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前日譚 1 : 最初の婚約破棄 ~王国クーデター編~ 下


「お金が出来ましたのでまた来ましたわ。もっと強い銃はございませんの?」


 アンガー領に戻ったリーズレットは再び武器屋へ赴いた。


 そこで店主へ新たな銃の購入を検討していると告げる。注文は既に彼女が語った通りである。


「強い銃、ねえ。銃ってのはシチュエーションによって変えるモンだ。お嬢ちゃんが撃ちたいのはどんな相手なんだい?」


「そうですわね。数が多くて大きな相手ですわね。家の外壁のように硬い相手でしてよ」


 次に強襲する相手の家は伯爵家だ。伯爵家ともなればある程度裕福で、家の護衛に多くの騎士を配置している事だろう。


 特に次のプロス伯爵家は武家である。当主は過去の戦争で武功を立てた将軍で、領騎士の装備には常に気を使っていると学園でよく聞いた。


 というよりも、プロス伯爵家の娘が自分自身にそう自慢していた事を思い出す。


『ウチの家は剣を受けても物ともしないフルプレートアーマーで領地を守っておりますことよ!』


 あの淑女らしさの欠片もない筋肉ゴリラ女の家をぶっ潰すにはそれなりの火力が必要であると彼女は考えた次第である。


「ふぅむ。なるほどね」


 店主がカウンターの下から取り出したのは軽機関銃。ドスンと置かれたそれにリーズレットは目を輝かせた。


「大きいですわね!」


「おうよ。これは帝国で採用されている分隊支援火器だ。ベルトリンク・弾倉の二重給弾方式、空冷システム。今帝国じゃ一番信頼されている銃だぜ」


 店主が専門用語を並べて語るもリーズレットは首を傾げるばかり。


「あー、つまり、やべえ銃ってこと。アサルトライフルよりもいっぱい撃てて、家の壁なんざ簡単に蜂の巣っちゅーわけよ」


「良いですわね!」


「ただ重いぜ? 各部軽量化されてはいるがお嬢ちゃんが持つには……」


 そう言った店主であるが、リーズレットは「よっこいしょ」と持ち上げて腰だめに構えた。


「奥で試射してもよろしくて?」


 結論から言えばリーズレットは問題無く打つ事が出来た。細い腕と足でどうやって、という店主の疑問に対して、


「ダンスと変わりませんわ。淑女の嗜みでしてよ?」


 全く意味不明な答えを返す。


 とにかく、リーズレットの獲物は軽機関銃に変わった。布製の弾帯袋も3つ購入。グレネードの補給も忘れない。


 宿屋に戻り、お古となったアサルトライフルはユリィへ渡される。


「これで貴方も立派な淑女になりましてよ」


 淑女。それはゴツい銃を構え、相手を人体を徹底的に蜂の巣状態へ変える恐るべき存在。


 おお、神よ。なぜ貴方はこのようなファッキンデーモンをお作りになられたのですかと神父様は問うに違いない。


「さぁ、次はプロス伯爵領をファックしに参りますわよ」


 潜入方法は前と同じ。変装して、夜に襲撃を掛ける。


 ただ、領内に侵入はできたものの、今回のプロス伯爵邸は警備が厳重であった。恐らくクソビッチ家が潰された報を聞いたからだろう。


 筋肉ゴリラ娘が自慢していた通り、フルプレートアーマーに身を包んだ騎士達がわんさかいた。


「関係ございませんわね」


 そう、関係ない。軽機関銃ならね。


「貴様! 何ヤツ――」


「レッツ、パーティータァァァイムッ!!!」


 多少肉が斬れる事に長けた棒きれ VS 鉄すらも貫通する破壊の化身。


 まだマンモス相手に神風特攻を繰り返す人類が宇宙から来た侵略者と戦うくらい圧倒的な差がある。


 ダダダダダダと吐き出される銃弾はフルプレートアーマーを貫通して中の人間を容赦なく蜂の巣に。


 当たらなかった弾は後ろにあった家の壁を穴だらけにして、家の中を安全地帯だと勘違いしているアホウを襲う。


「ファッキューです! ファッキューです!」


 今回はユリィも一緒である。イカれたトリガーハッピーお嬢様の隣で必死に口真似をしながらアサルトライフルを撃つ様は微笑ましい。


「おーっほっほっほ! 鉄の棺桶に自ら入っているなんて、なんとお行儀のよろしい豚共ですことォ!」


「ファッキューです! ファッキューです!」


「おーっほっほっほ! ユリィ、前進しますわよォ!」


 腰だめで発射しながらズンズンと進むお嬢様とメイドの組み合わせ。プロス伯爵側にとっては悪魔の行進に思える程の恐怖を覚えた。

 

「誇り高きプロス伯爵領騎士団は悪魔にも負けぬ! 私に続けげべべべ――」


 銃撃される中、フルプレートを着用した伯爵自らが部下を鼓舞しながら前に出る!


 が、ダメッ! 


 軽機関銃の前では剣と共に掲げた根性論などチリ紙以下、ケツを拭く足しにもならない!


「あらぁ。自ら出て来てくれて助かりましたわ」


 自ら姿を晒した事によって蜂の巣になり、部下達へは更なる恐怖を植え付ける結果に終わった。


「さぁさぁ! 残りもお死になさい! 天界から舞い降りた天使のような私は、誰でも等しく平等に殺してあげますわよォ!」


 屋敷を守る騎士を鎮圧した後は恒例の金品強奪タイム。ユリィにも命じて手当たり次第に奪い尽くす。


 最後の部屋を開けると母親と共に部屋の隅で蹲る少年の姿があった。プロス伯爵家の長男だろう、とリーズレットは察した。


「お願いします! 命だけは! せめて、この子だけは!」


 母親の必死な懇願にニコリと笑うリーズレット。脇の下にあるホルスターからハンドガンを抜いて、母親の頭に銃口を押し付けた。


「いけませんわ。人の人生を滅茶苦茶にしておいて、自分だけ助かろうなどと。神も言っていますわね? 汝、左の頬を殴られたら相手の額にケツの穴をこさえろと」


 パン、と乾いた音と共に母親は床に倒れた。


「ひ、ひいぃ!」


「貴方も、自分の生まれを呪って下さいましね?」


 パンパン。


 床に倒れた親子の死体を一瞥する事もせず、彼女は寝室にあった宝石を奪いとる。


「ヒュゥ! 最高ですわ! 最高級のブルーダイヤモンドですわね! これで銃弾が千発は買えますわ!」   


「お嬢様! 回収が終わりました!」


「よくってよ、ユリィ。ズラかりましょう」


 鼻歌混じりにリーズレットは穴の開いた壁から堂々と屋敷を出た。最後はいつも通り、グレネードを2個投げ入れて。


「駆除完了ですわ!」


 またもや爆発する屋敷を背景にリーズレットは去って行った。



-----



「お前さんに会わせたい人がいる」


 ブロス伯爵家襲撃から3ヵ月。ユリィにカットされた髪も伸び、大きなドリル巻き髪はまだ無理であるが、小ドリル巻き髪をセッティングできるようになった頃合いにそれは起きた。


 6つ目の家をぶっ潰したリーズレットが銃弾の補給をするべく武器屋へ赴くと、武器屋の店主は真剣な顔でそう言った。


 臭いですわね。内心でそう呟いたリーズレットはズラかる事に。


「用事を思い出しましたわ。ごきげんよう」


「おいおい、そりゃないぜ」


 店の奥から出て来たのは髭面のおじさん。髭がもみあげと一体化しているタイプのヤツだ。


「俺とお嬢さんの敵は一緒だぜ? アルフォンス家長女、リーズレットお嬢様?」


「…………」


 なぜ、その名をとは言わない。ジっとおじさんを見つめるリーズレット。彼の顔にどこか見覚えがあった。


「まぁ、奥で話そうや」


 素性が割れている以上、きっと逃げても追われる。宿屋も知られているだろう、と考えたリーズレットは大人しく後に続いた。


「一度会っているだろう? この店を教えたじゃないか。それと……俺の名はアドラ・フォン・アドスタニア。そう言えば正体がわかるかい?」


「それって……」


 見覚えがあったのは当然だ。彼はこの店をオススメしたゴロツキ。加えて口から出た名前。それはアドスタニア王家の一員であり、現王の弟の名であった。


 アドスタニア王国大公家であり、数年前に事故死したと発表された男である。


「事故死したはずでは?」


「兄にハメられてね。まぁ、政敵ってやつさ」


 アドラ曰く、アドラの母は元アドスタニア王家第一王妃であった。


 しかし、アドスタニア王家では妾であった第二王妃が先に子を産む。それが現在のアドスタニア王だ。これが悲劇の始まりであったとアドラは語った。


 先に生まれた妾の子。なかなか子を産まない正室。先代国王は正室に見切りをつけて先に産まれた妾の子である男児、現王を継承者として認めてしまった。


 苦しく肩身の狭い生活を送っていた正室の第一王妃だったが、子を産む事を諦めきれない。そして、第一子である側室の子誕生から5年後にアドラを遂に産んだ。


 先代国王は喜び、やはりアドラを次の王にすると次期継承者を変えた。これが切っ掛けで、正室派と側室派の派閥争いが激化するも2人の子供は成長していく。


 遂に先代王が病に倒れ、次の王を決めるタイムリミットが近づいた。


 通常通りであれば正室の子が国を受け継ぐのがベター。だが、側室だった第二王妃は自分の子が王になる事を諦めなかった。


 アドラが25になった頃、先代王が危篤と聞いて、視察先から王都に向かっている最中に側室派の工作員が強襲。事故に見せかけてアドラを殺そうとした。


 何とか部下達の奮闘もあって逃げ延びるも、アドラは身一つで世の中に放り出される事に。


 王都に戻っても殺される。そう考えたアドラは帝国へ渡った。因みにこの時、正室であったアドラの母も毒殺されている。当然、病死と偽って。


「そこで色々あってね。帝国人であるここの親父と仲良くなったのさ」


 そう言われ、手を振るのは武器屋の店主。彼がアドラを助け、支援しているようだ。


「この国が次に戦争しようって相手を知ってるか? 帝国だぜ?」


 技術力の成長著しく、転生者まで現れた大国。


 剣と鎧の時代を終わらせ、一部の者にしか使えない奇跡たる魔法と同等の殺傷能力を持つ『銃』を開発した帝国を、王国は相手しようと目論んでいるようだ。


「お嬢さん、銃を使ってどう思った? こんなモンを1万丁以上持つ帝国軍人にこの国が勝てると思うか?」


「まぁ、勝てるわけがございませんわね。頭の中身をぶちまけて蹂躙されるのがオチですわ」


 答えは当然、ノーだ。リーズレットどころか、頭の中がクソ塗れの傭兵達でも同じ答えを出すだろう。


 鉄の鎧を着込んで剣をチンパンジーのように振り回す王国が絶対に勝てるはずがない。


「だろう? 帝国をよく知る俺は戦争を止めたいわけよ。母の仇も取りたいしな。んで、帝国と戦争おっぱじめようとしているのは……」


「私の父を処刑した一派という訳ですわね?」


「正解だ」


 だから、敵は同じである。そうアドラは言った。


「君には俺達の勢力に加わってほしい。敵も同じだし……。何より、君の銃を撃つセンス。最高だぜ」


「断ったらどうするつもり? 私をこの場で殺しますの?」


「まさか。断られたらそれまでの話さ。君は君の復讐を続けると良い。だが、そうだな。俺達に加われば無料で銃をぶっ放せるぜ。軽機関銃よりも強い銃も――」


「やりますわ。仲間になってもよろしくってよ」


 無料で銃をぶっ放せる。それももっと強い銃を。リーズロッテは目を輝かせ、秒で方針を変えた。


「お、おう……。そうかい……」


 とんだトリガーハッピーなお嬢様だ。アドラはそう思わずにはいられなかった。


「お嬢さんのおかげで派閥に所属する家がだいぶ潰れた。残りはグラス伯爵家、王都にいるマッキンリーとその取り巻き。そして……」


「王家ですわね?」


 これはクーデターだ。なんたって現王も戦争には賛成派だ。加えてアドラと彼の母を殺した犯人の息子だ。


 だが、リーズレットには都合が良い。あのビッチと共にクソ芋臭い王子にも鉛弾を撃ち込んでやる気なのだから。


「準備があるからな。2週間後にグラス伯爵家を奇襲する」


「ええ、よくってよ」



-----



 結論から言おう。グラス伯爵家は爆発した。というよりも文字通り、爆発四散した。


「Fooooo!! ファッキン、マザーファッカァァァー!!」


 帝国産のRPGを肩に担いだリーズロッテの手によって。


 窓を突き破った弾は屋敷の中で爆発。屋根は空中に吹き飛んで、中にいる人間ごとゴミクズに変える。


「さいっこうですわ!! なんですのこれ!! さいっこうですわああああ!!」


「ファッキューです! ファッキューです!」


 脇で軽機関銃を乱射するユリィ。新しいRPGに手を伸ばすリーズレット。屋敷の中にいた伯爵ごと吹き飛んだ次は、外に並ぶ騎士に狙いを付けた。


「馬鹿やめろ! 対人戦で使う武器じゃねえ!」


「止めんじゃねえですわ! コロスゥ!!」


 アドラの制止は空しく、ボシュッと飛び出したロケット弾は騎士達目掛けて飛んでいく。騎士の鎧に着弾した弾は大爆発を起こし、爆風に飲まれた他の騎士ごとバラバラになって死体が宙を飛んだ。


 パラパラと降ってくる残骸のカスと人の死体を見上げながら、アドラは本当に仲間にして良かったのかと自分の胸に問うた。


 問題の淑女は隣で炸裂した火薬の臭いを肺に流し込みながら「この匂いがたまらないですわァ」とヤクにハマった悪魔のような事を言っているではありませんか。


「次は王都でしたわね? いつ向かいまして?」


「あ、ああ……。グラス伯爵の死が伝わるだろうからすぐに向かう予定だ」


 グラス伯爵家を奇襲する前に全ての準備は整えてあった。既に王国の未来はカウントダウンが始まっている。


「王都はどう攻めるおつもり? 今回のように奇襲するにはあまりにも広いですわよ?」


「大丈夫だ。王都には既に俺の仲間が民衆を煽っている。日時も伝えてあるから門をぶち破って一気に城へ向かう。それを合図に他の者達も武器を取るって寸法さ」


「あら。根回しがよろしいこと」


 開始日時は決まっている。時間帯は夜。閉まっている王都入場門を突破して、メインストリートを通って城へ。


 城に至るまでは貴族の住まう区画を通る。道すがらマッキンリー家を強襲すれば良い。マッキンリーを始末した後はクーデターを起こした仲間達と城を制圧して王を捕えれば勝ち。


 簡単でシンプルな作戦である。


「わかってますこと? マッキンリーとクソビッチ、クソ王子は私が殺しますのよ? 誰にも渡しはしませんわ」


「わかっているさ。存分にやりな」


 ここまで来れば迷っている暇はない。そう自分に言い聞かせたアドラはリーズレットとユリィを特別製の馬車に招いた。


 特別製の馬車はなんと馬が生きていない。銃と同じく機械仕掛けで作られた疲れ知らずの馬が3頭で引く大型馬車であった。


 2人を乗せた特別な馬車は、もう1台の特別製と共に並走しながら王国王都へ続く道を行く。破滅のカウントダウンは刻々と進み、その時が来た。


 目の前に王都の入場門が見えると帆馬車のようにキャビンを隠していた布が取り払われる。


 正体を晒した馬車のキャビンには壁が無い。代わりにあるのはガトリング式機関銃。左右に1つずつ備わったガトリング式機関銃のグリップを握ったリーズレットとユリィが姿を晒した。


「行くぜ! お嬢様!」


 隣で並走する馬車にはアドラが乗っており、肩に担いだRPGを門に向かってぶっ放した。


「あん。それも私が撃ちたかったですわ!」


 入場門に着弾すると大爆発を起こす。壊れた門から2台の馬車が王都の中に入ると、灯りを持った人々が続々と現れて爆発に驚く騎士へ襲い掛かる。


「前方に騎士団!」


 長いメインストリートを進んでいると騒ぎを嗅ぎつけた騎士団が行く手を阻む。


 いや、阻むと言うべきか?


「ユリィ! やりますわよ!」


「はい! お嬢様!」


「ロックンロォォォルッ!!」


 グリップを握った2人は騎士団に銃口を向ける。徐々に回転している6本の銃身がトップスピードまで至ると、高速で吐き出された弾によって騎士達は痛みを感じずに天へ召された。


 阻むどころか、ただの的になりに来ただけだ。


「ヒュウ! 来世でまた会いましょう!」


 騎士を鎧ごとミンチに変えたリーズレットは死体に中指を立てながら通過する。


 帝国で開発された人殺し馬車は死体の山を築きながら猛進、遂にマッキンリー家が見えた。


「クソを撒き散らす事しか能のない豚は等しく蜂の巣ですわぁぁ!」


 御者が屋敷の前で止めると、リーズレットによる掃射が始まる。


 屋敷は面白い程に穴だらけになっていき、中から悲鳴が聞こえてきた。


「おーっほっほっほ! 己のアホさ加減を理解するいい機会ですわよォ! 次の人生に活かして下さいましねェェ?」


 吐き出される弾の発射速度に対抗できる手段を王国貴族は持っていない。


 剣を持ったチンパンジー共は等しく死ぬ。食事中だったマッキンリー本人も同様に、ナイフとフォークを持ったまま頭を吹き飛ばされて死んだ。


「キィス、マァイ、アァァァスッ!!」


 リーズレットは自分の人生を滅茶苦茶にした主犯に中指を立て、唾を吐き捨てた。


「ファッキューです!」


 極めつけはユリィによるグレネードランチャー。マッキンリー家は粉々になって死体諸共崩れ落ちた。


「さぁ! 次は取り巻きの家をぶっ壊して、城ですわよ!」


 御者が機械仕掛けの馬を操作してメインストリートを更に奥へと続く。進みながらマッキンリーの取り巻きが住む家を破壊し、貴族の住まう区画には淑女の笑い声と銃声が響く。


 クソ共にお礼参りを果たしたリーズレットが目指すは天に向かって頭を伸ばすクソの象徴。


 芋クサ王子とビッチはきっと城だ。あそこで乳繰り合っているに違いない。そんな確信がリーズレットにはあった。


 城へ到達するとクーデターに加担した国民とアドラが門の前に陣取っているのが見えた。


「リーズレット! 来たか!」


 どうやらリーズレットを待っていたようだ。律儀に約束を守ってくれた事に彼に対しての内申点が少々上がる。やったぜ、ベイビー!


「突入を?」


「ああ、ほらよ」


 アドラは帝国式突入戦の華を譲りたかったようだ。


 お嬢様にRPG。淑女たるリーズレットは受け取ったRPGを肩に担いでぶっ放す。


 城の門が弾け飛ぶと、


「突撃ですわぁぁぁッ!! パーティィィィタァァァイムッ!!」


 ユリィと共にガトリング式機関銃を掃射しながら城の敷地内へ突撃を開始する。


 銃を撃つ快感に頭をヤラれた戦場の女神、ヤクをキメすぎてぶっ飛んだジャンヌ・ダルクとなったリーズレットの後にアドラと国民が続く。


 掃射によって死んでいく騎士達。手に持った農具で追い打ちをかける為に距離を詰め寄るクーデター軍団。


「私は上に行きますわ!」


「お供するぜ、レディ!」


 玄関口を蜂の巣にして穴を開けたリーズレットは軽機関銃を担いで馬車から降りた。


 アサルトライフルを持ったユリィとアドラが彼女に続く。


「Foooo!!」


 軽機関銃を撃ちながら階段を登り、階段を降りてくる騎士や廊下にいた者どもを等しく殺す。


 明日の神父様はさぞかし忙しいだろう。大量の死体袋を前に金を数えながら淑女(デーモン)万歳と言うに違いない。


 そして3人が辿り着いたのは王族専用のフロア。


「俺は兄を押さえる! お前はお前の復讐を果たせ!」


「当然ですわよ!」


 二手に別れ、リーズレットは淑女の勘を頼りに廊下を進む。途中で現れる近衛騎士を穴だらけにしながら、通過しそうになった部屋の前で足を止めた。


「臭いますわね。ここからビッチと芋クサ野郎の臭いがしますわ」


 ドアの金具を撃って蹴飛ばすと中にはベッドの上で裸のまま身を抱き寄せ合う王子とビッチの姿が。


「グッド、イブニィィング?」


 遂にミツケタ。


 ニタリと笑うリーズレット。硝煙がまだ残る銃口が人生を滅茶苦茶にした2人へ向けられる。


「リ、リーズレット……!」


「ご機嫌麗しゅう、クソ脳たりんの王子様ァ? 元婚約者がファッキン婚約破棄野郎をぶっ殺しに参りましたわよォ?」


 ヒィ、ヒィ! と悲鳴を上げる王子とビッチ。裸で抱き合いながらリーズレットへ恐れを充満させた目を向けた。


 人は恐れを抱き、恐怖に支配されると予想もしない行動に移すものだ。王子もまた、その1人であった。


「リ、リーズレット! 聞いてくれ! 私は悪くない! 悪いのはマッキンリーと加担していたあの女だ!」


 王子は全裸のまま、お楽しみ相手から離れてベッドから転がり落ちる。そして、リーズレットに向かって命乞いを始めた。


「ふふ。知っていますわ。安心して下さいましね、王子様。私は誰にでも等しく慈悲を与える心優しい淑女ですことよ?」


 ニコリと笑ったリーズレットは銃口をベッドの上で震えながら「裏切り者!」と叫ぶビッチへ向けた。


「な、なによ! 婚約者を取られた貴方が悪いんじゃない!」


 銃口を向けられた彼女は体を震わせながら強気な態度を取る。だが、それはいけない。悪手だ。銃を持った淑女にケンカを売ってはいけないよ。


「くたばりあそばせ! ビィィィィッッチ!!」


 銃口の先から弾が高速で吐き出された。リーズレットの怒りを表すかのように、トリガーに掛かった指は弾薬ポーチの中身が尽きるまで離れない。


 結果、ビッチの上半身は無くなった。


「あら、ごめんなさい王子様。貴方の大好きなダッチワイフの上半身が無くなってしまいましたわ」


 赤熱する銃口からは硝煙が天井へ向かって昇る。


「でも、もう充分に楽しんだでしょう?」


 赤熱した銃口を王子の体に押し付けると王子は「アツゥイ!」と叫びながら床を転げ回った。


「ひぃ、ひぃぃぃ!」


 涙と鼻水塗れになった顔の王子は全裸のまま軽機関銃によって開いた壁の穴から隣の部屋へ逃げようと試みる。


 だが、タンという音と共に王子の足に穴が開いた。リーズレットの手にはハンドガンが握られ、弾を発射した証拠に硝煙が舞う。


「ひぎゃあああ!」


「ああ! いけませんわ! 王子様の高貴な足にクソ穴が開いてしまいましてよ!」


 足を抑え、泣き叫ぶ王子に近寄ったリーズレットは彼の無事な足へハンドガンの銃口を押し当てて、


「痛いの、痛いの、飛んでいけ~!」 


 タン、ともう一発撃ち込んだ。


「ああ! 助けてくれ! 助けてぐれえええ!」


 両足の痛みに泣き叫ぶ王子。その醜悪な姿を見て、リーズレットは鼻で笑った。


「馬鹿な男ですわね。私に辱めを与えなければ、こうはならなかったでしょうに」


 婚約破棄をしなければ。父を処刑しなければ。愚かなマッキンリー派の甘い言葉に惑わされなければ。


 だが、もう遅い。もう終わった。


 ハンドガンの銃口が王子の額に押し付けられる。


「ごきげんよう、王子様。次の人生はマシである事を私、リーズレットが祈って差し上げますわ」


 華のように咲き誇る笑顔は淑女の嗜み。何時如何なる時も笑顔を忘れてはいけない。


 そう。婚約破棄をした愚かで、クソなファッキン王子を殺す時も。


 タンタンタン。


「お嬢様。ご苦労様でございました」


「特別サービスでケツの穴を追加で3つも増やしてしまいましたわ」


 ユリィの言葉を聞きながら、フゥと銃口の硝煙を吹き消してリーズレットはハンドガンをホルスターに仕舞った。


「全員始末しましたが、これから如何いたしますか?」


「そうねぇ……。まずは宝物庫から金品を強奪してから考えましょう」


-----



 クーデターは終わった。アドラが現王を拘束し、首を刎ねたのだ。


 これで世界最大の脅威と戦争をしようとしていたアドスタニア王国は生まれ変わる。新しい王と共に正しき道を歩む第一歩を踏み出したのだが……。


「リーズレット!」


 これから新王となるアドラは城の外で王都から去って行こうとするリーズレットの背中に声を掛けた。


 彼女とメイドのユリィはパンパンに膨らんだバッグと銃を肩に引っ掛けながら、朝日が昇る山を背景に振り返った。


「どこへ行くんだ! アドスタニアは変わる! 君もこれからこの国を支えてくれないか!」 


 彼の本心だった。これからアドスタニア王国は帝国と手を取って、新たな未来へ進む。国防の要としてリーズレットを将軍に据えたいと彼は考えていたのだ。


「お断りですわ!」


「なんで!」


「私、淑女でしてよ! 婚約者を探しにいきますの!」


 だったらアドスタニア王国の中から選べばいい。選び放題にしてやる! そう提案するが、リーズレットは鼻で笑った。


「アドスタニア人の男は、どいつもこいつも芋臭い顔をしていますわ。私には不似合いでしてよ」


 返答を聞いたアドラは一瞬返答に困った。だが、次第に笑いが込み上げた。


「そうかい! そうかい……」


 笑いながらアドラは手で顔を覆う。


「ありがとうよ! いつか戻って来い! そん時は、お前が出て行ったのを後悔するくらい美男子を並べて歓迎してやる!」


 アドラは笑いながら朝日の昇る方向へ歩き始めた淑女の背中を見送った。


 見送られる淑女は中指を立てて、メイドと共に去って行く。 


 この時以降、世界各地では『ドリル髪の悪魔淑女』という異名を持った傭兵の名が轟き始めるのであった。



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[良い点] あまりにも爽快感のある作品でしてよ
[良い点] もうタイトルの時点で草がぼうぼうに生えて止まらなかったです。 >宿屋に戻り、お古となったアサルトライフルはユリィへ渡される。 >「これで貴方も立派な淑女になりましてよ」 >見送られる…
[良い点] すごく面白くて、スッキリしました! 主人公好きです!
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