14 最高にイケてる車の使い方
「そういえば、自己紹介をしておりませんでしたわね。私はリーズレット。貴方のお名前を聞かせて下さる?」
「私の名前はナンシーと言います。よろしくお願いします、リーズレットさん」
ようやく自己紹介を終えたのは1日目の夜だった。ナンシー曰く、レジスタンスのアジトはアイアン・レディのバンカーがあった位置から北東にあるそうだ。
現在は目的地まで半分進んだ距離。今日はもう進まずに車中泊となる。
寝る前に火を起こして、3人で囲む。
リーズレットとサリィは缶詰を。ナンシーは袋から干し肉と缶に入ったビスケットを摘まみながら他愛も無い話を続けてコミュニケーションを取った。
「リーズレットさんの振舞いというか雰囲気というか……凄く気品に溢れていますよね。やっぱり、どこかのお貴族様なんですか?」
「貴族ではございませんわよ。ですが、昔は傭兵団を率いていた経験がございましてよ」
「傭兵団……?」
ナンシーの問いに答えるリーズレット。何年前になるかは不明だが、確かに彼女は傭兵団を率いていた。
ここで少し2人の間に齟齬が生まれる。リーズレットは転生前を。ナンシーは現代を思う。
リーズレットの見た目はどうみても若い。10代、もしくは20代にしか見えない。
首を傾げたナンシーであったが、もしかしたら若く見えるだけで歳を取っているのかもしれない。聞くのは失礼だな、と彼女なりに気を使った結果疑問はスルーとなったが。
「レジスタンスは今後の作戦を考えておりまして?」
「はい。リーダーが王都まで点在する重要拠点を落とす作戦を考えているって言ってました」
どうやらレジスタンスも考え無しに反抗しているわけじゃないらしい。しっかりと王都陥落までの道筋は考えているようだ。
あとはレジスタンス自体の戦力次第であるが、果たしてどうだろうか。
「まぁ、よろしくてよ。私はさっさと王族をとっ捕まえて聞きたい事がございますの。重要拠点だか国の要衝だか知りませんが、さっさと吹き飛ばしますわよ」
「頼もしいですね!」
王国兵相手に一歩を退かないリーズレットが参戦すれば百人力。レジスタンスの戦力も底上げ間違いなし。
そう思ったナンシーだが、翌日には少し後悔する事となる。
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「ああ……。破片を踏んじゃったみたいです」
翌日、事の始まりはナンシーの乗る魔導車がパンクした件からスタート。
原因は破壊された魔導車の破片が地面に埋まっていたようで、一部露出した尖った部分を踏んでしまったせいだった。
修理する為のキットや替えのタイヤが無かったのもあって、ナンシーはリーズレット達の車に乗る事となった。
といってもロビィのいる後部座席では上手く道案内ができない。そこで、ナンシーは助手席に座って膝の上にサリィを乗せる事となった。
彼女はサリィのもふもふな尻尾を堪能して心癒されながら道を示す。そうして、前時代の建物を改修したというアジトが見え始めた頃に彼女は叫んだ。
「止めて下さい!」
キキッとブレーキをかけて停車。リーズレットはナンシーがフロントガラス越しに指差す先を見た。
「あれ、王国軍の魔導車です!」
王国軍の魔導車はナンシーの告げたアジトらしきボロボロの小さなコンクリート製らしき建物の前に駐車されている。
「アジトが襲われたんだわ!」
双眼鏡を覗くナンシーが悲痛な叫びを上げた。リーズレットは双眼鏡を受け取って状況を確認。
すると、建物の周囲には王国軍兵4人が駐車しているトラックタイプの魔導車を囲んで警備しているのが見えた。
そのまま視線をトラックの後ろ側へ向けると、アジトの中から手を縛られた女性達が王国軍兵によって荷台に乗せられていた。
「貴方のお仲間は捕まっておりますわね」
「ど、どうしよう……」
サリィの体をきゅっと抱きしめながら体を震わせるナンシー。
王国軍の拠点に連れて行かれては助けられない。王国軍に処刑されてしまう、と仲間の行く末を告げる。
様子を窺っている間にトラックタイプの魔導車にレジスタンスは詰め込まれていき、兵士が運転席に乗り込んだ。このままでは彼女の仲間は連れ去られてしまうだろう。
「あの車を止めればよろしいのでしょう?」
リーズレットは震えるナンシーにニコリと笑った。
「で、でも、どうやって?」
ナンシーは魔導車を止める、もしくは破壊する術はない。リーズレットがこのまま近付き、銃でトラックのタイヤでも撃つのかと思っていた。
「イージーですわよ」
だが、彼女の考えはハズレた。いや、ある意味正解だ。近づく、という部分だけ。
まだトラックは発進していない。アレを使えば今なら止められる。
試すには持って来いの機会だ、とリーズレットはアクセルをベタ踏みした。
「わわ!」
魔導車を急発進させたリーズレットは土煙を巻き上げながら王国軍のトラックへ一直線に向かう。
途中でハンドル右下にあるレバーを引いた。
すると、車体のフロント部分にあったドデカイ丸いエンブレムが縦に割れて開く。
中に格納されていたドア・ノッカーが起動して車体前方に杭が生えた。
いや、杭という表現はお上品すぎる。鋼鉄製の鉄骨と表現した方が正しいくらいには武骨で原始的な兵器である。
「えっ、えっ」
ドア・ノッカーを起動したリーズレットは更に加速。アイドリング中のトラックの運転席――キャブ目掛けてぐんぐん進んで行く搭乗車に疑問を抱き、やがて不安に変わっていくナンシー。
「掴まっておきなさい。突っ込みますわよッ!」
「えッ!? えッ!?」
ナンシーは加速していく様子に混乱状態に陥った。
接触まで残り数十メートル。
「当たる! ぶつかる! 当たりますよおおおお!?」
ナンシーの視界は加速しているはずなのにスローモーションになっていた。運転席に座る王国兵が目玉をひん剥いて驚く表情の変化がやけに遅く見える。
相手のトラックを止める術。正解はこのまま相手のトラック運転席に突っ込んで、運転手ごとぶっ壊すでした。
「ホッホー! ファッキュゥゥゥッ!!」
そして訪れる衝撃と横から聞こえる歓喜の声。
イカれてやがる。
ナンシーは楽しそうに笑いながら相手の運転席に突っ込んだリーズレットの横顔を見てそう確信した。
ドア・ノッカーはトラックのキャブ部分に突っ込むと、鉄で覆われたキャブごと運転手をミンチに変えながら荷台との連結部分から抉り取った。
女性達が積み込まれていた荷台が横倒しになって元の場所に放置される。
トラックのキャブを抉り取ってもまだ直進するリーズレット達の乗る車はなんと無傷。さすがはオーバーテクノロジーで作られた車体だ。
運転手ごとミンチにしたリーズレットは、接触から300メートルほど進んだ場所でようやくブレーキを踏んで減速。
通り過ぎたアジト前からは残された王国兵の怒声と横転した荷台の中から女性達の悲鳴が聞こえる。
「あ、あわわ……!」
ナンシーはサイドミラーで後方の様子とドア・ノッカーに突き刺さったまま運転手の血に染まったキャブの残骸を交互に見てガタガタ震えだした。
「Fooo!! やっぱり最高ですわね!」
ファッキューベイビー! とガッツポーズを決めるリーズレット。あの舞うように戦っていた彼女はそこにいなかった。
「まだまだいきますわよォ!」
リーズレットは車を反転。再びアジトに向かって走り始めた。
次はどうする気だとナンシーが震えながら思う。
答えは簡単だった。人は車に轢かれれば死ぬ。それは王国兵だろうが変わらない。
リーズレットは車を爆走させて逃げ惑う王国兵のケツを追い始めた。
「ヒュウ! まるで牧羊犬になった気分ですわね! わんわ~んですわよ~!」
わんわ~ん、の部分は可愛らしく。だが、やっている事の惨たらしさもあって、ナンシーの耳には魂を求める悪魔の雄叫びにしか聞こえなかった。
王国兵達の「うわああ」「やめてくれええ」「助けてえええ」という悲痛な悲鳴。
悲鳴の次に聞こえる「バチャ」という水風船が割れるような音、そして「ガタンガタン」というタイヤが物体を踏み越えた時の音が鳴る度に彼女の心は恐怖で染まる。
サリィのもふもふな尻尾を抱いてなければ今頃恐怖で発狂しているかもしれない。
「お嬢様! あそこにまだ1匹いますぅ!」
「おーっほっほっほっ! お任せなさ~い!」
侍女の指差す方向にハンドルを切るリーズレットは笑顔が絶えない。
リーズレットの横顔を見た後、ナンシーはフロントガラスに薄く映ったサリィの笑顔を見て思った。
(リーダー、ごめんなさい……。ヤバイ人を連れてきちゃったかも……)
「ハッハー! ステイダウン、マザファッカーッ!」
最後の1人を轢き殺したリーズレットの横顔を見て、ナンシーはこの先どうなってしまうんだと不安と後悔を抱いた。
読んで下さりありがとうございます。
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