表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/135

0 子供達は願う


 彼女は世界最強の女性だった。


 争いの絶えない世界で武力介入を続けながら、一部の者達からは弱者を救済した救世主と敬愛される女性。


 最終的には恐怖による支配によって世界に秩序を齎した伝説の傭兵団――アイアン・レディの創設者であり、世界中の為政者から()と恐れられた女性。


 レディ・マムと呼ばれた伝説の淑女にして、数多くの女性にとって母に等しい存在でもあった。


 そんな最強の女性も時間には勝てない。


 遂に伝説が終わる時が来たと、アイアン・レディの脅威に怯えていた各国の代表が安堵の息を吐く日がもうすぐやって来る。


『私、まだ結婚していませんわ』


 老衰による死を悟った彼女が呟いた言葉は――彼女がずっと思い描いていた小さな夢だった。


 夢見ていたお嫁さん生活は遂に叶わなかった。素敵な白馬の王子様はとうとう現れなかった。


 彼女は夢を追い求めながらも殺戮と救済を続けて、今日に至る。


 だが、彼女が行って来た行為は決して無駄じゃない。


 彼女を母と慕う女性達はどうにか彼女の願いを叶えようと努力した。母を慕う子供達は有り余る資金と知識、保護した転生者達の異世界技術を駆使して願いを繋ぐ。


 子供達は言った。


『マム。貴方の夢は終わらせない』


 子供達は母の手を握って微笑んだ。


『貴方が私達に夢と希望をくれたように。今度は私達が貴方の夢を叶えてみせる』


 子供から大人に成長する事が出来た女性は母の為に足掻いた。


『貴方は生き続ける。私達の中でも、この世界でも』


 彼女に救済された者達は忘れない。いや……母を忘れられなかった。


 彼女達は最後の日まで努力を続け、祈りに似た願いを残す。


『どうか死を恐れないで。夢を諦めないで』


 死に行く母の手を握りながら、そう告げた。



 レディ・マム リーズレット・アルフォンス ―― エディン歴1997年 享年 87歳 死去


 


---

  



 彼女の死後、世界が再び変化するまでそう時間は掛からなかった。


 抑止力が無くなった国々は闘争に明け暮れる。


 内戦。隣国との領土争い。人権問題。クーデター。悪意によって作られたイデオロギー。敵国にヘイトを集める為の情報操作。


 様々な争い事を続けた人類の歴史は多くの人を傷付けた。


 時には大量破壊兵器の撃ち合いで人類が滅亡しかけた。


 戦争はよくない。偽善者がそう言ったのは歴史上、通算で何回目になるだろうか。


 救世主など現れない。この世に救いはない。


 大いなる意思によって決められた破壊と再生。


 もう淑女(レディ)はいない。


 世界は変わって、終わって、作り替えられる。


 淑女の伝説なんてものは既に人の歴史には残されていない。


 人類は愚かだ。酷く間違えた歴史を何度も繰り返す。


 そう、人類は何度も愚かな歴史を繰り返す。


 愚かな歴史が繰り返されるなら――愚かな歴史の中に生まれた伝説は繰り返されるのだろうか?


 伝説なんて1つしかない。


 淑女(レディ)


 それは地獄という名の秩序を創造せし救済者。


 世界中で悪と恐れられた存在。



 母を愛する子供達が必死に祈った願い事は――遂に叶う日がやって来た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ