58 ラディア王国侵略
リーズレットとマチルダ隊が街を占拠した後、作戦通りにラディア人が次の街へと逃げ出すのを見守ってから進軍を開始。
数名は道中で魔獣に食われたのか、野生動物に襲われたのかは定かではないが遺品を見つける事もあった。
「リーズレット様。夕食ができました」
「ありがとう、ロウ」
進軍を続けながら野営を繰り返して街への道を急ぐ中、ちょっと甘酸っぱい空気を出して。
ロウが持って来たのは男共が作った色気が無い、適当な野菜と肉を鍋にぶち込んだだけの塩味スープ。
「訓練はどうかしら?」
「筋が良いと褒められました。すぐにリーズレット様のお役に立てるようになりますから!」
「ふふ、慌てなくてもよろしくてよ。十分に助かっていますわ」
「あ、は、はい……」
リーズレットは多少慣れたのか、頬を前ほど赤らめる事は無くなった。しかし、ロウは未だに彼女の美しさにやられてしまう。
初々しく、微笑ましいやり取りを見ていると、塩味のスープが甘く感じるのだから世の中は不思議に満ち溢れている。
地獄を創造するべく進軍する中であったが、リーズレットは充実した日々を送っていた。
2つ目の街が見えてくると、一気に加速。敵に捕捉された瞬間、相手がまだ心の準備を整える前に襲撃を開始。
逃げ出した者の一部が無事にラディア人の街へ辿り着いたのか敵兵の表情と動きには恐怖が見えた。
マチルダ達の故郷であった街よりも規模が小さく、こちらも首都から派兵された隊がいた事もあってあっさり陥落。
再び捕まえた軍人と一般人を生きたまま火をつけて。リリィガーデン王国軍は恐怖のキャンプファイヤーを囲んで愛しき国の国歌を歌う。
素敵な夜を過ごしながら後追いの部隊を待っていると――
『レディ、この街の付近はアイアン・レディのセーフハウスがあった場所です』
翌日の朝、街の中にヘリに搭載する兵器の弾薬補充を終えたロビィがそう報告した。
現在地は前時代に会ったリリィガーデン王国の前身である国の領土内。嘗て北部で活動する部隊が利用していたセーフハウスを設置した街が、ここから西に数キロ行った場所にあるらしい。
現在の地図を見るとその場所は既に街は無く、遺跡らしき痕跡も無いようだが……。
「行ってみましょう。そろそろノードを設置しなければリトル・レディとの通信範囲外になってしまいますわ」
情報収集の中核たるリトル・レディと通信できなくなるのは避けたい。幸いにもまだ後続部隊が到着するまで時間がある。来る前に探しに行こうという話となった。
それにノードを設置して通信範囲を増加させる為にもセーフハウスを探す事は重要目標の1つ。
首都から来た第一波の隊とマチルダ隊の男達に街の防衛を任せ、リーズレットはいつものメンバーにマチルダを加えてヘリに乗り込んだ。
ロビィの案内で上空から拠点のあった場所を探し、真上に到着すると確かに何もない。
嘗て、セーフハウスを設置していた街は山に囲まれた静かな田舎街。敵国相手に戦略的な情報を得る為の場所というよりは、大陸北端にあった国へ向かう為の中継地点として利用されていた場所だ。
聳え立つ山を背景に風車がカラカラとゆっくり回りながら、畑に実った小麦が太陽の光でキラキラ光るような……。まさに誰もが理想に思う静かな田舎街と表現すべき場所だった。
しかし、そんな美しい街の面影は存在しない。
地図上ではこの真下であるとロビィが言って、リーズレット達が下を覗き込むがそこには土しか存在していなかった。
とにかく着陸して、セーフハウスのあった座標真上に立つが……。
『埋まっているのでしょう』
ロビィの言う通り、そうとしか考えられない。
「掘りますわよ」
リーズレットは意を決して言った。ロビィがヘリに積んだ物資箱から折り畳み式のシャベルを持って来て、皆で掘り始める。
赤いドレスの淑女、青いドレスの見習い淑女とメイド服の少女に加えて軍服を着た女性とゴーレム。このメンツが汗をタオルで拭いながらシャベルでひたすら地面を掘っている光景はなかなか不気味である。
ひたすら、ただひたすら掘った。しかし、作業の合間に優雅なティータイムは忘れない。
昼前に到着してから掘り始め、ようやく痕跡を見つけたのは空が茜色から黒に変わりかけた頃。
マチルダが差し込んだシャベルの先端にカツンと何か固い物が当たった。
「何かありました!」
疲労困憊になる中、一筋の希望が見えた。皆でラストスパートと言わんばかりに掘り続け、見つけたのはマンホールのような入り口。
「これですわ!」
リーズレットが入り口に取り付けられていた端末に触れると淡く光を放つ。入り口の機能がまだ生きている証拠だった。
ロックを解除して入り口を開放。グググ、とゆっくり開いた入り口にあった梯子を下りると当時のままで残されたセーフハウスが。
「ここがアイアン・レディのセーフハウス……」
初めて実物を見るコスモスとマチルダは感動すら覚える。嘗て建国の母達がレディ・マムと世界を相手の国々を戦っていた頃に使っていた場所はどこか神秘的な雰囲気が漂う。
ベレイア連邦で見つけたセーフハウスのように中で争った形跡も、中の物を持ち去られてもいない。
セーフハウスに設置されていた機材は勿論、当時収集していた国の情報を記載したノートや補給用の銃と銃弾、ガジェットは偵察用の小型ドローンまで残っていた。
ただ、紙類は触れたら崩れそうなくらい劣化しているが。
「ロビィ、ここにノードを設置して再び隠しましょう。それと使えそうな機材は持ち出しなさい」
『ウィ、レディ』
ロビィが機材の調査とノードを設置している間、リーズレット達は銃と銃弾を外に運び出す。
運び出した銃の中にはリーズレットが大好きなショットガン本体とロケットランチャーの弾もあって、汗だくになりながら掘った甲斐があったとご機嫌である。
『設置完了です』
運び出しと設置を終えたリーズレットは外で端末を取り出してリトル・レディとの通信を試みる。
『ノードの起動を確認。通信システムのエリア範囲増加を確認しました』
ノードを設置したおかげか、通信状況は良好。範囲も増加してラディア王国全域で通信が可能となった。
「さて、また隠して帰りましょう」
入り口を再びロックしてから掘り返した土を被せ直す。作業が終わったのは深夜であったが、苦労に見合う収穫だっただろう。
街に帰還した後、ロビィは再びヘリを操縦してリリィガーデン王国首都へと飛ぶ。
回収した機材をリトル・レディのいる拠点に置いて、ナイト・ホークのリアクターに魔素を魔素供給タンクから補給するよう供給ケーブルをセット。
リアクターの充填には丸一日掛かるが、あと4時間もすれば軍は行動を開始するだろう。待ってはいられない。
マーガレット達がナイト・ホークを3機残してくれていた事に改めて感謝しつつ、別の機体に乗り換えて再びリーズレット達のいる街へ帰還。
こういったロビィの裏方作業がリーズレットを支えているが、今日は特に大活躍だったと言っておこう。
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一方、その頃。
「クソ、今更鉱山を取り返されただと? 使えん腑抜け共がッ!」
ラディア王国の王都ラディアにある王城では、城の主であるラディア王国国王――ヘルモンド・ラディアは自室で酒の入ったグラスを壁に叩きつけて不機嫌な様子を露わにしていた。
不機嫌な理由は1つ。
叫びの内容にもあった鉱山が再びリリィガーデン王国に奪われた事だ。
元々ラディア王国はマギアクラフトの手によって作られた国の1つ。西側の海を制する為に建国されたのだが、リリィガーデン王国の抵抗激しく彼等だけではどうにもならなかった。
同時に土地としてもあまり恵まれておらず、食糧生産などの国として基本的なシステムを構築するのに時間が掛かった事も要因の1つであった。
後手に回るラディア王国にようやくマギアクラフトの支援が行き届き、3年前に鉱山を奪う事に成功。
潤沢な鉱山資源の8割をマギアクラフトに収め、残りを国の輸出産業として。同盟国であるベレイア連邦とグリア共和国に輸出して、ようやく国が安定軌道に乗った状態であった。
次のプランとしてはベレイア連邦の動きに合わせ、リリィガーデン王国を侵略して首都を攻撃。奪った西側の港を運営して国としての価値を更に上げる……はずだった。
それがどうした事か。一日で鉱山資源採取の拠点となっていた街を奪われ、その数日後にはラディア王国領土内にあった街すらも奪われた。
自分達が崇拝する神の像は破壊され、神の使者たる街の住人達は次々に処刑されているという。
国としては前進どころか後退だ。
「クソ、クソ、クソ!」
ヘルモンドはドン、ドン、ドン、と何度もテーブルに拳を打ち付けた。
このままではマズイ。同盟国に不満を口にされ、3ヵ国の中で立場が危うくなるだろう。
現在、3ヵ国のパワーバランスは何とか保っているが……この知らせを受けた連邦と共和国から下に見られれば良いように使われる可能性が高い。
「どうにか巻き返しを……」
そう呟いた時、コンコンとドアがノックされた。中から答えると入って来たのは息子の嫁。
紫色の煽情的なナイトドレスに身を包み、褐色の肌を露出させた次期王妃となる少女――リリムであった。
「パパ、随分と荒れているね~?」
国の大ピンチにも拘らず、金髪の長い髪を耳にかけながらクスクスと笑う少女に一瞬だけムッとするヘルモンドだったが文句は言えず。
何故ならば……。
「うちの組織がさぁ。王都に魔導兵器を導入してくれるってさぁ~。良かったね?」
「ほ、本当か!?」
「本当、本当。ちゃんと言ったじゃん。口利きしてあげるって。これでも私は魔法少女なんだよ?」
そう、彼女はマギアクラフトの魔法少女。
5年前にヘルモンドの息子である王子と結婚させろと突然城に乱入。その代わりにマギアクラフトの支援を手厚くするよう口利きしてやると言い出した張本人。
国王ですら頭が上がらず、実質彼女が国の支配者となっているような状態だ。
「すまない、助かる……」
「いいって~。私、マジでハモンドにベタ惚れだし~? それにラディア人の男ってマジ好みの顔面してっからさ~。顔は良いけど、よわよわなラディア人守ってやんなきゃね~」
キャハハ☆ と笑い、何ともビッチなメスガキ感溢れる返答である。
事実、リリムは城にいる男を構わず誘惑して部屋に連れこんでいると噂が絶えない。
彼女を愛している息子も聞いて泣いていたが……、と胸の中で感想を漏らすヘルモンドだが彼女の機嫌を損ねる事は国の立場が危うくなるという事実に直結する。
よって、文句は言えない。何一つ、彼女の行動を咎める事はできない。
「んじゃ、私はハモンドとラブってくるんで~。届いた魔導兵器でリリィガーデンの奴等をぶっ殺しておいてね~」
ひらひらと手を振りながら退室していくリリム。
彼女の背中を見送ると、ヘルモンドは大きく息を吐く。
「これで……」
どうにかなりそうだ。
マギアクラフトという最大最強の組織が最新式の魔導兵器を投入してくれたとなれば、リリィガーデン王国なんぞすぐに撃滅してやろう、と。
ヘルモンドは部下を呼んですぐに軍の準備を急がせるよう指示を出した。
「安心して眠れるのは何日ぶりか……」
最近、心労で眠りが浅かったヘルモンドはようやく安堵する。
呟いた通り、彼の安眠は続いた。
1週間後、派兵した軍が全滅して王都近郊にある最終防衛地点が堕ちたという報告を聞くまでは。
読んで下さりありがとうございます。
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