前日譚 1 : 最初の婚約破棄 ~王国クーデター編~ 上
「リーズレット、お前との婚約を解消させてもらう!」
そう言ったのはこの国――アドスタニア王国の王子であった。彼の傍には黒髪の女性が笑みを浮かべながら寄り添う。
王子も腰に手を回しながら、周囲に人が溢れる中で言い放った次第である。
「…………」
一方的に婚約破棄を突き付けられた女性こそ、この物語の主人公。名はリーズレット・アルフォンス。
アルフォンス侯爵家の長女であり、歳は17。茶色い長い髪をドリルのような巻き髪にした淑女だ。
平均的な身長でありながらも胸は小さい。
たった今、婚約者ではなくなった王子に寄り添いながら胸を押し当てている子爵家のビッチよりも。
リーズレットは己の手が白くなるほど強く握りしめた。突然何言ってんだ、とんちきクソ野郎と内心で吐き出しながら。
「理由はお聞かせ下さいませんの?」
怒りを抑え、何とか口から言葉を絞り出す。
「お前はマリアに対して酷い仕打ちをしたようだな? 身に覚えがあるだろう?」
王子に寄り添うビッチ――マリアは見下すように笑ったのが見えた。
は? と言い出しそうになるがマリアの顔を見て全てを悟る。こいつが王子にある事ない事言ったのだろう。
(このファッキンビッチッ! 私をハメやがりましたわねッ!!)
クソアホな王子はそれを信じ込んだに違いない。いや、あのバカみたいにデカイ胸で垂らし込んだのかもしれないとリーズレットの脳裏を過った。
「お前は学園からも追放だ! さぁ、私の前から消えろ!」
こうしてリーズレットは弁明の機会も与えられずに学園から放り出された。
ふつふつと込み上げる怒りを抱え、どうしてやろうかと思いながら。だが、まずは家に帰って父親と相談せねば。
「コロスゥ! あのビィィッッチ!! 絶対にお父様の権力で殺してみせますわ! 家もぶっ潰してやりますわ! コロスゥ!!」
学園の前で目を血走らせて地団駄を踏みながら許容量を超えた分の怒りを吐き出していると、リーズレットの前に1台の馬車が急停止した。
馬車の側面にはリーズレットの家、アルフォンス家の紋章が描かれていた。
どうやら王城で勤務している父親の方も婚約破棄の件を嗅ぎつけたのだろうか? そう思っていたが……。
「お嬢様! 早く乗って下さいませ! 旦那様が処刑されました!」
「ホーリィィィ、シットッッ!!」
とんでもねえ! マジかよ! この世の終わりだぜベイビー!
まさか侯爵でありながら権力をブイブイ言わせる父親が処刑されたなんて。リーズレットはドリルの巻き髪を振り回しながら驚きを露わにする。
「さぁ、お早く! このままではお嬢様までもが捕まってしまいます!」
馬車の中にいた世話係のユリィに手を引かれ、馬車の中に引っ張り込まれる。
出して! と叫んだユリィの指示通り、御者をしていた男は馬を走らせた。
「ユリィ、どういう事ですの!?」
「旦那様が国で禁止されている麻薬を密輸していたと何者かに告発されたようです! 仕事をしていた旦那様は王城で拘束され、屋敷にいた奥様も騎士団に……」
そして、即刻父親は処刑されたとの事。
リーズレットはキャビンの窓を開けた。
「ファァァァック!!」
外に向かって叫んだあと窓を勢いよく締めてから再びユリィに顔を向けた。
「これからどうするんですの!?」
「まずは身を隠します!」
「身を隠すにしても……どこにですの?」
リーズレットの問いにユリィはカバンを開けた。中にはリーズレットの衣服と共に金と宝石が入っていた。
「これでしばらくは生活できるはずです。まずはアンガー領へ」
アンガー領。そこは王国の端っこにある領地だ。他国との国境沿いにあって常に緊張感で膨れた風船になっているような街。
国内外から戦争を生きる糧とする傭兵がわんさか出入りしており、身を隠すにはもってこいだとユリィが説明した。
「私はお尋ね者になっていませんこと?」
「大丈夫です」
バックから取り出したカツラをリーズレットに被せるユリィ。だが、カツラの端からドリルの巻き髪がこぼれ出た。
「巻き髪を切らないとダメですね。髪を切ればカツラもいらないかもしれませんね」
「い、いやですわ! この巻き髪は淑女の命でしてよ!」
ハサミを取り出したユリィに対して抵抗するリーズレットだったが、命には代えられないと強引にカットされた。
「ああ、私のアイデンティティ……」
よよよ、と泣くリーズレットにユリィは苦笑いを浮かべながら、落ち着いたらまた伸ばせば良いと言った。
ぐうの音も出ない程の正論である。
「それよりも誰が旦那様に無実の罪を擦り付けたかが問題です」
「お父様には敵が多かったですからね。恐らくは派閥の勢力争いをしていたマッキンリー家でしょう」
マッキンリー家はアルフォンス家と同じ侯爵位を持つ家で、父親と対立していた家だ。
どちらが国内でより強い権力を持つか。常に争い、父親が黒と言えば向こうは白と真っ向勝負していたように思えたが、どうやら強硬手段を取ったのだろうとアタリを付ける。
特に対立していた原因は王国領土の拡張についてだろうとリーズレットは見当付けた。
所謂、他国との戦争を賛成するか反対するかであった。既に隣国と小競り合いを始めている状態にも拘らず、別の国とも戦争をしようとの案が浮上したという。
リーズレットの父は反対派。既に隣国とは戦争が始まっているし、ここから更に戦火を広げれば傷付くのは王国民であると主張。
対し、マッキンリー家の当主は賛成派。というよりは「戦争しようぜ!」と主張し始めた本人である。
戦争して領地拡大。そして、自然資源等を得られれば国は裕福になると。
父親の話では王も戦争に対して肯定的であったようで、それを阻止する為に第一王子とリーズレットの婚約を結ばせたという理由もあった。
「クソッタレですわ! あんな芋臭い王子を誘惑したというのに!」
父親が第一王子と結婚すれば一生安泰だよ、そう言うから特に好きでもなかった王子へ積極的にアプローチを繰り返して虜にしたというのに。
事情を知ったからこそ分かる。あの胸の大きなクソビッチは黒幕と繋がっているに違いない。
じゃなければ、子爵位なんぞというクソザコな家の娘が王子と接点を持てるはずがない。それか、やはりあの凶悪な胸で垂らし込んだかのどちらかだ。いや、十中八九そうに違いない。
だが、どちらにせよクソビッチのせいで素敵で優雅な未来計画はオシャカ。
最高の未来を約束すると娘に提案した父親もオシャカ。
リーズレットちゃん17歳。クソッタレなどん底人生の始まり始まり――
「ファァァァッック!!!」
リーズレットはもう一度、窓を開けて叫んだ。後ろに見える王都へ向かって。
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アンガー領に辿り着いたリーズレット達は入場門に入る前に馬車を降りた。
馬車には家の紋章が描かれてしまっている。王都を出る前は門番にまだ事の次第が通達されていなかったようで、何とか脱出する事が出来た。
しかし、時間の経った今ではもう事情は関係各所に通達されているだろう。お尋ね者であったら一発で拘束間違いなしである。
馬車を降りたリーズレットとユリィは御者に金を渡す。馬車をここで乗り捨てて、貴方は田舎に帰れと申し付けた。
「ガラの悪い者しかおりませんのね」
フード付きのローブに身を包みながらユリィと共に入場門の列を並ぶリーズレットは周囲にいる者達を見た感想を漏らす。
周りにはゴロツキのような者ばかり。腰には剣やらナイフを差して、ムキムキマッチョな男女ばかりである。
傭兵と呼ばれた戦闘狂共に混じった2人の方が少々目立つ。
だが、一度中に入ってしまえば問題ない。なんせ並んでいる人数だけも500人は越える。木を隠すには森、人を隠すには命が安い掃き溜めのような街に限る。
「次!」
ようやく列が進んでリーズレットとユリィの番になった。
入場門を管理する門番がフードの中を覗き込む前にユリィが銀貨を5枚出した。入場料としては多い金額だ。
「傭兵として稼ぎに来た」
しかも、ちょっと声を野太くして。声音を変えているのがバレバレである。
「おう、入んな」
さすが戦争の最前線。クソッタレ共が多い掃き溜めだ。金で頬をぶっ叩けば領騎士も思いのままである。
「次はどうしますの?」
「まずは宿を確保しましょう」
確保した宿のランクとしては中の下。2人部屋で犬小屋のように狭い部屋であったが、ここまで来る道中の馬車暮らしと比べれば快適そのもの。
フカフカ……とは言い難いベッドであるが、それでも今のリーズレットにとっては上等だった。
「当面は持ち出した宝石を売ってお金にしましょう。それでしばらくは暮らせるはずです。その後は……」
金は有限だ。宝石を売って金に換えてもいつかは尽きる。そうなれば働かなければならない。
こんな掃き溜めのような場所で女性が働く場所となれば酒場のウエイトレス、もしくは風俗か。商店の売り子に採用されれば万々歳である。
「いいえ、働きませんわ」
だが、リーズレットは『NO』と言う。彼女には野望があった。
「あのビッチを殺しますわ。ビッチだけじゃなく、私の人生を滅茶苦茶にしたクソブタ共を全員殺しますのよ」
そう、自分の人生計画を無茶苦茶にしたファッキンビッチを殺すという野望が。計画に加担した者共全員を殺すという野望を果たさなければ死ぬに死ねない。
父親を処刑して人生を無茶苦茶にした者達を一人残らず殺す。その足掛かりとしてまずはあのビッチであると。
「換金したら武器を買いに行きますわよ」
さっそく換金を終えたリーズレットは街のゴロツキに武器屋の場所を聞いた。
「それならあそこが一番だな」
髭面でもみあげと髭が繋がったゴロツキ一押し、この街で一番ホットな武器屋へ向かった。
「いらっしゃい」
武器屋の中は寂れていた。何たって王国で主流となっている剣や盾、魔法の杖などが展示されていないのだから。
「武器が欲しいのですが、店を間違えたみたいですわね」
あのクソヒゲゴロツキに騙された、と思ったリーズレット。
「おいおい、嬢ちゃん。うちは武器屋だぜ」
だが、店のオーナーは後ろにある壁を親指で指差した。
壁に掛かっているのは王国ではなく、東にある国――帝国で作られた銃があった。
騙されたと思ったリーズレットであったがそれは間違い。この店は街で一番という評価は正解だったのだ。
「これはライフル銃っちゅう武器でな。帝国に現れた転生者が作った最強の武器だぜ」
なんと魔法を使う魔力も必要なく、剣よりも簡単に人を殺せる武器だと言う。
弾を込めてトリガーを引くだけで人の頭はハンマーでフルスイングしたスイカのように弾けるのだと。
「嘘おっしゃい! 騙されませんわよ!」
「おいおい、嘘じゃねえよ。最前線に向かう帝国傭兵の間じゃあ、一番売れている武器だぜ? まぁ、値は張るがね」
実演してみせよう、そう言って店主は店の裏庭へリーズレット達を連れていく。
庭にあったのは金属の盾。人を模した案山子があった。
ライフルを構えて引き金を引くと『バン』と大きな音が鳴った。聞いた事のない音に肩をびくつかせるユリィであったが、隣にいるリーズレットは目を見開いた。
音と共に発射された弾は木製の案山子の頭を木っ端みじんにしたのだ。次いで、隣にあった金属製の盾も貫通して穴を開ける。
「スゲエですわ!」
「だろう? 試射してみるかい?」
店主のレクチャーを受けながらリーズレットはライフルを構えて試射を繰り返す。
最初は当たらなかったが数発撃っただけで命中するように。
「お嬢ちゃん、なかなか良い腕をしてんじゃねえか」
ボルトアクション方式のライフルを構え、撃った後にボルトを引いてリロードする姿は中々様になっていた。
勧められたアサルトライフルに持ち替えてフルオート射撃も体験。撃ち慣れたらリコイル制御まで完璧にこなす。リーズレットには化け物じみた才能が秘められていたようだ。
「これしか種類はありませんの?」
「もっと他にもあるぜ」
店主は中に戻ってリーズレットにライナップを見せながら、1つ1つ丁寧に解説した。
「これと、これにしますわ」
結果、リーズレットが選んだのはフルオートで撃てるアサルトライフルとハンドガン。加えてグレネードと爆薬をいくつか。
もうお分かりだろう。彼女はこれでビッチの家を強襲するつもりだ。ご丁寧に家まで吹き飛ばすつもりである。
計、金貨10枚のお買い物。換金した宝石の金額ほぼ全てを投入した。
「まいどあり!」
久々の上客に店主もホクホク。金の匂いを嗅ぎ取って丁寧に説明した甲斐があったと内心思う。
「またお金を手に入れたら買いに来ますわ」
バタンと店のドアを閉めてリーズレットはニンマリと笑った。
「お嬢様、本当に復讐するのですか?」
「ええ、勿論。私、やられたらやられっぱなしになっているのが一番嫌いでしてよ?」
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2日後、リーズレットはユリィと共にクソビッチ家の領地にいた。
銃を大きなバックに入れて、旅の絵描きに変装して潜入を果たす。
この街で知ったのは、やはり自分がお尋ね者になっているという事。反逆罪として処刑された父は大々的に新聞の一面になっていた。
母がどうなっているかは不明だが、元娼婦でありながら父と結婚するまでに至った母であれば平気だろう。
歳を取っているにも拘らず、20代のような肌と誰もが羨む美貌を保つ母だ。今頃、自分を拘束した騎士を垂らし込んで案外無事かもしれない。
とにかく、今は目の前にある屋敷をどうぶっ潰すかが先決である。
「ふむ。門番2名、護衛騎士は全部で10人ですわね」
絵描きに変装するリーズレットは街の一画、領主邸が見える位置にキャンバスを置いて絵を描くと同時に敵の配置を探った。
全ては情報から。行動は大胆であるが準備は慎重に。処刑された父が常々言っていた言葉だ。
ペタペタと絵具を塗りたくる姿を晒しながら情報収集を行っても領騎士は不審に思わない。なんたって、今の彼女は絵描きなのだから。
「クソビッチは王都にいるようですわね。ですが……今夜、やりましょう」
一番殺したいビッチはいないようだが、彼女の両親は屋敷にいるようだ。
まずは実家を潰す。
夜になるのをユリィが確保した宿屋で待ち、準備を整えた。
今夜の空に月は無い。屋敷までの道は暗く、屋敷の周囲にある水路も闇の中。
好都合ですわね、水路に身を隠したリーズレットはバッグから銃を取り出した。
ハンドガンは脇の下にあるホルスターに。ベルトを肩に回したアサルトライフルを手に。
腰のポーチには爆薬とフラググレネードを入れて。
「行きますわよォ」
淑女の嗜みとしてドレスを着ながらも、アサルトライフルを持って正面玄関を目指す。
松明の炎で周囲を照らす門番がリーズレットに気付いた。
ドレスの少女。だが、何かを持っている。
「止まりなさい。ここは領主様のお屋敷だ」
だが、止まらない。腰だめに構えた銃口を鎧に身を包んだ騎士へ向けて――
「パーティに来ましたわぁ!」
ダダダダダ、とフルオートで弾を発射した。
帝国産のフルメタルジャケット弾が王国騎士の正式鎧を容易に貫通し、中の人間を蜂の巣に変える。
2名の門番を撃ち、まだ息がある門番の頭部へ慈悲の1発を与えた。
門の向こう側へグレネードを1つ。吹き飛んだ玄関の前で少し待ち、殺到してきた騎士へ向かって銃を撃つ。
「ヒャア! これはご機嫌ですわねえ!」
相手は剣。こちらは帝国が開発した銃。
近距離戦闘しかできないサルはリーズレットの敵ではなかった。
「おーっほっほっほ! 快感でしてよ!」
玄関にやって来た6人の騎士を殺した後はアサルトライフルのマガジンを外してタクティカルリロード。
まだ弾が残るマガジンのお持ち帰りは必須。弾の1つまで無駄にしない。何たって金がない。マガジンを買う金も惜しい。
「貴様! 何者だぁぁ!」
強襲された屋敷の主が玄関にあった2階へと続く階段の上に姿を現した。両脇には4人の騎士。
丁度良い。馬鹿が雁首揃えて階段の上からリーズレットを見下ろしているじゃないか。
リロードを終えた銃を構え、騎士の1人を即座に射殺。
圧倒されている間にタンタンタン、小気味よく3人続けて射殺。
リーズレットは悠々と階段を登って、腰を抜かす当主の額に擦り付けた。
まだ熱の残る銃口を押し付けられた当主からは「アツゥ!」と悲鳴が上がった。
「貴方に問いますわ。アルフォンス家を陥れたのは誰ですの?」
「まさか、貴様はアルフォンス家の娘か!?」
リーズレットの問いに正体を察した様子。だが、関係無い。
「誰ですの? 答えてくれないと、貴方の額に第二のケツ穴ができますわ」
「ふん! 小娘が! 誰がしゃべ――」
リーズレットは銃口を相手の太腿にズラしてトリガーを引く。
タン、と音が出て相手の太腿には穴が開いた。
「あああああッ!!」
血が噴き出す太腿を抑えながら当主は床を転げ回った。
リーズレットはその細い足で撃ち抜いた方の太腿を踏む。
「あらぁ。一足早く太腿にケツの穴が出来てしまいましたわね。淑女を焦らすのは罪だという王国法をご存知ないのかしら? さぁ、さっさとお答えなさって?」
グリグリと靴の先で踏みつけて、汚い悲鳴を木霊させた。
「わかった! 言う! 私はマッキンリー家に言われただけだ! 命令されたんだ!」
仕方なかった。上級貴族には逆らえない。そう言い訳を並べるご当主様。
「今回の件に加担しているのはどの家ですの?」
「マッキンリー家の派閥に所属している家は全て……」
「ふぅん」
派閥に所属している家は10を超える。これは中々に骨が折れそうだとリーズレットは思った。
「まぁ、良いですわ。私の人生設計を狂わせたブタ共は一人残らず殺すと決めていますのよ」
「へ!?」
銃口を再び額に向けたリーズレットはトリガーを引いた。ご当主様の醜い死体が出来上がり、リーズレットはニンマリと笑って次の行動へ移す。
「さぁ、回収しましょう」
屋敷の中を回って金品強奪。これでまた新しい銃が買えるとルンルン気分である。
隠れていたメイドに金目の物がある場所を脅して聞きながらも回収していると、次の部屋は当主の寝室だった。
「あらぁ。奥様。夜分にお邪魔しておりますわ」
「ひ、ひい!」
ベッドの上には当主の嫁。ビッチの母親がいたのである。
銃口を向けて、リーズレットは微笑む。
「私、貴方の娘に人生を壊されましてよ? どう責任を取るおつもり?」
「ひ、そ、そんな――」
タン、タン。
返答が返ってくる前にリーズレットはハンドガンで母親の胸を撃ち抜いた。
「豚がまたビッチを産めば世界の危機になりましてよ」
フゥ、と銃口から上がる硝煙を息で吹き消すと、手あたり次第に宝石類などの持ち運び可能な金品を強奪した。
泥棒作業を終えると1階から男達の声が聞こえた。街の騎士が駆けつけて来たのだろう。
リーズレットは寝室に爆薬を置いて長い導火線に点火を開始。
アサルトライフルと共に金品を詰めたバッグを持って、急いで部屋を飛び出すと玄関へ走った。
「助けて下さいましぃー! 上に悪漢が! 奥様をー!」
騎士達もうら若き淑女たるリーズレットを犯人とは思わなかったのか、咄嗟の出来事で判断が遅れたのか。
騎士達の間を走り抜けながらも上に犯人がいると叫びながら、然も被害者面をして走り抜けた。
「ごきげんようー!」
玄関を抜ける間際、グレネードを後方へ2つ投げる。
スカートを持ち上げながら走り逃げる彼女の背後で爆発。次の瞬間には2階にあった爆薬も爆発。
月の無い夜を爆炎と炎で照らし、それを背景にしながら華麗に脱出を果たしたリーズレットであった。