122 魔女の島強襲
連邦北部にあるマギアクラフト本部を制圧したリーズレット達は部隊を編制すると、攻撃部隊はナイト・ホークやイーグルに乗り込んで戦艦レディ・マムへと向かった。
「オーライ、オーライ、ストォーップ!」
加えて、イーグル3機で機動戦車を輸送して甲板に降ろす。
サリィの駆る機動戦車も上陸作戦成功には欠かせない要素である。専用の昇降機を使い、戦艦内にあるハンガーへ送られると首都制圧で使用した弾の補充等整備が開始された。
操縦者であるサリィはリーズレットやコスモス達と共にブリッジへ移動する。
従者であるサリィは特別騒がなかったものの、コスモスやマチルダ、ブライアン達はアイアン・レディ技術集団の集大成とも呼べる戦艦の造りに驚きっぱなしである。
「目的地までは最速で20分。今のうちに準備を整えなさい?」
見つけた島をドローンで調査したが、大きさはそこまでない。以前、共和国の南にあった異種族の島と同等くらいだろうか。
しかし、偵察した結果では島に多くのマギアクラフト兵がいる事がわかった。
といっても、これは当然だろう。なんたって敵が本部よりも隠したがっていた場所である。
マギアクラフト本部と同じような戦闘が起きるのは誰もが予想していた。
攻撃部隊の収容、積み込んだ兵器の整備をしながらも目的地へ向かって出発を開始。
移動と同時にハンガーでは妖精さん達が整備を急ピッチで進めていると、ブリッジのモニターには件の島が表示される。
残り数10キロのところで一度停止して、敵の島を望遠カメラで窺う。
島の周囲に魔導兵器の配置は無く、敵はあくまでも内側での防衛を目論んでいると推測された。
『島の周囲に魔素の乱れを観測』
リトル・レディがレーダー等の観測器が異常を検知したと告げる。
すると、次の瞬間には島を覆うようにやや薄い金色の膜が発生した。
「あれは……?」
モニター越しに見る謎の現象にマチルダ達は顔が険しくなる。
『魔法防御と酷似した魔素の動きがみられます。恐らくは魔導兵器よりも強力なものでしょう』
どうやら敵はリリィガーデン王国の持つ兵器を侵入させまいと島全体に魔法防御を展開したようだ。
その証拠に膜の表面にはバチバチと紫電が舞い、防御性能と同時に攻撃性も持ち合わせているように見える。
「試射を試みると同時にドローンを突っ込ませてみなさい」
『了解しました。開始します』
戦艦の甲板に速射砲が出現すると、即座に1発だけ発射された。
島を覆う膜目掛けて撃ち出された弾は真っ直ぐ飛んでいく。膜の表面に弾の先端が当たるとバチリと火花が散って弾そのものが消え失せた。
小型のドローンを飛ばし、上空から侵入を試みると弾と同様に消失。
リトル・レディの観測によると弾とドローンは一瞬で溶けてしまったようだ。
「これでは侵入そのものができませんね」
侵入どころか、近づくのも不可能だろう。膜に触れた瞬間、全てが溶けて消えてしまう。
今まで通りの魔導兵器による防御魔法と違って人が通れるといった欠点を潰した改良型であった。
『恐らくは大規模な発生装置が島にあるのでしょう。小型化される前の改良型なのではないでしょうか?』
防御と攻撃を両立させた改良型のようだが、マギアクラフト本部の防衛に使わなかったという事はまだ完璧な仕上がりとは言い難いのだろう。
リーズレット達が突破口として狙うのであれば、まだ兵器として未熟である部分。
『主砲の発射を提案します』
リトル・レディが弾きだした突破案はレディ・マムに搭載された主砲による大火力攻撃。
改良型の防御魔法に正面から挑み、島にあるであろう発生装置に負荷を掛けて使用不能にするという狙いだった。
『ただ、これには問題があります。主砲を放てばリアクターのエネルギーを大量に消耗します。加えて、機動戦車と連結しての発射になるので機動戦車のリアクターも大きく消耗するでしょう』
主砲自体は完成しているが、火力を再現するのに大きなエネルギーを使用すること。
加えて、島を覆うほどの防御魔法を破壊するには機動戦車と連結させた連結主砲と呼ばれる最終兵器を使用せねば突破できないだろうと予想される。
「どのみち、突破せねば話になりませんわ。おやりなさい」
『ラジャー』
サリィはリトル・レディに機動戦車に搭乗する事を求められ、ハンガーへ向かって行った。
彼女の準備が整うと、昇降機に乗って甲板へ出たサリィは機動戦車をオール・クリーナー・モードに変形させる。
逆関節で二足歩行となった機動戦車の脚が甲板に固定され、第一主砲と第二主砲の連結が完了。
機動戦車の背中側に3本の太いケーブルが接続されると、機動戦車と戦艦のリアクターがリンクする。
本来であれば、この連結攻撃は3機以上の機動戦車と共に行ってリアクターへの負荷を分散軽減させるのだが、現行で機動戦車は1機しかないので仕方ないと言ったところか。
リアクターのリンクを終えると戦艦の先端部分は2つに割れた。
割れた部分から巨大な砲が現れ、甲板の上まで持ち上がる。砲の後方部分が伸びて、後ろに配置されていた機動戦車の砲と連結を開始。
戦艦の巨大砲の後ろに機動戦車が繋がって、外見からは変形した機動戦車が巨大砲を構えるようなフォルムとなった。
『接続完了。アイドリング開始。目標設定を完了しました。発射タイミングをメイド長へ譲渡』
ヴゥゥゥ、とリアクターの稼働音が上昇して砲の先端には青白い光が収束していく。
サリィの乗る機動戦車のモニター上にはエネルギー収束を表すゲージが表示され、80、90……と数値がどんどん上がっていく。
そして、ゲージが100%になるとトリガーのロックが解除された。
「発射しますぅ!」
サリィは操縦桿にあるトリガーを引いた。すると、砲の先端に収束していた青白い光は1本のレーザーのように発射される。
あまりにも威力と勢いのある射撃は発射した瞬間、一瞬だけ戦艦が後方へと飛び退くほど。リトル・レディによる操舵によってバランスを保ちながら、攻撃を押し込むように艦が前進を始めた。
発射されたレーザーは射線上にある海の表面を蒸発させながら島を覆う防御魔法に着弾すると激しく火花を散らし続けた。
以前、彼女が撃った球体状にしたエネルギーの塊とは違って、今回は長く撃ち続ける事が目的である。
出来るだけ長く高火力のエネルギー射撃を持続させ、島の内部にある発生装置に負荷を掛け続ける。
バチバチと火花を散らし、エネルギー同士がぶつかり合って轟音が鳴り響く。
最大の攻撃と最大の防御、ぶつかり合っていると艦内には警告音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
警告音の正体はリアクターへ掛かっている負荷が許容値を越えそうである、といったもの。
動揺するブライアン達だったが、リーズレットだけは黙ってモニターを睨みつける。
やがて、島を覆う魔法防御に乱れが生じた。薄い金色だった膜は薄い緑色、半透明と変化していく。
「ぶち破りなさいッ!」
リーズレットの怒声が飛ぶと、レーザーは遂に敵の防御を貫いた。
魔法防御が消失した事でレーザーは島の中へと侵入するが、戦艦のリアクターも同時に許容値を一瞬だけ越えて稼働に強制ロックが掛かる。
ほんの僅かだけ島の先端を蒸発させたところで、レーザーは霧散した。
『各システムチェックを開始』
射撃を終えた巨大砲、機動戦車、戦艦の後方からは強制的な冷却が始まって白煙がモクモクと上がった。
だが、巨大砲だけは持続射撃の影響で一部が融解してしまい、2度目の射撃は不可能となる。
『リアクター1番、2番に深刻なダメージを検知。機動戦車のダメージも深刻であると判断し、強制シャットダウンしました。本艦は防御を優先し、一時航行をストップします』
無茶を押し通した影響で戦艦のリアクターは高負荷によるダメージを負った。
敵からの攻撃から身を守る事を優先させるべく、リアクターエネルギーの分配を防衛システム系に回す事で移動ができなくなってしまう。
「どうするのさ?」
火傷した腕に包帯を巻いたラムダがリーズレットに判断を問うと、彼女はすぐに決断を下す。
「構いませんわ。防御を破ったのであれば空から侵入しましょう」
リーズレット達は人員輸送用であるイーグルでの侵入を決断。戦艦の守りをリトル・レディに任せて島へと出撃を開始する事となった。
ハンガーに向かったリーズレット達はイーグルに乗り込み、それを守るべくバトル・フェアリーとナイト・ホーク隊を同時に出撃させる。
発進した航空機は島の上空へ侵入すると、下には自然豊かな森に大半が覆い尽くされた島の全貌が見えた。
島の中心部はぽっかりと穴が開いたように整備されており、そこには大きな屋敷と綺麗な花畑が見える。
「今回の作戦は魔女の殺害。及び、敵拠点の確保だ。我々はマムのサポートを行う」
リーズレットの乗り込んだイーグルとは別の機体に乗るブライアンがブラックチームとグリーンチームに作戦の概要をもう一度伝える。
『敵の攻撃が来た! 掴まってろッ!』
その時、島の中からはリリィガーデン王国軍の航空機を撃ち落すべく敵の攻撃が空に向かって放たれた。
どうやら大型の魔法銃による掃射のようだ。隊列を組んでいた航空機は散りながら回避行動を取る。
急な回避行動を取ったブライアンの乗るイーグルは機体を大きく揺らして、中にいる軍人達は掴まれる場所に慌てて掴まって転がらぬようにしていた。
どこに着陸するべきか、どの敵を排除するべきか、と航空機を操縦するパイロット達が揃って悩んでいる中――
『高度を少し下げなさい』
軍人達が装着していたインカムからはリーズレットと彼女の乗るイーグル1番機パイロットとのやり取りが聞こえ始めた。
『どうするんです?』
『降りますわ』
『え!?』
まじかよ、とやり取りを聞いていた軍人の1人が声を漏らす。イーグルが飛んでいるのは高度600メートル。
そこから単独で降りようというのだろうか。
だが、1番機パイロットは操縦桿を握る手が汗ばむのを感じながら、地上攻撃が続く中を掻い潜って指示を全うした。
やや高度を落し、500メートル。その高さで1番機のプラットホームが開いていく。
「おいおい、マジかよ!」
窓にへばりついた軍人は確かに見た。
プラットホームから飛び出して空を舞う赤き淑女の姿を。
「ハッ。さすがマムだ」
単身飛び出して地上にいる敵の頭上目掛けて落下したと報告を聞き、グリーンチームのガウインは鼻で笑った。
同時に立ち上がるとすぐに着陸に備えて準備を始めろ、と部下に叫ぶ。
ブライアンも全軍にそう通達して、地上戦開始が近い事を悟っていた。
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