16 やっぱり悪魔じゃん
リーズレット達が到着する少し前。
連行されたレジスタンスのリーダーであるリーリャは手枷と足枷をはめられ、地下の牢獄に監禁されていた。
彼女が監禁されてから約半日。彼女は王国兵による鞭打ち拷問を与えられ、質問に答えろと要求される。
「答えろ! 悪魔はどこにいる!」
質問された内容はこれまで3つあった。
1つは「レジスタンスの別拠点はどこにあるか」である。
これはまだ理解できる。自分達に関する事だからだ。
ただ、2つ目と3つ目――恐らく同一人物の事を問うているであろう質問は完全に心当たりが無い。
肝心な質問内容は「蘇った悪魔はどこにいるか」もしくは「ローズレットという名の女性の居所を吐け」という内容だったからだ。
彼女は正直に話した。悪魔など知らないし、ローズレットなどという名の女性にも心当たりがなかったから。
ただ、1つ目の質問にも答えなかった事もあって信用されなかったらしい。王国兵とレジスタンスの間に信頼関係など皆無なので当然だが。
黙秘していると背中を鞭で叩かれ、水の入った桶に顔を突っ込まれる。主にこれの繰り返し。
彼女は自分の拷問を耐える事は出来た。しかし、隣の部屋にいるであろう仲間の悲鳴を聞く度に申し訳なさと悔しさが心を脆くする。
だが、彼女もただ耐えているだけじゃない。
「いい加減、吐いたらどうだ?」
自分達を襲撃したのが王国第二王子率いる部隊であること、拷問に王子自らが参加している事。
特に彼は2つ目と3つ目の質問――悪魔と例えられるローズレットという名の女性に関する情報を知りたがっている。
この事から、この情報は王家にとって重要で特別な事であるとリーリャが察するのも容易である。上手く切り抜けて手札に加えられれば……革命を成す為の武器になるかもしれないと。
「ふん、それを聞いてどうする?」
リーリャも何とか相手から探ろうと第二王子を睨みながら逆に問う。
「私は別に悪魔が相手だろうと構わないのだよ。だがな、父上がえらくせっつくものでな」
父上、彼にとっての父はこの国の王である。
つまりは、ローズレットという女性に関する情報を欲しているのは現王。やはり武器になり得ると確信した。
「ざまぁないね」
焦らして相手から探る時間を稼ぐ。それと同時に仲間が助けに来てくれるかもしれないという期待もあった。
「そうか。いつまでその態度が出来るかな?」
第二王子は控えていた王国兵に顔を向けた。向けられた王国兵の男は無言で頷き、向かいの牢の中にいた仲間に合図を送る。
「いやああ! 助けて!」
向かいの牢には囚われた仲間の女性が王国兵に髪を引っ張られて顔を持ち上げられ、首元にナイフを当てられる。
「オラッ! お前が喋らないせいで仲間が死ぬぞ!」
リーリャも王国兵に顔を掴まれ、今にも殺されそうな仲間の泣き顔を強制的に見せられる。
嫌だ、死にたくないと叫ぶ仲間の声が耳にへばりつき、絶望する顔を目に焼き付けられるがリーリャは答えない。
心の中で仲間にすまないと詫びながら、唇を血が出るほど噛み締めた。
「殺せ」
第二王子の無慈悲な指示が告げられる。向かいにいた王国兵がナイフで女性の首を切り裂こうとした時――ドカンと轟音が鳴って天井が揺れた。
「何事だ!?」
しかも1度だけじゃない。何度も爆発するような音が鳴り響き、天井は今にも崩れそうなほど激しく揺れる。
次第に建物が崩れ落ちるような音と振動が起きて、地下にいた誰もが真っ直ぐ立つことすらできなくなった。
「何事だ! 外を見て来いッ!」
轟音と振動が収まると、第二王子は部下に地上の様子を見に行くよう命令を下す。
慌てて牢から飛び出して行った王国兵が地上へと続く階段を登り、外に続くハッチを開けた瞬間。
「ぎゃあ!!」
外の様子を見に行った男が階段から転がり落ちて、顔面を手で押さえながら悶絶する様子がリーリャには見えた。
その直後、階段をコツコツと降りる何者かの足音が響く。
コツ、コツ。コツ、コツ。とても規則正しく、足音からは冷静さが読み取れる。
敵陣の真っただ中だというのに微塵も焦りが感じられない。
「あ、ぐ、ああ……」
「うるさい豚ですこと」
階段の下で悶絶する男に向かって放たれる射撃音と女性の声。
声を聞いてリーリャはぶるりと震えた。いや、地下牢にいる誰もが震えただろう。
謎の女性が発した声には慈悲など一切ない。まるでちり紙を捨てるような、全く感情が籠もっていない、単純作業を行うかのような声音。
王国兵を射殺して黙らせた女性が再びコツコツと足音を鳴らして歩き出すと、ようやくリーリャの目に映った。
銃を握る赤いドレスの女性が。
「ほぉら。やっぱり地下にいましてよ」
クスクスと笑うリーズレット。彼女がそう告げると、今度はバタバタと慌ただしく降りてくる足音が続く。
リーズレットの女性に続き、現れたのはサリィとナンシーだった。
「リーリャ!」
「ナ、ナンシー?」
ナンシーはリーリャに気付くと近寄ろうとするが、リーズレットに手で制止される。
「この中に王族はいまして? 第二王子と聞いておりますが」
「貴様は何者――」
そう第二王子が言葉を発した瞬間、リーズレットはリーリャとは反対側の牢にいた王国兵の頭をアイアン・レディで吹き飛ばす。
パンと弾けた頭の中身と血飛沫が牢屋の壁に飛び散って赤く染まる。
「この中に王族はいまして? 私はそう聞いておりますのよ?」
容赦なく殺された王国兵を見て、誰もが言葉を発せなかった。
「んー。この方ではなさそうですわね?」
答えが得られないリーズレットは軍服を纏う別の兵士の頭部に銃口を向けてトリガーを引く。当然、兵士は先ほどの者と同じように死んだ。
「この方でもなさそうですわね?」
1人、また1人とヘッドショットを決めて殺す。魔法を使おうとした者、魔法銃を抜いた王国兵もいたがリーズレットの早撃ちには敵わない。
抵抗する兆しが見えた者は等しく頭部が破裂してオダブツとなった。
「残りはァ」
華が咲き誇るような笑みで最後の1人となった第二王子本人へ銃口を向ける。
「貴方ですわね? 貴方が第二王子でして?」
他の兵士達とは違う、王族を表す特別な軍服。軍服に装飾された勲章や腕章。王族特有の青い髪。
当然、リーズレットは彼が第二王子だと知っていた。
知っていて、恐怖を植え付けた。彼がリーズレットが最も知りたい質問に対して、答えやすくなるように。
「な、あ、悪魔……! お前が父上の言っていた……!」
第二王子はようやく信じたのだ。父親の言っていた話を。
王国を滅ぼす悪魔が目覚めた、などという世迷言だと思っていた話を。
遂に父親も歳を重ねて頭に異常が、と思っていたが彼の言っていた事は真実であったと。悪魔が目の前にいると確信した。
「このッ!」
恐怖を感じながらも彼はリーズレットを殺そうとした。それはラインハルト王国男児、それも王族だからだろう。
男尊女卑思想を幼い頃から教育された賜物。女如きに負けるはずがないというプライド。
右手の中に魔力を溜めて攻撃しようとするが、魔力ごと右手をリーズレットに撃たれた。
「ああああッ!!」
大口径の弾が第二王子の右手を丸ごと吹き飛ばす。血が噴き出る手首を抑え、悶絶するアホウにリーズレットは牢の扉を開けて近づいた。
第二王子の頭部に銃口を押し付け、彼に問う。
「私、聞きたい事がございましてよ。王国が過去に開けた遺跡はどこにあった物ですの?」
リーズレットの問いに第二王子は答えない。彼女の顔を見上げて痛みに耐えながら睨みつけた。
「そのままでは死んでしまいますわね」
第二王子の右腕を取り、粉砕した手首に指の先から出した魔法の火を近づけた。
「がああああ!」
「答える気になりまして?」
ジワジワと焼かれていく傷口。痛みを伴って流血が止まっていく。
優しいのか、拷問なのか、もはやどちらなのかわからない。
「し、知らない! 私は詳細を聞かされていない!」
遂に第二王子は苦痛に飲まれた。口を割ったが、リーズレットは容易く信じるほと甘くない。
「本当かしら? 私、疑り深くてよ?」
次は左腕を引っ張って、掌に銃口を当てた。
今度は左手を失う。そう察した第二王子は焦りながら叫んだ。
「本当だ!! 本当に知らない!! 遺跡の事は本当に知らないんだああああ!!」
「では誰が知っていますの?」
「ち、父上が……! 遺跡に関する事は王が全て管理しているんだ!」
必死に訴える様は正直に言っているように思えた。
「そう。では、貴方は用済みですわね」
銃口を第二王子の額に押し当てて告げる。
「ま、待ってくれ! そいつにはまだ利用価値がある! 殺さないでくれ!」
だが、リーズレットの行動を焦るように制止したのはレジスタンスのリーダーであるリーリャだった。
「私に指図しないで下さるかしら?」
「ヒェ……」
殺意に満ちた鋭い目と共にリーリャにもう片方のアイアン・レディを向けるリーズレット。
あまりの恐怖にリーリャの口から悲鳴が漏れた。だが、彼女はこのチャンスを逃せない。死んでいった仲間の為にも。
「王族から引き出したい情報もあるんだ。頼む!」
気を強く持って、頭を下げて必死に懇願した。
「仕方ありませんわね」
リーズレットはリーリャに根負けすると、ため息を零しながら銃を下ろした。
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