119 地下2階
地下2階に向かったリリィガーデン王国軍はブラックチーム、グリーンチームを筆頭に制圧を進めていく。
主に組織の幹部クラス、隊長クラスなどが使う階層のようだ。
私室のような小部屋がいくつもあって、廊下には物を売る自動販売魔導具や休憩スペースのような場所が多い。
他には会議室のような円形のテーブルが置かれた部屋、本やファイルなど情報端末のような物が置かれた資料室らしき部屋も廊下からガラス窓越しに発見できた。
私生活と仕事を同時に行えるように、地下での生活にストレスが溜まらないようにと配慮された造りとなっている。
「コンタクトッ!」
当然ながら敵は警戒しながら進むチームを待ち構えていた。
長い廊下の左右にある部屋から体勢を低くしつつ体の半分を出し、銃口を王国軍へ向けて。
王国軍はすぐ傍にあった部屋の中に潜り込んだり、近くにあった自動販売魔導具を蹴飛ばして遮蔽物にしたりと素早く応戦の準備を開始。
先頭にいたブラックチームはグリーンチームにハンドサインを送ると、遮蔽物から顔を出して筒のような物体を敵に向かって投げた。
素早く頭を引っ込めた瞬間、敵へと投げた筒は強烈な光を発生させる。
フラッシュバンの爆発と同時に敵の呻き声や悲鳴が聞こえると、グリーンチームが一斉に遮蔽物から飛び出して距離を詰める。
隠れていた敵を射殺して、戦線のラインを上げた。後ろからは他の王国軍が続いて廊下を制圧していく。
だが、敵の波は途切れない。
廊下を防衛していた者達を排除して、迷路のような廊下を進んで行く度に敵が待ち構えていた。
「一体、敵は何を守っているんだ?」
しかも奥に進むにつれて、敵の数は増していく。敵が何かを死守したいと思っているのは明白であった。
王国軍は敵が待ち構えていた廊下を突破し、最奥の部屋に続く施錠された扉を爆破した。
爆破した扉の先には格納庫のような広い場所があり、そこには敵の軍勢が待ち構えていた。
いや、待ち構えるというよりは何かを待っていたような雰囲気である。
王国軍の襲撃に対して応戦するよう指揮官が告げると敵兵は一斉に散って遮蔽物に身を隠す。すると、奥にあった物、彼等が待っていただろう物が見えた。
「あれは……?」
中には200人以上の敵兵がいて、奥にはシャッター付きの小さな昇降機。
「あれは脱出口かッ!」
恐らくは非常用の出口だろう。
扉の大きさからして、人が1度に乗れる数は精々3~4人が限界と見える。ここにいる敵兵達は施設からの脱出を目論んでいたのだろうか。
「何をしているッ! さっさと敵を殺さんか!」
一際分厚そうな黒い重アーマーを着込んだ大男達に囲まれながら、怒声を上げる老人達がいた。
数は3人。どいつも小奇麗な恰好をして、態度も言動も偉そうである。
「ハァン? マチルダ様、俺は読めましたぜ」
「奇遇だな、私もだ」
その様子を見たグリーンチームのリーダーであるガウインとマチルダは顔を見合わせた。
あの昇降機を使ってマギアクラフトの幹部達が逃げようとしていたのだろう。組織の全貌を知る為にもこの機会を逃すわけにはいかない。
「奴等を逃がすなッ!」
マチルダが指示を出し、敵を殲滅して幹部を捕らえる為の戦闘が開始される。
牽制としてグレネードを何個か投げて、その隙に王国軍は一気に格納庫内へ侵入した。
両軍ともに格納庫内の遮蔽物に身を隠しながらの牽制射撃が続き、それはどうやって攻めようかとお互いに考えているような状況であった。
「チッ! 弾をくれ!」
敵が撃てば王国軍は身を隠し、王国軍が撃てば敵が身を隠す。埒の開かぬ戦いは時間と弾をいたずらに消費する。
確保せねばならぬ退路は相手の背中側。しかも、昇降機のパネルを見れば既に稼働しているのかランプが光っていた。
「――チッ!」
最後尾にいたマチルダが昇降機のパネルを撃ち抜こうとするが、敵兵が格納庫内にあった魔導車を移動させ盾にした。
マチルダは銃と頭を引っ込めて舌打ちを鳴らす。
狙撃はできぬ。ならば接近するしかない。
「クソッタレ! どうする!?」
敵を殺したいがなかなか殺せない。時間制限がありながら、迂闊に身を晒せば敵の銃口が一斉に向けられる。
焦りと苛立ちが募る中、グリーンチームの1人が叫んでしまうのも頷ける。
「私が行きます。援護を」
早々に訪れた膠着状態を打破すべく、名乗りを上げたのはリーズレットの一番弟子。
コスモスがアサルトライフルのマガジンを交換して、遮蔽物を飛び越えて一気に走り出した。
「撃てッ!」
敵兵がコスモスへ銃口を向けて一斉に射撃を開始。
コスモスも雑に銃を撃ちながら次の遮蔽物に向かい、直前でパワーハイヒールを起動すると頭から飛び込むように遮蔽物の影へ隠れた。
彼女へ注意が向いた瞬間、グリーンチームが援護射撃を開始して数人を撃ち殺し、ブラックチームがフラッシュバンを投げる。
閃光が発生した瞬間、王国軍の歩兵部隊が距離を詰める。
この際、王国軍兵も数人が撃たれてしまったが相手との距離は確実に縮まった。昇降機も十分な射程圏内に収まり、いつでもパネルを撃ち抜ける距離である。
「死守だッ! 死守しろッ!」
これにより、マギアクラフト軍と王国軍の戦闘は膠着状態から死闘に変わる。
これ以上近寄らせたくないマギアクラフト兵は絶え間ない射撃を開始して、対する王国軍はコスモスが囮となって敵をかく乱する。
コスモスは魔法の弾が迫り来る中、スライディングやジャンプを織り交ぜて敵陣を駆けまわる。余裕が出来れば射撃をするが、弾を避けるので精一杯だった。
「マムはいつもこれを、あんな、軽々しく……!」
コスモスの動きはリーズレットの模倣と言える。伝説の淑女と比べては劣りするが、十分に敵の注意を引き付けていた。
その証拠に彼女に引きつけられた敵の状況を見て、状況を判断したブライアンは敵陣に出来た穴を的確に判断する。
場所をハンドサインでガウインへ伝えると、グリーンチームは身を低くしながら移動を開始。
「このッ! くッ!」
コスモスは迫り来る弾が脇腹に当たるスレスレで回避し、地面をゴロゴロと転がりながら遮蔽物に身を隠す。
「撃ちまくれッ!」
そのタイミングで敵の側面へ静かに移動したグリーンチームが奇襲を開始した。
彼等が撃った弾は敵の頭部に吸い込まれる。硬いヘルメットに弾が数発食い込み、弾は敵の頭部を貫く事無く止まった。
「ノロマ共め」
が、脆くなった部分を狙うのは狙撃手であるマチルダ。
グリーンチームの奇襲に慌てふためくノロマな敵兵共の頭部――グリーンチームがヒットさせた場所をピンポイントに狙い撃つ。
放たれた弾は脆くなったヘルメットの一部を突き破って敵の頭部を破壊した。
グリーンチームの奇襲、マチルダの百発百中な狙撃によって敵兵の数が減ると、当然ながらコスモスへの負担は減るだろう。
「正面の敵に射撃開始ッ!」
下支えをしていたブラックチームと歩兵部隊の射撃が加わって、コスモスへ放たれる弾の数は見るからに減少した。
「ナイスッ!」
そうなればコスモスの独壇場だ。元ブルーチームリーダー、そしてリーズレットの背中を見て学び続けた彼女はもう立派な淑女見習い。
囮役から敵陣に食い込んで敵を始末する狼の如く。コスモスは銃を撃ちながら敵へと接近して、近接戦闘へ持ち込んだ。
「ハッ!」
銃を撃ち、ジャンプして敵の首へ蹴りを見舞い、着地と同時に別方向への敵に再び銃を撃って牽制。
遮蔽物に潜り込んでリロードを終えると、再び敵を殺すべく駆け出す。
きっと、リーズレットが今の彼女を見れば手を叩きながら賞賛するだろう。それくらい、コスモスは成長していた。
いや、彼女だけじゃない。グリーンチームもブラックチームもマチルダも。歩兵部隊に所属する軍人達も。
全員が1つになって戦う様はまさにエリート集団。嘗てのアイアン・レディが行う戦闘行為のような、伝説となった集団の系譜が感じられる。
昇降機を死守していた敵兵は次々と倒され、最後に残ったのは老人達を守る3人の重装備の兵士達。
彼等は他の者達と違って、装着しているアーマーが随分とマッシブだった。見た目からして対防御性能が高いのが読み取れる。
重装備兵は機銃タイプの魔法銃を使って老人達を守りつつ、敵兵を援護していたがこうなっては積極的に戦うしかない。
「ウオオオオッ!」
ダダダダ、機銃を連射すると、まずは駆けまわるコスモスを殺そうとしているようだ。
さすがにコスモスも3人から機銃の掃射を受けては容易く駆けまわれない。慌てて遮蔽物の影に隠れるが……。
「くッ!?」
機銃が放つ魔法の弾は着弾すると小さな爆発を起こした。炸裂弾のような特性を持った弾はコスモスが隠れた遮蔽物を破壊していく。
彼女はたまらず遮蔽物から飛び出すと次に身を隠せる場所まで走り出す。
「コスモスを援護しろッ!」
全員でコスモスを狙う重装備兵を撃つが、金属製の弾はカツンカツンと弾かれるような音が響いた。
しかし、物量で押せば崩せぬ装甲などない。その精神で援護射撃を続けていると、マチルダが覗くスコープの先には1人の左腕重装甲に亀裂が入ったのが見えた。
「すぐに黙らせてやる」
亀裂の入ったアーマーを狙うマチルダ。撃った弾は左腕の重装甲を貫いた。
「ぐああッ!?」
悲鳴を上げる重装備兵の顔がマチルダを捕らえる。破壊した左腕装甲を徹底的に狙おうとするが、重装備兵の周囲に半透明の膜が発生した。
「魔法防御か」
続けて他の2人も半透明の膜を発生させると王国軍の弾を受け止めて地面に落下させる。
魔法防御である事を察したマチルダは――後方にいた部下へ顔を向けて対物ライフルを受け取った。
「吠え面かかせてやる」
もはや魔法防御すらも攻略済みだ。
使いどころは任せる、出し惜しみするな、とリーズレットの命令を忠実に守るマチルダは対物ライフルの銃口を重装備兵へ向けてトリガーを引いた。
放たれた大口径の弾は重装備兵が発生させた魔法防御の膜を突き破り、敵の心臓をぶち抜く。
1人目の重装備兵が地面に沈むと、残り2人の行動は明らかに動揺が現れた。
「チャンスッ!」
遮蔽物に隠れていたコスモスは、この隙にアサルトライフルのマガジンを入れ替えた。
入れ替えたのはAMBが2発装填されたマガジン。遮蔽物から半身を出して、タン、タン、と2人に向けてAMBを撃ち込んだ。
「一斉射撃ッ!」
彼女がAMBを撃ち込んだのを見たブライアンは全軍に一斉射撃の命令を下す。
2人の重装備兵を覆っていた魔法防御は消え去り、王国軍全員からの一斉射撃が彼等を襲った。
強固なアーマーは弾を弾くが、それでも嵐のように押し寄せる銃弾を永遠に防げるわけじゃない。徐々に亀裂が入り、重装甲の中にあった生身まで弾が届き始める。
「ぎああああ!」
蜂の巣になった重装備兵は地面に沈み、ようやく格納庫内にいた敵兵を全て排除した。
敵を倒し、残りは敵の幹部らしき老人を確保するだけ。
コスモスが老人達へ視線を向けると同時に昇降機からブザー音が鳴った。
その瞬間、昇降機の扉に向かって走り出す老人達。恐らくは昇降機が到着したか、操作可能になった合図なのだろう。
だが、悲しいかな老人達の足は遅く、先にマチルダの狙撃が昇降機のパネルを撃ち抜いた。
「残念だったわね」
「クソ!」
コスモスは銃口を老人達へ向けて、両手を上げるよう命じた。
老人達が悔しそうに顔を歪め、ゆっくりと両手を上げると下の階で爆発音が響く。同時に施設は大きく振動した。
「一体、何が起きた!?」
「彼等を拘束して下に向かいましょう」
下の階にいるリーズレットを心配するマチルダへコスモスが提案すると、王国軍は捕えた老人達を連れて下の階へ向かうのであった。
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