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婚約破棄されたので全員殺しますわよ ~素敵な結婚を夢見る最強の淑女、2度目の人生~  作者: とうもろこし@灰色のアッシュ書籍版&コミカライズ版配信中
本編

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113 最後の準備


 マチルダに北部へ急行するよう命じたリーズレットは戦艦のブリッジで状況を見守っていた。


 バトル・フェアリーの持つ高性能カメラ越しに敵の基地を見守っていると、拠点との入り口であるリフトから壊れた分の兵器を補充しようとしているようだ。


 地下から続々と兵器が運び出され、再びミサイルを積んだ自走兵器が外に並べられていく様が見えた。


『主力部隊、予定ポイント到達まで6時間といったところでしょうか』


 モニターで敵の動きを観察している間、リトル・レディは自軍の進軍速度を計算して時間を割り出した。


 到達時間を聞いたリーズレットは口角を上げる。


 基地の存在は明らかになったが、マギアクラフトの全貌は未だ完全には見えていない。


 例えば、モニターに映る基地が前哨基地である可能性だって秘めているがリーズレットが今すぐそれを調べる手段も手掛かりも無いのだ。


 ここで逃げられてしまったら組織壊滅まで時間が掛かる。折角、尻尾を掴んだのだから逃がしたくはない。


 そこで敢えて攻撃を止めて静観する。


『敵からの攻撃が無い。今のうちに態勢を整えて反撃の準備だ!』


 そう思ってくれれば、逃がさず付け入る隙が生まれる。


 マギアクラフトとて人が集まって出来た組織だ。


 恐怖もするし、怯えもする。そして、淡い期待も抱くだろう。


 彼女の読みは的中したのか、モニターを見る限りはリーズレットの思惑通りに動いているようだ。


「王国からの補給部隊はどうなっていまして?」


『ロビィは無事王国に到着。Dr.アルテミスの遺体を引き渡して積み込み作業中です』 


 ロビィに装着されたカメラの映像が別のウインドウに表示される。


 アルテミスの遺体はガーベラとオブライエンが預かり、城へ運ばれたようだ。


 首都では予備のイーグルに物資を詰め込み、主力部隊への補給隊を編成している状況であった。


「では、我々も準備を致しましょう。……サリィのお茶が飲めないのが残念ですわね」


 敵地強襲まで残り6時間。準備を行うが、合間にサリィが淹れてくれるお茶を楽しめないのが惜しい。


『レディ。2番格納庫にAMBを発見。製造機もありました』


「まぁ!」


 これはリーズレットにとって嬉しい報告だろう。


 魔法防御に苦しんできた彼女にとって、最大の攻撃力を得たようなものだ。


 報告から数分するとリトル・レディが操作する作業用ゴーレムがブリッジにAMBの入った弾薬箱を運んできた。


 ニコニコ笑顔なリーズレットが早速とばかりに蓋を開けると、中には2種類計6発のAMBが入っていた。


「これは……。バレット用とアイアン・レディ用かしら?」


『イエスです』


 1つは聖王国の聖女を殺した時に使用した対物ライフル用に設計されたAMBが。


 もう1種類は普段から彼女が愛用しているハンドガンであるアイアン・レディ用に設計されたAMB。


 それぞれ3発ずつしか入っていなかったが、製造工程や素材の確保に難のある特殊弾が6発残されていただけでも御の字か。


「製造機はどうでして? 動きますの?」


『はい。異種族の島で採れた魔断灰石を使用すれば量産が可能です』


 リトル・レディの判断にリーズレットは笑みを零す。ようやく積み重ねてきたものが実を結んだからか、満面の笑みは止まらない。


 ただ、量産は今すぐにとはいかなかった。


『製造時間に時間が掛かります故、今回の戦闘に使用できるのは製造済みの6発だけでしょう』


 AMBを十分に量産できて、全軍に配備できればマギアクラフトを潰す事など簡単な事だったろう。


「6時間でどれくらい製造できまして?」


『ロビィが首都から素材を運び込む時間を加味しても、新たに製造するのは2発が限界です』 


 アルテミスの作った、全工程オート化された機器を用いてもたった2発しか作れない。


 AMBとは対魔法に対しての究極的な攻撃手段であるが、それだけの威力を製造するには時間が掛かる。


 故に切り札とも言える物ではあるが。


「構いませんわ。2発だけでも、無いよりはマシでしてよ」


『承知しました。ロビィに素材を持ち込むよう連絡しておきます』


 この会話から1時間後、ロビィが素材を持ち込んでAMBの製造が始まった。



-----



 一方で攻撃を受けたマギアクラフトの基地地下にある研究施設ではベインスが焦りを顔に張り付けながらキーボードを叩いていた。


「クソッ! クソッ!」


 マギアクラフトが用意していた最大の攻撃手段を用いても敵は――いや、リーズレットの軍勢は排除できなかった。


 それどころか、過去の亡霊が彼女に与えた兵器によって手痛いしっぺ返しを食らってしまった。


「やはり間違っていた……!」


 自分達がしてきた行いに後悔するベインスは奥歯を噛み締める。


 あんなもの、生み出すんじゃなかった。


 あんなものが誕生した時点で負ける運命は確定していたのだ。


 もしも、過去の自分に会いに行けるのであれば全力で止めるだろう。


「どうにか、どうにか頼む……」


 彼の心の中には恐怖心があった。焦りと恐怖で充満していたが、それでも目の前にある『マキ』の入った培養槽を見つめながら手を動かすのは止めない。


 恐怖に負けて逃げ出すのではなく、彼女の最後の願いを叶えようとするのは彼なりの贖罪か。


「よし、体の調整は完了か」


 彼等が作り出した魔法少女とは、簡単に言えば『人造人間』である。


 この技術に用いられているのはアルテミスが参考にした『人工素体』と呼ばれるクローン技術に似た人間の人工的な製造技術。


 人の遺伝子、人が生まれる際に必要な精子と卵子を人工授精させた物に特殊な魔法素材を加えてイチから理想的な体を作り出す。 


 これはマリィが異世界で学び、獲得した『生体工学』という技術である。


 余談であるが、イチから魔法少女を作る際はこの工程の後に人格を植え付ける作業がある。


 ただ、今回は既に魔法少女として誕生済みであるマキの体を調整しているので作業は省かれていた。


「次は魔法のインストールを……」


 ベインスは端末のソケットにデータストレージを挿入して、マジック・クリエイターであるマリィが作り出した魔法をインストールする作業に移る。


 端末に表示された魔法を選ぶとモニターには選択した魔法を表す魔法陣が表示された。


 魔法少女が何の制限も無く魔法を使用できるのは、任意の魔法を表した魔法陣を特殊な素材を用いて体に直接刻み込まれているからだ。


 この特定の魔法を魔法陣化して圧縮させる技術は別の転生者が持ち込んだ技術だったが、マリィがこの世界で使用できるよう技術を最適化したものである。


 こうして素体の生成、魔法陣の刻み込み(インストール)を完了させると魔法少女は誕生するのだが……。


 基本となっている生体工学をマリィは転生当初から再現しているわけじゃなかった。


 ネックだったのは使用する素材だろう。異世界からこちらの世界に転生した彼女が最初に頭を抱えたのは『使用する素材』である。


 類似する、同じ効果を及ぼす素材を見つけるまで何年も……。いや、100年以上は掛かった。


 結果として使用するべき素材の選定は終わったが、次は製造に関する調整や工程の見直しが必要とされた。


 人としての倫理観などぶっ飛ばした超技術をどうしても必要としたマリィは、技術の再構築と同時に最強の兵士を作る計画を数百年も前から開始する。


 それが『殺戮人形(スロータードール)計画』――リーズレット誕生の切っ掛けとなった計画であった。


 この計画が始まった頃からベインスは魔女と共に活動しており、その計画の成果を用いて新たに計画されたのが『魔法少女計画』である。


 しかし、この魔法少女計画は殺戮人形計画と比べて一段劣ると言えるだろう。


 前段階での計画で偶然にも完成したリーズレットは『完璧』だった。


 完璧に至る為の因子が再現できなかったからだ。


 初期から計画に携わってきたベインスは完璧な彼女を越える、もしくは同等の物を完成させるには2度目の偶然が必要だと思っていたが……。


 キーボードを叩きながらマキのバイタルデータをモニタリングするベインスの顔が、少しずつ安堵の表情に変わっていく。


「よし! 拒否反応なし! いけたか!!」


 完璧に至る為の因子が埋め込まれ、魔法陣化によって様々な魔法発現までの工程を省略化させた『大魔法』が体に刻み込まれた。


 まさに計画の集大成。


 最強の因子。最強の魔法。2つの要素を持ったマキは『真の魔法少女』に至ったと言えるだろう。


「頼む! 頼むぞ! マキ、お前が最後の望みだ!」


 最終工程をクリアしたマキの体を調査して、不備が無い事を確認すると意識の覚醒を促すコマンドを入力する。


 培養槽の下部から大量のエアーが排出されて泡が浮かぶ中、マキの瞼がぴくりと動き出す。


 徐々に満たされていた液体が排出されて、培養槽のロックが解除されるとマキの意識は完全に覚醒した。


 機器や体に繋がっていた管が取り除かれると彼女は全裸のまま培養槽の中から出てくる。


「終わったの?」


「ああ、終わった。お前は完璧な魔法少女になったよ」


 濡れた体と髪を拭け、とベインスはマキにタオルを差し出した。


「これでお姉様を殺せる?」


 タオルを受け取ったマキはジッとベインスの顔を見上げて問う。


「ああ。殺せる。お前が一番分かっているだろう?」


 ベインスはマキの腹部にある、入れ墨のように刻まれた赤い魔法陣へ視線を向けながら顎をしゃくる。


 マキはそれに気づいて、自分に刻まれた魔法陣へ手を当てた。


「ああ……。そっか、そうだね」


 彼女の脳裏に浮かぶのは全てを灰に変える黒い炎。地獄の如く全てを燃やし尽くす黒き炎が、自分の内に充満していると理解した。


「アリア、待ってて。絶対に仇を取るから」



読んで下さりありがとうございます。


10/11 14:00 前半部分に追記しました


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