53 ハンティング
リーズレット達は森の中を歩き、川の近くまで進むと山の上を見上げた。
山の上にはラディア軍が建設した基地があり、基地の中からは長い砲身を持った魔導兵器が3機ほど見える。
だが、重要なのはそちらじゃない。彼女達が調べたいのは基地まで向かうルートだ。
体勢を低くして森の中にある草木に身を隠しながら双眼鏡で基地から下へと視線をズラしていく。
山の麓にはラディア軍が設置したであろうフェンスと小さな小屋が見える。検問所のような造りで小屋の中には常にラディア軍人がいるようだ。
「騒いでいますわね」
「ええ。恐らく偵察部隊を殺したからでしょう」
マチルダ達が殺した5人組とリーズレット達がここまで来る間に殺した5人。合計10人が殺害されたとなれば騒ぎもする。
今頃は基地でも山賊の仕業だとブーブー鳴いているだろう。
「丁度良いですわ。早々に戻りましょう」
「はい」
ラディア軍が騒ぎ出してくれるとは丁度良い。
森の中にいるマチルダ達を今度こそ仕留めようと人を割くかもしれない。相手はどこに潜んでいるかもわからぬ敵に怯えながら森の中へ入るだろう。
ベースキャンプに戻ったリーズレットはマチルダ隊を全員集めた後にニコリと笑った。
「そこで、私達の出番ですわ」
彼女はヘリを使って進軍開始したラディア軍を飛び越える。そして上空から基地を強襲して魔導兵器諸共、基地をぶっ潰すつもりだ。
その間にマチルダ隊の男達は川へ進軍。基地を攻撃された事で動揺を誘い、その間に川を渡って麓を制圧。
「相手が進軍しなかった場合はどうするんです?」
「それならそれで構いませんわ。基地諸共、全員殺すだけですわよ」
相手が基地に閉じこもっているならば、閉じこもっている基地ごとぶっ殺せば良い。
どちらにせよ、リーズレット達にマチルダを加えた5人が空から。マチルダ隊の男達が麓を制圧する役割は変わらない。
そうだ。これは勝利が確定した作戦である。
リーズレットという淑女がいる戦場において、有象無象の豚共相手に負ける要素など存在しない。
「さぁ、皆様。ハンティングの時間ですわよ。豚を殺す準備はよろしくて?」
リーズレットは軍から持たされた補給品を並べた。
軍で採用されている新品の銃。山ほど積まれた弾薬。首都にいる鍛冶師が丹精込めて研いだマチェットやナイフなどの刃物類。
獲物を狩る獰猛な獣のように笑った男達は思い思いの武器を手に取った。
一方でマチルダは銃弾だけを手に取る。彼女を気に入ったリーズレットがアイアン・レディの遺産に残っていた最新式のスナイパーライフルを一応勧めはしたが予想通り断られたからだ。
「ラディア王国を潰すまではこの銃を使わせて下さい。この銃で旦那の仇を取るまでは手放さないと誓いました」
そう言われ、リーズレットは頷いた。
反対などするわけなかった。
マチルダの気高き信念に対して敬意を払うならば、その信念と願いを叶えるために手助けする事が何よりの行動となろう。
「マム。最後にお言葉を」
準備を終えたマチルダが隊の全員を整列させて願う。
リーズレットは全員を見渡しながら、
「貴女達に言っておきましょう。ここは貴女達が死ぬ場所ではありません。死に場所はこの先にある故郷でしてよ?」
全員にまだ死ぬなと厳命した。そうだ、ここはまだ彼女達が死ぬ場所じゃない。
こんな所で死ぬなど許しはしない。
「今回はほんの手慣らし。本番前の、ピクニック気分で楽しめるハンティングでしてよ。これが終わったら、次は本命の豚共を狩る為の地獄を用意して差し上げますわ」
ニヤリと笑うマチルダ隊へリーズレットは華が咲き誇るような笑顔を向けた。
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行動を開始したのは空に夕日が昇ってからであった。
茜色に輝く夕日を背景に黒いヘリコプターが無音で飛ぶ。目の前にはラディア軍が建設した基地があった。
「サリィ、おやりなさい」
ミニガンを「よっこいしょ」と持ち上げたリーズレットが操縦席に座るサリィへ指示を出す。
「はいですぅ!」
主からオーダーを受け取った侍女は操縦桿にあるボタンを押した。
それと連動するのは機体の左右に取り付けられたロケットランチャー。ガコンと音を立てて発射準備が整うと、こちらに気付いて指を差す地上のラディア豚を睨みつける。
「くたばれぇですぅ!」
シュポポ。
空に響くは軽快な発射音。その直後、発射音とは違って地上には重たい爆発音が響き渡る。
この爆発音こそがハンティング開始の合図である。
「ホッホゥー! パーティータァァァイムッ!!」
コスモスが勢いよくドアを開けると、リーズレットは構えたミニガンを基地へと向ける。
アリのように小さいラディア軍に向かって銃弾の雨を降らせると地上には混乱と悲鳴が広がった。
彼女に続き、グレネードランチャーを持ったコスモスとスナイパーライフルを構えるマチルダも発砲を開始。
そんな中、ラディア軍の兵士が死に行く中で少しでも抵抗しようとしたのだろう。基地にあった魔導兵器が起動して砲身をヘリの方向へ向けられる。
「サリィ! あのファッキン兵器をぶっ壊しておやりなさい!」
「はいですぅ!」
装填された大量の魔石から魔力を絞り出してパワーを充填中だった魔導兵器へロケットランチャーが放たれる。
本体命中時の爆発と充填中の魔力が弾けた事で兵器が設置してあった台座ごと吹き飛び、基地の南側は地面が抉れるほどの大ダメージを負った。
残りの魔導兵器も同じように壊し、抵抗するラディア軍の心をポキポキと折っていく。
「マム! 麓から信号弾が上がりました!」
コスモスの叫びに反応したリーズレットは顔を向けると麓の位置から空へと撃ち出された赤色の信号弾が見えた。
男達は麓を無事に制圧できたようだ。今すぐにでも基地へと山を駆け上がって来るに違いない。
「下で暴れますわよ! コスモス、着いて来なさい! マチルダとサリィは空から援護を続けなさい!」
「イエス、マム!」
「はいですぅ!」
サリィは操縦するヘリの高度を基地上空でギリギリまで落とす。基地にあった一番背の高い建物の上空で停止して、2人が降りるまでマチルダがサポート。
無事に基地へ着地した2人を残してヘリは再び上昇。
リーズレットはアイアン・レディを抜き、コスモスは首都で受け取ったアイアン・レディ後期採用銃である『IL-10』を手にして。
「さぁ、行きますわよ! 着いて来なさい!」
「イエス、マム!」
赤の淑女と青の見習い淑女は建物の屋上で駆け出して端まで行くと強く踏み切って空を飛ぶ。
「おーっほっほっほ! ごめんあそばせェー!」
建物から飛び降りたリーズレットは地上からヘリを堕とそうと魔法銃を構えるラディア兵の顔を踏み潰し、踏んだ瞬間にパワー・ハイヒールの機能をONにして再び小さく飛んだ。
2度目の跳躍をしたリーズレットは空中で銃を撃ち放ち、やや密集していた兵士を数名殺害すると陣形に穴を開けた。
空いた穴の中心に飛び降りながら、着地地点の近くにいた兵士の顔をオマケとばかりに空中で蹴り飛ばすとようやく地面に足を付ける。
敵のど真ん中に着地したリーズレットはアイアン・レディを持った両手を広げてトリガーを引きまくる。
ダンスホールの中心でくるくると回転するダンサーよろしく、周囲にいる兵士へ手あたり次第銃弾をぶっ放してラディア兵の頭部を吹き飛ばした。
「このッ!」
仲間を瞬く間に殺されて激昂したラディア兵がリーズレットの側面から魔法銃を構えるが、
「邪魔ですッ!」
リーズレットだけに気を取られてはいけない。コスモスの射撃で胴を3発撃ち抜かれてしまいあの世行き。
かといって、コスモスに視線を向けていれば――
「よそ見はいけませんわねェ! ファッキン、ピィィッグッ!!」
両手のアイアン・レディで次々に頭部を破壊していくリーズレットの餌食になってしまう。
どちらからも目が離せない。生き残っているラディア兵は2人が視界に収まるよう距離を取った。
「防御隊は前へ!」
その上で、彼等は対銃撃戦用の装備を持った兵士を前に出す。
金属製のシールドを持った防御部隊が仲間を守るように前へ出て、リーズレットとコスモスの射撃を受けようとする。
「ハッ! 所詮は豚共の浅知恵ですわねッ!」
リーズレットはスカートの腰部分、両端を銃を持ったまま指で摘まんで持ち上げる。スカートの中からコロコロと落ちたのはピンが抜かれた2発のグレネード。
それをすぐに相手へと蹴飛ばすと金属製のシールドの前で爆発。シールドと一緒に弾け飛んだ防御兵の肉片が彼等の仲間へと飛び散った。
「ハッハー! ファァァァックッ!!」
並んでいた防御隊の陣形が崩れると、リーズレットはコスモスの援護を受けながら崩壊した場所へ一気に駆け込む。
重なりあうように死んだラディア兵の死体を足場にしてジャンプすると空中で8匹の豚を射殺してマガジンリリース。
着地した瞬間に右手のアイアン・レディに新しいマガジンを差し込んで、リロードを終えた右手を左脇から背中側へ向けると淑女の背中を狙っていた破廉恥豚を射殺。
左手の銃もリロードを終えると立ち上がり、豚共へと体の向きを変えて――
「さぁ、残りの豚も良い声をあげながら踊って下さいましねェ?」
ニコリと笑いながら両手を突き出すとトリガーを連続して引いて殺しまくる。
前方にある遮蔽物の影からはコスモスのフルオート射撃。真後ろからはリーズレットの大口径拳銃弾による必殺の一撃。
空からはサリィの機銃とマチルダによる狙撃が降り注ぐ。
3方向から銃弾を受けた豚達は「ブーブー、ブーブー」と声をあげながら、赤い血をぶちまけながら壊れた人形のように踊り続ける。
「おおおおおッ!! レディ・マムに続けええええッ!!」
「ラディアをぶっ殺せえええッ!!」
加えて、麓から駆け上がって来たマチルダ隊の男達が疲れなど一切見せずに基地へと雪崩れ込む。
銃と刃物を持った男達はまるで猟犬のようにラディア兵へと喰らい付き、更に地面をラディア兵の血で赤く染めた。
最早、ラディア軍に逃げ場はない。
ここは淑女が率いる者達による狩場と化したのだから。
「この……。愚か者共め……。貴様等には神の裁きが……!」
胴を撃ち抜かれ、口から血を吐きながら地面に転がるラディア兵は近くで仲間の頭部を撃ち抜くリーズレットの顔を睨みつけながら呟いた。
豚が漏らした最後の鳴き声に気付いたリーズレットはニコリと笑う。
「まぁ。この豚達は神なんてモノを崇めていますの?」
「きさま、ぐぎゃっ!?」
リーズレットは豚の首に掛かっていた神を模したペンダントと豚の胸を踏みつけながら銃口を向ける。
「んふふ。さぁ、あの世で神のケツにキスしてきなさい。貴方達、得意でしょう?」
神様によろしく言っておいてくださいまし。
そう言いながら片手の親指で首を斬る動作をしたリーズレットは豚の額に銃弾を撃ち込んだ。
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