11 2度目の最強
バーカウンター横に出現したショーケースが90度回転すると、裏側はレディ・マム専用の更衣室となっていた。
ほどほど広く奥行のある更衣室に入って、前世と同じように出撃の儀式を行う。
服を脱ぎ、ピンで留めていた髪を解いた。フロウレンスが用意してくれたアイロンで髪を巻き、もう一度髪を纏めれば彼女のアイデンティティが蘇る。
ドリル巻髪を丁寧に作り上げ、赤いドレスに袖を通した。
内側には肌触りの良い生地、赤色の特殊な金属繊維のベース生地と黒いレースで装飾された彼女専用の戦闘用ドレス。
胸の部分には耐衝撃性能を増した薄型アーマーを内蔵し、太腿に巻いたホルスターにも素早く手を差し込めるように改造され、スカートの中には手榴弾を収納できるポケット付き。
しかしながら、着用時のスタイルは崩れないよう設計。異次元とも言える異世界技術をふんだんに盛り込んだ特別仕様。
両脇にはホルスターを装着して、愛用の2丁拳銃を装備。黒いフード付きのコートを着てそれを隠した。
最後に赤いハイヒールを履いて――彼女は嘗ての姿を取り戻す。
『相変わらずお美しい』
更衣室から出るとロビィの称賛が彼女に送られる。
「少々、胸が苦しいですわ」
前世よりもスタイルがよくなったリーズレットにはやや窮屈。が、動くには問題無さそうだった。
『後で調整しておきましょう』
そう言いながら、ロビィはカウンターの上に各種銃のマガジンを置いた。
アイアン・レディが使用するのは全て実弾だ。それも特別仕様の実弾。
『ご心配なく。銃弾を生産するマシンは稼働しております』
素材さえあれば量産できる専用のマシンは稼働済みだとロビィは告げる。
「そう。では……」
『存分に』
胸に片手を当てて紳士のように礼をするロビィの返答を得て、リーズレットは笑みを返しながら倉庫側に続く出口へ向かって行った。
-----
「まだ開かないのか!」
地上では王国軍がバンカーの奥で新たに見つけたハッチを開けようと技術者を急かしていた。
だが、倉庫のドアと同じく前時代の電子錠を解析するのは困難を極める。
「倉庫の方を先に開けた方がよろしいかと。あちらの方が解析作業は進んでいますし」
リーズレットが開けたと思われるハッチを諦めて、再び倉庫の方を開けようと提案した技師。兵士達も仕方ない、と彼等の提案に従った。
いつ女が出現するかわからない、と気を張り巡らしながら技師のドア解錠作業を見守る。倉庫のドア前に技師達が再び集合して作業を開始しようとした時だった。
倉庫のドアにあったランプが赤から緑に変わる。
プシュッと音が鳴ってドアがスライドして開いた。
「こちら、サービスですわよ」
「へ?」
ドアから出てきた赤いドレスの女性に丸い物体を手渡されながら、訳がわからず口を半開きにしたまま固まる技師の1人。
素直に受け取って、堂々と歩いていく女性の背中を見守っていると――技師達は閃光と共にまとめて吹っ飛んだ。
手渡されたのは手榴弾。爆発に飲まれた技師達は一斉に豚肉へと変わった。扉の前で爆発したのにも拘らず、倉庫には傷1つ付いていない。さすがは特殊金属で作られた建造物か。
「き、貴様!」
爆発で続々と集まる王国兵。彼等の前にいるのは赤いドレスを着た淑女。
彼女の手にはゴツい軽機関銃が握られていて、銃口が向けられる。
「さぁ。懺悔の時間ですわ。淑女の聖地を汚した罪はとっても重くてよ? ファッキン、ピィィィグ?」
リーズレットはトリガーを引いた。
高速で吐き出される銃弾と銃から吐き出される薬莢が地面に転がる音がレクイエム代わりとなって、豚共を挽肉へと変えていく。
「今すぐ神のケツにディープキスなさい! そうすれば来世はきっと救われますわよ! ファッキンハレルヤァァァッ!!」
王国兵が血飛沫と中身を撒き散らしながら死んでいく様はまさに地獄。
しかし、淑女は地獄に落ちてきた罪人のケツを蹴り上げて、いけ好かない神の元へ送り返すという愛に溢れるチャンスをくれてやった。
なんて愛が深いのだろうか。これが本物の慈悲だ。淑女の愛溢れる慈悲である。
リーズレットは華が咲き誇るような笑みを浮かべてトリガーから指を離さない。彼等にもう一度人生をやり直す機会を平等に与え続けた。
「おーっほっほっほ!! これですわァ! この反動! この匂い! この威力が快感ですのよォ!」
今まで使っていた魔法銃では感じられない懐かしい快感が体に伝わってくる。
脳に染み付いた反動制御。轟く発砲音。硝煙の匂い。
全てが懐かしい。まるでリーズレットの中にある血液が全て入れ替わっていくような感覚。今の自分が、昔の自分に戻っていくような感覚。
最高のギフトをくれたフロウレンス達に感謝しながら豚共に鉛弾をぶち込む。
だが、続々と殺されていく王国兵も抵抗しないわけじゃない。
1人の兵士がリーズレットに魔石で作られた手榴弾を投げた。
「ヒュウ! そんな球で私を抑えられると思って?」
リーズレットは軽機関銃のストック部分を両手で持ち、野球のバッターのような構えを取る。カキンと手榴弾を撃ち返した。
「ホームランですわよォ!」
撃ち返した手榴弾は王国兵の腹に当たって爆発した。
まさにホームランだ。場外まで飛んで行ったのは爆発で千切れた王国兵の首であるが。
「相手は一人だ! 殺せえええ!!」
激昂する指揮官と思われる男の叫び声が木霊する。
リーズレットは弾切れになった軽機関銃を置いて、両脇のホルスターから愛用の拳銃を抜いた。
武骨な黒い色を放つ大型のハンドガン。
.50AE弾サイズの特殊弾を吐き出す2対1組の拳銃の名は『アイアン・レディ』
「さぁ、私と最初に踊って下さるのは誰かしらァー! そちらのサノバビッチですことォー!?」
女性が持つには不釣り合いなハンドガンを両手に持って、リーズレットは走り出す。
トリガーを引けば王国兵の頭は弾けて無くなった。ワンショットワンキルで顔無し兵を量産していく。
魔導車の銃座に座った兵士がリーズレットを狙えば、彼女はそちらを黙らせに向かった。
赤いドレスを着た淑女には弾は当たらない。
淑女に被弾は似合わない。
豚が撃つ下品な銃の弾など当たってたまるものか。
ピョンと飛んで宙を舞う淑女は、銃座にいた男の頭上で笑みを浮かべながらトリガーを引くと銃座が豚の血で赤く染まった。
着地して、近くにいた兵士の胸へと飛び込んで密着状態からトリガーを引く。心臓を破壊された男の体を盾にして、更に死体を量産。
死体の影からスカートの中にあった手榴弾を足元に落とし、蹴飛ばして兵士の足元へ送り出す。
後ろを振り返って、爆発する兵士を背景に。淑女の背中を狙っていたハレンチ男の頭をミートパイの中身に変えた。
「ああ、最高ですわァ! 最高ですわよォォォ!! ファックッ!! ファックッ!! ファァァァック!!!」
まさに全盛期の自分が返って来たと己で確信できた。
前世の頃、歳を重ねて徐々に動かなくなっていた体は経験とセンスでカバーしていたが、それでも本人は不自由さを感じていた。
だが、今は違う。今はあの頃と同じだ。
最初の婚約破棄を受け、ビッチとクソ王子を殺した頃と同じ。2度目の婚約破棄を聖なる豚に仕組まれた時と同じ。
いや、あの時よりも淑女に磨きがかかっているリーズレットは止まらない。
流れるように豚を殺す。ドリルのような巻き髪を躍らせながら殺す。
飛んで、蹴って、舞って。気品溢れながらも激しいダンスを踊るように殺していく。
弾切れになる前に替えのマガジンを宙に放り投げ、相手を弾切れピッタリで銃殺。空になったマガジンをリリースして、落ちてきたマガジンをハンドガン本体を横にして自身の体を回転させながら装填。
一瞬の隙も無い、華麗なマガジン交換と同時行われる体の反転。剣を振り上げて接近してきた男の顎に銃口を向けて顎を吹き飛ばす。
「何なんだ……。アイツは……」
おーっほっほっほ、と高笑いしながら王国兵を殺していく女性に指揮官の男は恐怖を覚えた。気付けば腰が抜けて、みっともなく地面にケツを密着させていた。
気付けば2000人以上いた兵士は残り数名。あっという間の出来事だった。
女如きに殺されてたまるか、と意気込んでいた気持ちなどとうに消え失せている。
あるのは恐怖。赤い悪魔が目の前で創造していく地獄への恐怖だけ。
「ぎゃあああッ――」
「さすがクソを主食にして育った豚ですわ! 汚い声で鳴きますわね!」
パン、と最後の仲間が撃たれて死んでいくのを見た指揮官は腰を抜かしたまま、なんとか腕の力だけで笑うリーズレットから後退る。
「まぁ。貴方で最後の豚になってしまいましてよ。楽しい時間はすぐに終わってしまいますわね?」
リーズレットは指揮官の男に歩み寄り、額にハンドガンの銃口を押し付けた。
「あ、悪魔め……!」
指揮官の男がそう漏らすと、リーズレットは鼻で笑った。
「あんな神と乳繰り合っているような存在と同じにされてしまっては困りますわ。私、悪魔ではなく淑女でしてよ?」
そう告げて、トリガーを引いた。
指揮官は額に第二のケツ穴が作られて地面に沈む。
リーズレットは銃口の硝煙をフッと息で消した。
「やっぱり、銃は実弾に限りましてよ。そうでしょう? フロウレンス」
リーズレットは愛すべき子が残した武器を手に入れて、2度目の『最強』を取り戻した。
読んで下さりありがとうございます。
面白いと思ったら下の☆を押して応援して下さると作者の自信と励みになります。




