25 質問いいですか
爽やかイケメンが爆死した翌日、リーズレット達は更に西を目指して出発した。
相変わらず面白味もない景色の中を進み、10キロほど進んだ場所で休憩を挟む。
テーブルと椅子を出して買い込んだ食事を用意していると飲み物を持ってきたロビィが告げる。
『レディ、この付近にアイアン・レディのセーフハウスがあったはずです』
ロビィの頭部であるモニターに前時代の地図が表示され、元々帝国領土内にあったバンカーの位置から現在地を推測したロビィが地図上に赤い点を表示する。
「ここは元マロニア王国領土内ですわね」
赤い点で表示される現在地は、今はベレイア連邦として土地名を変えていて存在していないが元は帝国の傀儡となった小国領土内。勿論、この国にもアイアン・レディのセーフハウスはいくつか作っていた。
マロニア王国内に作ったセーフハウスの数は3つ。首都と近郊にあった街に1つずつ。
こちらも帝国領バンカーのように封印されて残っている可能性は捨てきれない。
『ウィ。首都は消滅しているかもしれませんが、恐らくこの辺りかと』
「探してみましょう」
食事を終えたらまずは首都にあったセーフハウスを探す事に。
最初に首都のセーフハウスを探す理由としては、国が消滅している現在でも比較的探しやすいからだ。
前時代の建物は壊れて風化しているものの、元首都となれば面影が残っていたり瓦礫の山が積み重なって「大きな何かが存在した」という目印になりえる物が残っているからである。
例えば首都を囲んでいた大きな壁の残骸であったり、国の象徴となる建造物であったりと前時代を知っているリーズレットであれば気付くヒントが残されているはずだ。
ロビィによる推測を頼りに周囲を探し、魔導車の魔石残量が半分を切った頃にようやくそれらしき場所を見つけた。
首都を囲む壁は崩れているものの、囲んでいたであろう面積はマロニア王国首都と同程度。壁だった物の内側は大量の瓦礫や崩れかけの建物で溢れ、大きな街があった事を示す証拠としては十分だ。
「誰か住んでいるようですが、入り口に飾ってある芸術品は評価できますわね」
元首都だった場所を観察すれば誰かが住み着いているようだ。
入り口にはベレイア連邦軍人の死体が木の杭に括り付けられ、誰かもわからぬ頭蓋骨が並べられていたりとなかなか攻めた芸術品が並ぶ。
元首都の中には改造された魔導車が数台見えた。どうやら住み着いているのは集団のようだ。
「中に行きましょう。まだセーフハウスが残っているかもしれませんわ」
リーズレットは魔導車を運転して入り口へ。飾られている芸術品の中央を通って中へと侵入した。
「オウオウオウオウ! テメェ、ここが誰のシマかわかってんのかよォ!? ここは泣く子も黙る傭兵団、血塗れの刃のアジトだぜえ?」
入り口から堂々と入れば住人に気付かれるのは当然の事だろう。
モヒカン肩パットの男がリーズレット達の乗る魔導車を見つけると、縄張りを主張しながら魔法銃を向けてきた。
「丁度よろしいかったですわ。貴方に少々聞きたい事がございましてよ」
窓を開けて男に問うリーズレットであったが、男は美の化身であるリーズレットを見ると「ヒュウ!」と口笛を鳴らす。
「上玉じゃねえか! わざわざ犯されに来てくれるたァ、ありがてえ!」
男は瓦礫の山に向かって「おい、来てみろよ!」と叫んだ。どうやら、ここの住人は瓦礫の山を改造して住処にしているようだ。
他にも壊れかけの家から出て来たりと、ゾロゾロと集まって来た人数は50人以上。
「最高だ! しばらくは楽しめそうじゃねえか!」
集まって来たのは全員男で、彼等はリーズレットを見ると「ゲヘヘ」と下品な笑みを浮かべた。
それも当然だ。
彼等はベレイア連邦に存在する傭兵団の中でも特別『悪』側の人間達。普段から一般人を襲って略奪行為や人殺しを繰り返す、軍からもマークされている悪党共であった。
「私が質問しておりますのよ?」
「へへ。世間知らずなお嬢様かァ?」
最初にリーズレットを見つけた男が魔導車に近寄って、ドアに手を伸ばそうとするが「パン」という音と共に頭部が無くなった。
「私が、質問しておりますのよ?」
男が倒れると窓から銃を手にしているリーズレットの姿が男達の目に映し出された。仲間が死んだ事で一瞬だけ唖然とした男達だったが、我に返ると一斉に魔法銃を構える。
「テメェ!」
蜂の巣にしてやらァ! とトリガーを引く男達。だが、リーズレットはアクセルをベタ踏みして魔導車を走らせる。
急加速して走り出し、ハンドルを勢いよく回して向きを変えながらドア・ノッカーを起動。
「わたくしが、質問して、おりますのよォォォォ!!」
タイヤが土埃を巻き上げながら鋼の杭を男達に向けて突撃した。
「うああああッ!?」
すると、どうでしょう。
人の体は高速で向かって来る鋼の杭に耐えられるわけがありません。杭を腹に受けた男は真っ二つになりながら中身をぶちまけ、杭に当たらずとも轢かれた男は背骨を踏み潰され、車体に弾き飛ばされた男は壁に激突して骨が折れる。
一回目の突撃で3人持っていかれ、男達はチリジリになって逃げ惑い始めた。
「なんちゅう女だ!」
そう叫んだのは人間の頭蓋骨をネックレスにした半裸の男だった。
「ウォー・ベアだ! あいつを放て!」
半裸の男は仲間に指示を出す。きっと彼がリーダーなのだろう。
リーダーの指示を聞いた下っ端が端っこに駆けて行き、そこにあった檻の鍵を外す。
中にいたのは巨大なクマ。熊の魔獣である。
「グモォォッ!」
2本の足で立ち上がれば2メートルはあるだろうか。手に生える爪は鋭く、吼える時に見えた口の中にも牙がたくさん生えていて一目見れば誰もがアレは凶暴で凶悪だと理解するだろう。
使役する為に首輪を装着された熊の魔獣は、男達にとって対軍人用の最終兵器。
鋭い爪は魔導車の装甲すらも引き裂き、巨体で突進すれば魔導車を簡単に横転させる。暴れ出せば人を食らって満腹になるまで止まらない。
彼等はこの可愛く忠実なウォー・ベアを使役して、この場を侵略しようとしてきた敵対勢力やベレイア軍を何度も返り討ちにしてきた実績を持つ極悪集団。
「ヒュウ! やっちまえええ!」
「魔導車をぶっ壊したら女を引き摺り出してひん剥くぞォ!」
イカれた女が改造魔導車に乗ってイキろうがコイツがあれば関係ない! 今回もウォー・ベアによる恐怖ショーの始まりだ! と誰もがテンションを上げて勝利を確信した。
雄たけびを上げたウォー・ベアがリーズレットの乗る魔導車に走り出した。
すると、停車した魔導車の背面にある両開きのドアが開いて軽機関銃を持ったリーズレットが姿を晒す。
「ワタクシがァ!」
彼女の声には苛立ちが含まれていた。
ウォー・ベアよりも鋭く獰猛な目つきで軽機関銃を構え、銃口を真っ直ぐ向ける。
「グモ!?」
秒でヤバさを察知したウォー・ベアは巨体に似合わぬ瞬発力で横っ飛び。射線から外れて、銃口は「ヒャア!」と興奮する男達へと向けられた。
「質問していますのよォォォォッ!!」
ダダダダ、と吐き出される銃弾。腰だめ撃ちするリーズレットは銃口を横にずらしながら男達を次々と殺害していく。
「ああああ!?」
半裸の男は咄嗟に地面へ這いつくばった。水風船が割れるような音を立てながら死んでいく仲間を見て恐怖に打ち震えた。
「おい、クソ熊! あの女を殺せえええ!」
なんとか恐怖心を抑えながら頼みの綱である魔獣に命令するも、
「グモォォ~! (こんな悪魔がいるなんて聞いてねえよ~!)」
ウォー・ベアは首輪の効果を無視して慌てて立ち去って行った。
「戻って来い! おい、おい! 嘘だァァ!?」
半裸の男は逃げていくウォー・ベアに手を伸ばし叫ぶ。
「私の質問に答えなさああああい!! ファッキュゥゥゥ、ベイベェェェッ!!」
「あああ!! 助けてえええ!! ちくしょう! ちくしょおおおお!」
望みが断たれた半裸の男は体を小さく丸めながら、銃声とリーズレットの雄叫びに震えて死にたくないと心の中で何度も念じる。
耳を塞いでも銃声と薬莢が地面に落ちる音と一緒に響く仲間の悲鳴が鳴りやまない。
それから何分経っただろうか。ようやく銃声が収まった頃、顔を上げて周囲を見ると気付けば50人以上いた仲間は10人程度まで減っていた。
「ヒィ、ヒィィ!」
軍も返り討ちにしていた男達自慢の縄張りは崩壊した。仲間だったモノの肉塊と赤く染まった地面が広がって地獄と化している状況に悲鳴を漏らす。
ゆっくりと近寄って来るリーズレットの姿を見て、半裸の男は涙を浮かべながらガタガタと体を震わせることしかできなかった。
「私の質問に、答えて下さるかしら?」
赤熱した銃口を体に押し当てられた半裸の男は「アツゥ!」と声を上げながら、何度も首を縦に振った。
しかし、リーズレットの背後に影が迫る。
半裸の男がリーズレット越しに見たのは忠実な右腕である仲間の1人。ナイフを持って背後から一突きしようと企てたのだ。
だが、半裸の男は「馬鹿、やめろ!」と心の中で叫ぶ。リーズレットの顔を間近で見ればわかる。この女は本物の殺戮者であると。
彼の予想は正しかった。リーズレットは背後に迫る男を振り向きもせず、空いている片手でホルスターから抜いた銃を向けて撃ち抜いたのだ。
傭兵団・血濡れの刃リーダーの忠実な右腕、ナンバー2と誇っていた男は死んだ。
こんなところで根性見せなくても良いじゃないか。リーダーは涙目になりながら、そう思ってしまうほど呆気なく死んだ。
「私のォ、質問にィ、答えて下さるゥ?」
リーズレットはニコリと笑いながら男の額に銃口をグリグリと押し当てた。
「答えやす! 何でも答えやす! だから命だけはァ!」
これ以上は犠牲を出せない。自分の命も失いたくない。
半裸の男は泣きながら額を地面に擦り付け、必死にリーズレットへ命乞いするのであった。
読んで下さりありがとうございます。
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