47 豚と繋がる豚
「おーっほっほっほ! さすがは我が組織の主力兵器! 豚共を駆逐するには最適ですわねェ!」
ロビィが操縦するナイト・ホークが地上を蔓延る豚を肉の塊に変えていき、遂に主力大隊は壊滅した。
意図的に残された数名の兵士を基地にいるリリィガーデン王国軍総出で捕まえると、彼等を並ばせるようリーズレットは指示を出した。
両膝をついて地面に並んだグリア共和国マードック兵団の兵士は気丈にも相手を睨みつけながら口を堅く閉じてみせる。
「さて、お聞きしたい事がございましてよ。貴方達は誰の指示を受けてここに来ましたの?」
リーズレットがグリア兵に問うと、
「ふん。誰が喋るものか」
彼女の顔を睨みつけながらそう言った。
「まぁ。人の言葉が理解できない豚のようですわね」
アイアン・レディを抜いたリーズレットは悪態をついた兵士の頭部を容赦なく撃ち抜く。
額にケツの穴を開けられた男は地面へと倒れ、それを見ていた仲間達が一斉に震えあがる。
「豚が1匹死んだので、次の豚にお聞きましょう。こちらの豚は人の言葉を理解できるかしら?」
隣にいた兵士の額にアイアン・レディの銃口を押し当てながら、リーズレットは同じ質問を口にした。
「わ、わ、わ、わたし――」
「ああ、こちらの豚もダメそうですわね」
パン。
恐怖で口が回らなくなった兵士を撃ち抜き、残った敵兵へ更なる恐怖を与える。
これだけ容赦なく仲間が殺されるところを目撃すれば彼等も喋り易くなるだろう。
「マ、マードック伯爵の指示だ! 彼が緊急出撃を命じて、我々はここを攻めるよう指示された!」
次の豚はなかなかに利口だった。銃口を向けられる前に率先して喋り出したのだ。
残りの兵士達もペラペラと喋る彼等を責めたりはしない。誰もが生き残り、家に帰りたいと願っているのだから。
それはさておき……。基地の自軍兵が言っていた通り、マードック伯爵の兵士である事は既にわかっている。リーズレットが気になるのはマードックとやらの人物がスパイと繋がっている張本人なのかどうかだ。
それとも更にその先があるのかどうか。彼等のような末端が知っているはずもない、本人に聞くしかなさそうだ。
「なるほど。マードック伯爵とやらがいる場所はどこにありまして?」
「ハ。ただいま地図をお持ちます。おい!」
基地の指揮官である中佐が冷や汗を流しながらも部下に命じて、リーズレットに見やすいよう地図を広げさせながら指で場所を示した。
「現在地がここ。マードック隊に占拠された元領地がここです」
現在地からマードック伯爵がいる街までは魔導車で1日程度の距離のようだ。
「承知しましたわ。では、マードックとやらを確保しに参りますわよ」
「え?」
「内部の豚を観念させるためにも情報をリークした相手がいた方が簡単でしょう?」
リーズレットはそう言いながらニコリと笑う。
同時に空でホバリングしていたナイト・ホークが地上に降りてきた。
リーズレットは捕まえた敵兵1人を引き摺りながらガーベラとサリィを連れてナイト・ホークへ乗り込む。
「戦場の後処理は任せますわよ。あと、くれぐれもこの件は王国へ報告しないように」
中佐に戦場の後処理を任せつつ、戦闘があった事とマードックの元へ向かった事を王国へ通信連絡しないよう念押しした。
空に舞い上がったナイト・ホークの中でリーズレットは耳に手を当てながら通信先へと指示を出す。
「リトル・レディ。コスモスに持たせた端末へ2匹の豚を捕えるようメッセージを送信しなさい」
『イエス。レディ』
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ナイト・ホークは南へと向かい、魔導車で1日かかる距離を1時間もかからずに飛行した。
現在はマードックのいる街の上空を旋回しながら、強制連行した敵兵に彼のいる場所を聞いている最中であった。
「あ、あの屋敷がそうだ! あそこが司令室を兼ねている!」
上空から指差した屋敷を見て、リーズレットはニッコリと笑った。
「そう。貴重な情報を感謝致しますわ」
「じゃ、じゃあ……!」
俺を解放してくれ、家に帰らせてくれ、と言った兵士に対して彼女もウンウンと頷いて――
「ええ。帰らせてあげますわよ。ごきげんよう」
リーズレットはヘリのドアを開けると兵士の背中を蹴飛ばして空中へ突き飛ばす。
「ああああああッ!!??」
悲鳴を上げながら街へと落ちていく兵士に手を振って、ドアを閉めた。
「………」
慈悲もない行動にさすがのガーベラもドン引きである。まさか妄想していた理想のお姉様がここまで鬼畜だったとは。
綺麗に描かれた物語では見る事のできないリーズレットの残虐性を見たガーベラは言葉が出なかった。
「さて、やりましょう」
情報を受け取っていたと思われる敵将がいる場所は確認できた。ならば、次にやる事は決まっている。
「サリィ、操縦は理解できまして?」
「はいですぅ!」
操縦席にはロビィに代わってサリィが座っていた。彼女は操縦桿を握り、ニコニコと笑いながらナイト・ホークを動かし始めた。
空中を1度旋回してから下降、マードックがいる屋敷へと頭を向けて――
「ファイヤー、ですぅ!」
ロケットランチャーを発射すると屋敷の門を吹き飛ばす。
突然現れた空飛ぶ黒いヘリを指差していた兵士の悲鳴と共に屋敷の門と守衛所が大爆発。
警報が鳴ると屋敷の中や街から兵士達がゾロゾロと集まってきた。地上に豚共がいくら群れようともリーズレット達が恐れるはずもない。
「おーほっほっほっほ!! ロックンロォォォルッ!!」
「ろっくんろーるですぅ!」
サリィはナイト・ホークの機銃を起動、リーズレットはヘリのドアを開けてのミニガン掃射。
地上にいた豚は赤い血を撒き散らし、一斉に地面を染め上げる為の絵具に早変わり。
「逃げる場所などございませんわよォ!」
空からの奇襲に逃げ惑う兵士達も果敢に魔法銃を撃つ兵士達も、等しく死骸へと変えていく。
外にいた兵士達を殺害するとリーズレットはミニガンで屋敷の壁を撃ち始めた。
瞬く間にボロボロになった屋敷の壁は崩れ落ち、随分と風通しの良い家にリフォームされてしまう。
「サリィ、降りますわ!」
「はいですぅ!」
リーズレットは高度を下げたナイト・ホークから飛び降りるとアイアン・レディを構えて屋敷と対峙する。
崩れた壁の向こう側には屋敷の中で警備していたグリア兵がまだ数名残っているが、彼女にとっては関係ない。
相変わらず軽やかなダンスステップで兵士を翻弄しながら銃殺し、屋敷の中へと踏み込んだ。
「ここかしらァー!?」
屋敷のドアを片っ端から蹴破ってマードックを探すリーズレット。まだ無事だったメイド達に銃口を向けながら場所を聞き、遂に彼の居場所が判明する。
屋敷の一番奥、伯爵の執務室に彼等はいた。
「ごきげんよう! クソ豚ァ!!」
ドアを蹴破ったリーズレットが銃口を向けると、中にはマードックと彼の妻が。
「王国兵め! 死ねえ!!」
マードックは妻を背後に隠して魔法銃を構えながらリーズレットを待ち伏せしていたものの、彼がトリガーを引くよりも早くリーズレットが肩を射抜く。
「ぐああッ!?」
「あなた!」
魔法銃を腕から落とし、地面に倒れながら血の流れる肩を抑えるマードックと彼を支える妻。
「んふふ」
そんな愛溢れる2人に歩み寄るは華が咲き誇るかのように笑う淑女。
リーズレットは落ちていた魔法銃を蹴飛ばして、銃口をマードックへと向けた。
「私がこれからする質問に答えて下さいまし。貴方はリリィガーデン王国にいるスパイから情報を受け取りましたわね?」
「………」
そう問うが、マードックはリーズレットを睨みつけながら黙秘の構え。
これはいけない。
素直じゃないのはグリア人のお家芸なのか。それとも淑女の放つ美に委縮してしまっているのか。
どちらにせよ、この沈黙はリーズレットにとっては時間の無駄だ。彼女は時間を無駄にする事を嫌う。特に質問に対しての沈黙というのは絶対に選んではいけない選択肢である。
故にパン、と銃声が鳴ると彼を支えていた妻が地面へと倒れた。
「き、貴様ッ!?」
愛する妻が死亡した事に動揺と怒りを露わにするマードックであったが、リーズレットにとってはごく自然な行為と言える。
「馬鹿なのかしら? 貴方は戦争をしていますのよ? 王国領土を奪おうと王国兵を殺しているのだから、貴方の妻が殺されようと文句言えませんわよね?」
こちらは奪うが、相手が奪う事は許さない。
こちらは大事な人を殺すが、相手が自分の大事な人を殺すのは許さない。
そんな理屈が通る戦争などあるものか。そんな生温い戦争などあるものか。
戦争をする者は、大事な物を失う覚悟をしなければならない。覚悟なき者が戦争に参加するなどおこがましいにも程がある。
「それとも、あちらを撃った方が良かったかしら?」
リーズレットは笑みを浮かべながら銃口をクローゼットへ向けた。
向けた瞬間、マードックの肩がビクリと跳ねた。それと同時にクローゼットの中からカタンと音が鳴る。
彼が最も奪われたくないモノがあの中にある事を、クローゼットの中から感じる視線と吐息を感じ取って見抜いていたのだ。
「わ、わかった! 待て! 待ってくれ! 要求はなんだ!?」
中身を見抜かれた事で焦るマードックは必死にリーズレットへ縋りついた。
何でも話す。何でも言ってくれ、と必死に懇願する。
「貴方は王国のスパイと繋がっているのではなくて? 通信手段と証拠をお出しなさい?」
依然銃口をクローゼットへ向けたままのリーズレットの要求にマードックは素直に従った。
「こ、これが全てだ!」
執務机の引き出しからマギアクラフト製の通信機を取り出し、スパイから流出した情報をメモした紙や国への報告用書類の束を取り出す。
リーズレットは机の上で散らばった書類の中に釣れた人物と同様の名がある事を確認した。
「貴方達はどういう経緯で繋がりまして?」
「マギアクラフトから提案されたのだ。元々グリア共和国はリリィガーデンと交易があったしな。何度か協定会議で会う事もあって顔見知りだったのだ」
数十年前から両国間の輸入輸出協定会議で出会い、顔と名前は互いに知っていた。
そして5年前にグリア共和国へマギアクラフトが進出した際に計画がスタート。今から4年前から互いに動き出したと彼は語った。
「そう。では、北側へ情報を流している者の名もこの文章の中に?」
「ああ。記載されている」
「それともう1つ。3年前にリリィガーデン王国の女王とその伴侶を殺したのも、王国内部にいる2人の仕業でして?」
「そうだ。マギアクラフトは短期間でリリィガーデン王国を堕とす為に指示を出した。……王国は思いの他、踏ん張っているがな」
全ての背景に潜むのはマギアクラフトという組織。彼等がこの戦争をコントロールしながらアイアン・レディの遺産を奪おうと画策していたようだ。
しかし、もう遅い。
リーズレットが手にしてしまった。今後、マギアクラフトはどう動くのか。
「まぁ、良いでしょう。先に処分を終わらせますわよ」
敵組織の動向を先読みする前に、やる事を済ませなければ。
リーズレットはクローゼットに向けていた銃口をマードックに向ける。
「え?」
リーズレットがトリガーを引くとマードックの心臓に穴が開いた。
地面に倒れるマードックを見下ろした後にリーズレットはクローゼットへと近づいた。
両開きのドアを開けると、そこにはマードックと妻の子供がいた。年齢は13歳程度だろうか。
両親の死を隙間から見ていたのであろう少年はガタガタと震えながらクローゼットを開けたリーズレットの顔を見上げる。
「残念でしたわね。貴方は生まれる家を間違えたようですわ。来世は人生を全うできるよう祈っておりますわね?」
怯える少年に銃口を向けたリーズレットは容赦なく銃口を向けた。一撃であの世へ送ってやるのがせめてもの情け。
執務室に一発の銃声が響く。これにてマードックの家系は潰えたのであった。
血に染まったクローゼットに背を向けたリーズレットは通信機と書類を執務室の中にあったバッグに詰める。
「さて、次は」
リーズレットは一度執務室を出ると屋敷の中で刃物を探して回った。
丁度良く薪割り用の斧を見つけ、その傍にあった麻袋を一緒に持って執務室へと戻る。
「証拠を持ち帰らないといけませんのよ。最後まで有効活用して差し上げますわ」
斧を構えたリーズレットはマードックの首に力いっぱい振り下ろす。
一仕事を終えたリーズレットは片手に証拠の入ったバッグ。もう片方の手には血が滴る麻袋を持って待機していたナイト・ホークへと戻った。
「お、お姉様。そ、それは?」
ガーベラは血が滴る麻袋を見て嫌な予感がしながらも質問した。
リーズレットはニッコリと笑いながら――
「豚へのお土産ですわよ」
王国にいる豚が驚くお土産を持って城へと帰還するのであった。
読んで下さりありがとうございます。
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