24 名探偵だよ☆爆殺侍女のサリィちゃん
宿屋を出たサリィは夜の町を行く。
ベレイア連邦はラインハルト王国のように歪んだ思想が蔓延してはいないものの、抱えている問題は多く存在する。
その1つとして挙げられるのが傭兵達による犯罪だろう。
一度世界が終わってからは秩序が失われ、この地域では傭兵達が幅を利かせる世界になった。
傭兵 = 悪 といったイメージが定着したのも、過去にベレイア連邦周辺で傭兵団が犯罪行為を繰り返し行いながら軍と対立する構図を作ったのが1番の要因として挙げられる。
所謂、アウトローな世界だ。酒場からは下品な男達の声が漏れ、裏路地では怪しい取引や暴力が渦巻く世界。
そんな世界の夜をメイド服姿の可愛らしい女性が1人歩くのは危険と言わざるを得ない。
だが、サリィは敬愛するお嬢様の為に道のど真ん中を堂々と歩いて食事を摂った酒場へ戻った。
入り口のスイングドアは押す事無く中を覗き見る。
「いたですぅ」
目当ての人物を見つけた。それはリーズレットを助けたイケメンだった。
「今回も上手くいったなぁ!」
「やっぱり女なんてチョレエわ!」
リーズレットに最初絡んで来た大男と爽やかイケメンは同じテーブルで酒を飲み交わしていたのだ。
「宝石店に入ったとこを見てからカモになると思ってたぜ!」
イケメンはテーブルに足を乗せて、ウエイトレスの女性の尻を触りながら恥ずかしげもなく「女はカモだ」と言い放った。
「やっぱりですぅ」
サリィは一連の流れを疑っていたのだ。
リーズレットが絡まれた瞬間は「こういう事もあるかもな」と思っていたが、あの男が割って入ったタイミングが絶妙だったのもあった。
決定的だったのはリーズレットの隣に座った時だ。
イケメンから漂う体臭は嗅いだことの無い不思議な臭いだった。
獣人の嗅覚が嗅ぎ取った臭いはリーズレットのモノじゃない。
ウエイトレスが注文を取りに来た時に彼女の臭いと嗅ぎ比べると微かに似ていた。いや、一部含まれているという言い方が正しいか。
イケメンから漂う臭いは、まるで複数人の女性の体臭が入り混じっているようだ。
サリィはイケメンを怪しんだ。主人はメロメロになったが、侍女は主の為に気を引き締めていたのだ。
だが、最後までイケメンはリーズレットに対して紳士的だったのも事実。ここで彼女に手を出そうものなら手の早いチャラ男だと判明するが……。
相手は慎重なのかもしれない、そう感じ取ったサリィは調査を開始した次第である。
しかし、早速尻尾を掴んでしまった。ヤツは紳士的な態度を見せて油断させ、大金を持っているリーズレットから金を奪おうとしているのだろう。
いや、金だけじゃなく体もだろう。ゆっくりと時間を掛ける素振りを見せる事から、常習犯なのではないかとサリィは察した。
入り口からジッと覗き見るサリィ。観察開始から30分程度すると動きがあった。
「次の店行くか?」
「いや、あと2時間後には家に別の女が金持ってくるからよ。帰るわ」
席を立つ2人。勿論、金は払わない。
ウエイトレスの尻を掴んでお前の給料から引いておけ、と言った。
「……私を捨てないでくれる?」
言われたウエイトレスの女性もイケメンに依存してしまっているのか、なんと断るどころか捨てないでと懇願しているではないか。
「やべえですぅ」
とんだクズ野郎だ。サリィはそう確信した。
2人が店を出る前に彼女は物陰に隠れた。
店の前で別れた2人。イケメンは自宅に戻るようだ。サリィはゆっくりと後を着けた。
自宅に戻る途中、イケメンは更なる犯行を重ねる。
「あれ、久しぶりじゃーん。最近来てくれないね?」
「あ……」
道にいた女性に馴れ馴れしく声を掛けて肩に手を回す。恐らく毒牙にかけた女性なのだろう。
女性の方は挙動不審で怯えているようにも見えた。
「これから2時間くらい暇だからよ。家に来いよ。久々に可愛がってやるから。アレも欲しいんだろ?」
イケメンはポケットから袋に入った白い粉を女性に見せた。
「あ、う……。はい……」
それを見た女性はビクリと体を震わせて、結局は断らずに首を縦に振る。
「やべえですぅ」
あの白い粉はきっと人をダメにするやつだ。女性もその経験があって断れなかったのだろう。
女性を好き放題にして操るクズ男を見て、サリィはこれ以上彼をリーズレットに近づけるのはマズイと思った。
そのまま自宅まで尾行すると、家の中へ一緒に消えて行った女性の甘い声が外まで聞こえてくるがサリィは隠れながらジッと時が過ぎるのを待つ。
1時間半程度すると、
「おい、さっさと帰れよ」
女性にそう告げたイケメンは追い出すように半裸のままの女性を自宅の外に押し出した。
被害者となる女性が出て行くまで待っていたサリィは「いよいよヤるか」と腰を上げる。
が、今度はこちらに向かって来る女性を発見。服装は胸元がパックリ開いたドレスを着ていて、一目で「あの男の家に行く」のだと分かった。
「お姉さん。あの家に行くんですか?」
サリィは物陰から出て、イケメン宅を指差しながら素直に女性へ問う。
「そうだけど。なに? 彼の新しい女?」
彼女はあの男が複数の女性と関係を持っている事に気付いているようだ。いや、あの男が隠しもしないのだろう。
あの男の女か? と問われて「何言っているんだ」と言い返したくなるものの、時間も無いのでサリィは言い返さない。
代わりにロビィから貰ったアイアン・レディ製のハンドガンを取り出して銃口を向ける。
「えっ」
「死にたくなけりゃ、ここから消えるですぅ」
いきなり銃口を向けられた女性は少々固まり、我に返ると怯えながら去って行く。
「一人の女性を救っちゃいました」
これから起こる事に対して彼女を追い出す事も出来たし、これからは不幸にならずに済むだろう。
「ふんふんふーん」
サリィは陽気な鼻歌を奏でながらスカートの内ポケットに手を入れる。中から取り出したのはグレネードが3つ。
「お嬢様を騙そうなんて……。めっ!」
イケメン宅のドアを開けて、ピンを抜いたグレネードをポイポイっと連投するサリィ。
投げ終えた彼女はその場から堂々と歩きながら立ち去った。
すると、背後で大爆発。
ドカンと家は木っ端みじんに吹き飛び、中にいたイケメンも天に召してしまったことだろう。
「お嬢様だけじゃなく、いっぱい女の人を救っちゃったですぅ」
燃える家と黒煙を背景にして「くしし」と笑うサリィ。思考と手段が徐々に主へ似てきているのは良い事なのか、どうなのか。
ともあれ、彼女は敬愛すべき主がチャラ男の毒牙にかかるのを阻止する事が出来た。そして、同時にこの町にいる女性も救ったと言えるだろう。
町に暮らす人々が騒ぐ中、てくてく歩いて宿に戻って行く。
部屋に入ると窓から外を見るリーズレットと目が合った。
「サリィ、どこに行ってましたの?」
「買い物をしようとしてたんですが、お店がもう閉まっちゃってました~」
サリィの返答に「そう」と返したリーズレット。
「外で爆発があったようですが」
宿にいたリーズレットにも当然爆発音は聞こえていたようだ。
話題に挙がったところで、サリィは少々顔を伏せながら口を開く。
「それが……。お嬢様と仲良くなっていた殿方が事件に巻き込まれたようだと外で話題になっておりました」
「え!?」
「なんでも、危険な組織に狙われていたようですぅ。襲撃を受けて、相手と一緒に爆死したとあの方のお仲間が泣きながら言っておりました」
「そんな……」
せっかく、良い男だったのにと肩を落とす。
「大丈夫ですぅ。お嬢様ほどの美貌をお持ちの方でしたら、また良い方と出会えますよ~。それに私が傍にいます~」
えへへ~、とリーズレットに抱き着くサリィ。
「……そうですわね。ありがとう、サリィ」
リーズレットもサリィを抱きしめた後、頭を撫でてニコリと笑うのであった。
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