8 フロウレンス
アイアン・レディの見習い淑女から幹部まで華々しく成長した女性の1人。
フロウレンス。
この名は偽名であり、本名はエヴァ・カラサス。
前時代に存在した帝国――カラサス帝国皇族の中で一番最後に生まれた子であった。
皇族の側室として最後に加えられた彼女の母親――エリンは非常に優秀な頭脳と美貌の持ち主だった。
凛とした立ち振る舞い、高い計算力や知識量を皇帝が認め、他国に渡さないようにという理由も含めて側室に加えたのが悲劇の始まり。
優秀だった彼女は男尊女卑思想の欠点や愚かさに気付いてしまった。いや、国民の中にも気付いている者が多かったが恐怖で口に出来なかったというのが正しいか。
元々そういった反対的な思想を持っていたのと、生まれた自分の子が女の子だったからという理由もあってエリンは帝国女性地位向上の為に動き出す。
彼女はどうにか女性の地位を向上できないかと方法を模索し、政治的・社会的・経済的な利点を前面に出して男尊女卑に対する反対論を展開。
特に帝国貴族達が好む金銭的なメリットを押し出して「これだけ儲かる」「これだけ美味しい」と主張したのだ。
これに帝国貴族達は食い付いた。皇帝も思想の全面撤廃は考えていなかったものの、帝国女性に多少の『権利』をくれてやっても良いかと考えを改める兆しを見せた。
帝城内でエリンの株は急上昇。娘の未来も少しは明るくなったか、と安堵していたが彼女をよく思わなかった者達がいた。
それは皇帝の正室・側室達だ。エリン以外の妃達が彼女を脅威として捉え始めた。
皇帝は優秀な者を好む。頭脳、技量、容姿。どれか秀でていれば命を約束される。
妃達は秀外恵中であるエリンが活躍した事で『自分達は捨てられる』と思ったのだ。彼女らは女性全体の地位向上よりも自分達の保身に走った。
だから、彼女の死を望んだ。画策した。
裏で工作し、レジスタンスや反帝国主義と繋がっている証拠をでっち上げて追い込んだ。
結果的にエリンは拘束された末に処刑された。娘であるエヴァも着の身着の儘で城を追放。
冬に帝国帝都広場で斬首刑になった彼女の遺体は3日も放置された。追放されたエヴァは雪が降る中、処刑されて死んだ母の頭部を抱きしめて泣いていた。
そこに現れたのが最強の女性。レディ・マム。
リーズレットは母の頭部を抱いて泣きながら帝城を睨みつけるエヴァに問いかけた。
『貴方はまだ生きていたい? 母を殺した者達を殺したいかしら?』
全く知らない他人の女性、赤いドレスと黒いコートを着た女性に問われたエヴァは泣きながら即答した。
『殺したい。復讐したい』
『よろしい。着いて来なさい。私が貴方を立派な淑女にしてあげますわ』
エヴァにとって忘れもしない、偉大な第2の母との出会いだった。
アイアン・レディに迎え入れられたエヴァは名をフロウレンスに変える。憎い皇帝の血が混じる己に嫌悪し、名を変えて生まれ変わろうと決意した結果であった。
彼女は優秀だった。母から受け継がれた頭脳がより効率的に彼女を強くする。
厳しい訓練に対しても、座学に対しても。1を教えれば10を知る。歳を重ねるにつれて、彼女は美しさと強さに磨きがかかっていく。
だが、最後まで第2の母を追い越す事は出来なかった。指導訓練では負け、知識でも負ける。立ち振る舞いでも敵わない。
戦場に出れば真っ先に敵陣へ突っ込んでいき、地獄を創造する淑女に憧れ続けた。愛し続けた。
思春期に入った頃はリーズレットに対して反抗期もあったし、気恥ずかしくて礼を言えない時期もあった。
優秀でありながら、人並で健全に情緒も育まれたフロウレンスは赤き淑女の背中を追い続け、心身共に成長を続けていった。
時が流れ、帝国国内でレジスタンスによる活動が活発化。アイアン・レディも帝国との革命戦争に介入する事となり、彼女にとって復讐の場が出来上がりつつあった。
レジスタンスを率いていた女性には「貴方が次期女帝になってはどうか」と勧められるも拒否。
『私はフロウレンスとして生まれ変わった。私は確かに皇帝側室だったエリンの娘ですが、レディ・マムの子でもあります』
偉大な2人の母を愛するフロウレンス。彼女は雪が降るあの日を忘れない。
2人目の母が死んでも尚――忘れられなかった。
だからだろう。リーズレットの死後も、彼女が愛用していた装備の点検とクリーニングは欠かさず行っていた。
いつか、彼女がまたこの赤いドレスに袖を通すと信じて。
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