階部分は兵士が生活する場所も含まれているのか、1階と違って複雑な造りにはなっていない。通路も幅が確保されていて、円形に続く通路と中央に複数の部屋が区切られているような造りになっているようだ。
ラディア兵が使う防衛の要となる魔導兵器へと続く道は敵兵の守りが厚い。
通路をピタリと塞ぐように盾を構えたガタイの良い盾兵が並び、彼等の肩越しに魔法銃の銃口を向けた銃兵がリーズレット達の前に現れる。
「ホッホーウ! ファッキンハレルゥーヤァ!」
何とも呆れてしまう。学習しない神の崇拝者共。
背中越しにグレネードランチャーを手渡されたリーズレットはポコンと軽快な音を鳴らしながら、敵兵の頭上目掛けて4連射。
頭上で爆発したグレネードは盾兵を吹き飛ばし、天井に穴を開けた。
吹き飛ばされた者、崩れた天井の下敷きになった者。被害は大きいが辛うじて無事だった者も存在する。
鼓膜が破れたかのような感覚に陥りながらも根性を見せた銃兵は銃口を向け直すがもう遅い。前進して来たマチルダ隊に撃ち殺されて2階の外に続く道が開かれる。
「野郎共、外にいる豚共にご挨拶をなさい」
「「「 ハロー、ファッキンハレルヤー! 」」」
男達はリーズレットから教わった『豚でも理解できる簡単な挨拶』を叫ぶと同時に道へとグレネードを投擲。入り口の外側左右で待ち構えていたラディア人の悲鳴が木霊する。
瞬間、リーズレット達は駆け出す。2階部分にある外へと突き出た場所――魔導兵器の設置場所に飛び出すと、全員が反転しながら左右に銃口を向けて掃討開始。
まずは入り口で彼女等を待っていた敵兵を殺すと、次は外にあった木箱や魔導兵器を盾にしたり、置かれていたテーブルを倒して遮蔽物にして防衛隊との戦闘が始まった。
戦闘時間は10分も掛からない。淑女による華麗なダンスに圧倒された豚共は、額にクソ穴を開けて神のお膝元へと向かう列を作る。
増援が来る前に設置された魔導兵器を確保するとリーズレットは手を挙げてマチルダ隊の男へ指示を出した。
「合図を出しなさい」
「イエス、マム!」
魔導兵器の前で体勢を低くしながら防御陣形。マチルダ隊の男がホルスターから信号弾入りの銃を取り出して空へと撃つ。
空に赤い合図が上がると、射程外に展開していたリリィガーデン王国軍全隊が要塞へと殺到。
空中にいるサリィは上空を旋回しながら3階部分に機銃掃射を開始した。
「空の敵をどうにかしろォォ! 魔導兵器はどうしたんだァァ!?」
3階に司令室や士官の待機所があるのか、無駄に勲章を見せびらかす勘違い豚野郎特有の悲鳴が響く。
要塞内にいたラディア兵は魔導兵器が無ければ向かって来るリリィガーデン王国軍に対処できない。
魔導兵器を迅速に取り戻す事が彼等の生き残る道である。
機銃掃射から逃れたのであろう敵兵が3階方向からゾロゾロと階段を下ってやって来た。
確保した場所の正面にある入り口に殺到する敵兵を撃っていると、どうやら2階外に至る別の道があったようだ。
2階外の右側に続く別ルートを通って、リーズレット達の横っ腹を突く形で敵兵が登場。
「敵は少数だ! 怯むな! やれあぎゃ」
完全に不意打ちを仕掛けられたと思っていたラディア兵指揮官の顔が、どこからか飛んできた銃弾によって弾け飛ぶ。傍でそれを見ていた別の兵士も同様に頭部を失くして死んだ。
正面入り口を注視しすぎて横に伸びた通路の警戒を疎かにして、敵兵に撃たれそうになっていたマチルダ隊の男を救ったのは彼の上官。
銃弾が飛んできた方向にいるのは、彼等と一緒に突撃せずに要塞から離れた場所にある狙撃ポイントで待機していたマチルダだ。
彼女はリーズレット達を狙うラディア兵を1人、また1人と確実に撃ち抜いた。
「オラ、死ねッ!」
魔導兵器を守るマチルダ隊の男達も勢いに乗ったのか銃とナイフを使って敵兵を圧倒。敵の喉にナイフを突き刺し、敢えて突き刺した兵士を肉の盾にする事で他のラディア兵へ恐怖を与える。
随分とリーズレット流の戦い方が染み付いてきたようだ。
「ヒュウ! 素敵な見習いジェントルマンに成長してきましたわね!」
リーズレット達の防衛、突入してきたリリィガーデン軍の奮闘もあって要塞を完全占拠。全隊を要塞に集めて、後方からやって来る東西ラディア軍を待つ。
街から従軍するロウも弾薬を運んだりと大忙しだ。
「敵軍、見えました!」
すぐ近くまでやって来ていたのか、東西ラディア軍がやって来るまでそう長く掛からなかった。
ただ、相手からしてみればこんなにも早く要塞が堕ちている事が想定外だったろう。彼等は不審に思ったのか、要塞にある魔導兵器の射程外で全軍停止した。
「よろしい、見せつけておやりなさい」
リーズレットの合図で要塞で捕まえた敵兵を外に向かって一斉に投げ捨てた。
手足を縛られたラディア兵は空中を一瞬だけ泳ぐが、拘束されていてはどうにもならない。地面に激突すると無慈悲な死が与えられるだけ。
それを見ていたのだろう。仲間が無残にも死んでいく様を見過ごせなかったのか、東西ラディア軍は要塞に向かって前進を開始。
「豚が釣れましたわよォ~!」
おーっほっほっほ、と笑うリーズレットの傍らで要塞に残された魔導兵器を一斉起動するリリィガーデン軍の技師部隊。
向かって来る東西ラディア軍へと一斉射撃を始めた。
「自分達で配置した兵器に殺されるとはどんな気分なのでしょう?」
「信じていた神にケツを蹴飛ばされるような感じでは?」
マチルダがそう返すと、リーズレットは「それは愉快ですわね」と笑った。
王都を守る最終防衛地。
特別堅牢に作られ、質も最上級の魔導兵器を配備。国を侵略せんとする敵を討つ為に建設された場所を奪われ、そこから自前の兵器で狙われるとは何とも滑稽だ。
しかも、東西ラディア軍はそれを突破できずに阿鼻叫喚となっているのだから更に笑える。
リーズレットは男達が用意してくれたパラソルの下にある椅子に座り、ロビィとヘリの操縦を代わって傍に控えていたサリィにお茶を用意してもらった。
双眼鏡で敵の様子を覗き込みながら優雅なティータイム。
魔導兵器の爆撃音から一拍遅れて届く敵兵の悲鳴が心地良い。馬鹿みたいに前進してくる……いや、前進せざるを得ない東西軍は魔導兵器の餌食となってどんどんと数を減らしていった。
魔導兵器を突破しても良いように上空にはロビィが操縦するヘリも待機しているものの、この分はロビィの出番はなさそうだ。
「やっぱり、敵の悲鳴を聞きながら飲む紅茶は格別ですわね」
リーズレットが紅茶を口に含むと薔薇の香りが広がった。
優雅なティータイムに洒落込む彼女の傍では男達がライフルで1分間に何人のラディア兵を殺せるかを競い合う。
「俺の勝ちだな!」
「かぁ~! ちくしょう!」
阿鼻叫喚の悲鳴を上げる敵兵。ワハハと笑い合うマチルダ隊。
天国と地獄とはまさにこの事か。敵兵も必死に前進している中、相手が笑いながら的当てゲームとティータイムを楽しんでいるなど思うまい。
しかし、敵兵の中にも気合の入った豚がいるようだ。
一台の魔導車が爆撃を抜けて要塞へと向かって来るじゃないか。
「まぁ」
わざとらしく驚いてみせたリーズレット。彼女は知らぬが、この単騎特攻する魔導車の中にはラディア王国の東を統括する貴族の長男が乗っていた。
東ラディア地方で武勇を轟かせ、ラディア軍の猛将と呼び声高い男である。
神の為にもリリィガーデン王国なんぞに負けぬわッ! と気合を入れて特攻した次第である。
「お嬢様。どうぞですぅ」
「ありがとう、サリィ」
しかしながら、猛将の前に立ちはだかるは伝説の淑女。頭のネジがぶっ飛んだ神をも恐れぬ世界の悪女。
サリィから受け取ったロケットランチャーを構えると容赦無くトリガーを引いた。
迎撃手段の無いラディアの猛将は乗っていた魔導車と共に爆発四散。クソの一欠けらも残さず木っ端微塵。
「ハッハー! イエエエエイッですわァ!! ファッキューサノバビィィッチ!」
リーズレットは空中を舞う魔導車の残骸に中指を立てて、豚神のケツにキスしに行く愚者をまた1人長蛇の列へと加えたのであった。
読んで下さりありがとうございます。
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