57 キャンプファイヤー
ラディア王国に占拠されていたリリィガーデン王国北部の街――ローマインを奪還したリーズレット達。
まずは街の中にいる戦意喪失したラディア兵とラディア人を拘束して回る。
同時に別部隊が鉱山で強制労働を強いられ、現場の粗末な小屋で寝泊まりしているリリィガーデン王国民を救出。
自国民の安全を確保した後に、リーズレットはラディア人の商人達を全て集めた。
「財産を全て寄越しなさい」
拘束した商人達を地面に並べ、彼等の前でマチルダ隊に銃を構えさせての一言。有無など言わせぬ物言いに商人達は焦りを見せた。
一部の商人は財産を渡すから命は助けて欲しい。国に帰る手筈だけは整えてくれないか、などと商人らしく交渉を始めるが――
リーズレットは銃を構えるマチルダ隊のメンバーを見て一度頷く。その直後、勝手に交渉を始めた商人は撃ち殺される。
「私は豚とお喋りをするつもりはございませんわよ。さっさと財産を寄越しなさい」
そう言った彼女は商人達の家族を人質にして財産を全て奪い取った。独身で家族のいない者に対しては「お前の決断によって別のラディア人が死ぬ」と脅して。
奪い取った財産のうち、食糧や洋服などの生活用品は自国民へと分配される。
強制労働を強いられていた者達は3年振りに穴の空いていない服に袖を通し、満足のいく食事を子供へと与える事が出来た。
ラディア人が暮らしていた家も彼等に渡され、雨風が凌げる家で安心して眠る夜を迎える。
3日後、リリィガーデン王国首都から援軍第一波が到着。既に第二波が行動を開始しており、中には鉱山資源を回収する部隊も含まれているという。
1週間後には街を防衛するだけの人員が用意され、街の安全はこれで保たれるだろう。鉱山資源も確保して首都では軍装備一新の動きが早まる事が期待される。
と、ここでようやくお楽しみタイム。
第一波と共にやって来た情報部の軍人が尋問を終えたラディア軍人を対象にした『パーティー』を開催する事にした。
「さぁ、さぁ。皆様の内に溜まった3年物の鬱憤を晴らす時がきましたわよ」
彼女は用済みになった軍人を木の棒に拘束して、街の中央広場に設置。彼等が今回の主役である。
執行人は捕まっていた街の住人とマチルダ隊。
見届け人は尋問を終えていないラディア軍人と捕まえた一般人達である。
「何をする気だ!?」
「止めてくれ!! 止めてくれええ!!」
拘束された軍人達の足元には「よく燃える」ように用意された紙や小枝などが敷き詰められた。
ボロボロの服から小綺麗な恰好に変わった元住人の大人達が一斉に松明を持って泣き叫ぶラディア人へと怨嗟に染まった顔を向ける。
「俺達の家族がそう言っても止めなかっただろう!」
「私の旦那を娯楽だと言って殺したくせに!」
「俺の妹を返せッ!」
松明を持っていない者達は用意された石を掴み、拘束されている軍人へと投げつける。
石を投げられ、ボコボコにされた軍人達が呻き声を上げ始めた頃にリーズレットは本番開始の合図を叫んだ。
「さぁ! さぁ! キャンプファイヤーの始まりですわよ!」
彼女の合図と共に松明を持った大人達が一斉に軍人達の足元へ着火。彼等の体はゴウゴウと燃え始め、炎の中から断末魔が聞こえる。
「酷い……」
同じ国の人間が焼き殺される様を見ていたラディア人の男が小さく声を漏らした。
「まぁまぁ……。今の、聞きまして?」
その声を拾ったリーズレットはマチルダ隊に問いかけながら、声を漏らした男の前へ行くと髪を掴んで燃える軍人達の前へと引き摺り出した。
「んふふ。貴方、何に対して酷いと仰ったのかしら? 私に聞かせて下さいまし?」
リーズレットは男の顔を覗き見ると、男は意を決したように口を開く。
「こ、これだ! この処刑がだ! こんな酷い殺し方をして、神が何と言うか――ぐあッ!?」
男が全てを言いきる前に髪を片手で掴み、空いた手で男の瞼を強制的に開かせる。
「貴方、とっても面白い事を言いますわね! 道化師の才能がございましてよ! いえ、ペテン師かしらァ?」
リーズレットは男に燃える軍人を見せながら、耳元でそっと囁いた。
「ほぉら、よく見ておきなさい。次は貴方の番ですわよ」
お前はこうやって死ぬ。今、目の前にある光景はお前の未来そのものだと。
「私は大変優しい心の持ち主ですので差別など致しませんわよ? 貴方達のような、敵国の民に強制労働を強いておきながら酷いなどと口にできる豚は等しく焼き殺して差し上げますわよ」
そう言って、リーズレットは男を地面に転がすと恐怖するラディア王国の一般人へと顔を向けて叫んだ。
「さぁ、今日はゆっくりとお眠りなさい! いつ死ぬのかと震えながら、今日燃えて死んだ者の姿を思い出して今日という日の夜を忘れないようゆっくりと噛み締めながら眠りなさい!」
目の前で見せられた恐怖の処刑。
泣き叫ぶ者、死にたくないと何度も唱える者、マチルダ隊の足に頭を擦り付けて許しを乞う者。
様々な姿を見せる彼等へ、リーズレットは「差別しないから安心して眠れ」と言った。
彼等は等しく死ぬ。方法は統一されて、身分による差別も無く。軍人も、商人も、大人も、子供も。
ラディア人は誰もが等しく死を迎えるのだ。
彼等の未来を宣言すると、リーズレットはその場を軍人達に任せて歩き出す。
「さて、わかっていますわね?」
「はい。準備は出来ています」
第一回目の豚丸焼き会場から少し離れた場所に向かったリーズレットは、その場にいた情報部の軍人とマチルダへ小さな声で囁いた。
「北側の壁に穴を開け、傍に用意した小屋に細工を施しました。あの場所は他の小屋から孤立していますから、逃げ出したらすぐに外へ向かうでしょう」
街を囲む壁の北側に人が1人通れるサイズの穴をワザと開ける。その近くに簡単な小屋を作って、ラディア人を詰め込む。
小屋のドアには鍵が簡単に外れるよう細工をして、それを見つけたラディア人が外に出た時に壁の穴を見つけて街の外へと脱出。
逃げ出した彼等が向かうのはラディア王国領土内にある別の街に決まっている。
上手く逃げ切れた者はこの街で起きた処刑の事を自国民に話すだろう。そうなれば、ラディア人は敗北すれば自分達がどのような殺され方をするのか知ってくれる。
リーズレットお得意の内側へ恐怖を伝播させるやり方だ。
「しかし、一回目を見せた後でよろしいのですか? もう何回か見せた方がよろしいのでは?」
マチルダは恐怖をもっと植え付けて、その状態で伝えさせた方が良いのではないかと問う。
「いいえ。人は恐怖した状態なら逃げ出す気になりますが、絶望したら死を受け入れてしまいましてよ」
恐怖と絶望は別物だ。
恐怖すれば逃れようとするだろう。だが、絶望は死を受け入れて逃げ出す事すら止めてしまう。
ただ敢えて逃がす者が非戦闘員である事が少々懸念する点か。
街の外には野生動物や魔獣がうろつく。無事に街へ辿り着き、恐怖を伝えてくれるかどうかは彼等次第。
どちらにせよ、次の街へ向かうのは確定事項なのだが。
「マチルダ、準備は出来ていますわね? 逃げ出した事を確認したらすぐに追って次の街を堕としますわよ」
「はい、既に準備完了しています。皆、ツアーが楽しみで仕方ないと言っておりました」
リーズレットの問いにニヤリと笑うマチルダ。マチルダ隊の男達は心強い兵士に成長したものだと満足気に頷く。
「軍もすぐに追って来なさい。ここからはスピード勝負。相手が占拠した街を取り返しに来る前に首都を叩いてラディア王国を地図から消しますわよ」
リーズレットが頭に描くのは相手の内側に伝播される恐怖と共に進軍する事だ。
上手く行けば恐怖が伝わったタイミングでリーズレット達が現れる。彼女等を知る者が見れば「あれがそうだ」と指差すに違いない。
そうなれば上々。ならなければ次の街でまた同じことをすれば良い。精神的な負荷を掛ける理由は少しでも自軍の消耗を抑える為に過ぎない。
というのも、現在戦争中の3ヵ国の内、最も小国であるラディア王国との戦争が長引けば他2ヵ国の侵略を食い止めている戦線が崩れかねないからという理由がある。
次の戦線も円滑に事を進める為にも、こちらが被る消耗は少ない方が良い。
リーズレットはマチルダ隊と援軍に来た別部隊を連れて先行し、要衝を抑えながらもラディア王国王都への道を開くつもりだ。
占有した土地の利用等に関しては首都にいるガーベラ達へ任せればいい。
「はい。オブライエン司令官も準備は出来ていると仰っておりました。第一波の半数を随行させ、第二波が到着次第残りを追いかけさせます」
北に向かう前の会議で既に道筋は示した。オブライエンもスピード勝負という点を十分に理解しているだろう。
「よろしい。最終確認を進めなさい」
「「 イエス、マム! 」」
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最終準備中のマチルダ隊に近づく数人の青年達ががいた。
「ん? ロウ?」
青年達の先頭にいるのはロウであった。
「俺達も連れてってくれませんか? 雑用でも何でもします」
ロウはこのまま街に残らず、マチルダ達に着いて行きたいと願い出た。
兵士志願した青年達は家族を奪ったラディア人を許せないから、という目的で参戦したいという者がほとんどのようだ。
マチルダ隊と面識のあるロウに紹介してくれないか、と頼み込んだようで。
男達は良いか悪いかと問われれば良いと答えるだろう。しかし、戦争には死が付きまとう。死ぬかもしれない覚悟はあるのか、と問うと全員が「ある」と本気の目で言った。
「わかった。マムとマチルダ様には俺から話を通しておいてやる。まずは荷物持ちや積み込みの手伝いからだぞ?」
「はい!」
男は青年達を連れてきたロウと共にリーズレットとマチルダの元へと向かい、志願してきた青年達を連れて行く許可を得た。
「構いませんわよ。……ロ、ロウ、頑張りなさい?」
「は、はい! リーズレット様の為に尽力します!」
またもやお互い頬を赤らめての会話。
脇で見ていたサリィがロウをつま先から頭のてっぺんまで見て「ほほ~う」と小声で呟く。
同じく傍で見ていたコスモスはハンカチの端っこをガジガジと噛み続けた。
挨拶を終えてその場を後にした男はロウに問う。
「お前、マムが怖くないのか?」
マチルダ隊はリーズレットに恩しか感じていない。あの人に着いて行けば死に場所を得られる、あの人に指示されるのであればいつ死んでも良いと兵士として尊敬している者は多い。
しかし、助けた自国民や首都から来た軍人の中にはリーズレットを頼もしく思いながらも同時に恐怖する者もいるそうだ。
ロウのような戦争を知らぬ者は特に恐怖を覚えるんじゃないか、と思って聞いたのだが……。
「え? どうしてです? 怖いわけないじゃないですか」
ロウはリーズレットの顔を思い出したのか、頬を赤らめながら「すごく綺麗ですよね」「戦っている姿はカッコイイ」と言い出した。
「あ、そう……」
なかなか見込みがある。男は彼の父親を知っている事もあってロウが戦場に立てるよう世話してやるか、と内心頷いた。
良い兵士になれば、いつか彼がリーズレットの隣に立つ日が来るんじゃないかと願って。
読んで下さりありがとうございます。
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